気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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勇敢なる少女のために王+αが来た【200話記念・最終話】

 

 

 

 

「お前は、その才を以てして勝ちをもぎ取っで来たんだろうさ」

 

 満身創痍な青年が金色の瞳を輝かせながら、痛みを堪えながら立ち上がる。青痣を作り、切り傷から血を流していながらその瞳に一点の曇りもない。不屈とはこの事だろう。

 

 これは夢であり、マスターの記憶に強く残る映像なのだろう。ボロボロな青年が誰なのかは分からないが、彼こそがマスターにとっての運命だと悟る。

 

「確かに、お前の言う通り間違いも失敗もない方がいい。成功し続ける人生の方が断然良いだろう」

 

 立ち眩みを堪え、フラフラした状態から立て直し、胸を張って立つ。視線は真正面にいる彼へ向けるのではなく、空を仰ぎ見る。

 曇りなきその瞳に青空が映る。瞳の色が青空になったかと見誤る程の清々しい空であった。

 

「だけど、それじゃあ駄目なんだ。身の丈だけを貰うのは嫌なんだ。より良く、もっと幸せにを望み続ける事こそが俺達········お前が言う凡人だ」

 

 見上げていた状態だった顔を下げ、視線を彼に向ける。無手だったその手には見慣れた剣(ジュワユーズ)がいつの間にか握られている。

 

「··········阿呆共が。

 ―――なら、俺に勝ってみろ。

 身の丈以上を求めるのであれば、俺と言う極点を潰していけ。勝率は0そのものだが、当然できるよな?」

 

 口を閉ざしていた彼が嘲笑と共に青年を罵倒する。だが、この抵抗も予期していたのか青年に戦いを申し込む。

 しかし、勝敗はとうに見えている。

 傷も汚れも塵一つもない彼と傷だらけな青年。格付けなど既に終わっている。だが、それでも青年は未だ諦めていない。

 

「やってやる。凡人の底力ってヤツを見せてやる」

 

「加減はしない。死んだら火葬ぐらいはしてやる。

 まあ、死体すら残らんかもしれんがな」

 

 青年が見覚えのある剣(ジュワユーズ)の柄を両手で持ち、呼吸を整える。その顔はいつもの表情で、一片の迷いもないように見える。

 

「行くぞ、宗全

 

「来いよ、勇斗

 お前は一生あの空に辿り着くことはない」

 

 青年が地を蹴る。

 地面が抉れ、突風が吹き荒れる。人間の肉体では到底出さないような出力が偶然の最高出力としてこの一瞬だけ青年の背を押す。まるで、世界そのものが青年の勝利を後押しするように。

 

「その程度では俺まで20歩も足りない」

 

 青年の周囲に炎、水、土、風の塊が突如として現れる。それらは青年の息の根を止めるべく降りかかるが、彼方から飛来してきた疑似勇士によって断たれる。

 青年の足は止まらない。

 

「未来の縁がこうも介入するか········だが、ここまでだ」

 

 それは、青年が剣の間合いにまで近づき、今まさに色変わりの聖剣(ジュワユーズ)を振り下ろそうとした時だった。

 

 地面に写された青年の影が伸び―――

 

「惜しかったな、凡人(親友)

 

 飛び散った血が目の前にいた彼の全身にかかる。

 自身の影によって縦に裂かれた青年の体が左右に別れ、左側の肉体が地に横たわる。そうして次いで支えを無くした臓物が落ち、最後に剣を構えたまま制止した右側の肉体が―――

 

 止まっていた肉体が不可解にも動き出す。

 

「ガッ·········!!?!?」

 

 彼の左肩から右腰へと袈裟斬りを深く入れ込む。その斬撃は心臓へと届き、致命的な一撃となった。

 

「ぐっ、うぅ········!」

 

 胸を右手で意味もなく抑えながら、数歩後ろに後退る。それと同時に動作を完了した青年の肉体が今度こそ地面に落ちた。完全に生命活動を停止している。

 

「勝ちは、勝ちか········はぁ。

 “汝、勝者なり。生者としての権利を贈呈しよう。”」

 

 そんな言葉を言い終えると、死に絶えた青年の肉体が消え、何事もなかったかのように青年が立っていた。手にあった聖剣(ジュワユーズ)は影も形もない。まるで元からそれが正しかったことのように。

 虚空を見つめるような表情だったが、次の瞬間には意識が回復し、仰向きに倒れる彼に向き直る。

 

「俺の勝ちでいいか?」

 

「ああ、俺の負けでお前の勝ちだ。俺に勝った奴とか人生史上お前が初めてだぜ」

 

「そりゃ光栄だな」

 

「光栄だろ?一生誇ってもいいぞ」

 

「誇った所でだろ」

 

 青年が手を伸ばし、それを掴んで立ち上がる。出血は止まり、斬り裂かれた服は何もなかったように汚れ一つもない。

 先程の険悪なムードからは想像もできないまでに仲良く話す二人に疑問こそ持つが、あの二人にとっては普段の事なのだろう。

 

「改めて言うが、俺の言葉は全て正しいぞ。それでも挑戦するのか?」

 

「全て、じゃないだろ?俺がお前に勝ってんだから」

 

「········何故かお前の事に関してだけ100%正しいとは断言できないんだよなぁ。たまにブレる」

 

「ブレるってなんだよ。俺は振動体じゃねえぞ」

 

 ブレるとは一体どういうことなのか。全てを識っている、ではなく、全てが視えるという事なのだろうか。だがしかし、視えるであれば心情に関しては解らない筈だ。

 いっそう謎が増えるのみだ。

 

「まっ、いいさ。俺が勝ったんだから協力してもらうぜ」

 

「わかってるわかってる。けど、望んだ結末になるかどうかは別だからな?」

 

「なるだろ。俺だけならまだしも、お前がいんだから」

 

「―――。はぁ、そういう所だぞお前」

 

「どういう所だよ?なあ、おい、無視すんなって!おい!?」

 

 いくら声張り上げようとも、こちらを見向きもしない親友に対してどんどん声量が上がっていく。そしてそれを涼しい顔して無視し続ける。

 そうして二人並んで歩いていく後ろ姿を眺めていた所で目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一回侵攻から仲良し三人組による第二回侵攻を経て一ヶ月後。第二回と同様に勇者部活動をしていた放課後に警報音が鳴った。

 今回襲撃してきたのは山羊座のみ。仲良し三人組を楽々と倒した勇者部からすると、一体のみなら朝飯前だ。

 

「先手は私が―――っ!?」

 

 東郷が先制攻撃を仕掛けようとする前に赤い閃光が四本。山羊座に降り注ぐ。その正体は赤い柄が特徴的な剣。それらが山羊座に刺さり、次いで爆発。

 

「な、なにっ!?」

 

「これは·········」

 

 勇者部の者ではない攻撃に驚く風と何か知っているのか攻撃した者を探し出す園子。そんな事をしていると山羊座にから黒い霧が溢れ出す。

 勇者部の面々は咄嗟の反応が遅れて呑まれ、シャルルは即座にその場から飛び退いた。

 

「わわっ!」

 

「うっ!」

 

 呑まれた者達の精霊が出現し、流れる黒い霧を主に当たらないよう切る。それが意味することは、この黒い霧は人間にとっての毒ということ。

 

「毒霧だ!精霊の守りがあるうちに仕留めるぞ!」

 

 長引くと命に関わると判断。毒霧を意に介せず飛び込む。当然、シャルルは精霊を持たないため少しずつだが着実に毒霧によって身を蝕まれていくだろう。

 

「ちょろいっ!」

「ッ、―――輝けよッ!!!」

 

 ほぼ同時に新たな剣の投擲、疑似勇士と共に突撃するシャルル。後者により、山羊座の外皮は大きく抉られ、剣の爆発によって沈黙。すかさず勇者部総出で封印の儀を開始。

 御魂が浮かび上がる。弱点目掛け、マントを靡かせながら飛翔。ジュワユーズへ五大元素を収束していく。

 

「リュミエール・デュ・ソレイユ······っ!!」

 

 空中という事もあり踏み込みこそ甘いが、そこは長年の経験で培った身体の捻りと腕力で補う。

 炸裂した五大元素は御魂を砕き、突風を起こし毒霧を晴らす。

 

「っはあ、ぐっ······!」

 

「シャルルさん!!」

 

