気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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勇敢なる少女のために王+αが来た【200話記念・後編】

 

 

 

 

「イスパニアの和睦を受け入れるべきです」

 

 甲冑を着込んだ老兵が進言する。

 夢を見ている。

 そう、これは夢だ。英霊(サーヴァント)との魔力パスから逆流してきた生前の記録。その中で最も悔やむべき記憶であり失態。

 

「陛下、私はそうは思いません。

 以前の事を鑑みればイスパニアは我らの背を狙う悪辣な輩です。こちらの利ばかりとは限りません」

 

 老兵の進言に異議申し立てるのは騎士という言葉そのもののような好青年。その言葉には確かな忠義があり、確証があった。

 

「過去の事など持ち出すことは必要か?こちら側にしか利がないのだ。受け入れずいれば損をするのはこちら側もなのだぞ」

 

 だがしかし、老兵の言い分も正しい。利しかないのであれば受け入れてみるというのもまた一考。しかし、もしもの場合の損失を考えていない。

 

 場面はロランの歌の題材となったロンスヴォーの血戦。この場合題材の方ではなく歌となった方、いいや、物語と言えば分かりやすいだろうか。

 議題は敵であるイスパニアの和睦を受け入れ、相手側からの人質と物資を受け取り撤退するか。その場合相手国はキリスト教に改宗するとのこと。

 

「·······イスパニアの申し出は受け入れる事とする」

 

 言い争いが続く中、中心人物であった彼らが主君シャルルマーニュが平定の言葉を口にする。

 この時、舞台設定としてシャルルマーニュとガヌロンは長い年月を共にした同士。ローランの言葉に耳を傾けながらも僅かながら無意識にガヌロンの方へ偏向していた。

 

「ですが陛下!」

 

「勇者ローラン。私も我らが同胞を二人斬り捨てられたことを忘れなどしていない。しかし、その者らが血で償いさせて欲しいと願っているとも限らない。もしかしたら、血を流さずして終わる戦いこそを望んでいるかもしれん」

 

「········陛下のご意思のままに」

 

 史実、物語問わず本来のカール大帝(シャルルマーニュ)は平和を愛し、祖国を愛し、騎士道を愛した。故にこそ振るった刃であり、走り抜けたのだ。そこに一寸の狂いもない。

 

「では、使者であるが立候補者はいるか?」

 

「ならば我が養父ガヌロンを推挙致します」

 

「ふむ。いけるかガヌロン?」

 

「なんなりと」

 

 そう言い頭を下げるガヌロンであったが、視線だけはローランを射殺さんとばかりに睨んでいた。

 そんなこんなで『一生涯ローランを恨むであろう』と捨て台詞を吐いたガヌロンはイスパニアの使者として出立した。

 

 この記憶にはなかったが、この際ガヌロンは敵であるイスパニアに撤退するカール軍の背後から攻める事を進言しており、寝返っていた。その後何事もなかったかのように当初の予定通り人質と物資を受け取り自軍へと戻っていた。

 

「陛下、ガヌロン卿がイスパニアの人質二名と物資を携え帰還致しました」

 

「良し。であれば全軍撤退である。此度の殿は我が精鋭十二勇士に任せる。指揮はローランに一任する」

 

「承りました」

 

 将であるシャルルマーニュ、イスパニアからの人質、そしてローランに託した二万兵以外の者達を第一陣とし、十二勇士と二万の兵を殿としフランク国へと出立した。

 

 事態が急変したのはその少し後であった。

 

 一度目の角笛が鳴り響く。

 

「む·········」

 

「陛下、増援要請のようです。如何なさいますか?」

 

「·········いいや、捨て置け。ローランの戯れであろう」

 

 戯れ、などではない。現在進行系で二万の兵は数を減らしていき、十二勇士は劣勢に追い込まれている。しかし、それを認めるということはガヌロンが裏切ったということ。そうとは考え至らなかったのか、はたまた目を逸らしたのか。

