気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 どうして······どうして、救いがないんですか!?なんで、コイツはどの√でも死ぬんですか!?意味わかんねぇだろが!

 ··········頼むから、その誇りを捨ててくれ。



贖罪と共に【タマ√】

 

 

 

 

 今日も今日とて大赦に来るお偉いさんの護衛だ。ほとんどの場合ひなたを護衛してるが、たまに他所から来るお偉いさんの護衛もする。

 

 ん?給料?·······この歳でなら結構な額貰ってるぜ。使い道ないけど。

 

「また遅刻かぁ·····」

 

「あのお偉いさんは毎回だろ。今回は何十分だろうな」

 

 今回のお偉いさんは政府関係者、だったけな?そこはどうでもいいとして········まぁ、人間として大分終わってる奴だ。

 

「アイツ、だいっきらいだね。ひなたもさっさと切ってくれないかなー」

 

「今回はそういう話するとか言ってたぞ。見込みがなきゃ、スパッと切るだろうよ」

 

「マジっ!」

 

「マジだ」

 

「よしっ!よしっ!よぉ〜し!!」

 

 何回ガッツポーズしてんだ·······嫌われてんなぁ、あのおっさん。まぁ、その気持ちは俺もわかるが。

 

 そんな事をタマと話していると、大赦の玄関である門の前に黒いベンツが止まる。そこから護衛対象のお偉いさんとspのような黒服の人が降りてきた。

 

「あの黒服、たくさん武器持ってるぞ。いいのか?」

 

「······二人で護衛する必要はねぇな。タマは杏から頼まれてる方へ行っといてくれ」

 

「·····わかった」

 

 ボディガードではなく、spか。違いは武器の保有を許されていないか、いるかだ。

 この場合、俺はどっちに分類されるんだろうな?·····大赦直属の警備員だから考えなくていいか。

 

 一先ずタマと別れ、玄関口へと向かい待機する。帽子を深く被ることも忘れずにな。

 

「今日もご苦労様です。そんな警備員さんに悪いんですが、今日は私の護衛がついていますので結構ですよ」

 

「それは出来ねぇ話だ。俺がクビになっちまうんでな」

 

「そうですか······まぁ、その体ではいてもいなくても同じでしょうね」

 

 そういうとこやぞ、お前。それだから、千景からイケオジ詐欺とか言われてんだぞ。どういうことかはわからんがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視点が変わり、大赦にある研究室。そこでは、大赦所属の研究者によって日々勇者システムの向上を目指し、睡眠時間あと諸々を削りながら研究している。

 

「杏〜、タマが来てやったぞ〜」

 

 以前、球子に杏が依頼していた聴き取り調査というものだ。長らく行けてなかったが、士郎の言葉によりやっとの思いで来ることが出来た。

 

「あ、タマっち先輩。お仕事終わったの?」

 

「いや、終わってないぞ」

 

「サボり、じゃないわよね?」

 

「サボりじゃないぞ、千景。士郎が行ってきていい、って言ったから来たんだからな」

 

 現在、研究室にいるのは杏と千景のみ。まぁ、ここは元勇者の二人だけの研究室なのだが、そこは別にどうでもいいな。

 

「それで聴き取り調査、するんだろ?始めないのか?」

 

「もちろんやるよ。でも、その前に説明聞いてね」

 

「うぇ······」

 

 説明、という言葉に露骨に嫌がりながら席についてホワイトボードへと体を向ける。

 ホワイトボードには御影 士郎とデカデカと書かれている。

 

「え〜っと、タマっちにもわかりやすく説明すると········」

 

「タマっち先輩な?」

 

 杏と球子がいつものくだりをやっているのを眺めながら、一人コーヒーを飲む千景。大赦内にある自室で過ごしているためか大分精神が安定しているようだ。これには高嶋と御影はニッコリ。

 

「私達の切り札は色々なデメリットがあったのは知ってるよね?」

 

「体へのダメージと内面の凶暴化、だろ?」

 

