気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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勇敢なる少女のために王+αが来た【200話記念・中編】

 

 

 

 

 

 幻想の騎士との邂逅から三日後。予定通り軽症だった須美と園子は退院し、銀も目が覚め快調へと向かっている。ただまあ、敵さんがそんな事考慮する筈がなく襲撃は起こった。

 

 真夜中のような空の下、樹海を浮遊して進む乙女座。相対するは勇者二名と十二勇士の長。そして遥か遠くから戦いを傍観する青年。胡座をかきながらも、その鋭い視線は乙女座を射抜いていた。

 

「乙女座は鉄の処女を象ってんのか。悪趣味だな、あちら側の········いや、黄道十二星座に因んだのはこちらか。

 まっ、いいチュートリアルになるだろ。」

 

 感想もそこそこに彼らへと場面を譲る。

 

 一人抜け、一人追加で数こそ変わりないが以前と今では戦力差では明らか。なにせ英雄、それも九偉人と謳われた者がいるのだ。恥ずべきことではない。

 もうね、見ていて安心感が違う。

 

「へぇ〜、須美は弓なんだな」

 

「そういうシャルルさんは想像通りですね」

 

「だろ。剣が一番似合う騎士はオレのことさ!んで園子は槍と」

 

「どうどう意外だった〜?」

 

「そうだな、ちょっと意外だった。園子はなんというか······後ろでドシッと構えて指示出すタイプだと思ったぜ」

 

 例えるならそうシャルルマーニュ十二勇士のテュルパン司祭みたいな。と、言いかけたがよくよく思えばあの人も脳筋だった。槍四本受けて頭蓋割られながら槍の一振りで千人薙ぎ倒すんだもんなぁ。俺よりも強くね?と何度思ったことか。

 

「じゃあ今日はビシバシ指示出しちゃうよ〜!」

 

「おう、頼むぜ園子!」

 

「あんまり気を抜いては駄目よ、そのっち。それにシャルルさんも」

 

「は〜い」

 

「うっす」

 

 そんな談笑もそこまでに。バーテックスとの距離は1km弱、無機質な殺意を受けシャルルは鞘から剣を抜きな颯爽とした雰囲気を纏う。

 そんなシャルルに危機感を覚えたバーテックスはすぐさま潰すべく蕾のような物を発射した。

 

「投擲来るぞ!!」

 

 シャルルの声を聞き、須美は後ろに、園子は左手へ、シャルルは右へとそれぞれ回避行動を取る。

 須美はそのまま矢を番え、園子とシャルルはバーテックスの左右へと回り、挟み打とうと樹海を駆ける。

 

 乙女座との距離を最初に縮めたのは言わずもがなシャルル。先制攻撃をしかけんと攻撃態勢をとるが、乙女座が布のようなものを振るい、迎撃する。

 

「ハッッ!!」

 

 右側から胴体に振るわれる布であったが、ジュワユーズによって切り上げられるように弾かれた。道を阻む物もなくなり更に近づく。

 

 ジュワユーズが届く距離となった所で乙女座が態勢を整え、お邪魔虫を払うべく蕾と布で応戦しようと形振り構わず繰り出す。

 

「南無八幡、―――大菩薩っ!!」

 

 だがしかし、須美による強力な一撃によって態勢を崩しそれどころではなくなってしまった。

 最大チャージの一矢は乙女座の脳天を射抜き、着弾地点は抉られたように表面を凹ませた。その現象を見ていた傍観者から一言。

 

「空間転移っぽいな。矢が刺さった部分を何処か、まあ神樹の内部だろうが、そこに飛ばしてるって訳か。

 ········弱くね?人に対して撃つんなら即死だろうが、あの巨体に撃った所で3秒ぐらいしか稼げんぞ。もうちょいこう爆発とか速射とかないの?」

 

 以上、傍観者からの口コミでした。

 確かに彼の言う通りあの巨体に対しては非力な一撃なのかもしれない。だが、3秒あれば十分という英雄はごまんといる。もちろん彼も。

 

「そこだっ!」

 

 ジュワユーズをフランベルジュへと転換し、更に相性抜群な炎原素を刀身に纏わせ三連撃を乙女座へと叩き込む。

 乙女座は防ぐ術もなくモロに受け、斬撃によって抉れた箇所から炎が上がる。そして傷口から朽ちていくようにポロポロと崩れていく。これこそフランベルジュの真骨頂。傷口は爛れ、悪化の一途を辿っていく。

 

「そぉーいっ!!」

 

 そんな脆い箇所を更に園子の槍で一刺し。それが決定打となったのか乙女座は浮遊機能も消え、樹海へと落ちていった。

 

 ―――花弁が舞う。

 

「おつかれ〜♪」

 

「―――ん。ああ、お疲れ  」

 

 園子の方へ振り向いた際の視界の端の端に映った乙女座の布。明らかに意図的に振るわれた布だ、倒れゆく際に揺れているだけの布ではない。

 少女に合わせて普段の雰囲気に戻したシャルルであったがためか悪足掻きを見逃してしまった。意識をガチッと切り替えるには時間が足りない。彼には庇う以外の選択肢はなかった。

 

 刹那、全てを置き去りにした閃光が悪足掻きを咎めた。

 

「敗者復活なんってもんはねぇんだよ」

 

 胡座をかいてた青年がいつの間にか立っており、何か物を振りかぶった態勢で完全に機動を止めたバーテックスを睨んでいた。

 

「敗者が勝者から奪おうとすんじゃねぇ。見苦しいわ」

 

 珍しく眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように苦言を呈する。どうやら乙女座の悪足掻きは彼の琴線に触れてしまったようだ。

 

「ッ·····、ふぅ。危なかったぁ」

 

 身を差し出したシャルルであったがピッチャーにより何とか難を逃れ、ほっと胸を撫で下ろす。勇者二名は一瞬の出来事に唖然としてしまっているようだ。

 

「ビックリしたぁ。シャルルありがと〜」

 

「オレのミスでもあるからな、なんてことないさ」

 

 少女に配慮して警戒を解いたシャルルの落ち度であり、鎮花の儀式が始まったから戦いは終わりと安心してしまった園子と須美の落ち度でもある。誰が悪かったと言えば誰も悪くなかっただけの話。

 と、そんな所に後方にいた慌てた様子の須美が合流。

 

「そのっち、シャルルさん何があったの!?」

 

「あれれ〜?わっしーのカバーじゃなかったの?」

 

「え?私が気づいた頃にはもう······」

 

「今のはマスターのだな。めっちゃ離れちゃいるが········って、ええ!?6kmも離れてんのかよ!!」

 

 マスターが何処にいるのか調べるために魔力の繋がりを探るシャルルだったが、あまりの距離に仰天する。その言葉に須美が元いた場所より更に奥へと目を向けるが遠すぎるためか人影を目測することができない。