 

 進行を再開して少し後、二度目の角笛が鳴り響いた。

 

「············」

 

「陛下、如何なさいますか?」

 

「っ······、引き返し援軍へ向かうぞ!」

 

 唇を噛み締め、声高らかに宣言する。

 ガヌロンが裏切り、イスパニアの兵を自分達へ向けたという事実が真であるということを知らしめるように。

 馬を走らせ、戦火が上がる方へと駆ける。心配と怒りでぐちゃぐちゃになってしまった頭を冷静に―――

 

「――――――――――――」

 

 三度目の角笛が鳴り終わると共に辿り着いた先には未だ戦いが続く戦場。いいや、最早それは一方的な殺戮であった。

 五倍の戦力差は幾分か減らせてはいるものの数的不利は変わらず、要であった十二勇士は地に伏した。名高い聖騎士であったローランは耳から脳髄を垂らしながら絶命している。

 

「ッ゛―――、ガヌロン!裏切り者のガヌロンは何処だッッ!!」

 

 怒号が轟かせながら、戦陣へと馬に跨ったまま駆け出していく。その手には首切り包丁と揶揄された色変わりの聖剣ジュワユーズが握られている。

 

「退け、邪魔だ!」

 

 進行上にいる敵の兵士を馬上から斬り捨てて征く。そこに騎士道などなく、ただ裏切った者への怒りしかない。

 ここで少し弁明するのであれば、このシャルルマーニュは生前ということもあり現代知識がないため、このように剣を振るっている。英霊としてのシャルルマーニュであればまずこのような事はないだろう。

 

「あれこそがシャルルマーニュだ、首を取れ!」

 

「ガヌロン―――ッ!!」

 

 裏切り者の指揮により一斉に放たれた矢。しかし、その程度で止まる筈はなく、更に加速することで山なりに放たれた矢は避け、その他はジュワユーズで叩き落とした。

 そのまま弓兵をジュワユーズでたたっ斬り、ガヌロンへと迫る。

 

「なに·······!?」

 

 面喰らうガヌロンであったが、すぐさま愛剣ミョルグレスを抜き抵抗を試みるが時すでに遅し。

 

「ハッ!!」

 

 構えも終わっていないガヌロンの剣、ジュワユーズの一撃によって手元から弾かれてしまった。これによりガヌロンは真っ裸同然だ。

 

「何故だガヌロン、何故裏切ったのだ!」

 

「何故でしょうな?」

 

「ガヌロン、貴様·······っ!

 ―――汝が罪、天命の下裁こうぞ」

 

 この後、ガヌロンは裁判にかかり、謀反の罪とされその首を断たれた。

 神の下裁く裁定者であるからこその決断ではあったものの、耐え難い怒りすらも払い除けるそれは最早人がなせるものではなかった。やはり、彼もまた王なのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん、ん〜っ!」

 

 暖かな春風が頬に当たる感覚で目を覚ます。頭に何枚か乗ってしまった桜の花弁を払うためにベンチから立ち上がり、伸びをする。同じ体勢で眠っていたためか体からパキパキと音が鳴る。

 

「あっ、勇斗さんおはようございます!」

 

「おう、おはよう」

 

 小走りで向かってきた友奈に挨拶を返す。

 友奈が次言う言葉が友奈の口よりも早く俺の脳内に流れる。その次の言葉もその次の次の言葉すらも流れる。明らか情報過多だ。

 

「今からみんなでお花見するんです!勇斗さんもどうですか?」

 

「あー、俺はこれから予定があるんだよなぁ」

 

「そうなんですか·······」

 

 予定があるのは本当だが、断った理由はそれだけではない。まだ神樹館組は俺と友奈が顔見知りであるというのは知らない。それはある時まで隠していたい。だからこそ、ここで俺は誘いを蹴るしかない。絆云々はシャルルマーニュだよりだが何とかなるだろう。

