気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 お前なら勝てるさ。全てを利用し、不要なものは切り落とせ。



担い手は此処に独り【if√】

 

 

 

 

 紅く染まった大地。閉じられることのない瞼。最早心臓は鼓動しない。ただ、そこには無慈悲な死のみがある。

 

 杏とタマが倒れている。血を出して倒れている。手を繋ぎながら事切れている。

 

「··········は?」

 

 頭が現実を受け入れなかった。愚かしくも俺は自身の失態を認めれなかった。

 未だ進化体は顕在。目の前の思考停止している勇者を見逃す訳がない。

 

 ニ名の勇者を死に至らせめた針が御影の頭部へと迫る。

 

「―――」

 

 手には砕け散った刀。誰も目視出来ず、ただ針が砕け散った。そんな結果しかわからない。

 

「死ね」

 

 1km離れていた場所で戦っていた他の勇者を萎縮させる程の殺意。その場にいるだけで支配出来ると錯覚させるものが発せられる。

 

 金色だった瞳を青く濁らせ、天の天蓋すらも砕く。常人を超越した力を振るい、暴虐の限りを尽くす。

 

 アリのように踏み潰し、力任せに砕く。再生するたびに終わりを与えた。何十、何百と繰り返し始まりを享受させた。

 

「―――」

 

「士郎、くん········?」

 

 いつの間にか1km程離れた場所まで移動してしまったようだ。ここまで、と思い身長台の刀を取り出し進化体を跡形もなく消し飛ばす。

 

 砕け散った刃の破片から目線を外し、顔を上げる。そして、後ろにいる皆に―――

 

「っ·····!」

 

 俺の顔を見るなり、若葉と千景がくしゃっと顔を歪ませる。唯一、友奈だけは顔を歪ませず驚いているだけだ。

 

「どうしたんだ、お前ら······?」

 

「·······士郎くん、どうして瞳が青いの?」

 

「ンっ、いや·······」

 

 鏡がなく確認できそうにないと思うが、友奈の瞳に反射している自分を見えることに気づいた。

 友奈の言う通り青い瞳だ········これがどうした?

 

「今はどうでもいい」

 

 もう時期樹海は解ける。そしたら、タマと杏も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お経が聞こえる。棺にはタマと杏が入っており、瞼は閉じられていた。

 

 俺は何もかもが見えるようになった瞳でその光景を眺めていた。やけに体が軽い。このまま死ねないだろうか。

 

「―――」

 

「あ、士郎······」

 

「若葉ちゃん、今はやめておきましょう」

 

 紫色の芍薬をそっと置き、部屋を後にする。死者を送る気など毛頭ない俺がいても邪魔だろう。

 

 人の生き死になど最早なにも思わない。誰が死のうが構わない。俺はこのくそったれな世界を作った元凶を殺すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎、―――士郎!」

 

 怒鳴り声のような呼び声で意識を水底から起こされる。どうやら、若葉が俺を呼んでいたようだ。

 

「どうした、若葉?」

 

「やっと気づいたか·······士郎、今日の授業は終わりだ。」

 

「あぁ·····そうか」

 

 若葉の言葉でようやく今日の授業が終わったことを認識出来た。それと同時に席を立ち、帰りの支度を始める。

 

「士郎、この後一緒に稽古でも······」

 

「そんじゃ、俺は帰る。若葉も気をつけて帰んな」

 

「········あぁ、さようなら」

 

 若葉の横を通り、教室を出る。

 いくら鍛錬しようが今の俺には関係ない。既に俺は自身の最高地点に到達している。ここからの伸び代はない。

 

「士郎さん」

 

「んっ、ひなたか」

 

 廊下を歩いていると後ろからひなたに話しかけられる。少し顔が暗い。

 

「最近よく寝れていますか?」

 

「········話はそれだけか?ないならオレは帰るぞ」

 

 強引に話を切り、背を向ける。帰るために一歩を―――

 

「貴方は誰と戦っているんですか?」

 

 止め、溜め息をつき首を回す。視線だけをひなたに向けたまま口を開く。

 

「―――人類の敵だ」

 

 それ以外は敵でも味方でもない。ただの置き物と同義だ。この瞳に視えるもの全てが無価値に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの中、独り階段を上がる。なにか満たされないまま日々を過ごしている御影にとっては日常のことなどどうでもいい。敵さえ殺せればいい。

 

 自分は何処か壊れている。そう自覚しているというのに自分は目を逸している。きっと、これを見つければ俺はまた一つ失うだろう。

 

 なにか、大事な―――

 

「あっ、士郎くん。今帰り?」

 

「········あぁ、ちょっとぼーっとしててな」

 

 思考を止め、友奈へと目線を合わせる。唯一友奈だけはこの瞳から目を逸らさない。そのためか、話していて気分的に楽だ。

 

「今からぐんちゃんとうどん食べに行くんだ。士郎くんも一緒に行く?」

 

 ここが御影にとっての最後のターニングポイント。ただし、どちらにせよ失うことになる。あの時点でその結末は決定した。

 

「······いや、いい。」

 

「そっ、か·········それじゃあまたね」

 

 階段を降り、千景の部屋へと歩いていく友奈を目で追いながらも部屋に入る。

 あの場に俺は不要だ。こんな欠落人間がいても楽しめないだろう。そう自分を納得させる理由を作る。

 

 ―――千景が不祥事を起こしたのは翌日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現人神、大社が考える勇者の最高地点。実現不可能として没になった―――御影 士郎という者を壁付近で見つけるまでは。

 