 てことで話題のマスターから一言。

 

「裏側からでも地球外からでも当ててやる。“どう投げれば(答え)”はわかってるからな」

 

 そんなこんなでシャルル参戦初の戦いは幕を降ろした。誰も欠けることなく、それも無傷での帰還だ。これ以上の戦果は求めれないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初の共闘から早数週間、季節は夏真っ只中となり学生達は夏休みを謳歌している今日この頃。医者である脱走犯兼傍観者な彼は熱中症で運ばれてくる患者の対応に追われる毎日であるが、それでも休みはある。週休二日としっかりとした休みが。

 そんな休日に彼は何をしているのかと言うと

 

「よっす!」

 

 散歩していると偶然たまたま出会った結城 友奈に右手を上げ挨拶する。もちろん偶然ではなく狙っての行動であるが、友奈がそれを知る由はない。

 

「あ、こんにちは!奇遇ですね」

 

「おう、めっちゃ奇遇だな」

 

 下は動きやすい短パン、上はスポーツインナーの上に白の半袖Tシャツ。飾りっ気が全くない服装だが彼女の活気が見て取れる。

 ちなみに彼の方は半袖など着れる訳がなく、上は白いTシャツ、下は鶯茶色のズボンと無難な形になっている。通気性は良いにはいいがこの暑さではあまり意味を成していない。

 

「今日は何処行くんだ?」

 

 この質問に意味はない。なにせ彼は結城 友奈が何処に生き、何をし、何を感じ取るかを知っている。既に知っている事を聞く必要はない。

 だがしかし、それは通常まかり通らない。

 もし、この場で知らない筈の答えを口にすると間違いなく不思議に思われる。最悪気持ち悪がられる。だから聞く。それは彼が知る世渡り術のようなものであった。

 

「今日は海に行きます。勇斗さんはどこ行くですか?」

 

「俺は暇だしぃ······友奈の水着見たいし着いて行くかな」

 

 迷うように考え込むような素振りをしながらその裏何も迷ってなんかいない。どうすれば疑問を持たれず済むかなど生まれた頃から知っている。

 

「勇斗さんは、その·······ロリコンなんですか?」

 

 珍しく喉に突っかかる言葉を吐き出したと思えば、警戒するよう教えられた語句をその相手に聞くとは。なんと純真無垢で騙されやすい娘なのか。

 生きづらいだろうな、と憐れみながら返答する。

 

「おう。友奈専属のロリコンだぞ、俺は。気が向いたら結婚してくれ」 

 

 真正面から浴びせられる清々しいまでのプロポーズには友奈は頬を赤く染め、偽名者の顔が見れないのか下を向いた。

 

(一ヶ月程度の付き合いで傾くなんてチョロいな。いや、親友(アイツ)は一週間で攻略したんだったけ·······人垂らしめ。だがまあ解る。親友(アイツ)といると楽しいし、惹かれる)

 

 偽名者は親友自慢を延々としながら友奈と共に駅へと行き、無事海へと到着しましたとさ。その後好感度を着々と稼ぎながら一日遊び尽くしたのは語るまでもない。

 

 

 

 

 

 

 夏休みの折り返し、言い換えるならばシャルルマーニュ+αが合流して一ヶ月と三日。

 それがどうしたと言われそうではあるが、勇者三人からしたら待ちに待った日である。なにせ友達の退院日なのだから。

 

「「退院おめでとー!」」

 

「お、おぉ······っ、あんがとな園子、須美!それとシャルルさんと········そう言えばお名前何でしたっけ?」

 

「黒耀 勇斗だ。どっちで呼んでもいいぞ」

 

「では勇斗さん。場所提供ありがとうございますっ!」

 

 場所は色々と都合がいい偽名者宅。参加者は本日の主役である銀、その友達である園子と須美。そして参入したシャルルと偽名者。

 彼らが囲んでいるテーブルには偽名者、そして園子が作った料理が並んでいる。

 

「いっやぁ、それにしてもどれも美味そうだなあ。あれ?なんで焼きそばの皿が二つあるんだ?」

 

 他の料理は全て一皿か半分半分で納まっているのに焼きそばだけ二皿ある。明らかに注目してくださいと言った異質感だ。

 

「それはね〜、―――」

 

「勇敢なる勇者へクイズだ!!そのどちらかが園子が作った焼きそばで、残る一方が俺だ!果たして美味と友情どちらが勝つのか!!?」

 

 園子の言葉を遮り、天下一武道会の司会者のようなハイテンションで状況を説明するハイな人。状況説明ありがとう。

 須美が引き攣った顔で銀に補足説明を行う。

 

「そ、そうゆうことで銀にはこの二つを食べ比べて欲しいの。

 そのっち、銀がリハビリ頑張ってるのを見て、元気が出るものをって言って頑張って一緒に練習したのよ。シャルルさんも········味見役を買って出てくれたわ」

 

「えへへ〜♪」

 

「そ、園子ォ〜·······って、シャルルさん何度も園子の食べたんですか!?」

 

「毎回うまかったぜ!」

 

「なんて羨ましいっ!!」

 

 ちなみにこのクイズを発案したのは言わずもがなハイな人。何故結果がわかっているのに勝負を挑んだのかはわからない。

 

「では、いただきますっ」

 

「ごくりっ··········」

 

「·········」

 

 焼きそばを口に運んでいく銀の姿を固唾をのんで見守る園子。興味ないと言った風な情緒不安定な人。その姿に須美は言い切れない排他的な雰囲気があった。

 

「―――んっま!!」

 

「っ·········。」

 

 満面の笑みで皿によそった分を口に運んでいく銀。そんな姿に園子が苦虫を噛みつぶしたような顔になってしまった。

 園子の反応から見て取れるように今銀が食べた物はロー

テンションな人が作った物である。

 

 次いで空となった皿に焼きそばをよそい箸で口に運ぶ。

 

「―――んっま!!」

 

「ん?これは·······」

 

 寸分違わず同じ反応に、これにはシャルルも困惑の声を挙げる。当事者である園子ほ内心ドキドキであるが、反対に偽名者は冷やかに行く末を見守っている。

 

 再び空となったのを確認し、シャルルが銀へと声をかける。

 

「さあ銀、どっちが園子のだと思う?」

 

 銀から見て左にあるのが最初に食べた物であり、偽名者の。そして右にあるのが答えである園子が調理した焼きそば。

 徐ろに右手を上げ、人差し指を立て―――右の焼きそばを指差した。

 

「園子のはこっち!······だろ?」

 

「ミノさ―――」

 

「それは、なんで?」

 