 

「ありがとな、誘ってくれて。またの機会があったら言ってくれ、何とか予定空けるから」

 

「! はいっ!」

 

 手を元気よく振っている友奈に手を振りながらその場を後にする。

 

 バーテックス侵攻が鳴りを潜めて二年。一年前に神樹館組が友奈達に合流し、勇者部での活動が始まった。ついでにシャルルは近場に引っ越しさせた。いい仕事したぜ。

 今のシャルルの立ち位置としては近所の気の良いあんちゃん程度。信頼こそされているが仲が良いに収まっている。やはりアイツだからこそ出来た芸当のようだ。

 

 侵攻再開まで後二ヶ月。俺が出る幕までは更に二ヶ月。

 裏作業はないから俺はこれまで通り暇となる。と言うか、シャルルに加えて神樹館組といるとなれば最初サクサク進むだろう。過剰戦力が過ぎるぞ。

 ということで俺は一旦舞台から降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平日の朝8時。人々が登校や通勤で忙しなく移動している時間帯。そんな時間に一国の王であった彼が何をしているかと言うと―――

 

「おはようございます!」

 

「おはよう!安全に気をつけてな!」

 

「うん!」

 

 登校中の見守りをしていた。

 元気一杯に挨拶をしてくれた小学生に元気一杯の挨拶を返すのは我らがシャルルマーニュ。朝だと言うのに律儀に反射チョッキを着て旗を持っている。

 色々とツッコミたい所はあるが、一先ずここは流して続きを見ていこう。

 

 8時30分、小さいが学校の呼び鈴を聞き周りを見渡す。登校中の小学生中学生の姿はあらず、最早ここに立つ意味はなくなった。そのため彼も旗をしまい、自宅へと踵を返した。

 

 しばらく歩いていると自宅兼仕事場である『だがし屋』に着いた。客が少ない平日の朝ということもあり、未だ開店していない駄菓子屋の裏口から帰宅。

 反射チョッキをハンガーにかけ、旗を袋にしまう。そして勇者部から貰い受けた迷子の犬についてのポスターを手にし家を出た。

 

「んー、いないなあ·······」

 

 生前の彼は迷子の犬探し(このようなこと)で街を練り歩くなどと想像できただろうか。冒険に、戦いに明け暮れた彼が剣も持たず、ポスターを持って歩くなんて。

 書いているだけで感慨深い。

 

「あっ、山崎のばっちゃん!」

 

「おや、シャルルじゃないか。また落とし物でも探してるのかい?」

 

「今日は迷子探しだぜ。落とし物の方は勇者部の子たちがさくっと見つけてくれたからな」

 

「そりゃ良かった」

 

 買い物袋を持った商店街の一員である山崎のお婆ちゃんに手をブンブン振って話しかける。

 コミュ力おばけのシャルルに二年与えれば当然その地域に馴染めるだろう。それはもう元々住んでいたかのように。

 

「それで迷子だっけ?家出少年でも出たのかい?」

 

「ああいや、人じゃなくて犬なんだ。ほら、こんな感じの」

 

 そう言い持っていたポスターを見せる。

 

「あらまぁかわいいワンちゃん」

 

 犬種はゴールデンレトリバー、毛並みは茶色、7歳ということもあり大型犬に分類される程の大きさだ。

 飼い主であり依頼主の話によると、子供が散歩に連れて行った際、おつかいのために店に入っていた間にリードを外して逃げたようだ。

 

「どっかで見たとかない?」

 

「ないね。そもゴールデンレトリバーは飼い主によく懐くって聞くよ」

 

「飼い主の方に問題がある可能性もあるのか·······」

 

「そうは言ってないさね。そうだね········まあ、変な事に頭は突っ込まないようにしなさんな。こっちでも聞いとっから」

 

「? おう!」

 

