気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 シャルルの心労がデカすぎる········!

 本編に関係ないですが、超かぐや姫見ました。最の高でした。いつか絶対二次創作したいと思います。私、ネバーエンド派なので。




花結いのきらめき【55】

 

 

 

 

「ッ·······!!」

 

 一番不味いことになった。精神不安定であろう御影が姿を消すのを考慮しなかった俺が馬鹿であるが、今は自嘲している場合ではない。すぐに探さなければ。

 御影の部屋を出、共有スペースを抜け、外へ、出ようとした所で止まる。

 

「いや待て」

 

「どうかしました、シャル先輩?」

 

 可笑しい。何処か可笑しい。

 俺はずっと共有スペースにいた。なら、俺は外に出る御影を目撃してなければいけない。御影の部屋の窓は閉まっていたのだから、当然飛び降りた訳でもない。

 

「どういうことだ·······?」

 

「シャル先輩?」

 

 隠れているとは考えられない。部屋は綺麗に整理整頓されていたし、この寄宿舎に隠れられる場所はない。以前確認済みだ。

 うんうん悩んでいると、若葉と歌野が外から帰宅してきた。

 

「たっだいまー!って、シャルルさん?どうしてここに?」

 

「ただいま。·········ひなた?いつもなら料理しているはずだが」

 

 推測するに若葉は鍛錬、歌野は土いじりだろう。流石精が出るな。

 そうじゃない。そういう事を考えてる場合ではないだろ。

 

「·······そうだ。歌野、若葉、途中で御影と出くわさなかったか?」

 

「士郎?いや、会わなかったけど」

 

「士郎だと!?帰ってきたのか!?」

 

「一度な。だが、自室に戻った後行方不明だ」

 

「えっ、士郎さん行方不明なんですか!?」

 

 士郎が行方不明であることを知って驚愕する三人。しかし、理由が思い浮かばなかったのか困惑したような顔をして首を傾げている。

 

「以前、精神不安定の者の世話をしたことがある」

 

 唐突になんの話をしているんだろう、という目を向けられるが続ける。

 

「食料調達のため買い物に行った隙をつかれ、その者は姿を消した。今と同じような状況だ」

 

「それでどうなったの?」

 

「電話をかけるが、そもそも携帯は持ち出していない。自宅に帰ったのだと思い、向かったがいない。いない、いない、何処にもいない。

 そうして、諦めて家に帰る途中で発見した。―――池の中心で俯せにして浮かぶ姿を」

 

「「「!!?」」」

 

「すぐさま池に飛び込んで救出し、胸骨圧迫で何とか息を吹き返したが、少しでも遅れていればお陀仏だったろう」

 

「ほっ······。それは良かったです」

 

「肝冷えたわ········」

 

 本当に肝が冷えたのは俺だわ。まさか、入水自殺をするとは思っても見なかった。昼飯何にするとか笑いながら離してたんだがなあ。

 

「つまり、士郎が自殺すると言いたいのか?」

 

「その可能性がないとは言い切れない。だから、一刻も速く御影を―――」

 

 探し出す、そう言おうとした時、廊下の方から何かが地面に落ちた音がした。感覚的には人の膝が落ちたような音だった。

 振り向くと、予想通りひなたが膝をついていた。

 

「しっ、士郎さんが自殺·······?」

 

「ひなた!大丈夫か、立てるか?」

 

 青ざめた顔をしたひなたの元に若葉が駆け寄る。そうして、若葉が肩を貸しながら椅子の方へとゆっくりと進んでいく。

 どうやら、最悪の事態を想像して血の気が引き、貧血を起こしたようだ。よくある。

 

 椅子に座るのを待っていると、俺の前で立ち止まり、体調不良からか鋭い視線を送られる。

 

「ひなた?キツイのなら早く椅子に」

 

「士郎さんは腕が切断された時も、千景さんにお腹を刺された時も笑顔で何事もないように復帰した人です。今回のような事で自殺するとは考えられません。」

 

 若葉の思いやる言葉を無視して、矢継ぎ早に御影への信頼を口にする。

 何処か険悪な雰囲気に幼い銀がわたわたしていきているため、穏便に済ませたい。しかし、この言葉への返答は少し言葉がキツくなるかもしれないな。

 