 さてまずは話の基である正暦勇者達が使用していた切り札。精霊を体内に入れることで爆発的に身体能力を上げるという裏技のようなものだ。当然、デメリットはそれ相応のものとなる。

 

「このデメリットはあまりにも戦闘に多大な影響が出るの。だから、今わたし達はこのデメリットをなくして新たな強化方法を探してるんだけど········」

 

「だけど?」

 

「手詰まり。人の手じゃ、ここが限界よ。巫女にも聞いてはいるものの良い返答はないわ」

 

 巫女に聞く、とは神樹に聞くということだ。なにか神樹から神託はなかったのか、という質問の意味でもある。

 

「ということで、切り札変更は諦めたの。次に挑戦したのは勇者自身の強化」

 

「タマ達のか?」

 

「もう地力を上げるしか案が出なくて·······」

 

 ちなみに精霊の使用用途を変えるという案は300年後に出ることになっている。それまでは勇者システムの改良などは少数しか行っておらず、ほとんど停滞していた。

 

「ということで私達のこれまでの戦闘映像を見てたんだけど········明らかにおかしな点を一つ見つけたんだ」

 

「おかしな点·······タマが超絶格好良くなってたとか?」

 

「いや、それは同じだけど·······って、そうじゃなくて」

 

 戦闘繰り返すことでカッコよく!?と猛烈に反応しそうな奴がいるが今回はスルー。本題はそこではない。

 

「コイツの身体能力の上がり幅がおかしいのよ」

 

「あっ、千景さん。私が言おうと思ったのに······」

 

「あら、ごめんなさい。グダグダしてるから、つい」

 

 千景が楽しそうで良かったです。これからも人生謳歌してくださいね。応援してます。

 

 っと、私情を跳ね除けホワイトボードに貼られている折れ線グラフへと目を向ける。一目見ただけでわかる。明らか、おかしいやんと。

 

「ぐぅぅんっと、伸びてるな······」

 

「これは目測で示した士郎さんの時速です。もしかしたら、違うかもですが······それでも、これは異常です」

 

「私達とはかけ離れているわ」

 

 流石、四国の大英雄······では片付けれない問題だな。これが成長系主人公ですか·······これも違うな。

 

「それじゃあ、聴き取り調査·······というより、質問かな?」

 

「ドンと来いっ!」

 

 長い前振りを終え、ようやく本題へと移る。もちろん前振りに関係あることだ。

 

「士郎さんと私達は何処が違うと思う?」

 

「タマ達と士郎········男か女?」

 

「出た」

 

「ん、ん〜······成長期が終わってる」

 

「それはタマっち先輩もでしょ?」

 

「いいやっ!タマは2cm伸びたぞ!」

 

 最後の襲撃から五年が経過しているが、御影はあのときと同じままだ。まぁ、性格は似ても似つかないがな。

 

「それ以外にはないの?」

 

「ほか〜?·······記憶喪失?」

 

「それも出た」

 

「·······なんか士郎の武器が特殊だからか?」

 

「草薙剣、ね········あれは未だにどういうものか判明してないわ。そもそも所有者が真価についてしか知らないもの。これも私達じゃ手詰まり」

 

 しかも説明があやふやしていて要領を得ていない。何とか聞き取ったのは敗北を勝利へと問答無用で持っていくというデタラメな能力。そして、それはもう使えないということ。

 

「あとは〜······士郎だけ一回も切り札使ってないとか?」

 

「いや、切り札使って·······そういえば、あれは私達とは違うヤツだったわね」

 

「でも、それだと······あの性格の変化は······あっ!わかったかもです!」

 

 士郎が言っていた切り札とは取り出した刀を一刀に収束するという必殺技に近しいものだ。精霊を体内に取り込んでの切り札とは全くの別物だ。

 

「士郎さんの精霊は草薙剣なんです。だから、士郎さんは私達で言う常時切り札状態なんだと思います」

 

「·······ありえるわね」

 