 戦闘が終わると同時にシャルルが体勢を崩し、落下を始める。一目で意識が落ちかけているのがわかる。どうやら、毒霧を多く吸い込み過ぎたようだ。しかし、戦闘時間は一分にも満たない。そこから考えるに接触面、つまり皮膚からも浸透するタイプの毒霧だったのだろう。凶悪すぎる。

 落ちていくシャルルを銀が誰よりも速く支える。左腕が使えないため共に地を滑る事になるが、それが助けない理由にはならない。

 

「っ·······大丈夫ですか、シャルルさん?」

 

「あ、あぁ。助かったぜ、銀。ありがとな」

 

 口から零した血を拭いながら、立ち上がる。少しよろけるが自力で立て直し、いつものような笑顔で銀に振り向く。

 この一瞬で毒を完治。あまりのバックアップの強大さに顔には出さないが慄きながら、ここにはいない彼に心の内で感謝する。

 

 そんな二人を置いておき、勇者部は新たな勇者に声をかけた。

 

「私は乃木さんちの園子だぜ〜。貴方は?」

 

「アンタが乃木?ふん、先代のリーダーがこんな頼りなさそうな奴なら、他のも大したことなさそうね」

 

「園ちゃんはたよりなくないよ!」

 

「そうですよ。そのっちはこう見えてやる時はやる子なんです」

 

「えへへ〜♪」

 

 貶されてはいるが、この程度で園子の琴線には触れれない。もしも、シャルルがいれば「言葉遣い気をつけろよ」とガチギレだろうがここにはいない。運がいい。

 そんなやり取りをしているうちにシャルルと銀が合流。もう時期樹海化は解けるだろうが二言程度はあるだろう。

 

「それで、結局アンタは誰なわけ?」

 

「私は三好 夏凜。完成型勇者よ」

 

 その言葉を最後にして樹海化が解け、いつも通り学校の屋上にある祠付近に出される。そこには当然完成型勇者こと三好夏凜がジャージ姿でいた。

 

「それじゃあ、夏凜は新しい勇者部部員ってことだな」

 

「は?」

 

「夏凜さんって、その、何年生ですか?」

 

「二年生よ!見てわからない!?」

 

「そうですか·······」

 

 恐る恐る勇気を出して聞いてみた樹だったが、その目論見はすぐに破れた。悲しきかな樹嬢。というかそもそも勇者部に入部するとは一言も言っていない。

 

「これからよろしくね、夏凜ちゃん!」

 

「入らないから!!」

 

「勇者てして共に戦うんだから、入部するのオススメよ?情報交換とできるんだし」

 

「それは、確かに······いや、入部しなくても情報交換ぐらいできるでしょ!」

 

「今なら先代組もついてくるよ〜?」

 

「うっ·······」

 

 園子にあんな言葉をかけてはいるが、先代組のことを密かに尊敬している夏凜。何度も戦闘映像を見ているからこそ四人の連携精度は半端ではないことを知っている。強くなることに意欲的な夏凜にとってはあの技術は喉から手が出るほど欲しい。

 

「し、仕方ないわね。入ってやるわよ、その勇者部ってヤツ·······」

 

「やったー!!」

 

 そっぽ向きながらだが言質獲得。これで新たな勇者部部員ゲットである。部室は騒がしければ騒がしい程いいものである。

 喜びのあまり友奈は夏凜の手を強引に握り、ぴょんぴょんしている。あまりの可愛さに東郷のシャッター音が鳴り止まない。

 そんな二人にシャルルが歩み寄る。

 

「これからよろしくな、夏凜!」

 

「·······よろしく」

 

 ▼三好 夏凜が仲間になった。

 その後、勇者部としての活動及び誕生会で絆されたのは語るまでもない。

 

 

 

 

 三週間後のとある放課後。シャルルがだがし屋の営業を行っていたとき、普段であれば近くの小学校の生徒で賑わうが珍しく数名の女子中学生が相談という目的で来店していた。

 

「人前で歌うコツか。そうだなあ·······頑張る、じゃ無理そうだし·······う〜ん」

 

 縮こまってしまった樹をチラッと見ながら考える。どう歌うかというより、どうすれば人前で堂々とできるのかを思案するが、あまりいい案は思いつかない。

 

「シャルルさんは王様だったんですよね?大勢の前で話す際はどうだったんですか?」

 

「王様?なに言ってんの?」

 

「シャルルが王様なわけないでしょ。コレよコレ」

 

 友奈と銀、園子は仲良く買う駄菓子を選ぶ中、樹を中心に東郷、夏凜、風、シャルルで知恵を集める。文殊の知恵以上の物ができるに違いない。

 そんな中、シャルル=王様という発言に夏凜と風が異議を唱える。

 

「一応コレでも王様だったんだぜ?ヨーロッパの父とはオレの事さ、ちょっと違うけどな」

 

「「ヨーロッパ?」」

 

「どこの県ですか?」

 

「県じゃないんだけどな········まあ、今は樹の事の方が優先だ。と言っても、オレの王様時代かぁ········()()()()()()()()()()からな。意識して、ってのは何もないな」

 

 現実に理想求めたカール大帝(シャルルマーニュ)、幻想に理想を求めたシャルルマーニュ(カール大帝)。足跡は全く違う二人であるが、根本は同じだ。

 フランク国を治め、ヨーロッパをカトリック教に染め上げた。その功績により神聖ローマ帝国皇帝となり、ヨーロッパにその威光を知らしめた。

 

「それだったら、今はどうしてるんですか?」

 

「今?あー、そうか、今があったんだったな。

 元々オレはちゃらんぽらんもいい所でさ、色々仲間達とバカしたもんだぜ。だけど、子供の手前そういうのは駄目だろ?だから、まあ·······こうチャキっと、バシッと、カッコよくやってる次第だ」

 

「カッコよく·······」

 

「········私達が子どもじゃなかったらどうしてたのよ」

 

「ん〜。その時はバカやってたんじゃないか?」

 

「そんな適当に生きてきたの?」

 

「だなっ!」

 

 ダメな即答に樹以外のその場にいる者のジトーっとした目が刺さる。話を聞く限りでは不良だが、そのバカもほとんどが人助けである。

 

「樹はこんな風にならないようにしなさいよ。母さんとアタシが悲しむから」

 

「えっ、でも」

 

「一生のお願い!」

 

「う、うん········」

 

 王様しているシャルルを見たら考えが180度変わるだろうが、それはまた別の話。

 そんなこんなで役に立つかわからない相談は終わり、今日はお開きとなった。ちなみに駄菓子を選んでいた三人は買いすぎて東郷に説教を喰らっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 第一回侵攻から二ヶ月後、夏凜参入初の侵攻が始まった。第三回が一体のみだったのに対し、今回の第四回では牡牛座、牡羊座、天秤座、水瓶座、魚座、双子座、獅子座の計7体。大盤振る舞いである。

 

「敵さん勢揃いじゃねえか」

 

 遠くに視える豆粒程度の大きさまでになったバーテックスを目を細めて捕捉しながら、最大限言葉に注意しながらぼかす。士気は高い方がいい。

 

「獅子座はヤバくないか?」

 

「大丈夫。勝てるよ、ミノさん」

 

「ええそうね。各個撃破を確実にしていけば勝てる相手よ」

 

「そんなにヤバいの、獅子座って?」

 

 表情はいつも通りを努めているにしても、雰囲気がいつにも増して真剣だ。それを察したのか風が話題の獅子座について聞く。

 

「獅子座は主に火の球で攻撃してくるんですが、この火の球がシャルルさんの必殺技と同威力なんです」

 

「はあ!?それ、どんなデタラメよ!?

 打たれたら終わりじゃない!」

 

「シャルルの必殺技?そんなのあるの?」

 

 描写こそしてないものの、第二回侵攻時に仲良し三人組を一掃するため宝具を使用している。しかし、その時まだ夏凜は参入しておらず、当然シャルルの宝具はまだ見ていない。

 

「えっとね。こう、ピカピカ〜!でドカーン!って感じで綺麗だったよ!」

 

「何もわかないんだけど········」

 

「夏凜さん夏凜さん、コレです」

 

 意味不明な説明にげんなりする夏凜だが、そこに助け舟を出したのは樹。その手には勇者システムが入ったスマホが握られている。

 勇者システムには戦闘を記録する機能が備わっており、第二回侵攻の映像もばっちり録画されている。

 

「············はあ??