「肉体が頑丈であっても精神が頑丈とは限らない。俺の親友もそうだった」

 

「いいえ、士郎さんはいつだって私達を―――」

 

「御影にとってお前達は誇りなのだろう?その誇りを自身で傷つけ、故意ではないとしても拒絶されたのだ。精神的苦痛は計り知れない。

 そして、お前達は自身が大切にされている自覚がない。何よりも掛け替えのない存在だという自覚が足りない」

 

「そう、ですね········。すみません、シャルルマーニュさん。気が動転していました」

 

「問題ない」

 

 彼女達には非はない。ただ、御影が一年という少ない時期で親密になったのが彼女達だけだったという話だ。言わば、環境が悪い。

 そこでひなたとの会話を終わり、若葉はひなたを椅子に座らせた。

 

「それじゃあ、探しに行きましょう!」

 

「そうね!」

 

「待て。手当たり次第に行っても効率が悪くなるだけだ」

 

「なにか作戦があるんですね·······!」

 

 羨望の眼差しを向けられても飴ぐらいしか出ないが、作戦自体はちゃんとある。こういう時の行動パターンは把握済みだ。

 

「まず、自殺志願者には二パターンある。

 人生の夢またはゴールが自殺になる。もしくはもう自殺しか道がないという場合。前者であれば、もう時間がないだろうが、後者なら行き先を推測できる」

 

「おおー!」

 

 俺は前者だったなあ。としみじみと浸るが、そんな時間はないため引っ張り上げる。昔の事は昔の事だ。捨て置け。

 

「行き先は三パターンある。

 最後に思い出の巡る。今までお世話になった人達への挨拶。もしくはその両方だ」

 

「それじゃあ、アタシは御影先輩の思い出の場所に行けばいいんですね!」

 

「じゃあ私は挨拶周りね!」

 

「落ち着け。朝ご飯も食べていないと言うのに、走り回れる元気はないだろう?一先ず、皆で朝ご飯を食べると言い」

 

「そうでしたね。朝ご飯もまだでした」

 

「うっ、確かにお腹が·······」

 

「ハングリー·········」

 

 落ち着いて確実にしていくのが大事だ。何事も急いては事を仕損じる、というヤツだ。まあ、俺はご飯を食べずとも動けるため今から行動するが。

 

「それでは、俺はこの辺りを巡回してから病院へと向かう。もしも、若葉やひなたの元へ御影が来たのなら、腕を掴め」

 

「? 腕を掴むだけでいいのか?」

 

「ああ。引き留めようと無理に会話するのは逆効果だ*1。ただ腕を掴めばいい。振り払うことは絶対にしないだろう。御影だからな」

 

 きっと若葉達を傷つけるような行為はしないし、先の戦いでトラウマになっている筈だ。汚いがそれを利用しない手はない。

 

「では」

 

 霊体化し、その場から飛翔する。屋根まですり抜け、霊体化を解除し、屋根に足をつけて立つ。

 そこで、はたと気づく。

 

(まさか御影は霊体化して行ったのか?それならば壁を通り抜け、廊下を通らずそのまま外に出たと考えれる。合点がいった)

 

 もしかすると俺以外では見つけられないかもしれない。俺は英霊であるため霊体化した者を見ることが可能だが、彼女達はただの人間だ。視認するのは不可能だろう。

 不味いが、連絡している時間が惜しい。迅速にここら一体を探索した後友奈達がいる病院へと向かおう。

 

 10分程隈無く周辺を探索したが、御影の姿がなかったため病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 時刻は午前7時。

 いつも杏に起こされてたためか、自然と目が覚めた。ただ問題なのは自室で寝た記憶がないということ。なんなら、昨日食べた夜ご飯も。

 

 寝ぼけ眼で周囲を見渡す。

 ぼやけた視界からわかることはここが病院だと言うことと、私のお腹に包帯が巻かれているということ。特段痛みはない。

 

「おはよう、タマ」

 

 いつも聞くような投げやりな挨拶ではなく、優しい挨拶であったが、誰の声か聞き間違える筈がない。

 声のした方向へ首を回す。

 そこには丸椅子に座った士郎の姿があった。先程まで誰もいなかったと言うのに、いつの間に入ってきたのだろうか。

 

「士郎!?」

 

「どこも痛くないか?」

 