「いやいや。それだと士郎の体はぐちゃぐちゃだぞ?」

 

 球子の言う通り切り札のデメリットにより、士郎の体はぐちゃぐちゃだろう。若葉達同様、人の体であればだがな。

 

「そこです。士郎さんの強さの秘密はそこにあったんです」

 

「体ぐちゃぐちゃなのが?」

 

「いえ、体は正常です。切り札を使いながらも()()なんです」

 

 正常、という言葉を強調するように言い放つ。いつかの勇者王決定戦後の時のようなハイテンションだ。

 

「つまり、アレは精霊の力を十全に扱えるように体が出来てるって訳?」

 

「適応した、が一番可能性あると思います」

 

「ほへぇ······」

 

 おめでとう、八割正解だ。それ以上は魔術関連を学ばなければ、辿り着くことはないだろう。今の状態での最高点だよ。

 

「ふぅ、終わったぁ·······」

 

「ほら、次はコレをどう活かすかよ」

 

「少し、ねまぁす·····―――」

 

 余程疲れていたのか、机に突っ伏した瞬間夢の世界へ旅立ってしまった。

 

「それじゃあ、土居さん。警備に戻っていいわよ。サボりはここまでだから」

 

「よーしっ、バリバリ働いちゃうぞぉ!」

 

 御影と別れ早三十分。どんなにこの大赦が広くても応接室には到着し、話し合いをしているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視点と時間を変え、応接室へ。ここには御影、ひなた、お偉いさん、そのspのみが入室を許可されている。それ以外は一切の入室を禁じられている。

 

「我々としては神樹様の御加護を受け取りたいと思っているんですよ。ですから、どうか私にも神樹様に触れる機会を········」

 

「それは前にも言った通り許可出来ません。私達ですら、限られた者しか触れられない神樹様に部外者が触るとどうなるか検討もつきません。」

 

 端的に言うと、大赦だけ勇者とか巫女とか力貰ってばかりでズルい!私にも力下さい!そんな感じだ。

 

 ここで勘違いしないで欲しいのは、神樹様は人類の味方であっても神という点だ。基本、神様というのは気ままな······わかりやすく言うなら自分本位な者が大半だ。

 

 もし、許可してない変なイケオジが触ってきたらどうなると思う?そうだね、殺すよね。

 

「善意には善意を、っていう言葉を知らねぇのか?例え、相手が人じゃなくてもコレは共通だ。忘れんな」

 

「········そちらの護衛は礼節がなってないのではないですか?」

 

「彼は私が無理言って引き抜いたので態度がでかいんです。ご了承下さい」

 

 礼節はなってないが、言うことは正しい。まぁ、そういう奴だ。諦めて素直に耳を傾けておけよ。

 

「触れることが出来ないのならば、せめて神樹様に関わる資料を頂けないでしょうか?」

 

「それならば、前回渡した筈ですが?」

 

「黒塗りなしのはないんですか?」

 

「あれが全てです」

 

 現時点で神樹様について知っているのはひなたのみ。それ以外は誰も知らず、ひなた専用のパソコンにしかデータはない。

 

「そうですか、そうですか······なら―――」

 

 その言葉を合図にspが服の裏側にある胸ポケットへと手を入れる。

 

「予備動作が長い」

 

「は?―――ぐっ!」

 

 spが取り出したハンドガンを銃身が見えた瞬間、手に出した刀で斬る。ついでに蹴りを腹へと叩き込み、壁へと弾き飛ばす。無論気絶だ。

 

「さて、―――ん?」

 

 硝子に罅が入るような音。すぐさま後ろを振り向くと、強化硝子に円を作るように四つの弾丸が当たった跡がある。

 

「ひなた」

 

「許可します」

 

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに右手に握っていた刀を上へ軽く投げる。回転しながら落ちてくる刀の柄目掛けて―――

 

「急拵えだ」

 

 ―――拳を振り抜く。

 

 刀が弾丸の如く射出され、強化硝子をいとも容易く突破し、遥か先の狙撃手の脳天を穿つ。もちろん即死だ。

 

「はい····?」

 

 この光景に思わずイケオジも顔面蒼白だ。君が悪くていい気味だ、ってな。

 

「さて、どうしますか?ここで殺害されるか牢屋に入るか·······お好きな方で構いませんよ」

 

「···········牢屋でお願いします」

 

 長い沈黙の末、彼は牢屋を選んだようだ。良かったね、安全に余生を過ごせるよっ!