 途中言葉を濁したようだったが協力を仰ぐことは成功した。考えすぎは良くない方向にも転ぶこともある。杞憂に終わるのを願うばかりだ。

 その会話を最後に婆ちゃんと別れ探索を再開する。

 

 

 

 

「見つかんねえな·········しょうがない」

 

 探し始めて早5時間。14時に針が回り始めた頃、探索をこれまでとして打ち切る。

 勇者部のチャットグループに見つからなかったという趣旨のメールを送り、携帯端末を仕舞う。報連相は大事。

 

 次の予定のため家へと急ぐ。

 

 時刻15:00『だがし屋』開店である。

 丁度小学生低学年が下校して遊びに行く時間帯に始めるとはなんと狡いことか。まあ、平日の真っ昼間から駄菓子を必要とする者はいないだろう、多分。

 

「らっしゃい!」

 

 親御さんから貰った3時のおやつ用のお小遣いを握りしめて来店する子供達を笑顔で迎える。最初こそ「第二のシャルル・パトリキウスへようこそ!」と言っていたがあまりウケが良くなかったために原点回帰を果たした。

 

「シャルルー、これ」

 

「はいはいっと、100円な」

 

「はい」

 

「おう、ありがとな」

 

 値段計算と並行して袋へ詰めていき、御駄賃を受け取り対価として袋を渡す。他の売り手となんら変わらない姿である。

 

 ちなみにシャルルがこのだがし屋を開いたのは丁度一年前、この付近に引っ越してきたと同時だ。

 もちろん仕掛人はマスターである奴だ。何もせずは世間体的に悪いだろうとのこと。そのため仕入れ諸々はアチラ持ちとなっている。

 

「ふぅ」

 

 いつも忙しい3時〜5時を乗り越え一息つく。

 書類仕事や戦場での指揮に比べればこの程度屁でもないが落ち着く時間は少しでも欲しい。朝から動きっぱなしということもあり、疲労の色が見える。しかしそこは英雄、疲労が何のそのと変わらぬ顔色、パフォーマンスの維持ができている。こればかりは英雄だからとしか説明できない。

 

 そんな折、入り口の前をワンちゃんが、次いで見知った少女が走っていった。

 思考すら挟まず外に出る。

 

「――――――」

 

 赤い髪が特徴的な讃州中学勇者部と朝探していたゴールデンレトリバーの迷子犬の後ろ姿を見据える。

 見間違いではないことを確認し、―――跳ぶ。

 

「わふっ!」

 

 逃走中かはたまた遊び途中の迷子犬の前に立ち塞がる。それを見て迷子犬は横を通り抜けようとするが、野生の勘によって感じる王の圧に平服してしまっていた。

 

「ダメだろ、大好きな飼い主さん困らせちゃ。それとも嫌いなのか?」

 

 お座りをしているゴールデンレトリバーの前に膝をつき、目線を合わせながら叱る。流石ヨーロッパの父、ダメな事はちゃんと叱れる良き父だな、うんうん。

 

「わふぅ········」

 

 叱られている事がわかっているのか項垂れ、ショボーンとする迷子犬。この可愛さでは叱れないのかシャルルも困った風に頬を人差し指で掻く。

 

「シャルルさーん!」

 

「おっ、友奈」

 

 元気一杯な勇者部2年生結城 友奈が助け舟を出してきた。迷子犬は友奈に任せようそうしようと結論づけ乗船する。

 

「ここからは頼んでいいか?」

 

「はい、わかりました。ここからは不肖結城 友奈にドンッと任せてください!」

 

 依頼人への迷子犬引き渡しを友奈に頼んだシャルルはだがし屋へと戻る。そうしてカウンターに座ったシャルルは思う。

 

(普段の姿は女子中学生。しかしてその正体は人助けをする正義の味方!うん、カッチョいいな!)