「平気だぞ!タマはなんたって無敵だからなっ!」

 

 ちょっと不思議に思う所があったが、今は気にしないでいい。今は士郎と話す事こそが最重要だと思う。

 未だ所々痛む体でマッスルポーズを取り、笑顔で士郎へ向く。しかし、その表情に明かりは灯らない。

 

「·········ごめん。タマには酷いことをした」

 

 酷いこと、と言われ忘れていた昨日の戦いを思い出す。

 確かにあれは酷かった。最早戦いと言えるものではなく、一方的な蹂躙だった。しかし、それはあくまでもタマが弱かったせいだ。士郎のせいじゃない。そう言っても士郎の心が晴れる訳ではない。じゃあ、どうすればいいのか。

 タマに、そんなこと、わかる訳がない。

 

「士郎は、どうしてここに来たんだ?」

 

 責めるでも慰めの言葉でもない。ただ何故と問いかける。単純に何を思ってここにいるのか、わからなかったから問いかけた。

 だから、士郎が見たこともないような顔で驚いているのにタマも驚いた。

 

「どうして········多分俺は、話しがしたかっただけだと思う」

 

「話し?」

 

 ほんの一瞬俯いたが、決心したかのように顔を上げ、金色の瞳と視線がかち合う。

 

「俺は戦いが好きだ。でも、それは誰かを傷つけるのが好きなのと同義だ。だから、俺は生きてちゃいけない」

 

「それは、違うんじゃないか?」

 

 事を急いだ結論に待ったをかける。

 確かに士郎の言い分は頷ける所もあるが、それだけだ。人が存在してはいけない理由にはならない。むしろ、その考え方の人は死なないで欲しい。

 

「戦いが好きだからっていなくなる必要なんてない。士郎らしく生きるのは無理かもしれないけど、我慢して生きていく道もある筈だろ」

 

「そうかもしれない。だけど、今回みたいな事がまた起きないと言い切れない」

 

 かもしれない。もしもの可能性を見ろ。

 なんと言うか、士郎から死にたいという願望を感じられる。何故死にたいと思うのか、タマには微塵もわからないが、士郎には死んで欲しくない。

 

「士郎は、生きていたくないのか?」

 

「·······そうだな。正直、お前達を傷つけるぐらないなら、死にたい。記憶から消えていなくなりたい」

 

 きっと、士郎は罪悪感に押しつぶされそうになっている。それこそ自分を見失う程に。それさえ思い出させれば何とかなる。

 

「タマは士郎に生きて欲しい」

 

「それは、どうしてだ?」

 

 点でわからないと言った雰囲気だ。それもその筈、彼にとって自身は悪であり少女達の敵である。その少女から生きて欲しい等と言われるとは思いもしなかっただろう。

 

「そんなに変か?士郎だってタマ達に生きて欲しいと思うだろ?」

 

「そりゃそうだが、それとこれとじゃ話が違うだろ。これは俺のせいで―――」

 

「士郎が悪くたって、タマは士郎に生きて欲しい。どんな事が起きようが変えるつもりはないからな、士郎」

 

 怪我人だと言うのに、タマの昂然とした姿に御影は言葉を止める。でも、それでも、御影は死に急ぐ。

 

「タマ、俺はそんなに凄い奴じゃない。高く評価してるみたいだから言うが、俺は下の下だ。そこまで言う価値は俺にはないんだ」

 

「そんなことは絶対にないっ。なんたって士郎は、タマの―――」

 

 息を継ぐ刹那、逡巡する。

 友達?いや、もっともっとだ。なら、好きな人?嘘ではないけど小っ恥ずかしい。戦友、もなんか違うし。こう言う時なんて言えば·······そうだ!