 なんで人がビーム出せるわけ???」

 

「わからないです·······」

 

 シャルルが持つジュワユーズ、そして疑似勇士から放たれる十三色の極光。あまりにも現実離れした光景に思わず言葉を失う。ついでに語彙力も。

 

「それで、コレが獅子座が出す火の球と同威力········確かにそれは脅威だけど、それ言ったらシャルルも脅威じゃない」

 

「ははっ!」

 

「笑ってる場合じゃないぞ、シャルルさん」

 

「だな。ここは真剣に作戦立てるか」

 

「急に落ち着かないでよ」

 

 笑顔から一転して真剣そのものになる。あまりの豹変ぶりにビビる。しかし、作戦を立てるという考えは賛同せざるを得ない。

 

「一先ず、獅子座はオレが撹乱する。その間に他の奴らを確実に倒していってくれ」

 

「ちょ、それはアンタの負担がデカすぎるんじゃない?」

 

「大丈夫だ。逃げに徹すればなんとかなる。一人で敵わない時は仲間で、それが鉄則だ」

 

「·······そうだね、それが一番かも。それじゃあ、シャルルさんが獅子座の撹乱、私達で周りのバーテックスを封印、殲滅でいこう」

 

「うん」

 

「援護は任せて」

 

「はい」

 

「了解」

 

「わかった」

 

 獅子座を一人で、というのはあまりにも危険だが、それができないのであれば負けるしかない。そんな際どい戦いをしている。

 

「じゃ、円陣しましょ」

 

「いいですね、円陣!」

 

「喝入れるか」

 

 という事でシャルル合わせた八人で円陣を組む。皮切りは当然部長である風だ。

 

「勇者部ゥ!!」

 

「「「ファイトー!!!!」」」

 

 元気十分、準備万端。これ以上のコンディションは見込めないだろう。これで負けたのであれば、それはもう大赦が悪い。

 

「全軍突撃ィィー!!!!」

 

 東郷を除く全員がシャルルの合図で一斉に敵目掛けて走り出す。残された東郷はその場にうつ伏せになり、愛用のスナイパーライフルのスコープを覗き込む。視界には集団から突出した牡羊座。そして、それに今まさに攻撃しようと迫るシャルルの姿があった。

 

「墜ちてこいッ!!!」

 

 指揮するようにジュワユーズを振り下ろすと、連動して十二の輝剣が牡羊座目掛け降り注ぐ。一糸乱れぬ連撃によって外装を貫き、大きな凹凸を生じさせる。これには堪らず、牡羊座は徐々に傾いていき、遂には倒れ込んだ。

 絶好のチャンスに夏凜が動く。

 

「封印開始っ!!」

 

 牡羊座を囲うようにして投擲された四本の剣。それを基点てして封印を宣言する。もはや使われなくなった祝詞に涙が止まらない。

 封印は成功し、牡羊座の内部から御魂が浮上する。

 

「勇者ぁぁ―――」

 

 彼方から青い閃光が御魂へ伸びる。不可避の一撃により少しではあるが御魂に罅ができた。

 その弱点目掛け、拳を振るう。

 

「パンチッ!!」

 

 見事命中。耐えかねた御魂は罅が広がるように砕け散り、牡牛座は天に昇るようにして姿を消していった。

 

「ナイスよ、友奈!」

 

「やったな、友奈!」

 

「東郷さんのおかげだよ〜」

 

 そう言いながら東郷がいるでろう方向に手をブンブンと振る。そんなファンサに東郷は頬を少し緩めていた。流石に戦場では自重するようだ。

 一体撃破により、この調子ならと思う一行に突如として大きな影が伸びる。

 

「上!上上上!!!」

 

 いち早く上を見上げた銀が皆に促すように上を連呼する。しかし、その必要はなく、既に全員が影の正体である牡牛座を捕捉していた。

 直ちに警戒体勢を取ると同時に浮かんでいた牡牛座が地に四つの足をつける。

 

「降りて、〜〜っ!!!?」

 

「っ、な、なにっ、この音········!?」

 

「ぐっ、不味いなコレ······っ!!」

 

 耳を劈く不協和音に全員が耳を両手で塞ぐ。シャルルでさえ戦闘中であるというのに両手を使って耳を塞いでいる。これでは誰かが動くというのは難しいだろう。しかし、行動阻害の原因は音。音であるのならば当然届く距離が決まっている。

 音の範囲は1km弱。その範囲にいない者が一人、スコープから発信源である鐘を射抜いている。

 

「あの鐘さえ壊せば、―――!?」

 

 今まさに引き金を引こうとしたその瞬間、東郷の目の前を潜行していた魚座が覆う。これでは到底狙うことはできない。

 

「こんな時に·······!」

 

 即座に標的を変え、魚座へと三発撃ち込むが決定打に成り得ない。三発受けた魚座はまたもや樹海の根へと潜行していった。これではいつ何処から攻撃されるのか分からない。こんな状況では仲間のサポートなど以ての外、集中してスコープなど覗けすらできない。

 牡牛座の対処はその場にいる者達のみで行うしかなくなった。

 

「ッ―――、我が勇士の剣達よ!!」

 

 歯を食いしばって右手を耳から離し、ジュワユーズを指揮棒のように頭上で一回転。その合図に疑似勇士が全員集合し、矛先を牡牛座へ向ける。

 五大元素が目映い光と共に収束していく。

 

王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!!」

 

 最大出力ではないが、牡牛座を怯ませ鐘の音を止めるには十分な威力だ。これによって、動けない状況を打破。すぐさま畳み掛ける。

 

「ミノさん、乗って!」

 

「あいよっ!」

 

 園子の武器である槍は変幻自在。今回は薄く伸ばし、板のようにしてそこに銀が飛び乗る。そうした槍を園子が振り抜く。

 牡牛座を超え、大きくぶっ飛んだ銀。その視線は牡牛座の背にある鐘。再発動されてしまえば同じ状況に逆戻りだ。それだけは阻止したい。

 

「ふんっ!!」

 

 右手に握られていた大剣を投擲。命中こそすれど、鐘が繋がっている鎖が少し切れただけ。これでは足りない。

 二撃目を入れるため、降下する最中虚空からもう一本の大剣を取り出す。

 

「よい、しょぉぉぉぉお!!!」

 

 二撃目によって完全に鎖を断ち切る。支えを失くした鐘は牡牛座の背から転がり落ちていった。

 これであの不協和音を出すことはできない。

 

「「封印開始!」」

 

 一番近かった樹と友奈が好機と見て封印を開始する。先程通り牡牛座の内部から御魂が出現した。

 大剣を背負った勇者部部長が足を駆け上がり、背を踏み台にして飛び上がる。

 

「どっ、せぇぇぇぇいっ!!」

 

 女子力マシマシで振るわれた一撃は御魂に食い込み、両断とまではいなかったが砕けるには十分だった。

 これにて牡羊座に続き、牡牛座も撃破。

 息をつく間もなく、最も近い水瓶座に狙いを定めるも突如として八つの火球が飛来する。

 

「撃ち落とせ、十二勇士よッ!!」

 

 シャルルの周りに滞空していた八つの疑似勇士が火球目掛け飛んでいき、そのまま衝突。火球を落とすことに成功した。

 

「作戦通りに頼んだ!」

 

「はいっ!」

 

「アンタも気をつけなさいよ!」

 

 もちろんと返して勇者部と別れ、樹海を駆ける。

 目前には二年前に敗北を期した獅子座。ハイサーヴァントと分類されるシャルルマーニュであっても単騎撃破は困難であろう。マスターの支援ありきであれば勝てるだろうが、この場にマスターはいない。単騎で勝てる英霊など一握り。それこそ英雄王や狂気に堕ちていないギリシャの大英雄でもなければ不可能である。

 だが、耐久重視の時間稼ぎであればシャルルマーニュでも可能だ。

 

 獅子座が頭上にアーチを描きながら炎を球状に纏めていく。放たれるであろうそれに対抗するため、シャルルも宝具を構える。

 

「永続不変の輝き、千変無限の彩り!