 感極まって飛びつこうとする園子よりも速く銀に偽名者が問う。

 味の良し悪しで決めたと言うのならそれは間違いなく悪い方だと確信しての事。それで正解したのなら園子にとってコレは喜ぶべき事ではなくなってしまう。

 

「マスター、それを問うのは野暮ってもんだろ。友情に水をさすのか、アンタは」

 

 怒ってこそいないが、その声には怒気が混じっているかのように聞こえた。

 こうなる事は知っていただろうに何故偽名者は問いかけたのか。想いを尊ぶ幻想の騎士を前にして彼は何を考えているのか解らない。

 悪くなっていく雰囲気を感じてか銀が声を挙げる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、シャルルさん。

 アタシはただ右の方が園子っぽいなあ、って勘というかなんかビビっときたんですよ。だから右が園子ので········合ってますよね?」

 

「〜っ、ミノさん······!」

 

「うおっと。どうしたんだよ園子?」

 

「やったわね、そのっち。銀も流石よ」

 

 園子に抱きつかれ、須美に頭を撫でられている銀から視線を外して偽名者へと振り向く。立っていた彼はいつの間にか座っており、自身が作った焼きそばを更によそっていた。

 

「なあマスター、どうして優劣をつけようとしたんだ?」

 

「俺と園子の作った焼きそばはレシピこそ同じだが、俺はコレが初めてで逆に園子は何度も練習してのコレだ。

 何度もしていくうちにその人の手癖が出てくる。だからこそ園子をよく知っている銀は食べて解った訳だ。園子ならどう味付けしてどう食材を切り、調理するのかを」

 

 よそった自身の皿にある焼きそばを箸で口へと運ぶ。一口食べ、左手で持っていた皿をテーブルに置く。そして瞳を合わせる。

 

「まあ、再認識のためだと思ってくれ。

 死地を幾つも掻い潜ろうが変わることなんてない。変わったとしてもそれは戦った事による侵食じゃなく、変わろうとしたからの変質だとな。

 あと個人的に園子と比べてみたかったからもある。」

 

「そのっちと?」

 

「後天的に天才と呼ばれるようになった奴がどれだけのものか見たくなった」

 

「········もしかして勇斗さんって―――」

 

「まっ、そろそろ覚めちまうし食べ始めようぜ」

 

 園子が彼の言いぶりで粗方であるが性質に気づいたのか恐る恐る言葉にしようとするが遮られる事となり、終ぞその言葉は形にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀復帰から三週間後、夏休みが残り一週間となったある日の夜。偽名者の家にて家主と同居人がとある話をしていた。

 

「勇者システムのアップデートか」

 

「そうなんだよ。安芸先生の話によると精霊がついて攻撃を防いでくれるらしい。あと満開って言う機能も」

 

 シャルルの言葉に偽名者は考えるフリをしながら珈琲を飲む。

 ちなみにシャルルは安芸先生と一度対面している。大赦に来なくてもいいから安芸先生と話してくれないかと須美に頼まれては断れないのは仕方ないことだ。

 

「·······勇者システムってなんなんだろうな」

 

 勇者システムのアップデートと言われても、そもそもの存在が何なのかわからない。それは勇者達も同様であろう。だから返答がないのを理解しながらぼやく。

 

「―――勇者システムは目印であり許可証だ」

 

 予想だにしていなかった返答があり、シャルルは目を見開いて自身の主を見入る。

 それを知ってか知らずか返答を続ける。

 

「異界であろうと地球の裏側であろうと勇者を見つけ、神力を神樹もしくはその土地の神が与える」

 

「そうなるとアレじゃないか?その土地の神様の性質に寄っちまわないか?」

 

「型は決まってんだ。ただ力を、電気みたく流せばいい」

 

「なるほど」

 

 機械製品のように電気を流した際にどんな動作が始まるのか決めておけば必ず同じことの繰り返しができる。でも、それでもとある疑問が出てくる。

 

「小さな少女である必要ってあるのか?」

 

「少女である必要はない。純真無垢であれば男でも女でもいいだろうさ。神力の通りがいいかで決められてんだから」

 

 純真無垢であればあるほど神秘との相性は良くなる。だが、現代社会において純真無垢などと言う四字熟語は廃れた。滅多にいるものはではない。

 

「ほへー。所でマスターは何処でそれを知ったんだ?」

 

「考察でだ。合ってようが間違えていようが、戦いに支障はないだろうから心配すんな」

 

「考察にしては凄く理に適ったのだったな。家のマスターは天才かね」

 

 珈琲を飲み干した彼はマグカップを持って、流しがあるキッチンの方へと行ってしまった。

 その後はとくに何の話もなくそれぞれ床に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みが終わる二日前である土曜日。夏休みと言えば夏祭り、当然友奈がいる讃州市でも()()()

 

「それじゃあまたね、友奈ちゃん。始業式でねー!」

 

「うんっ、またねー!」

 

 別れ道で友達と別れ、一人動きにくい浴衣で家までの帰路を進む。父直伝の武術を修めているが、最近ロリコンが現れたりと心配事は多い。

 

「よっ、友奈」

 

 正面からロリコン出現。格好は普段と同じであり、浴衣ではないようだ。シャルルを着付けしたというのに自身は普段着とは嫌がらせが上手い。

 

「こんばんは、勇斗さん。今帰りですか?」

 

「いや、俺も夏祭り行こうと思ってな。

 ·······もしかしてだが、もう終わった?」

 

「はい·········あっでも、今から走れば最後の花火ぐらいなら見えるかも!」

 

「友奈は見てこなかったのか?」

 

「お父さんに8時までに帰ってくるように言われてて·······」

 

「そうか。それじゃあ帰るか」

 

「はい·····?」

 

 そう言うと彼は友奈の左側に並び、歩き出す。不思議に思いながらも、連れて友奈も隣を歩き出す。

 

「夏祭り楽しかったか?」

 

「はい!友達と全部の屋台を回って――――――」

 

 友奈が語る夏祭りの思い出に耳を傾けながら、今まで見たことないような穏やかな笑顔で傍聴する。今にも泣きそうな顔だ。

 

(初めて夏祭りに行ったアイツみたいな顔しやがる。本当に楽しかったんだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みが完全に終わり、季節が変わっていくのを肌を通じて痛感し始める10月の最終日。世間体に言うハロウィンの日である。

 

「ひぃー、さっむ·······っ。須美〜、ホッカイロとか持ってない?」

 

「10月だからって油断しちゃ駄目よ銀。はい、湯たんぽ」

 

「湯たんぽ!!?」

 

 何食わぬ顔で鞄から取り出される湯たんぽに面を食らい、どう使うのかわからずにツンツンし始める。

 

「ほら銀、ホッカイロだぞ」

 