 現代ではありえない神秘を宿しながら勇者適正を有している。記憶喪失という弊害はあったが、無事現人神に到達した。しかし、勇者適正はその頃から減少し続けているのは周知の事実だ。

 

 勇者でもない。神でもない。そんな存在に段々と近づいている。以後も観察を続けることにする。

 

(2018.10/27)大社検閲済

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が髪を濡らしていく。それと同時に身体から流れる血も流れる。不思議なことに痛みはない。

 

「千景っ!目を、閉じるな······!」

 

「ぐんちゃん、もうすぐだから!あとちょっと、だからぁ······っ゛!」

 

 焦点が定まらないまま弱々しく呼吸を繰り返す千景を若葉と友奈が鼓舞する。そんなことしたって千景はあと数秒で死ぬのには変わりない。

 

「私、は―――」

 

「喋るんじゃない!」

 

 無理に口を開く千景を若葉が制止するが、千景は止まらない。ゆっくりと手を伸ばし、座り込んでいる俺の頬に触る。

 

「あなた、が·····だいっきらい·····――」

 

 その言葉を言い終わると同時に手が力なく落ちる。微かに聞こえていた呼吸音すらも聞こえなくなった。

 

「ぐんちゃん!」

 

「千景······〜っ゛····!」

 

 あぁ、大嫌い·········そっか。

 千景の鎌によって裂かれた胸にある傷を触りながら、自身の心を探る。

 

「―――でも、俺は嫌いになれなかったよ」

 

 この言葉は俺自身の言葉だ。水底に置いてきてしまった最後の心·········だが、もう取りに行くことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳を青黒く濁らせながら歩く。敵の火球によって抉られた腹から血を流し、血の道を作りながら神樹へと向かった完全体を追う。

 

 ―――けたたましい爆裂音が聞こえた。

 

 その直後に液体が地面に叩きつけられた音が聞こえた。音のした方向へ目を向ける。

 

「―――」

 

 誰かの腕が落ちている。赤い篭手をつけていることから友奈の腕だろう。切断面は焼ききれている。

 縺れそうな足を前へ引っ張り、爆裂音がした方へ急ぐ。

 

「―――友、····奈」

 

 右腕はなく、酷い火傷を全身に負っている。呼吸音すらない。既に事切れている。

 今向かってもなにも出来やしない。頭で理解しながら、何故か俺は友奈の近くに寄っていた。

 

「お疲れ、友奈········」

 

 乱れている髪の毛をいつもの君のように正しながら、手を握る。

 

 まだ敵が残っているのに俺はなにをしているのだろうか。人としての感情を捨てた俺が、人みたいに友人の死に悲しんでいい筈がない。

 

 ―――この一時だけだ。

 

 瞳を金色に輝かせ、草薙剣を体内から取り出す。相対するは天の天蓋。そんなことはどうでもいい。ただ俺は――

 

「俺の友達は強かったろ。ハハっ―――オレはもっと強いぞ」

 

 蹂躙が始まる。

 激情に任せ、剣を振るう。確実に殺すように、再生など許さないように仕留めていく。誰よりも強く、鋭く、細く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で血飛沫が上がる。損傷部は胴体。この噴出量からして死は免れない。

 金色の瞳を澄んだ青色にして、その光景を捉える。ゆっくりと落ちていく感覚がした。

 

「なに、死んでんだ·······」

 

「すまないな、士郎。先に逝く·····」

 

 俺を庇う必要などなかった。あれは俺でも対処が可能な範疇だ。それを勝手に庇って死ぬ?········辞めてくれよ、ほんとに·····。

 

「―――」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、俺の顔を見る。何故かその顔は笑顔だった。

 

「やはり、私は·····好きだ···――」

 

 満ち足りた顔で瞳を閉じる。俺にはさっぱり意味がわからなかった。どうして、死ぬというのに笑えるのか。きっと最期までわからないのだろう。

 

 そんな最期を俺は迎えれない。

 

「―――」

 

 まだ戦いは終わらない。進まなければ。

 あと俺一人。俺がこの戦いを終わらせなければいけない。そんな強迫観念を感じながら空を仰ぎ見る。

 

 巨大な魚を斬り捨て天の神へ駆ける。幾重もの攻撃を受けながらも負けじと切り刻んでいく。

 

 勝敗は最初からわかっていた。俺のような者が神を堕とせる訳がなかったのだ。だが、一緒に墜ちることは出来る。

 

 既に死に体な肉体で天を睨む。次の瞬間には俺の体に何本もの矢が突き刺さる。それでも倒れない。ただ草薙剣を握る。

 

 奴は俺に勝利し、俺は奴に敗北した。その結果だけで十分だとも。それだけで俺の勝利が決定する。

 

「一緒に死のうぜ、神さん」

 

 その言葉を皮切りに天の神の体が朽ちていく。それと同時に俺の意識も遠のいていく。

 

 草薙剣による因果逆転。俺は勝利し、奴は敗北する。

 それまでの経過などどうでもいい。ただ俺が勝つのみだ。そして奴は死ぬ。その結果だけが世界に受諾される。

 

 これで死ねる。過ちを繰り返した人生を終えることが出来る。でも、最初は皆に―――

 

「みんなに、謝らないと―――」

 

 

 

 

 





 青い瞳は建速須佐之男命と同じものです。
 やべっ、御影が砕け散る。っていう時に建速須佐之男命が御影の存在を置換してなんとか砕け散らないようにしてくれました。ナイスファインプレー!
 遺されたひなた········幸せに死んでください。

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