 

 腕を組み、うんうんと頷く。若干だが魔力放出が漏れ眩しい。

 この後、だがし屋を6時で閉めたシャルルは見つかった事を知らせるため商店街へと向かうのでした。

 依頼人の人間性or事件性という不穏な前兆こそあったものの杞憂で終わり今日も無事1日が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段となんら変わらない平日の真っ昼間。学生なら授業を受け、社会人なら忙しなく足や手先を動かしていることだろう。しかし、そんな日々は突如として崩れ去る。

 

 一度目の警報が鳴り響いた。

 

「えっ、あれ?」

 

 予想外の出来事に目を点にして鞄の中に入れている携帯を操作する。しかし、どう止めるのかがわからない。いつもならある停止ボタンがない。

 そもそもマナーモードにしていた筈、どうしてだろうか、と疑問が出てくる。

 

「結城さん、携帯はマナーモードに―――」

 

「す、すいません·······」

 

 授業を妨げられた教師は当然怒り、友奈を叱咤しようとするがその言葉の続きは友奈には届かなかった。

 

「「「――――――――――――」」」

 

「?」

 

 教師の声、それどころか教室中が静寂に包まれる。よく見ると数名以外動いてすらいない。まるで時が止まったかのような印象を受ける。

 

「これって··········ドッキリ?」

 

「なら良かったんだけどなー」

 

「わっ!銀ちゃん!」

 

「私もいるわよ、友奈ちゃん」

 

「東郷さんも!」

 

「園子もいるんだぜ〜」

 

「そのちゃん!」

 

「いえ〜い」

 

「いぇーい♪」

 

 自分一人かと思った所に仲間がいてくれるのはとても心強い。不安そうな顔は鳴りを潜め、園子とハイタッチできる程までに明るさを取り戻す。

 そんな友奈に真剣な顔をした東郷 美森が車椅子を進ませ、近づいてきた。

 

「友奈ちゃん、これからどんな事があっても気を動転しないようにね」

 

「········うん、わかった」

 

 どうしてかと無性に聞きたかったが、自然に東郷が一番欲しい答えを返す。ただ自分は覚悟すればいいと高を括ったようだ。

 

 ―――花弁が舞う。

 

 

 

 

 

「え――――――」

 

 次に目を開けた先は教室でも外でもない、そもそも現実の光景ではなかった。とつてもない大きさの根のようなものが幾重にも束ねられた光景だった。あまりにも現実離れした光景に驚きが隠せない。

 

「結局、勇斗さんの言葉は本当だったんだな」

 

「ね〜」

 

「洗いざらい吐いて貰いたいのだけどね」

 

 ここ二年姿を晦ましているとある医者について話すが、良くも悪くも友奈は樹海の光景に面食らい彼の名前は聞こえていなかった。

 

「あっ、いたいた!」

 

「風先輩!」

 

「はあ、はあ······っ!

 お姉ちゃん早すぎるよぉ······」

 

「樹ちゃんも!」

 

 新たに同じ勇者部である犬吠埼姉妹が合流。これで合計6人となり、奇しくも全員勇者部部員となった。

 人数の増加、それに年上の人が来たことで少し心の余裕が生まれ、友奈も風達と同じように先代組に近づく。

 

「東郷さん、これって―――!?」

 

 遥か遠くから何かが爆発した音がした。

 

「友奈ちゃん、何が起こっているのか疑問だらけと思うけど心配しないで。私達が絶対に帰すから、友奈ちゃんはここで待つだけでいいの」

 

 そう言い切り、自身で車椅子を回して銀と園子と共に音のする方向へと進んでいく。

 

「待って東郷さん!どうして危険な場所に行っちゃうの!?」

 

 そう叫ぶが、終ぞ答えが返ってくることはなかった。

 何故急いでいるのか、何故なにもしないよう言うのか。友奈にとってどれもこれも意味がわからない。まるで自分を意図的に仲間外れにされてるようだ。

 最後の希望である風に視線を向ける。

 