 そんな銀に助け舟を出したのは誘ったら来てくれたシャルル。その手には数十個のホッカイロがある。全部同じ種類だ。

 その中なら無造作に二つ貰い封を開ける。

 

「ありがとございます、シャルルさん。にしてもこの量のホッカイロどうしたんすか?」

 

「ああこれはマスターが必要だからって渡してくれたんだ」

 

「勇斗さんは医者だものね」

 

「ああなるほど。それでシャルルさん、追い剥ぎされてますけど大丈夫ですか?」

 

 防寒対策ばっちしであったシャルルの装備であらマフラーと手袋は外され、何故か隣にいた園子が着けている。

 

「ぶかぶかだぁ」

 

「そのっち、外して返しなさい。シャルルさんも寒いのよ?」

 

「俺は大丈夫だぞ。こんぐらいの寒さなら短パン半袖で行けるぜ」

 

 英霊であるという事もあり、ある程度の寒さ暑さは何のその。流石にとある勇士と同じように全裸というのは寒いが、この程度なら普段着でなんとかなる。

 

「まま、早く行こうぜ。イネスならこの冷えた体を温めてくれる筈!」

 

「銀はイネスに行きたいだけでしょ?」

 

「うぐっ」

 

「まあでも、中の方が温かいのは事実だしな」

 

「だね〜。炬燵で丸くなりたぁ〜い」

 

「目的地はイネスだろ!?」

 

 家に帰るような言葉に銀がツッコむ。うへへ〜、という緩々な返事であったがいつもの事であるからそのまま談笑しながらイネスへと歩いていく。

 

 

 

 寒さに耐えながら無事イネスに辿り着いた。

 来た目的としてはイネスだからが(いち)、お菓子を買いにが二、皆といたいからが三、誘われたからが四。驚きなことに誰もハロウィンである事を意識していないのだ。

 

「これ見ろよ須美!ハロウィンだぜハロウィン!」

 

「ちょっと銀、そんなに騒いだら他の人に迷惑よ!」

 

 ハロウィンの装飾がされたイネスにテンションぶち上がりな銀を宥めようとする須美だったが、その程度では止まらないのは皆知っている。

 

「おー、綺麗に装飾されてるなあ」

 

「ねー。シャルルはこういうの初めて?」

 

「おう、おう?ん〜·······まあ多分初めてだな」

 

 生前含めて記憶を掘り起こしてみせるがカール大帝の式典が専らでシャルルマーニュとしては騒いでばかりでこういった一日のために飾り付けられた祭事はあまり記憶にない。

 

「平和、って感じでいいな」

 

 かつて平和を求めて戦った者として、こういった光景を見れるのはとても嬉しい。あの戦いは無駄ではなかったのだと思えてくる。

 

「おーい、園子ー!いいのがあったぞー!」

 

「なになに〜?」

 

「ちょ、ちょっと銀、本当にこんなの着るの······?」

 

 走って行った園子の方へシャルルも後ろを着いていくように歩いていく。少女達が入って行った店、というか一時的に併設された場所の名前は『仮装お試しコーナー』。それを見てシャルルはなるほどと納得した。

 

 少しすると着付けが終わったのか三人が試着室から出てきた。

 

「これ大丈夫?しっかり隠れてるわよね?」

 

「大丈夫だって変な所はないと思うぞ」

 

「かわいいわっしーが隠れてるよ?」

 

 須美は雪女、銀は執事、園子は狐と可愛らしい衣装を身に纏っている。しかし、子供用の衣装なのか発育が良い須美はサイズオーバーのようだ。ちょっと際どい。

 

「あっ、シャルルさん。どうですか、この衣装?」

 

「どうどう?」

 

「うぅ·······」

 

「ばっちし似合ってるぜ!」

 

 ちょっと肌面積多いとかそれ以外なかったのかとか全てを飲み込み、純粋な賞賛の声をかける。楽しんでるなら無粋な配慮だろう。

 

「〜〜〜っ!!」

 

「あちょ、須美!写真を·······ま、いっか」

 

 勢いよく試着室に駆け込み、全て遮断するためかカーテンをすぐさま閉める。無理強いしすぎたかと反省し、銀は写真を諦めた。

 

 

 

 その後一時間程ハロウィン限定のお菓子を食べたり買ったりして満喫した面々はイネスから出て、別れ道である岐路まで並んで帰っていた。

 

「やっぱ寒いな〜」

 

「まだまだホッカイロあるぞ」

 

「これ以上は火傷しちゃいますって」

 

「湯たんぽ、遠慮せず使っていいのよ?」

 

「使い方わかんないから!」

 

「マフラー、一緒に使う?」

 

「いや、それは流石に恥ずいってか元はシャルルさんのだろ!?」

 

 怒涛の三連ボケに呼吸を乱しながらツッコむ銀。天晴なツッコミであった。

 そんなツッコミを祝してか鈴が鳴った。それに続きスマホがけたたましい警報音が鳴り始めた。それに伴い周りの物全ての動きが止まった。

 樹海化の合図だ。

 

「新しい勇者システムのお披露目だな!」

 

「晴れ舞台、カッコよく飾ろうぜ!」

 

「そうね。でも、油断は禁物よ?前大丈夫だったからって今回もそうとは限らないわ」

 

「そんな心配なくても大丈夫だって。守ってくれる鈴鹿御前がいるし」

 

 死にそうになった記憶が失くなったのか、それとも聖光で上書きされたのか調子に乗りまくりな銀。これでは不測の事態で崩されるだろう。

 そう感じてか園子が銀の手を握る。

 

「ミノさん、みんなで戦お?」

 

「園子まで―――」

 

「銀。ただ闇雲に行って、敵を刈り、制圧しまくって勝ちゃいい、なんてのはなしだからな」

 

「シャルルさんも········はい、怪我しないようガンバります!」

 

 いつも口出しが少ない園子とシャルルからのダブルパンチが堪えたのかヤケクソになりながらも命大事にを選択した。

 有言実行な彼女のことだ、破ることはないだろう。

 

 世界が樹海に呑み込まれる。

 

 それと同時に勇者システムを起動。少女達を花弁が覆う。

 アップデートによる変化は少女達が持つ武器、そして白みが増した装束。目には見えないが幾千の戦場を駆け抜けたシャルルだからこそ溢れ出る力の混流を感じ取った。

 

「俺と同じ事試したのか。正気を疑いたいが、まあ戦力増強するならそうするしかないよなあ」

 

 見えも聞こえもしない距離であろう場所に胡座をかき、新たな勇者システムの仕様について酷評する。どうやら最低評価のようだ。

 

 キレ気味の傍観者は置いておき、新しくなった武器と服装にはしゃいでいる勇者達へ。

 

「大分スリムになったなあ。アタシ的にはアレも良かったけど········うん、カッコいい!」

 