 

 以上、これがタマが来る五分前の出来事でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イケオジ軍団がお縄になった後のお昼。他の大赦勤めの役員達とは違い、士郎達はしっかりお弁当がある。いやまぁ、役員でもある人にはしっかりある。ちなみにその他は食堂があるのであしからず。

 

「やっと、ご飯だぁ······疲れたー、燃えるー」

 

「ほら、さっさと食わねぇと昼休憩が終わんぞ」

 

 勇者達のお弁当は何故か毎日ひなたから渡されている。本当に何故か。ひなたの方が忙しいだろうに······ということで御影からも二つのおにぎりが渡される。

 

「げっ、野菜多········」

 

「残さず食えよ」

 

 弁当箱を開けた瞬間嫌な顔をしてるのは勿論タマだ。御影には苦手な食べ物はない。食えればなんでも食う。·····前の自己紹介で言ってた筈だ、多分。

 

「そういや、士郎。今日の午前中に一人殺ったのってほんとか?」

 

「ン、そうだが······どうかしたか?」

 

 う〜ん、この········命の価値が勇者へと偏りまくってんな。最近ではこれがひなたの一番の悩みの種になっているようだ。

 

「いや、なんでもないんだけどさ·········」

 

「許可なら、しっかりひなたから取ってから大丈夫だろ」

 

 ひなたとの契約、いや正確には約束だな。出来る限り御影に人を殺させたくないというちょっとした我が儘。

 

「ん、ん〜゛·······?」

 

「そんな唸ってなに考えてんだ?」

 

 突如として唸り声を上げ、頭を悩ます。これには御影も箸を止め、不思議そうにタマを眺める。

 

「······あっ!キャンプ行こう!」

 

「おっ、キャンプ行くのか。楽しんでこいよ」

 

「? 士郎もだぞ?」

 

「·······うん?」

 

 いの間にか自身をキャンプメンバーに入れられてることに驚きを隠せず、いつかの自分が出てきてしまっている。これにはタマもきょとんとするしかない。

 

 ということで、突如として予定された御影とタマのキャンプは無事にひなたから休みを取れたことで滞りなく開催された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快晴、言うまでもなくキャンプ日和だ。そんな訳で御影とタマの二人は安田川アユおどる清流キャンプ場に来ていた。

 

 最初はタマが普段キャンプするような森の中、と言っていたが御影がキャンプ初心者ということだったので悩んだ結果ここになっている。

 

「よし、今日はここをキャンプ地とするっ!」

 

 伽藍堂としているキャンプ地でそう高らかに宣言する。元々ここは年中賑わっていたキャンプ場ではあったものの、あの日を堺に来るものはいなくなった。

 

 ここを管理する者達も軒並み四国以外にいたため、生存は考えれない。残ったのは無人となったキャンプ場のみ。

 

 ここにはキャンプが本当に好きな者がたまに来るが、それは極稀。今日もそのようなことになっており、実質貸し切り状態だ。

 

「ほれ、鮎獲ってきたぞ」

 

 一人でテントを張り終えたタマの所へバケツと網を片手で持った御影が戻ってきた。その言葉通り、バケツには鮎が四匹入っている。

 

「本当に網だけでいったんか·······」

 

 驚くことなかれ。この男、釣りが片腕で出来ないという理由だけで網を用いて鮎を四匹獲ったのだ。どんな動体視力だよ、ほんとに。

 

「おっ、随分立派なテントだな」

 