「風先輩は·······、風先輩は何が起きてるか知ってるんですよね!?」

 

「まあ知ってるけど········知りたい?」

 

「ぜひっ、知りたいです!」

 

「んー、でも·······なぁ·····」

 

「風・先・輩っ!!」

 

 この場で年長者であり、事情を知っているであろう風に詰め寄る。しかし、歯切れ悪く答えるばかりで教えようとしない。それに痺れを切らした友奈は風の肩を掴みぐわんぐんと揺さぶる。

 

「落ち着いてください、友奈さん!お姉ちゃん泡吹いちゃいます!」

 

「えっあ!す、すみません·········」

 

「い、···いいっていいって。ちょっといじわるだったわ」

 

 滅多に聞かない樹の大声で冷静さを取り戻した友奈は風の肩から手を離し、若干落ち込みながら謝罪した。

 

「そんなに聞きたいなら説明するけど·······本当にいいのね?もしかしたら、日常に戻れなくなるかもしれない。それだけじゃない、きっと辛い思いをするわ」

 

「はい!それでも知りたいんです!絶対に後悔しません!」

 

「·········それじゃあ説明するわね」

 

 そう曇りない決意を籠めた瞳で訴えかけてくる友奈に根負けした風は重い口を開ける。

 

「まず、ここは樹海って言う場所でね、簡単に言うと神樹様の結界内よ」

 

「神樹様の·········」

 

 日常でいつも耳にする神樹様。生活の礎を支えていてくれるありがたい存在。そんな神様がこの現実離れした光景の原因であるようだ。

 一先ずその言葉を飲み込む。

 

「それじゃあ東郷さん達はなにと―――っ!?」

 

 何かの影が通り過ぎたと気づくとすぐに後方で誰かが着地した。その際の突風で体が少し持っていかれそうになる。

 

「つぅ········!やってくれたな、あんにゃろ」

 

 三点着地を決めたのは爆弾と帯の攻撃による連携で弾き飛ばされたシャルル。とは言え、ただ吹き飛んだだけで無傷のようだ。

 

「シャルルさん!?」

 

「すまん、また後で!」

 

 すぐさま立ち上がったシャルルは驚愕する友奈を一切見もせずその横を通り過ぎて前線へと走って行った。

 居るはずない、というか完全に蚊帳の外にいたと思っていたシャルルの登場に疑問を通り越して事実が受け入れ難くショートしかける友奈。というかしている。

 

 その後一分もせず、光の粒子が天へと昇り始めた。そう何も進展していないのである。しかし、時は無情に流れ第一回侵攻は幕を降ろしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふう―――無事勝利!いやっふー!!」

 

「いぇ〜い!」

 

「イェーイ!」

 

 羽織りを払い、御佩刀を鞘に納める。そうして臨戦状態を解き、銀と園子と共にハイタッチを交わすシャルル。先代組の仲の良さは健在のようだ。

 

「無事じゃないですよね、シャルルさん?」

 

「あんぐらいは怪我の内に入んないから実質無傷だ」

 

 戦闘中に乙女座からの帯攻撃を受けて数km吹き飛ばされはしたが、ただ弾く力が強いだけの一撃だったと言うこともあり外傷は見受けられない。しかし、それは外皮だけの話。内側、つまり内臓である腎臓一つ、肺一つが潰れている。と言っても潤沢な魔力補給&常時かかっている回復速度上昇により完治している。

 

「あのっ!」

 

 和気藹々を邪魔するのは心にくるが、今だけは教えて貰わなければいけない。

 友奈の大きな声に静まり返り、その場にいる全員の視線が友奈に集中する。

 場の雰囲気に落ち着かない者、静観する者、言葉を持っている者、葛藤する者と様々であるがどれも親切心の表れ。友奈がどんな言動を取ったとしても受け入れるだろう。

 

「っ·····、みんなは何と戦ってるの·····?」

 