 銀の言う通り細身になった二振りで一対の双斧、この場合双剣と言うべきだろうか。月牙十字衝しそうなフォルムだ。

 

「これが私の、新しい·······」

 

「須美は武器ごと変わったのか」

 

「でも、変わらず遠距離武器なんだな」

 

「わっしーはわっしーだね」

 

 一番変化が大きいのは須美であり、なんと武器種ごとの変更となった。

 弓からスナイパーライフルに。古代から現代へのランクアップだ。しかし、それで威力が上がるかは別問題。

 

 須美とは対照的に園子は変化が乏しく、ほんんど変わっていない。槍の矛先の装飾がちょっと変わったぐらいだ。

 だが、そもそも園子の武器は変幻自在。奇想天外な考えをポンポン出す園子に合った武器であろう。

 

「確認も済んだことだし、始めっか」

 

 和気藹々もここまでにして大橋方面に視線を向ける。そこには獅子座と牡牛座と称されるバーテックスが浮かんでいる。

 

「獅子座と牡牛座ってのわかるんだけど、この魚座って何処にいるんだ?」

 

「魚?魚っぽいのは何処にも見えないぞ?」

 

「でも、端末にはしっかりと映ってるわ。それにこちらへ向かって来ているのよ。見えないなんて·······」

 

「故障かな?」

 

 姿が見える獅子座と牡牛座はいい。だが、姿も見えずこちらに向かって来ている魚座がいるのは非常に不味い。しかし、どれだけ目視しようとするも何処にもいない。

 

「!? 私達を通り過ぎたわ!」

 

「!――マスター狙いかっ!?」

 

 魚座の狙いはシャルルのマスター。そう確信すると共に全速力で走り出す。だが、タッチの差で届かない。このままでは目の前でマスターが致命傷を受ける姿を見ることになるだろう。ただしそれはただのマスターならの話。

 

 胡座をかいていた偽名者が立ち上がる。以前見えない魚座を目で追いながら逃げもせず、ただ立っている。

 

「余程俺を殺したいと見た」

 

 右足を上げ、魚座到着と同時に―――地面を踏み抜いた。

 轟音と共に舞い上がる木片と魚座の断片達。光のように天へ昇っていくのを見ると先の一撃で魚座は消滅したようだ。

 

「次は虚数空間に潜って来い」

 

 彼が踏み抜いた場所はバーテックスからの攻撃ではないため、少しすると神樹の根が育って元通りとなった。もし、これが治らなかったのなら現世へのフィードバッグは想像できないものとなっただろう。

 

「マスター大丈夫だったか!?」

 

 マスター最優先で戻ってきたシャルルだったが、既に魚座はマスターの一撃で消し飛んだ。しかし、シャルルは巻き上がった物とけたたましい音しか知らない。どちらがしたのかまでは知らないのだ。焦るのも頷ける。

 

「おう。魚座はこっちで始末しといたから前線に戻っていいぞ。てか、一々確認しないでいいから」

 

「·········わかった。ただし、絶対死ぬなよマスター!」

 

 少しの葛藤と不安を呑み込み、光のようにその場を後にした。その姿を見て、偽名者も次にいるべき場所へと移動を開始する。

 

「誰に言ってやがる」

 

 心底気持ち悪いと言いたげな顔だそんな言葉を残し、彼は姿を消した。

 

 

 

「よっと」

 

「あ、シャルルさん!」

 

「そっちは大丈夫でしたか?」

 

「おう。心配無用だったみたいだ」

 

 一分程で勇者達と合流したシャルル。どうやら、勇者達は勇者達で牡牛座と接敵し、勝利を納めたようだ。

 花は今か今かと咲き誇る機会を伺っている。

 

「それじゃあ、みんなで行こっか」

 

「だなっ!」

 

「了解だ!」

 

「攻撃は私が対処するわ。止まらず進んで」

 

 園子、銀、シャルルは一斉に壁の方へと走り出す。そして、壁に飛び乗り壁上を走って海上にいる獅子座に接近していく。

 しかし、獅子座もただでは近寄らせてはくれない。妨害として十二個の火炎球を三人へと放つを

 

「十二勇士よ、撃ち落とせ!」

 

 擬似勇士が残さず切り落とし難を逃れる。

 獅子座は難無く防がれた自身の技を見てか、次の一手に取り掛かる。

 獅子座の頂点に炎が集まっていき、大きな火球を成していく。数で駄目なら大きさで挑んでくるとは単純だが、効果的だ。

 

「俺の一直線上に下がってくれ」

 

「頼んますっ!」

 

「がんばってね、シャルル」

 

 シャルルから30m離れた場所まで下がった銀と園子をちらりと見て、すぐまた火球へと視線を戻す。

 深呼吸を。

 

「この御佩刀こそ天下無双の聖剣

 降臨するたび世を輝かせる者なり!

 この輝きで灼き尽くすッ!!」

 

 付随するジュワユーズの数は十二本、そしてシャルルが持つ物を合わせ十三本。それら全てを砲門として放たれるシャルルマーニュが宝具―――

 それに相対するは獅子座の必殺の一撃。どちらが勝るかなど一目瞭然であろう。

 

王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!!」

 

 衝突したほんの一瞬こそ拮抗したものの、一秒もせず火球は圧力に耐えきれず形を維持出来ず弾け飛んだ。

 かの宝具は目的を達成にも関わらず空を駆け、あまつさえ獅子座を穿った。けれど、完全に打倒することは出来ず着弾地点に焦げ跡を残すのみ。

 

「行くぞ園子!!」

 

「うんっ!」

 

 火球が失くなった事を確認するやシャルルの後ろから飛び出し、勇者システムを握りしめながら壁から飛び降りる。

 

「「満開―――ッ!!!」」

 

 蓮と牡丹が花開く。

 今も尚輝いているジュワユーズの真価と同等の光が満ちる。その中心にいるのは方舟を操縦する園子、巨大なロボットアームを携えた銀だった。

 服装、そして武具の装飾からは神々しさが滲み出ている。最早、人の域に踏みとどまろうともしていない。

 

「おお······っ!