 我が王勇を示すため、この刃に我らが伝説を刻み給えッ!」

 

 いち早く最高潮に達したのかシャルルの真名解放よりも早く放たれる火球。後出しとなるが、シャルルもまた最大級に輝く色彩を放つ。

 

王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!!」

 

 極光と日輪が拮抗する。

 結果は二年前と同じ。極光は日輪を貫き、獅子へと牙を立てる。しかし、それだけでは足りず、未だ獅子座は健在。それどころか今度は七つの火球をシャルルへと放おった。

 

「っ、円陣頼む!」

 

 硬直から復帰するが、既に火球は20mあるかないか。

 撃ち落とすの諦め、疑似勇士を以て身を隠すようにする。もちろん筒状に守られるため上空から入り放題だ。しかしそこはジュワユーズに収束した極少の五大元素で消し飛ばす。

 

「っは―――」

 

 円陣を解いた時には獅子座が自身を押し潰そうと体躯を傾けていた。どうやら、火球の対処に集中している間に接近してきていたようだ。

 その場から横に飛び退く。

 樹海の根が巨大な質量に耐えきれず、豪快に砕け折れていく。その光景に少し命の危機を感じながらジュワユーズをアストルフォの馬上槍に変換する。

 

 狙いはどこでも。当たれさえすればいい。

 

触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)ッ!!」

 

 槍の矛先を突き出す構えで突進。すれ違いざまに獅子座の表皮を少し傷つける程度であったが、それで十分。

 太陽を象徴したような輪から突出した先端が御魂を砕いた時のように砂となって霧散した。

 けれど、獅子座が地に伏すことはなかった。

 

「やっぱ、ダ―――ぇぐっ!!?」

 

 背に感じた事のない衝撃。

 その勢いのまま空中に放り出され、樹海の根に激突する。吹き飛ばされたシャルルを目撃した者は言う、「ロケットみたいだった」と。

 

「―――ッ、っハ、ガホ······っ!」

 

 衝突した際に吐き出した酸素を激痛と共に取り込むが、もう一度呼吸しようとするも吐血し、一向に安定した呼吸ができない。

 

 口からだらだらと血を吐き出しながら、顔をげる。他者が見れば卒倒間違いなしであり、常人であれば即死している状態だ。

 

「あ゛ぁ゛〜゛〜゛〜゛········」

 

 屍のように呻きながら、ジュワユーズを支えとして立ち上がる。

 背骨は折れ、内臓がいくつも破裂し、もはや無傷の内臓の方が少ない。事実、立ち上がるだけで体中から嫌な音が鳴っている。

 

 ―――彼方から赤い雫がシャルルに注がれる。

 迸る魔力の本流。全身を駆け巡ったと気づいた頃には役目を終え、一滴も残ってはいなかった。

 傷どころか痛みもない体で立ち上がる。目前にはこちらを俯瞰している獅子座。言うなればラウンド2だ。

 

「―――メルシー、マスター!」

 

 何処かにいるであろう己が主に感謝し、駆け出す。目指すは獅子座。

 風を裂きながら全能感に浸る。

 体が驚くほど軽い。今出してる速度もいつもより二倍近く速い。令呪と共に身体強化を施したのだろうか。なんであっても好都合。

 

「ここで攻めきる!」

 

 迎撃に放たれた火球を疑似勇士で切り落とし、自身は速度を落とすことなくジュワユーズを獅子座の頭部であろう箇所に振り下ろす。

 

「あらよっと!!」

 

 いつもなら切り傷しか作れない筈だが、今の一撃で深い溝を作り出した。半端ない強化が切れる前に畳み掛ける。

 根に着地するやいなや飛び上がる。それと同時にジュワユーズで獅子座に同様に溝を作っていく。

 

 脅威と認知したのか多数の火球を全てシャルル目掛けて放つ。

 

 空中であるため回避行動は取れない、にも関わらず身を捻ることで初撃を躱し、残りを疑似勇士と五大元素を用いて潰していく。

 

「お返しに貰っとけ!」

 

 最高行動に到達する共に五大元素をジュワユーズに収束を開始。あまりの量にジュワユーズの刀身が伸びたような形になっていく。

 

「砕けやがれッ!!!」

 

 最初に溝を作った箇所に宝具に匹敵し得る絶対破壊の一撃を放つ。

 これには獅子座も堪らず、その巨大を根に倒す。頭部は目論見通り砕け散り、太陽を象った輪だけが残された。そんな獅子座に追撃を加える。

 

「エリュプシオン!!」

 

 落下する最中、ジュワユーズを大きな棍棒に切り替え、土元素を纏わせる。

 落下の勢いを合わせ、輪に落とす。

 隕石が落ちてきたかと思わせる轟音を樹海に響かせ、輪を砕き、土元素によって根に岩が隆起したかのように現れた。

 

 棍棒をフランベルジェに持ち替え、火元素を纏わせる。そして隆起した土を飛ばすように振るう。

 火属性を付与された三つの岩が修復中の頭部へと飛んでいき、頭部を押し潰した。これで岩を退かさない限り修復は不可能となった。

 

「爆撃開始ッッ!!!」

 

 火球を切り落とした後、上空で待機させながら五大元素を収束させていた十二の輝剣が塵一つ残さんと獅子座目掛け降り注ぐ。

 度重なる爆撃により木片が四方八方に飛び散る。そのため視界不良となり、獅子座の状態が万全に視えなくなってしまった。

 

「···········お」

 

 視界が明けた先にいた獅子座は今まさに生命活動を停止させ、その肉体は砂状となり砂のお山を作っていた。つまり、シャルルの勝利である。

 

「勝利である!」

 

 両腕を上げVの形で勝利を体全体で喜ぶも、緊張が解けたのかその状態のまま背中から根に倒れる。

 英霊の中でも高位に位置するシャルルマーニュであっても、やはり神の使いを打倒するのは死闘と言わざるをえない。途中で支援が来なければ確実に負けていただろう。

 主である彼に感謝しながら瞼を降ろした。

 

 

 

 

 

 今回襲撃してきたのは七体のち六体は勇者部の尽力によって打倒された。であれば残る一体、双子座はどうしたのかと言うと―――

 

 戦闘行為を避け、ただ神樹に向かって走っていた。

 シャルルは獅子座、東郷は魚座、友奈達は三体のバーテックスに手一杯となり気づくことはないだろう。このままいけば神樹に到達して無事人類終了だろう。

 だが、そうなってはいない。

 

 双子座の進路上に勇者でも英霊でもないただの一般人が佇んでいる。

 

「よくもまあ抜け抜けと。

 ·········仕方ない、ここで砕いておくか」

 

 刹那、四つの球体が双子座目掛けて飛来し、跡形もなく消滅させた。

 あまりにも一瞬の出来事で、瞬き一つ、上げた足が地に着く前に終わってしまった。その事に失望したのかため息をこぼす。

 

「情けねえ。アイツならノールックで処理するぞ」

 

 その後、令呪をシャルルに使用した彼はその場に胡座をかいて各々の獅子奮迅を観戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、今回は危なかったな」

 

 場所はだがし屋であるシャルル宅。今回の襲撃を無事超えれた事を祝しての祝賀会である。選ばれた理由は二つ。一人暮らしである、一軒家であることだ。最初こそ現在の園子宅でやろうとなっていたが、より近いシャルル宅が選ばれることになった。

 

「危なかった、じゃないですよ。ぶっ飛んでましたよね?」

 

「ははっ、アレはまじ焦った」

 

 今思い出しても過去類に感じたことのない一撃だった。おそらくオジェの一撃より重い。それを受けて生還するなど本当に運が良かったとしか言えない。

 

「流れ星みたいだったね〜」

 

「肝冷やしたわよ、ほんと」

 

「注意をひく、ってのは何だったのよ。一人で倒しちゃってるし」

 

「いける、と思ってな。勝ち筋見えたらやるしかないだろ」

 

 勝ち筋見えたのならしょうがない、うんうん。勝てるなら勝つ、それが一番だ。

 チップス系のお菓子を摘みながら激戦を思い思いに駄弁っていく。そんな和気藹々とした雰囲気の中、東郷だけが何か思い詰めた顔をしているのに友奈が気づいた。

 

「どうしたの、東郷さん?体調悪いの?」

 

 その問いかけに全員の視線が東郷に集まる。

 

「あ、いえ、そうじゃないの。ただおかしいと思って」

 

「お菓子〜?」

 

「お菓子じゃないでしょ。それで何がおかしいって?」

 