 空気感に敏感であるが故に問いかける筈だった言葉を呑み込みそうになるが、震える体を抑え込み、空のように青く澄み渡っている瞳を見つめながら問う。

 

「俺達は―――」

「待ってください!」

 

 何の躊躇いもなく答えようとするシャルルを東郷が制止する。

 

「どうしんだ、須美?」

 

「友奈ちゃんには教えなくてもいいと思うんです。この事を知ったら友奈ちゃんは絶対に·······」

 

「まあまあ落ち着けって須美。絶対って事はないだろうしさ」

 

「いいえ、絶対よ。なんたって、友奈ちゃんは強くて、優しくて、―――可愛いの!!!」

 

「と、東郷さん!?」

 

「最後の関係あるかぁ·······?」

 

「あるんじゃないかな〜」

 

「いや、ないでしょ」

 

 前二つは関係あるだろうが、最後の言葉に関しては完全に私情100%ではないだろうか。

 閑話休題。ストレートな褒め言葉に少し顔を赤くした友奈を隅に置き、シャルルが話を戻す。

 

「今から話す内容を決めて、これからを決める権利は友奈にだけある。

 俺は友奈の自由意志を尊重する」

 

 堂々たる宣言をし、真っ直ぐな視線を友奈へと向ける。

 東郷が言うように先代組に甘えるのも良し。共に肩を並べるのも良し。だけど、そのどちらかを選ぶのは友奈であり、他の誰かではない。

 

「·········東郷さん、ありがとう。全部私のためだってのは分かってる。でも、これは私が決めなくちゃいけないと思うんだ」

 

「友奈ちゃん··········」

 

 迷う素振りをしたものの、数秒もせず振り切ってしていなかった東郷へ返答する。それを聞いた東郷は行き過ぎた行動を自分を恥じた。

 そうして覚悟を決めた友奈は東郷から視線を切り、シャルルへと振り返る。

 

「教えてください、シャルルさん」

 

「わかった」

 

 そうして語られたのは、外から来る脅威バーテックス、それを迎撃するシステムである勇者、最後に満開について。

 

「散華、って·········じゃあ園ちゃん達の怪我は·······」

 

「うん。散華の影響だよ〜。一回ずつ使っちゃったからねぇ」

 

「っ··········!」

 

 自身の浅慮さに失望する。

 同じくらいの子が命賭けて戦っているのを知らずに平和に武器を取ることもなく暮らしてきた自分に対しての怒りが湧いてくる。

 だが、それは今までのこと。ここから、戦う力を手にしたここからが大切なのだ。

 

「やります――――――

 私、結城友奈は勇者になりますっ!」

 

 武器を取って戦う。勇者部の一員として命を賭して戦う。その覚悟を持って声高らかに宣言する。

 それを真正面から受けたシャルルは一瞬目を点にするが、次の瞬間にはニッと笑った。

 

「やっぱり、アンタはカッコいいな!」

 

 普段と変わらず、誰かの為にを動力としている友奈の姿に心からの称賛を。あまりにも綺麗なその在り方を損なわないでいて欲しい。

 

「友奈ちゃん········」

 

「アタシ達がいるんだし、大丈夫大丈夫」

 

「だねぇ。皆でなら百人力だ〜、むきっむきっ」

 

「·······そうね、やってみましょうか」

 

 マッスルポーズを取る園子に和んだのか、不安な表情を隠す。やはり、神樹館組は弱みを補えるいいチームだ。

 

「フーミン先輩もいるしね」

 

「えっ?」

 

「え。風パイセンも戦うんですか?」

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

「そんなの聞いてないよ、お姉ちゃん!」

 

「俺も聞いてないな」

 

「確か······あの時は私とそのっちしかいなかったものね」

 

 突然の姉からの衝撃的な言葉に詰め寄る。いつもの姉からして予想外な行動だったのだろう。

 