「そうだろう、そうだろう。なにせ、タマが立てた一級品だからなっ!」

 

 流石、アウトドア派だな。これにはインドア派の杏は苦笑い。まぁ、当の本人は今日も頭を悩ませているだろう。

 

「そんじゃ、俺は着替えてくる」

 

 網で獲った、と言うならば川に入ったのはわかる。だが、網を振っただけで上着がそんなに濡れる訳がない。どんな力で振るったのか·······想像出来ないな。

 

「タマが手伝ってやろうか?」

 

「いや、結構だ。一人でもできらぁ」

 

 そう言い、テントへと入っていく。

 御影は年がら年中長袖長ズボンを着用している。たまに袴。その最たる理由は左腕の欠損部位を見せないためだ。

 

 夏用買わなくて良くなった、は本人談だ。笑いながら言いやがって······どういう神経してやがる。まぁ、本人にとっては本当に笑い話だろう。

 

 本人にとっては、だがな。タマにとってはタマったもんじゃない。杏はあまり顔には出さないようにはしているが毎回胃液を逆流させているのを皆知っている。

 

 トラウマとはそういうものだ。何年経とうが、彼女等にとっては誰も測り得ない罪。誰にも許してもらないものなんだから。

 

「········」

 

 御影が着替えている間、一人椅子に座りボーッとする。火でもつけようと思ったが、今はその必要はない。やる気もあまりない。

 

「ふぃー、着替え終わったぞ。次はなに······寝てんのか·······」

 

 着替え終わり、テントから出てきた頃にはタマは夢の世界へ行ってしまったようだ。これには御影もどうすへぎかと悩む。

 

「しょうがねぇなぁ······」

 

 持ってきていた蚊取り線香に火をつけ、煙を立たせる。それをそっと地面に置き、自身もタマの隣に設置されている椅子に腰を降ろす。

 

「······たまにはこういうのもいいか」

 

 少し頬を緩ませ、瞼を閉じる。眠気は感じていなかったが、すぐに意識を落すことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には極々普通の開いた扉がある。だが、部屋はなく花火の絵のような物が出口を塞いでいる。これでは入れないと思い、扉を閉じる。

 

 なにか·······自分ではない自分を視たような感覚を感じながら、左側にあった扉を開く。それは先程のとは違い、出口は塞がれていない。

 

 ―――右足を前へと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を上げる。バチバチといった音を聞きながら、その方向へと視線を向ける。どうやら、タマが獲ってきた鮎を焼いていたようだ。

 

「········おっ、御影も起きたか」

 

「ん、あー······つい、眠っちまった」

 

 とうに日は暮れ、辺りは真っ暗だ。電柱がないことも相まり、目を凝らさなければ周囲を見ることすらもままならない。

 

「ほいっ、丁度焼けたぞ」

 

「おぉ·····こりゃあいい」

 

 タマから受け取り、齧りつく。噛み締めた瞬間、塩振って焼いただけのものとは思えない程の旨味が舌に伝わる。

 

「おいしいだろ?ただでさえうまいのにキャンプ効果で更においしさ倍増だっ!」

 

「ほへぇ、キャンプにそんな効果があったとはな······-驚きだ」

 

 外で食うと美味しくなるという原理はキャンプでも同じようだ。まぁ、焼き立てだからという理由もあるだろうがな。

 

「なぁ、士郎·····?」

 

「ん?」

 

 いつものタマとは何処かかけ離れたような声で御影へと話しかける。そんな問へと魚を食らいながら応じる。

 

「あっ、いや·····えっとー······」

 

 しどろもどろになりながらも言葉を出そうとするタマを急かさずじっと待つ。その瞳は確かにタマを納めている。

 

「よしっ。······士郎はあのときタマと杏を見捨てれば、って思ったことあるか?」

 

「―――」

 

 正しく空気が凍りついた。これには流石のタマも冷や汗を流す。だが、それでも今の発言を取り消す気にはならなかった。

 