 カッコ良くて、綺麗で、デカくて·······めちゃんこカッコイイな!!」

 

 一瞬神そのものかと霊基が反応したものの彼女達は神ではないと決定を下す。やはり、身分相応ではない力だ。

 そう心の底で考えながら彼女達に賞賛を投げかける。

 

「えへへ〜♪」

 

「じゃっ、カマして来ます!」

 

 空を我が物顔で飛行する二つの神輿。大きさは二つでようやく獅子座と同等程しかないが、それに見合った武器を携えている事を考えれば充分と言って差し支えないだろう。

 流れ星を眺めながらため息を零す。

 

「期待通りか。これで残る二つと······まあ、神の領域に全身浸かってこれなら実物も期待通りで終わるだろうな」

 

 重い腰を上げ、光の方へと歩み始める。これからどうなるかを知った上で心底つまらなそうにして最前線へと降り立つ。

 

 程なくして光は消え、二つの人影が海へと落下を落下する。大部分を損傷しているとは言え獅子座は未だ健在。態勢を立て直す頃には元通りだろう。

 

「まずっ······!?」

 

 海真っ逆さまな銀と園子を見てすぐさま壁上から飛び出す。当然彼も飛ぶ手段などないが、陸を作ることは可能だ。

 

「我らが栄光よ、今此処に―――ッ!!」

 

「うおっ!?」

「わっ!」

 

 何処からともなく移動都市『我が儚き栄光(シャルル・パトリキウス)』が顕現し、落下途中の二人を掻っ攫い沿岸へと運んでいく。

 が、辿り着くよりも速く熱気が迫る。

 

「っ·······!」

 

 もう最高速度に達してしまっている。これ以上はない。宝具の真名解放で迎撃しようにも急拵えの土台は確実に壊れてしまう。そうなっては三人諸共海へドボンだ。例え、氷で足場を作るったとしても落下死するだろう。

 

 そんな光景を見た須美は焦燥感に駆られていたる。

 

「このままじゃ皆が·······っ!」

 

「ここが使い時だろ、満開の」

 

「はっ。そうね·······ここで神風を吹かせないと」

 

 偽名者の言葉で思い出したのか、長銃を花弁に戻して懐から取り出した日の丸が描かれた鉢巻を巻く。

 既に花開く準備は完了している。

 

「満開っ!!」

 

 神輿、彼女なら戦艦と言うそれを操縦し飛翔する。その際の衝撃で彼の髪が靡き視界を遮るが瞳は全てを映していた。

 全速力に達した戦艦は火球が移動都市に着弾地点するよりも速く立ち塞がる。

 

「須美!?」

 

「わっしー······?」

 

「須――、あれ·····」

 

 焦点が合わない右眼に、左手を着いて立とうとするも意思に反して動かない左手に困惑しながらも赤と青で点滅する後ろへと振り返る。

 

 主砲へ収束させたエネルギー弾で火球を散らそうと試みるが押されているのは歴然。後数秒もあれば火球は須美の砲撃を貫くだろう。

 しかし、当初の目的であったシャルル達の救出は成功し、無事沿岸へと辿り着いた。荒い停車で空中に放り出されてはいるが精霊によって無傷だ。それとほぼ同時に火球が青い球体を貫いた。

 

「っ、はぁ、あぁぁぁぁ!!!!」

 

 最後の抵抗に衝撃に耐えるよう踏ん張っていた戦艦を急加速させ、火球への突進を仕掛ける。無論、超高温な物体への衝突で須美は燃え尽きる。だが、ここを通せば後ろの三人が燃える。例え燃え尽きたとしても絶対に止めなければいけない。

 そんな必死の突進を仕掛ける須美であったが、黒いナニかによって咎められた。

 

「敗者復活はねぇんだよ」

 

 何処からともなく伸びる真っ黒な手に首根っこを掴まれた須美は抵抗する暇もなく三人の側へと手繰り寄せられる。

 

「え。えっ?」

 

 ?で埋め尽くされる須美をよそに操縦者をなくした戦艦は火球に包まれ跡形もなく消えてしまった。これで勢いをなくすかと思えば、火球は更に勢いを増して勇者達へと迫る。

 すぐさまシャルルが立ち上がり、ジュワユーズの矛先を火球へと向ける。しかし、それはマスターの手によって遮られてしまった。

 

「無駄だ、シャルル」

 

「けどマスター!このままじゃ全員死んじまうぞ!!」

 

「アレは獅子座、生命そのものだ。食えばデカくなるし、勢いもつく。焼け石に水ってヤツだ」

 

 奥の方に目を向けると先程までいたボロボロの獅子座がいなくなっている。彼が言う通り火球に全エネルギーを注ぎ込んだようだ。

 

「っ·······!!

 諦めきれっか·······アンタは俺に勝ってくれと言った。なら、俺は―――ッ!!」

 

 諦めを知らない英雄はジュワユーズを掲げる。担い手の意志に呼応するように輝きを放ち始める。擬似勇士達も出現し、輝きは臨界点に至る。

 

王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!!!」

 

 至高の十三連撃が放たれた。

 その輝きは先程とものと比べると雲泥の差であり、熱量にいたっては対軍宝具のそれではない。一国を滅ぼすのには十分な熱量だろう。

 たかだか神樹を燃やす程度の火球と競い合うばどちらが勝つかなど明白だった。

 

 かの宝具は火球を打ち破った。

 あれ程までに煮えたぎっていた熱は霧散し、海に散っていく。これにより、獅子座は消滅した。

 

「ぐっ―――、はあ·····はあ·····っ!」

 

「確かに俺はお前に勝てと言った。だが、それは最終的にという意味でだ。途中で負けようが最後の戦いに至ればそれでいい」

 

 全力全開により、崩れ落ちるよるうに両手を地面に着き、息を整えようとしているシャルルに語りかける。その目は未だ正面を見据えている。

 

「俺にとって勇者がどれだけ体を散華して機能をなくしていっても構わない。だが、それでは最後の戦いにおける勝率が0%を下回る。元よりない勝率が下がる」

 

「散華、って·······なにを言って·····」

 

「··········」

 

 散華という単語を聞いて、自身の機能不全を悪い方向に考え始めてしまう勇者達に一切目もくれず喋り続ける。

 

「だから、ここまで」

 

「ここまで········?何が、―――何がここまでなんですか!?」

 

「お前達の戦いはここまでだ。

 ふぅ·········。物語に介入する趣味はないが、流石にこれは俺が出ないといけないな」

 

 彼が見据える先―――壁が扉のように開き、ドロドロとした溶岩のような場所から這い出たる黄道十二星座に因まれた十二の頂点(バーテックス)。中央には先程倒したばかりの獅子座が君臨している。

 

「なっなんで。バーテックスは一体ずつしかいない筈よ!?」

 

「誰がそう言った?誰もそんなこと言っていない。お前達が勝手にゴール地点を設定しただけの話だろ?」

 

「それじゃあ、私達は·······」

「アタシ達は死ぬまで戦い続けるってことですか!?誰かが········死んでも!!」

 

「今のままなら、そうだろうな」

 

 否定して欲しかった答えは無情にも肯定の二言。更に満開での散華による機能不全も重なり、絶望真っ逆さま。

 この真実に二人は黙ることしかできなかった。

 

「それじゃあ、貴方が言う最後の戦いってなに?」

 