「まあ、後輩達が頑張ってるんだから、先輩で部長でもある私がじっとしてるのは········ねえ?ちょっとかっこ悪いじゃない?」

 

 大赦に、親に言われて創設した勇者部ではあるが、ある一団のリーダーであることに変わりない。 例え、死ぬ可能性があったとしても先頭に立つのは年長者として当然だと思った。理由はただそれだけ。

 

「強敵に挑むその姿、―――最っ高にカッコいいぜ、風!」

 

 友奈と同じ時のように屈託ない笑みを向ける。あまりの素直さからか星が輝くように後光が見える。というか魔力放出で光ってる。

 

「だったら、私も戦う·······!」

 

「樹は無理しなくてもいいのよ?」

 

「なにも武器を取って敵に挑むだけが戦いじゃないしな。樹ができる事で皆を支える事もまた戦いだ」

 

 珍しくシャルルマーニュが戦わせないように樹を諭す。

 この選択は一重にシャルルマーニュがカール大帝であり、戦経験者である事が関係している。

 

 樹は身体が小さく、あまり運動が得意ではない。身体が小さいのを貶しているのではなく、戦場では恵まれた肉体を持って生まれてきた者が跋扈する場だ。そんな中に小さい体躯の兵を出すと数秒で地に転がる事になるだろう。だからこそ、シャルルは反対なのだ。

 

「私だって誰かを守りたいんです!いつも守られてばかりじだから、今度は私が·········」

 

「慌てなくていんだよ、いっつん。守られる事は恥じゃないと思うんよ」

 

「そうよ、樹ちゃん」

 

「········そう、―――ですよね。ごめんなさい、私はやっぱり―――」

 

 発言する度に弱まっていく語気。言いくるめようとする意思こそないものの、純度100%の善意に何も言い返せない。このままでは樹は自身の意志を曲げることになる。

 そんな時、待ったがかかる。

 

「―――待ってください!!

 それじゃあ樹ちゃんの想いはどうなっちゃうんですか!?」

 

「友奈先輩········」

 

「そうだぞ、お前ら。樹を枠に嵌めようとするのはダメだぞ。というかシャルルさんは自由意志を尊重するって言ったじゃないですか」

 

「それはそうだが、樹の体躯を考えるとな」

 

「あー·······でもそれって、あれじゃないですか?人同士での戦場思い浮かべてません?多分どのバーテックス相手でも、みんな踏まれたらペチャンコですよ」

 

「········確かにそうだわ。すまん、勘違いしてた」

 

 思い直すと確かにそうだ。

 あの大きさの敵なら、例えシャルルであっても無防備な所を踏み潰されたら圧迫は逃れられないだろう。最悪そのまま圧迫死であろう。

 

「樹ちゃんの気持ち、少しわかるよ。守られているばかりじゃ、もやもやするよね。今度は自分がみんなを守りたい、って思うよ」

 

「そうなんですっ。私も皆さんの一員になって守りたいんです」

 

 友奈の後押しを受けて、顔を上げて自分の思いの丈をぶちまける。お姉ちゃんがやるとかではない事を伝えることこそが重要なのだ。

 

「樹······立派になっちゃって······!」

 

「ね〜」

 

 死亡と同等かそれ以上の廃人になるかもしれない可能性があることを知っていながら戦う覚悟を決めた少女ら。そんな少女らが和気藹々とする光景を眺めながらシャルルは思う。

 

 我が精鋭、フランク国の戦士達に引けを取らないその覚悟にただただ尊敬するしかない。

 アルプスの巨人の遺跡で1人寂しそうにいた少女アルテラを見つけて、誰も寂しい思いをしないようにと幻想に願ってから数十年を生き、ヨーロッパの父となるまでに沢山の屍を築いた。

 

 人同士ではなく、人と人とが手を取り合って強大な敵を倒す。俺が見たかった光景が目の前にある。

 信じる、―――ああ、今度もバカみたいに信じてみよう。良い未来が来ることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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