 

「親友だからなっ!!」

 

 村正やシャルが偶に零す言葉を拾い上げた。

 日々の訓練で鍛えられた瞬発力に感謝しながら、満面の笑みで閉じきった瞼を少し上げ、士郎の様子を伺う。

 若干、ほんの少しだが、士郎の口角が上がっている。

 

「ありがとな、タマ」

 

 その言葉を最後に、少年は空気に溶けるように姿を消した。瞬間移動とかではなく、透明になった感じだ。

 

「えっ、士郎·········?」

 

 名を呼ぶが、もう二度と現れることはなかった。

 

 

 

 

 

 時刻午前7時18分。

 周辺の探索を終えた俺は御影が来る可能性が高い友奈達が入院している病院に来ていた。当然、面会の時間ではないので霊体化して侵入している。

 

 まず最初に行くのは土居 球子の病室。

 周りに人がいないのを確認してから霊体化を解き、ノックしてから入室する。

 

「シャルルマーニュだ。御影はいるか?」

 

「うおっ、シャル。士郎ならさっきまでいたけど、透明になってどっか行っちゃったぞ」

 

「やはり霊体化か。わかった、失礼する」

 

 霊体化は俺には見えるため問題はないが、他の者はそうはいかない。俺だけで見つけなければいけない事が確定したが、諦める訳にはいかない。

 球子の病室から退室し、高嶋 友奈の病室へと向かう。

 

 

 

 

 時刻午前7時11分。

 早30分程心を無にしながら天井を見続けている。何故だか目が冴えて5時に起きてしまったのが良くなかった。二度寝を試みるべきだったと猛烈に後悔している。

 

 そんな折、人の気配を感じ、窓側である右へ視線だけ向ける。そこには先程まで悩みの種であった士郎くんが椅子に座っていた。

 扉を開ける音は聞こえなかったが、いつから座っているのだろう。

 

「おはよう、友奈」

 

 こちらが気づいたのに気づいたのか穏やかな声で挨拶してきた。それによって、こちらも完全に意識が浮上する。

 無だった心に喝を入れ、布団を突き飛ばしながら上体を起こす。

 

「おっおはよう、士郎くん!今日もいい天気だねっ」

 

「おかげでめっちゃ暑いな」

 

 いつも通りの挨拶をして、士郎くんの出方を確認してみたが、いつもと大違いだ。今日の場合「おう、いい天気だな」だと思っていた。それに笑顔もない。大社へ行って帰ってきたみたいな顔をしている。細々とした検査にうんざりした顔、と言うよりは、大社の偉い人にぐちぐち小言を言われた顔だ。もしくは久美子さん絡み。精神的に辟易している。

 

「大丈夫、士郎くん?」

 

「···········友奈、俺は戦いが好きみたいだ」

 

 長い沈黙を経て出された告白によって導き出されるとある可能性に驚きを隠せない。

 まさかとは思うが、前回の戦闘の際、士郎くんは意識を精霊に奪われたから暴れたのではなく、自身で選んだ末にあの暴挙に出たのではないか。より悪い可能性として、その戦闘の際、自我が、意識があったのではないなのか。だとするなら、私は士郎くんに酷い事を言ってしまっている。取り返しの聞かない言葉を。

 

「そう、なんだ·········」

 

 心臓の鼓動が速まる。

 もしも、あの時の発言を覚えているのなら離れてしまう。またあの時みたいに、茉莉さんの時みたいに会えなくなってしまう。そうなってしまったら、私は―――

 

「俺は別に友奈が嫌いになった訳じゃない」

 

 自身の話を止め、こちらに寄り添うように話す。

 今の士郎くんに勘付かれる程、酷い顔をしていたんだと思う。だけど、今はそれがとても嬉しい。私が思っていたよりも士郎くんは士郎くんだ。

 

「ただ、友奈達を傷つける可能性がある以上、一緒にはいられない」

 

「え。もう会えないの········?」

 

「俺はこの戦いが終わるまで遠くでゆっくり過ごすさ」

 

 視線を合わせ、はっきりと言う士郎くんの姿に面喰らってしまった。士郎くんからは強い意志が見て取れる。気が動転して発言している訳ではないなのは確かだ。だからこそ、私が引き留めてはいけないと思う。頭ではわかってる。そうやって、今まで争いも喧嘩もせず人と付き合ってきたんだ。でも、今回だけは見逃せない。

 

「ダメだよ、士郎くん。みんな悲しむよ。私だって悲しいし··········とにかく考え直そう」

 

「誰かを傷つけてからじゃ遅いんだ」

 

「大丈夫だよ。痛みには慣れっこだから」

 

 そう言うと士郎くんの顔が少し歪んだ。その様子を見て、私は発言したことを後悔した。この言葉では士郎くんを引き留める事はできない。

 

「友奈、痛みは慣れるもんじゃない。慣れてしまえば、日常には戻れない」

 