「最初に牡羊座と牡牛座、私が魚座、シャルルさんが獅子座、そして友奈ちゃんやそのっち達が水瓶座と天秤座。計六体··········双子座は?」

 

「··········確かに、そうだ。双子座倒したよ〜、って人いる?」

 

 園子の呼び掛けに手を挙げる者はいなかった。

 さっきまで和気藹々としていた部屋の温度が下がるの全員が感じた。双子座を誰も倒していないということはつまり、神樹に近づいて行ったということ。

 

「そもそも双子座なんて見てないしな」

 

「獅子座倒されて逃げたとか?」

 

「それが一番ありえそうだが········」

 

「だが?なによ」

 

 葉切り悪く言うシャルルに夏凜がその顔を覗き込む。いつにも増して眉間に皺を寄せて考え込んでいる。

 

「········いや、なんでもない。

 考え過ぎるってのも良くないしな。一先ず何事もないなら大丈夫だろ」

 

「軽すぎません?もしかしたら、双子座のバーテックスが今も樹海を走って········」

 

 そして神樹にタッチからの世界消滅を想像してか顔を青くする樹。

 確かに樹が考える可能性もなくはないが、それだと神樹がただのアホである。帰している時点でその可能性は消えている。

 

「考えすぎよ、樹。はい飲んで飲んで」

 

「う、うん」

 

「まあ気楽に行こうぜ。気を張りすぎるのは良くないからな」

 

「そうだよ、樹ちゃん。きっと大丈夫!」

 

「そう、ですよね」

 

 双子座という懸念点もそこそこに、本来の目的の祝賀会を続けようとスッパリと双子座の事を忘れてこの時間を精一杯楽しんでいった。

 

 

 祝賀会の翌日の夕方。今日も今日とてだがし屋の店主であるシャルルはレジに座っていた。

 後20分で閉店ということもあり店内には客は一人もいない。これにはシャルルも暇となり、店の事には何の関係もない事を思案していた。

 

(獅子座倒したし、今後一ヶ月ぐらいは襲撃来ないだろうな。平和なのはいいことだ)

 

 平和はいい。みんな笑顔なら尚いい。それがつかの間の平和だったとしても気を抜ける時間は何物にも代え難い。

 そんなことを考えていると一人の青年が来店した。

 

「よっ、久しぶり」

 

 その青年を見て、目を丸くする。ありえない者でも見たかのような表情だ。それもその筈、彼の目の前にいる青年は二年間ずっと姿を消していた己がマスターなのだから。

 

「久しぶり、じゃないだろマスター!今まで何処にいたんだよ!?」

 

 レジがちょっと浮くほど勢いよく手をついて椅子から腰を上げるシャルル。

 

「すまんすまん。こっちも色々することがあってな」

 

「すること?」

 

「手回しとか諸々」

 

 準備ならしょうがないないと納得し、席に座る。青年もこの潔さには後々詐欺られないか心配になる程であった。

 

「それで、今日はなにしに来たんだ?駄菓子ならしっかりお金は貰うからな」

 

 家族にはベタ甘でも主にはきちんとしているシャルル。これが身内なら言わずとも店中の駄菓子を詰めて渡していただろう。

 

「二週間後、大侵攻が始まる」

 

「二週間後!?獅子座倒したばっかだぜ!?」

 

 先程の衝撃よりも強かったのか今度は席を立ち上がり、青年に詰め寄る。落ち着きがないシャルルとは正反対に青年は平然としている。

 

「神樹の結界が限界だ」

 

「神樹の結界、って言うとあの壁か?」

 

「そうだ」

 

 あの壁、とシャルルが言うのは二年前の獅子座との戦闘の際に走った壁上のことである。全貌は見ていないが、宝具の余波で壊れていなかった事を踏まえると結構な頑丈さだと考えていたため二年で限界が訪れるとは予想外だった。

 

「壁が崩れて敵がなだれ込んで来るってことか········不味くねえか?」

 

「不味い。ある程度のバーテックスを堰き止めていた壁がなくなれば、一斉に侵入してくる。一匹でも逃して神樹に到着されれば人類滅亡のヤバい状況だ」

 

「想像以上にヤバいな·········てか、ある程度のバーテックスってなんだ?」

 

「あの壁の役割は敵側陣営に染まるのを阻止するのと、弱い力のバーテックスの侵入を止めることの二つ。今まで倒してきた黄道十二星座を冠するバーテックスは言わば成体。その成体の幼虫を防いでいる、って訳だ」

 

「それなら幼虫を通して成体にならないように潰していった方が良くないか?」

 

 彼の例え通りなら出る杭を叩いた方がいい筈だ。成体の強さは勇者部全員が、なんならシャルルは一昨日その身で味わっている。できることなら彼が言う成体とは戦いたくない。

 

「本能に従うアレが弱い状態で来ると思うか?」

 

「···········なるほど、確かにそうだな。てことは成体と一緒に襲撃してくるのを防ぐためか」

 

「そうゆうことだ」

 

 幼虫がどんな攻撃をしかけてくるか分からないが、成体と戦っている際に横槍を刺されたら致命的な損失に繋がる可能性がある。

 

「それが次の襲撃で来ると········割とガチで不味くないか、マスター?」

 

「一応俺も準備はしてある」

 

「勝てる可能性はあるってわけか。じゃあ、やるしかないな。まずは勇者部にこの事を―――」

 

「待て」

 

 早速情報共有をと思い、ポケットからスマホを取り出して集合するようにと打ち込もうとするシャルルをポケットに手を入れた時点で止める。制止の声にピタリと動きを止め、怪訝そうにマスターに視線を戻す。

 

「情報共有は早い方がいいだろ?」

 

「まあ落ち着け、話は終わってない。最後に重要な事を言うからよく聞け」

 

「急いては事を仕損じる、ってヤツだな。了解だ、マスター」

 

 情報共有を一旦忘れて青年の言葉に耳を傾ける。彼が重要と言うのならそれはどうあっても重要なのだろう。聞けば+なのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次が最後の戦いになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――え??」」」

 

 夕日が照らす通学路でもある街路で呆けた顔を晒すのはズッ友である三人の勇者。それも仕方ない事だ。突然そんなことを要注意人物に言われては。

 

「もう一回言った方がいいか?」

 

 飄々とした態度でこちらを伺いながら言うその表情は絶対にこちら側を馬鹿にしているとしか思えなかった。しかし、それよりも―――

 

「次が最後って、ほんとなんですか、勇斗さん?」

 

「俺は一回しか嘘をつくことはない」

 

「その言葉が嘘じゃない可能性はないよね?」

 

「この言葉も疑うんなら好きにしてくれ。付き合いきれん」

 

 園子が目敏く抜け道を潰しにかかるが、この返しからして嘘ではないようだ。と言うことは最後の戦いということも嘘ではない筈だ。なら、二年前の約束が果たされるべき時だ。

 

「最後の戦い、なら私達の散華した部位を戻してくれるんですか?」

 

「まだ始まってもないのに何言ってんの?それとも最後の戦いで満開使う可能性があるのに今治して欲しいのか?俺はどっちでもいいが」

 

「っ·······終わった後でお願いします」

 

「言われなくともそうする」

 

 怒りを堪えながら深々と頭を下げる。ここで怒れば相手の思う壺であるし、もしかしたら取り下げになってしまう。そのことを考えれば頭は軽い。

 

「それじゃ、伝え終わったし俺は帰る」

 

「え、このためだけに来たんですか?」

 

「そうだが」

 

 そう言い踵を返したと思えば、次の瞬間にはその場から消えていた。本当に伝えに来ただけだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー·········あと少し」

 

 一仕事終え、公園のベンチに腰を降ろした青年は背もたれに背を仰け反るように預け、頭上の大きな木の幹達で視界を埋める。

 

(仕掛けるのはここがベストタイミング。神樹のバックアップが万全なこの時しか勝ち目はない。いくらか俺が出ることになるだろうが仕方ない。そこは妥協だ)

 

 独白に洒落込みながら大きくため息を零す。その顔には若干ではあるが疲れが見える。

 そんな休憩中の彼の元に走ってくる少女が一人。

 

「勇斗、さんっ。聞きたいっ、ことが、あって·········っ!」

 

「なんだ?そんな走って」

 

 絶え絶えの息で言葉を紡ぐ少女のために背もたれから背を起こし、猫背ぎみに座り少女と視線を合わせる。

 まあ、聞く前から何を言うかは識っているのだが。

 