「文字通りだ。だからと言って安心すんなよ。俺が最後まで辿り着くように補償しているのはシャルルのみ。お前らは途中でくたばるかもしれないし、終わった後も一生ベットの上かもしれない」

 

「っ、マスター、そんな言い方、ねえだろ·······っ!」

 

 蹲った体勢から目線だけ偽名者に向け、睨むようにして異議する。それすらも気に留めず、一歩前に出る。

 

「まあ、今回だけは保証してやる。お披露目は多い方がいい」

 

「なにを言って········―――っ!?」

 

 感じようとせずともわかる。力の流れが、そこに漂うだけだった物達が行き先を変え、彼に集まっていく。

 

「世界に末法満ち、人おらずけども―――ただ、空はそこにある」

 

 淡白にそう言い切ると、世界が切り替わる。

 満点の夜空も神樹の根も消え失せ、何処か知らない街の光景が広がっていく。

 普通の街の光景、ではないことは一瞬で解った。まず初めに人の声がない。喋り声もTVなどの機械からの声もない。二つ目に人の姿が見えない。何処を見渡しても人っ子一人いない。

 

「これは、固有結界なのか·········いや、だけどこれは――――――」

 

 唯一魔術的知識を持っているシャルルが固有結界に似た何かを感じ取るが、明らか何か可笑しい。その何かが言えないが、決して固有結界などではないと断言できる。

 

「って、前前前前!!!」

 

「!?いつの間にこんな近くに······!」

 

「っ········!」

 

 銀が右手の人差し指で指した先には十二達のバーテックス達。先程までは壁付近にいたと言うのに今では目の前。

 即座に武器を持ち構える勇者三人。遅れてシャルルがやっとの思いで立ち上がり、ジュワユーズを構える。

 

 一触即発、かと思えばバーテックス達は一斉に散り散りとなって背を向けて逃げていった。

 

「えっ?」

「逃げた·······?」

 

 信じられない光景に呆然としながら構えていた武器を降ろしてしまった銀と須美。それに連れて園子も降ろすが、シャルルは未だ構えたまま主君の背を見つめていた。

 

「人々は古来から他者の内側に潜むものに怯え、自身の奥底に眠る獣性を忌避した。

 どす黒く、毒々しいソレは一度流れてしまえば誰にも止めることはできない」

 

 右手の掌から黒い何かが流れ出ていく。正確には手の甲によって日光を遮られたことで出来た掌にある影から出ている。

 

「自分ではない自分を【影】と、俺は呼称した。

 正体不明(アンノウン)。則ち、これは神秘であり原初の形に戻る道標だ。だから、()()()()()()

 そしたらまあ、ただの無形の現象だった。光が当たらない場所が暗くなる、それだけ」

 

 心底ガッカリしたような口調で独白を終わらせた彼はため息をつき、顛末を語り始める。

 その間にもバーテックス達の姿が米粒のようになっていく。

 

「そして解った。影ってのは形が定まっていないものだと。しかも世界中にあるんだぜ?

 炎出したり、水出したり、雷出すために雲出すってのは手間だよな。それに元の物体から離れちまう。手加減もし辛い。その点、影は元の場所から離れない。手加減のしようがいくらでもある。

 殺したかったら殺す。殺したくなかったら殺す。それができる」

 

 流れ出ていた黒い何か、―――いや。影そのものを流すことを止め、握りしめ拳を作る。すると、遥か彼方にいる米粒ぐらいになっているバーテックス達の姿が揺らいだ。

 次の瞬間、米粒の一部がこちらへ飛来した。獅子座の一部だったそれは彼の目の前ギリギリで止まり、土下座でもしているかのように頭を差し出している。

 

「こんなふうにな。逃げることも降参することも赦されない。シンプルで強い、少し工夫すれば更に強い。我ながらいい術作ったぜ」

 

 飛来したそれに足を掛け、軽々しく踏み砕いた。

 

 

 

 

 

 

 見慣れない街からいつも見る大橋前の社へと切り替わる。どうやら、絶望的な戦力差を勇者でも英雄でもないたった一人の男がひっくり返したようだ。

 

「じゃ、また再来年」

 

「待ってくれ、マスター!ちゃんと説明してくれよ!」

 

「ん?ちゃんと説明した筈だぞ?」

 

 あまりにも説明不足な状態だと言うのに、あろうことかこの場を去ろうとする偽装者をシャルルが引き留める。しかし、彼にとっては十分な説明はされているようだ。到底そうとは思えないが。

 たった一人に視線が集中する。

 

「勇斗さん、これだけは答えて。散華は治るの?」

 

「治る可能性はある」

 

 何も視えていない右眼と地を踏み締めることが叶わない両足、そしてずっと脱力したように垂れる左腕。

 満開による代償であり、当然治る可能性はないと確信していたが、彼が言うにはあるらしい。それは代償と言えるのだろうか。

 

「散華とは満開の後遺症、その認識は正しい。だが、何故そのような後遺症が出るのか、原因を考えずに決めつけるのはよくない。

 そもそも満開とは神域に至るためのものだ。

 冬場とかにあるだろ、温かい湯から出たくないってのが。そんで無理やり出たら体の機能置いてけぼりにしちまったりな」

 

 あるよね、冬場に温かい所から離れようとして体の機能忘れちゃうこと。いや、あるわけないだろ。うっかりでは済まされない。

 

「ふざけないでくださいッ!!」

 

「真剣だぞ、俺は」

 

 あまりのふざけ様に沸点に達した須美が事態が事態と言うのにのんびりとしている彼へ怒号を飛ばす。その返答ですら神経を逆撫でしてくる。もはやわざとかと疑うレベルだ。

 

「人の体をなんだと思っているんですか!?もし、この後遺症が治らなかったら―――」

「五体満足で心臓ブチ抜かれて死ぬのが本望か?」

「そんな話誰が―――」

「お前達は負け戦に挑んでいる。満開も勇者システムもなければ即刻打ち死にする戦いだ。それが、失明、右腕麻痺、下半身麻痺に済んでいる。

 今回に関してはより酷い結界になる所を、仕方なく俺が出てやった。

 はあ。一から十まで言わんとわかんねえか?」

 

「っ··········。

 ありがとうございます·······」

 

 物言いたげな顔ではあるが素直に感謝できる所に育ちの良さを感じる。しかし、嫌味な言い方ではあるが彼の言い分も正しい。

 感謝されるべきことを彼はした。だが、何故そのような力を持っていて今まで見ているだけだったのか。それが勇者である少女達にとって不思議でたまらない。

 

「力を持っていようが戦う、なんて言う義務はない。あったとして誰が罰する?作者公認最強の俺を」

 

「作者公認、ってどういう意味?まるでこの世界が物語みたいな言い方········貴方は何を識っているの?」

 

「全てだ。全てを識っている」

 