「·········そうだな。最初は後悔した······左腕も痛くて意識が飛びかけたしな」

 

 誰を責めるでも、愚痴るでもなくただ言葉を紡ぐ。運が悪かった·······そう言い切れる程の話ではない。それは誰の救いにもならない。

 

「前にも言った通り、アレには恐怖を抱いた。何処か少しでも狂えば死んでいた········」

 

 草薙剣がなければ。少しでも左腕を切り落とすのに躊躇すれば。相手の再生が一秒早かったら。そんな少しで確実に死んでいた。

 

「まっ、それでもだ。俺はあの場に立ってた。立ってなきゃ駄目だった·······誇り、ってのはそういうもんだ。例え死んでも後悔はしねぇよ」

 

 誇りを抱いたまま死ねるなら、それでいい。まるでそう言うようにタマへと微笑む。

 

 そう、これが御影 士郎だ。どっかの剣のように鋭い奴に負けず劣らずの頑固者·········だろうなぁ。

 

「でも、そのせいで士郎は左腕を失っちゃったんだぞ?」

 

 タマとしては士郎に後悔して欲しかった。何処にも行き場のない感情を少しでも発散して欲しい。それで、どんな事をされようとも。

 

「良い。これで良いんだよ、タマ」

 

 そもそもが御門違いだ、土居 球子。御影にはそんな脆弱な感情はない。いつまで経っても本質は同じだ。呆れる程にな。

 

「それに、タマのことは好きだったからな」

 

「········!!?!」

 

 良くも悪くも唐突に爆弾を落すのが、コイツらしいな。これにはタマも一瞬思考が停止し、驚きを隠せない。

 

「いっ、いや、タマはチビだし、女っぽくないし、ガサツだし·····そのー、あれだ!」

 

「·········嫌なら、はっきり嫌って―――」

 

「嫌じゃない!嫌じゃ、ない····けど···」

 

 その光景を見て、またあの時感じた自身への怒りが湧いてくる。

 いくら強かろうが、いくら敵を殺そうが、目の前の少女を救うことは出来ない。もう以前のような馬鹿みたいな笑いは聞こえてこない。

 

 そうさせたのはバーテックス········いや、自分自身だ。それを理解しながら、この手を伸ばしている。馬鹿馬鹿しいにも程があるな。

 

 ならいっそ、この手は伸ばさない方がいいんじゃないか。そう思い、手を―――

 

「タマに、―――士郎を救わせてくれっ!」

 

「·······」

 

 目の前に自身より遥かに小さな手が差し伸べられる。その手は自身が救おうとしていた者の手だ。

 

 自分には救いなど未来永劫れることはないと諦めていた。だと言うのに、こうもあっさり来るとは誰も思わなかっただろう。

 

 その瞳を見るに本気だ。そもそも彼女はこういった冗談などあまり言わない。なら、こちらも本気で応えるのが彼女のためだ。

 

「あぁ、俺を救ってくれ」

 

 そっと小さな手を掴む。

 縋らず。祈らず。ただ、彼女を救うがためにその手を握る。

 

「嫌だって言っても離してやんないからな」

 

「そりゃあ怖ぇ。お手柔らかに頼むぞ」

 

 手を握ったまま椅子に横たわる。そこからは満天の星空が一望出来た。これもキャンプ効果というものだろうか。

 

「ぉー·······星がキラキラしてるなぁ」

 

「月も綺麗だ······」

 

 きっとこれからもタマは自身の罰を抱えるだろう。俺が知っている土居 球子という勇者はそういう奴だ。だからこそ俺はただ一重に救われて欲しいと思うのだろう。

 

 自分勝手·······まぁ、そうだな。独り善がりで独善的。それでしか人を救う方法を知らねぇんだ。でも、いつかは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 善意には善意を。そうであるべきだと俺は思うし、そうであれと願っている。でも、それが必ずしもその人への報酬·······救いにはならない。時には苦しみとなる時だってある。でも、それしか知らない。

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