「はー、ふー。―――シャルルさんと知り合いなんですか?」

 

「そうだぞ」

 

 呼吸を整え、間を取って一世一代の勝負のような意気込みで聞いてきた問いに少女といつも話すような時の雰囲気で答える。対して、返答を受けた少女は鳩が豆鉄砲くらったような顔になっている。

 

「じゃ、じゃあ園ちゃんが言う―――」

 

「それも俺だろうな」

 

 その返しに少女は酷く動揺し、百面相のように表情がコロコロ変わっていく。園子達が言う勇斗の造形と今まで見てきた造形とが乖離しているためだろう。

 それも次第に落ち着いていき、顔を下げながら口を開く。

 

「···········勇斗さんは、悪い人なんですか?」

 

「園子達から見れば、まあ悪役だろうな。盛大に敵視されてるし」

 

 心底心外とばかりに口を尖らせてそう言う。実際戦う力を持ちながら戦わない勇斗は彼女達から見れば不思議であり、得体の知れない敵のように見えることだろう。

 

「じゃっ、じゃあ!私の、味方、ですか?」

 

 恐る恐る顔を上げた少女の表情はどこか呼吸しづらそうであった。実際、その生き方で誰の支援もなく中学生になれたものだと青年は独り感心している。

 だからこそ、ここでの言葉は決まっている。

 

「もちろん。俺は友奈の味方だぞ」

 

「―――!!

 良かったです!それじゃあ私はこれで!」

 

「おう、転ばないようにな」

 

 華が咲いたような笑顔を浮かべた少女は桜のように染まった頬を隠すように青年に背を向け、帰宅路を走って行った。

 そんな後ろ姿を眺めながら、青年は一人愚痴る。

 

「そんなんだから良いように利用される。

 ―――ああ、本当にクソだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二週間後、夏休み真っ只中のある日。未だ最高気温を突破し続ける日々に人々が憂鬱となっていた所へ追い打ちをかけるように大きな揺れが襲った。

 それは夏休みで開店時間を10時からにしたシャルルが営むだがし屋でも同じことであった。

 

「うおっ!?」

 

「地震!?」

「地震だー!」

「机ないよ、机!」

 

 来店していた数人の小学生が体験したことのない大きな地震に驚きながら、訓練のようにしようとするがだがし屋には隠れるような机はない。それどころか倒れそうな棚が一杯である。もちろん固定はしていない。

 

 耐えきれなかった棚が子供達目掛けて倒れる。

 

「ひっ」

「っ!?」

「わー······」

 

「―――危ないっ!!」

 

 日常生活では滅多に使わない魔力放出を全開にし、強化された身体能力をフルに使用して押しつぶされそうな三人の小学生に覆い被さる。

 

 揺れが納まりはしたが、店内には誰の姿もない。商品を置いていた棚は全て倒れ、駄菓子が散乱している。これではもう―――

 

「よっと」

 

「すっ、―――凄えや兄ちゃん!」

「握力何キロ!?」

「びっくりしたぁ·······」

 

 軽く己に覆い被さった棚を退かし、興奮収まらない少年少女を脇に手を入れて持ち上げ、倒れている棚の上に降ろす。一先ずの安全は確保することができた。

 

「怖い思いさせてごめんな?」

 

「もう一回やって!もう一回!!」

「握力何キロ!?」

「あ〜、きなこ棒がぁ」

 

「いらない心配だったか?

 よし、一先ずここにいてくれ。一応頑丈に作られてるから倒壊はしないと思うが、もし倒壊しそうだったらすぐ出てな?」

 

「うん!」

「握力何キロ!?」

「ねり飴おいし」

 

 余震が来る可能性もあるが、ここにはもう倒れる物はない。家ごと倒れるかもしれないが、その時は他の家も倒れている。外に出てもどっちみちだろう。なら、今はここにいる方が生存率が高いと思い、小学生を置いてシャルルは事態解決のために外へ出る。

 それと同時に何処からか鈴の音が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――大侵攻が始まった。

 目前に広がる壁には一箇所だけ大きな穴が空いている。先程の揺れはあれが原因だろう。そして、その穴から小さな白い物体が侵入してきている。

 

「絵では見たけど、実際に見ると中々に気持ち悪いわね」

 

 風が言う絵とはシャルルづてに渡された青年が描いた星屑の絵である。模写でもしたのかと言うほどの正確さで、目の前で飛んでいる奴らのそっくりそのままである。

 

「口より手動かしなさいよっ!キリないんだけど」

 

「そうだよ、お姉ちゃん」

 

「夏凜と樹が厳しい········全部、アンタらのせいだァァァー!!!」

 

 持っていた大剣の大きさを最大級にし、仰ぐようにして振るう。その一振りで星屑に覆われていた空が、通過した場所だけぽっかりと何もないいつも通りの空に戻った。

 酷い八つ当たりである。これには星屑に同情するしかない。いや、同情するまでもないか。

 

「うひゃー、風先輩ぱねぇー。あんな大剣振り回せる木しないなぁ」

 

「だねぇ」

 

「俺達も負けてられないな」

 

 大剣を取り出しては投げ、取り出しては投げを繰り返す銀と同じように槍を投げる園子。そして、そんな二人に近づく星屑を斬るシャルル。

 風の勢いに火がついたのか、ジュワユーズを掲げる。

 

「集え、十二勇士よ!」

 

 その一声で疑似勇士が彼を囲うように出現。次いで、矛先を王が見据える先へ向け、五大元素を収束させていく。

 

王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!」

 

 真名解放には劣るが雑兵の一掃にはもってこいだ。その証拠に目前の星屑の一群は綺麗に消え去った。

 

「シャルルさんも中々ヤバいっスね········」

 

「さっすが〜」

 

「これで粗方片付いたか?」

 

「敵さんもビビって帰るでしょ、こんなん」

 

「ですね」

 

『皆、気を抜かないで。獅子座が侵入してきたわ』

 

 一難去ってまた一難。それどころか五難ぐらいありそうな格差だ。それほどの気概で獅子座には当たらなくてはいけない。

 

「友奈と風と俺で攻める。他はサポート頼めるか?」

 

「了解ですっ」

 

「がんばってね〜、ゆーゆ」

 

「うん!」

 

「園子ー、部長にエールの言葉はー?」

 

「もちろん、フーミン先輩もがんばってね〜」

 

「お姉ちゃん、頑張ってね」

 

「くぅ〜〜!!」

 

 士気回復もそこそこに一番の難敵である獅子座に目を向ける。ゆっくりとだがこちらに近づいてきているのはスマホでも目視でも確認できる。こちらに攻撃してくる素振りは一切ない。おそらく視認距離があるのだろう。

 

「心の準備はいいか?」

 

「「「『うん/はいっ!!!』」」」

 

「よし、それじゃあ―――全軍戦闘開始ッッ!!」

 

 三部隊に別れて獅子座目掛けて樹海を駆ける。

 三部隊はシンプルに攻撃主体の先程上がった者中心に別れたチームである。シャルル中心に園子、友奈中心に夏凜と銀、風中心に樹、東郷は全体サポートとなっている。

 

 一番最初に攻撃を仕掛けたのはシャルルを捕捉した獅子座。手始めに上限の七つの火球をシャルルへと放つ。

 

「よいしょ」

 

 槍を傘状に変形し、迫りくる火球に向かって行き、わざとぶつかり爆弾処理していく。決して可愛いよいしょで済ましてはいけない所業だ。

 

「メルシー、園子!」

 

 獅子座の頭上付近まで飛翔し、ジュワユーズをテュルパン大司教の剣アルマスに切り替える。この剣は氷の剣と謳われおり、氷――水元素と非常に相性が良い。

 

「凍てつけッ!!」

 

 袈裟斬りのように斬るも切り傷程度ができるのみ。しかし、斬った箇所から氷が生えるようにして生成され、氷が傷を押し広げる。自然の力とは侮れない。

 

 空中に無防備にいる敵を獅子座が逃すことはなく、氷でダメージを受けたものの、なんのそのとその身をシャルルへと叩きつけんと動かす。

 

「シャルル、飛んで!!」

 

 園子が槍を変化させてシャルルの近くに足場を作り出す。その足場を踏み台に後ろへ飛び上がり、獅子座の攻撃を間一髪で避けることに成功した。

 