 その言葉に違和感を感じた。ほんのちょっぴりの違和感だったけれど、胸が締めつけられるような感覚がする。

 震えるような掠れ声で声をかける。

 

「士郎くん、······士郎くんは日常に戻りたくないの?」

 

 酷い顔をしている自覚はある。だからだろう、士郎くんが困ったような顔をして太腿の上に置いてある手に力が籠もっている。

 

「··········今まで、俺はお前達を日常に返す事を目標としていた。友奈、そもそも最初から俺は俺をお前達の中に入れていない」

 

「どうして?」

 

 考える間でもなく口から出ていた。

 

「そうしないとお前達を救う事ができなかった。一重に俺が弱かったからだ。

 自分可愛さに戦えば誰かが死ぬ。その事実だけが俺の背中を押してくれる」

 

 士郎くんが傷を負いながらも立ち続ける理由がわかった気がする。

 士郎くんにとって私達は命よりも大切な事なんだ。だからこそ、折れずここまで来れた。不撓不屈の精神なんかじゃなかった。

 

「それだったら、今からでも―――」

 

「今から、なんてないんだ。

 目標は前から変わらない。だけど、俺が戦いに悦を感じる事がわかった以上、一緒には戦えない。俺がお前達を害するなんて本末転倒だ」

 

 そっか。だから士郎くんは私達から離れようとしてるんだ。 

 理由はわかった。士郎くんが決めた事で、私から口出しする事こそ間違っているのだろう。そう頭で理解してる、しているのに。

 

「いやだ··········」

 

「えっ?」

 

 頭に怒りと一緒に血が昇っていく。冷静じゃないのは自覚しているが、この激情を止めることはできない。

 

「―――士郎くんと離れるなんて絶対にいやだ!皆で海とか夏祭りとか行くんだ!もっと皆でいろんな所に行って遊びたいのに·········っ!

 この世界でなら行けると思ったのに、どうして、こんな·············」

 

 雫が握り締めた手の甲に落ちる。

 もうどうしようもないという事実は変わらないのに慟哭が止まらない。だと言うのに、どうして私は―――

 

 私の手にそっと手が重なる。

 傷だらけで、ゴツゴツしていて、とても暖かい手だった。誰、なんてのは考えなくてもわかる。

 

「わかった。一生側にいる。友奈が行きたい場所に一緒に行こう」

 

 手から伝うように視線を上げ、士郎くんの顔を見つめる。

 穏やかに目を細めるその表情はどこか達観した老齢の人みたいだった。人格形成一年とは誰も思えないだろう。

 

「でっ、でもそれじゃあ士郎くんの望みは·······っ!」

 

「いいんだ。友奈には泣いていて欲しくないからな」

 

 士郎くんからの提案は願ったり叶ったりだ。だけど、これじゃあ、いつものように士郎くんの望みが叶うことはなくなる。ようやく出た士郎くんの望みすら、私は邪魔してしまうのか。

 

「それに、俺だって友奈と夏祭りとか海に行きたいしな」

 

 そう言って朗らかな笑顔を向けてくれる士郎くんにいつも私は甘えてしまう。でも、そうであっても士郎くんが一緒にいてくれるならなんだって私は·········。

 

「それじゃあ俺は一旦帰るから」

 

 泣きやんだ私を確認した士郎くんは一息つくと、この場から去ろうと立ち上がった。それで私は思わず士郎くんの裾を握ってしまっていた。

 

「············大丈夫だ。必ずまた来る」

 

「あっ·········ごめん。」

 

 ―――違う。

 士郎くんがいなくなるんじゃないかと心配した訳じゃないんだ。ただ、私は―――

 

 裾を握っていた手が力なくベットに落ちる。それを見届けた士郎くんは姿を空間に溶けるように消え、何処か向かった。

 

「私、私は·········っ!」

 

 士郎くんが他の人の場所に行くのが嫌で止めた、そんなこと誰にも言えず自身を嫌悪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
シャルルがそう判断しているだけ。実際にそうとは限らない。






 球子から死ぬなと言われ、高奈からは一緒にいてと言われ、結局誰かの為じゃないか。
 誰かの為、が悪いとは思っていません。が、そこに自身の意志がないかもと考えると不安です。まあ、書いてるの私なんですが。


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