「全て·········なら、アタシ達の体を治せるんじゃないんですか!?」

 

「識ってるからって、俺に治す道理があると思うか?」

 

「本当は治せないんだよね?」

 

「忘れたか?俺にとってお前達はどうなっていても構わない。いくら煽ろうが今この場で治すことは絶対にない」

 

「―――なら、俺は戦わない」

 

 どうにかこうにかしようと部外者を動かそうとするがどれも動かすには足りなかった。そも、彼が治そうと考えているのなら有無を言わせず治していただろう。この長ったらしい行が無駄だからだ。

 だが、そこに物語の主題が入ればどうか。それも今後の進行に関わるような事を提言してきたら。

 

「2年後、態勢を整えたバーテックスが侵攻を再開する。その時には勇者が4人加わっている。だが、それでも楽勝とはいかない。

 何度満開を使うんだろうな。

 シャルルマーニュ、カッコ良さを追求し続けるお前が見過ごせるか?」

 

「············」

 

「お前抜きで最後の戦いに挑む時、果たして何人が自分の足で地を踏み締め、自分の手で武器を持って戦うんだろうな」

 

 答えは変わらない。

 言い負かされて行動を変えるのなら、それは全てを知らない者だけだ。全てを知っている者は言い負かされるか否かを既に識っている。だから、最初からその方針で行くのだ。決して方向転換はない。

 

「マスター。もし、俺が最後の戦いに勝てば皆を治してくれるんだよな?」

 

「ああ。勝てば死んでいようが蘇生してやる。そこは保証する」

 

「········わかった。俺が最後の戦いで勝利を納める。―――それでいいか?」

 

「ッ······、はい······」

 

 景気悪い顔をしないように努め、いつも通りを装いながら少女達に振り向く。しかし、傍から見れば遣る瀬無さと無力さに打ちのめされた痛々しい面持ちだ。

 こんな顔をされて責めることができる者などここにはいない。

 

「よし、ならこの話は終わりだな」

 

 そう切り出したのは非難轟々を受けていた本人だった。

 切り替えは大事。確かにそうだが、それとこれとは話が別すぎる。蟠りも仲違いも何一つ解決していない現状で話し合いを終わらせるのはあまりにも愚策だ。

 人の心がわからないのかと疑う程に見ようとしていない。これがアイツの親友とは到底思えない。

 

「不慣れな生活になると思うが、そこは慣れていくしかない。幻覚痛*1がないだけマシとは思うが、須美は助けがいる状態だ。だがまあそのための大赦だ。こき使えよ。

 そんじゃっ」

 

 矢継ぎ早にそう言い残し姿を消した。超スピードとか瞬間移動とかそんなチャチなもんじゃねえ。世界からいなくなったかのようにいなくなったのだ。恐ろしさの片鱗を味わったぜ。

 

「········シャルルさんと勇斗さんってどんな関係なんです?」

 

「主従関係、って感じでもないよね?」

 

 以前から感じていた違和感。何処を見ているかすらわからないあの瞳。それが今回如実に現れた。

 ただの医者で、非日常に精通した人物。それだけではなかった。もっと深い位置に彼はいた。そしてそれがもう一人、ではなかった。もう一人は何も知らなかったのだ。

 

「主従関係ではあったさ。俺としては友達だと思ってたんだが、ん〜·········所感だがマスターは何か俺に期待してるんだと思う」

 

「期待?」

 

「おう」

 

 返答しながら須美に近づいていき、お姫様抱っこの要領で抱え上げ近くのベンチに降ろす。ずっと地べたにいると体温が奪われる可能性がある。あまり体に良くない。

 

「マスターは本当に全てを識ってる」

 

「その、全て、ってのがあんまし実感ないと言うか·········全てを知ってる、ってどんな感じなんスかね?」

 

「人類誕生から人類滅亡まで、いや、もしかしたらもっと前から識ってるかもしれねえ。そして、それに付随してあらゆる答えを持ってるんだと思う」

 

「そんな事ありえるんですか?」

 

「まず有り得ないだろうな。だが、どういう訳かそうなっちまってる」

 

 根源に触れたからそうなったのか、人体実験でそうなったのかは謎である。しかし、後天的に天才となった園子と競いたくなっていた所を見ると彼は先天的に天才となった者*2なのだろう。

 

「もしかして、勇斗さんの目的って識らないことを識ること?」

 

「と言いますと?」

 

「大まかな流れは識ってるけど、細かな所はわからないんじゃないかな?それだったら、基本静観なのも納得········あれ?それだったら―――」

 

「いや、多分だがマスターは誇張なしに全てを識ってる。俺達が今何を話して、何を考え、どんな行動に移すのかをな」

 

 大まかに識っている、では可笑しな言動二つ三つあるためその線はない。やはり比喩なしに全てを識っているが有力のようだ。

 

「人の脳でそんな事が·······」

 

「確かに脳パンクしそう」

 

 果たして人間の脳の構造的に295EB(エクサバイト)*3*4がはいるのだろうか。保存するにしても出力が叶うかすら怪しい。

 

 そんなこんなで|10世紀後のコンピューターについて語っていると大赦が所有している車が到着し、少女達は病院へと搬送されていった。

 

 残ったシャルル、そんな彼に引き留められた勇者三人の監督者兼教師である安芸先生。もちろん話があってのことだ。

 

「アンタ達は知っていたのか?」

 

「·········ええ」

 

「じゃあなんであの子達は何も知らないんだ?」

 

「散華について知っていればきっと躊躇したでしょう。それに必ず使うとも限らなかった」

 

「―――本気で、そんなこと言ってんのか·······?」

 

 仮面の下にどんな表情浮かべて口を開いているのかは知り得ない。だからこそ、その言葉は真意としけ受け取ることができない。

 

「···········」

 

 次いで言葉はなかった。

 返す言葉がないのか、それとも少し力が籠もった語意に怖気付いたのか。はたまた自身の言葉に疑問を持ったのか。

 

「あの子らは俺みたいに自分の意志で軍を指揮って国のために戦った騎士でもない。だと言うのに、俺よりドデカい物背負ってる、背負っちまってる。

 少なくとも、アンタ達より覚悟できてると思うぜ」

 

 そう言い残し、シャルルの姿がその場から消えた。

 生前の彼ならば間違いなく剣を抜いていた所であったが現代知識をインプットされていたためか斬首はなし。混ざっている霊基であったのなら抜刀までいったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
切断されて失った足や腕があった場所に激痛が奔る症状。鎮静剤を打たなければいけないほどの痛みの場合もある。

*2
それを明かすのはまだ早い。

*3
南カリフォルニア大学の研究チームによる全人類が全世界中に保持している情報の容量

*4
EB(エクサバイト) 10億GBに相当する

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