「助かったぜ、園子!是非とも十二勇士に来て欲しい人材だ!」

 

「それはいいかな〜」

 

 園子の武器の特性である変幻自在さの強さを再確認する。やはり、こと戦場においては手札が多い=最強なのだ。つまり、園子は最強。A.E.D.蘇生完了

 ノリで十二勇士に誘われる園子であったが、たまに聞く話から露出狂、女装男子、それに負けず劣らずの濃いメンツがいることを知っているため丁重にお断りしている。

 

「勇者パンチっ!」

 

「どっせぇぇぇぇい!」

 

 続けざまに友奈、風が日輪のような輪を攻撃する。友奈の攻撃で大きく砕ける輪ではあるが、風の攻撃では少し罅割れる程度。天の逆手はやはり伊達ではない。

 一旦距離を取るために後ろへ飛ぶが、シャルルとは脚力が違うため少し距離が足りない。矢継ぎ早に火球が三つ放たれる。が、彼方から伸びてきた青い閃光によって全て撃ち抜かれた。

 

「もう一回行くぞ!」

 

「りょーかい!」

 

 先程のように園子を先頭に獅子座へ近づいていく。剣は変わらずアルマスのままである。今出せる最高打点を叩き込み続ける思惑のようだ。

 

「あらよっと!」

 

 何もしてこない事を不思議と思ったのか後ろに飛ぶと同時に獅子座の全体を観察する。あまりの大きさで見ようとしなければ全貌を見ることはできない。

 下から上へ視線を動かすと、獅子座の頭上に炎が集まっていくのを確認することができた。

 

「ッ、攻撃中止!一旦下がれッ!!!」

 

「急にな―――、マズっ!友奈ぁ、下がんなさい!!」

 

「えっ、でも―――」

 

「下がるわよ、友奈········!」

 

 渋る友奈を共に前線に出ていた風が俵のように肩に抱えて下がる。唯一下がらなかったシャルルは獅子座の前にて仁王立ちしている。

 目的はもちろん全滅の阻止である。

 

「一夜一時の幻と言えど、此処に我は楔を穿つ!

 伝説よ蘇れ、我が剣に彼らの力を!!

 王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!」

 

 余程念入りに準備したかったのか、獅子座の火球はシャルルの宝具が目前に迫ると共に放たれた。ギリギリまで準備された火球であるが、いつもより少し拮抗した時間が長かっただけで同じように流光が貫いた。

 火球を貫いた後も勢いが弱いながらも獅子座へ直撃するも決定打にはなり得なかった。

 

 日輪と極光の衝突により辺りに煙が立ち込める。一番近くにいたシャルルでさえ、獅子座の全貌が見えなくなってしまった。

 視界が開けた先には―――

 

 神秘的で浮き世離れした樹海には似つかわしくない地獄が扉の先にあった。

 開かれた扉から這い出でたるは獅子座を除く十一対のバーテックス。二年前の光景そのまんまである。

 

「―――――――――」

 

 屈辱の記憶が走馬灯のように思い出され、致命的なまでの隙を生み出した。

 

「シャルルッ!!!」

 

「――、はっ、ぐぅ······っ!?」

 

 園子からの呼び掛けに意識を浮上させるが時すでに遅し。眼前に迫る天秤座の分銅を防ぐこともできず、モロに腹に喰らう。あまりの衝撃に吹き飛ばされた、二度目の飛行体験を味わう。

 前回と同じであれば、このまま勢いが止まらず根へと叩きつけられるのを待つのみだが、今回は一人ではない。

 

 とある青年が流れ星のように緩やかに高度を落としていくシャルルをひったくるように回収し、根に雑に投げる。

 

「つつぅ·····、もうちょい丁寧に降ろせなかったか、マスター?」

 

「なんだ、降ろす前にハグでも欲しかったか?」

 

 予期しない者の登場にシャルルが吹っ飛ばされたことで軽く絶望していた勇者部一同も絶望を忘れ、言葉にならない言葉を出しては閉じてを繰り返していた。

 

「まあ、駄弁ってる時間はないっぽいな。下がっててくれ、マスター。流石に今回は心配する余裕ないからな」

 

「言われなくとも下がる。頑張れよ」

 

 その言葉を最後に前を見据えるシャルルに目もくれず背を向けて、勇者部の方へと歩み寄る。その頃には落ち着きを取り戻し、静かに歩いてくる彼を警戒するように見つめている。

 

「満開の使いどころはここだろ。余力を残して負けるとかダサいことすんなよ」

 

 足を止めずに誰へ言ったのかわからない言葉を残して、通り過ぎる。少しずつ足音が遠ざかっていくのを感じ、思わず用もないのに呼び止める者が一人。

 

「勇斗さん!」

 

「········なんだ?」

 

 友奈の呼び掛けに足を止めて後ろを振り向く。その表情は幾分か柔らかい。

 

「あっ、え、えっと······その······」

 

 呼び止めたもののそれは不安からくるものだ。側にいて欲しいという願望を口にできる程、少女は我儘ではないのを全員が知っている。

 

「―――頑張れよ、友奈。無理そうだったら呼んでくれ、一秒もせず駆けつける」

 

「! はいっ、勇斗さんも気をつけて!」

 

 短くそう返し、何もなかったかのようにまた背を向けて歩き始める。

 いつも少女と話す時よりも何処か冷たい言葉であったが、気遣っての言葉だというのは伝わっているだろう。今この状態での返答としては模範解答に上がると信じたい。

 

「友奈ちゃん、悪いことは言わないわ。別の人を探した方がいいわ。手伝うから」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁度勇者部と黄道十二星座の全面戦争が始まった頃、後ろに下がっていた彼は予想外にも神樹の結界外にいた。

 

「燃え盛ってんな」

 

 目前の景色は地獄そのもの。噴き上がっては消えを繰り返す炎の柱。下を見れば永遠と炎が燃え続けており、底部が見えない。そして、天井を見上げれば―――

 

「随分とまあ頭が高い神様だ」

 

 神樹を地の神の集合体と言うならば、人類史を燃やし尽くそうとするアレは天の神と言うのが打倒だろう。

 

 ―――目らしき模様がこちらを覗く人間を捕捉する。

 

 その異様さを物ともせず、青年は地を半端ない力で蹴り、天の神へと接近していく。このまま行けば天の神に張り巡らされている結界にぶつかるだろう。

 

「“我が身異物ならず。”」

 

 何故か天の神の結界を透過し、内部へ入り込む。これには動向を伺っていた天の神も目ん玉飛び出ていることだろう。

 そうして真っ白な空間にて対峙する高天原の暴れん坊と人類史の最高傑作。

 

「何故、汝は死にに参った?」

 

「死にに?たった一人にビビって籠もってた奴が俺に?

 笑わせんなよ、愚神。天照大御神すら忘れたお前に俺が負ける道理はねえんだよ」

 

「天井におらす神は一人。須佐之男命こそ唯一絶対である」

 

「なら、思い出させてやる」

 

 問答もこれまで。

 狂った日本最古の大英雄ではないにしても、その力は絶大。少しでも手を誤れば絶命は必至。なればこそ、最適の場にて戦うが一番。

 

「世界に末法満ち、人おらずけども―――ただ、空はそこにある」

 

 そう淡白に言い切ると世界が切り替わる。真っ白な空間から閑静な住宅街に。と言うより一切声が聞こえない。

 この異様な空間に、須佐之男も戦々恐々としている。

 

「なんだ、これは?」

 

影写(かげうつし)・人映さじの空だ」

 

「そうではない。この世界は何なのだと聞いている!貴様、まさか世界を作ったとでも言うのか!?」

 

「ああ」

 

 世界創造。それは最早人の域では留まらない。それどころか神であっても困難極まる奇跡である。それを成しながらこの涼しげな表情、正しく生物の極地に位置している。

 

「それで久方ぶりに姉を見た感想は?」

 

 そう言い、空に映る太陽を指差す。生物は太陽なしでは生きていけず、あらゆる物事は太陽があるからこそ始まった。

 

「はっ。人々のための機構に墜ちた神など神ではない。あのようガラクタに最早興味などある訳がなかろう」

 

 その太陽を一蹴する。

 あろうこうとか弟である須佐之男命が否定した。高天原で一悶着あったとは言え、そこまでの憎悪はなかった筈。であればこれは悪意ある第三の手が入っているとしか言いようがない。しかし、それは今関係ない。

 

 周囲の影という影が光の速さを超え太陽へと伸びていく。数値で表すならば秒速250万kmである。

 

「そこまで言うんなら、俺が遮ってやろう」

 

 おおよそ一分間で影は太陽までの距離を0にし、太陽を包み隠した。これによって、太陽の光は8分20秒後*1に地上から影に包まれた太陽が見えるようになり、地球は真っ暗になる。

 

「お前は、何をしたのかわかっているのか?」

 

「俺は別に光がなくなったとしても生きていける。だがまあ、お前はお先真っ暗だろうな」

 

「ならば、光が途絶える前に貴様の首を断つまで」

 

 ―――8分10秒後。

 

「あー、すまん。ちょっと期待してた俺が馬鹿だった。そりゃ、親友(アイツ)にガチビビリするのも仕方ないな」

 

 少し衣服が乱れ、先程とは打って変わって表情を険しくする須佐之男に対して何も変わらず佇む青年。勝敗は明らかであった。

 

「貴様ぁ········!」

 

 瞬間、世界が暗黒に包まれる。

 一寸先の光も未来への展望も何もない世界。本来であればこれ以上見込みがないとして剪定される人類史であるが、そもそも作り物の世界。抑止力は存在しない。

 ただ二人がいるだけの世界だ。

 

「真っ暗闇であれば、条件はおな―――」

 

「全身に深達性Ⅱ度の熱傷」

 

 ほんの一瞬、人型に燃える炎が立ち上がるがすぐさま消える。そして、肉が焼けるような臭いが鼻腔を刺激する。あまりいい匂いとは言えないが、青年は笑顔であった。

 

「Ⅲにすると痛みがなくなるからな。諏訪組(アイツら)の分は苦しんでもらう。

 ―――腹壁切開」

 

 手を振り上げると前の方で何かの液体が飛び散った音がし、その次に瑞々しい何かが地面に落ちる音がした。

 

「ここからはお前がその手でした事だ。よく味わって逝け。

 ―――両側上肢切断」

 

 振り上げた手を降ろすと、前の方で二つ物が落ちたような音がした。そしてまた、液体が滴る音がしている。

 

「そして最後に、―――斬首」

 

 ゴトッ、と大きめな者が落ちた時のような音がした。暫くして青年の靴に何か球体の物体が当たったが生憎の真っ暗闇なため何だったのかはわからなかった。

 

「あぁ、ほんとつまんねぇな·········」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神話の戦いと言えるような戦跡がそこら中に刻まれている樹海。そこにはバーテックスも星屑もおらず、疲弊した勇者部の面々のみがいた。

 

「どうだー、園子ー?」

 

「ん〜、だいたい一年ちょいっぽいかなぁ」

 

「そう、みたいね。そのっち達とプール行ったのが私にとって昨日だもの」

 

「わぁ、行った行った。なっつかし!」

 

 今進行中で記憶の噛み合わせを確認している神樹館組。ちなみに園子は心臓の機能、銀は右腕を散華している。

 

「はい、発声練習行くわよ。はい、せーの」

 

「あー」

「  」

 

「んー、やっぱ無理ね」

 

 仲良く発声練習している友奈と樹。しかし、樹の方が口が開かれているだけで音が聞こえてきていない。そう、樹の散華の部位は喉。友奈はまだ誰も気づいていないが味覚となっている。ちなみに風の散華部位は左目。

 

「利き腕がいの一番ってキッツいわね」

 

 動作確認するが一向に動かない右腕に眉間の皺を寄せるのはにぼっしーこと三好 夏凜。やはりついていない筆頭である。

 

「············」

 

 各自散華した箇所を確認している間、シャルルは臨戦状況を解かず壁の方を睨んでいた。かれこれ十分間は睨み続けている。

 

 彼の瞳の中にはこちらに歩いてくる青年の姿が映っているようだ。

 複雑に絡み合った樹海の根を落ちないように伝いながら、一番先頭にいるシャルルへと近づく。そうして10mの所で足を止めた。

 

「お疲れだな、お前ら」

 

「それはもう激戦でしたからね。早速で悪いんですけど、治して·······くれますよね?」

 

 何処か嫌な予感がしながら、両腕をダラリと垂らした銀が青年に問いかける。一番近場にいるシャルルは未だを口を開かず、主を悲しいような泣きたいような顔で睨んでいる。

 

「何言ってんだ?まだ最後の戦いは終わってないぞ」

 

「終わってない?来たバーテックスは全部倒したはずでしょ?」

 

「それともなに、今から第二波来るって言ってんの?」

 

「もう来てるだろ、ここに」

 

 そう言い薄ら笑いを浮かべる青年に、全員が慄いた。言いようもない寒気が少女達を襲う。青年と親しい友奈はより一層だろう。

 ずっと無言であったシャルルが口を開ける。

 

「··········なあ、マスター。これだけは聞かせてくれ。

 ―――アンタが世界をこうした張本人なのか?」

 

「「「!!?!?」」」

 

 張本人、世界を四国だけにし、バーテックスによって襲撃を繰り返すようにした者。今彼らの手元にある判断材料だけを見ればそう見られても可笑しくはない。

 

「それは違う。と言うかそれは、たった今俺が倒してきた所だ」

 

「それを私達に信じろって言うんですか?」

 

「いいや、信じようが信じまいがどっちでもいい」

 

「·········わかった。俺はそれを信じるぜ、マスター」

 

「私も信じます!」

 

 シャルルと友奈は青年の言葉を信じると言ったが、他の勇者は猜疑心を抱いているようだ。しかし、それは青年にとってはどうでも良いようで、シャルルをじっと見つめている。

 

「いいんだな、マスター?」

 

「ああ。これが正真正銘の最後の戦いだ」

 

 ―――非情な現実はいつだって突然だ。受け入れるしかない。前を向いて歩くしかない。

 無理だ。

 だが、そんな無理難題を彼らは親友(アイツ)は超えてきた。本当に凄い奴らだ。本当に誇りに思う。

 だからこそ、俺はもう止まらない。俺の目的を達成するためにはこれが最善なのだ。

 

「我が名シャルルマーニュッ!!此処に汝を打ち倒す者である!!!

 いざ尋常に―――」

 

「「勝負!」」

 

 刹那、世界が切り替わる。

 勇者部はそのまま樹海に。この場にはシャルルと勇斗とその他1名と一匹がいるのみ。もう逃げ場は何処にもない。どちらかが負けを認めるまで出ることはできない。

 

 周囲の影が光速を超え、太陽へと昇っていく。

 

(マスターの使う魔術は影を媒体にしている。あの昇って行ってる影が太陽を覆い尽くして影を作ったら、俺の負けは絶対。

 なら、その前に決めきる!)

 

 そう考えるや否や地を蹴る。同時に十二本の輝剣が全方位から青年へ襲い掛かる。常人であれば、この時点で詰みではあるが青年は常人ではない。

 

「ふんっ!」

 

 手近に迫った剣を強引に掴み取り、迫る輝剣を全て叩き落とす。そして最後に疑似勇士の操り手であるシャルルに対して用済みとなった剣を投げる。

 投げられた剣はシャルルの右太腿に刺さらんと迫るが、難なく防がれた。しかし、足を止めてしまった。

 

 目にも留まらぬ速さでシャルルの後ろへと回り込み襟首を掴む。

 

「ほら、飛んでこい」

 

「うおっ·····!!?」

 

 周りの建物のどれよりも高く上がり、しかも飛行機と同じ速度マッハ0.8程度でぶん投げられた。

 高度が下がり始めるのを感じ、ジュワユーズを建物に刺して速度を下げていく。そうして、ビルに張り付くようにして止まることができた。

 

「っぶねぇ·······!どんだけ飛ばされ―――ん?」

 

 視界の端に映る建物内の机によってできた影が蠢いた。不思議に思ったシャルルはそちらへ顔を向けると―――

 影がその首を断とうと迫る。

 

「ッッッ―――、うぇ!!?!?」

 

 ジュワユーズで弾こうとするも影をそれを透過してシャルルの首との距離を縮める。これには思わず、シャルルも素っ頓狂な声を上げ、建物の外壁から手を離して寸での所で回避する。

 

「すり抜けることもでき―――ッ!」

 

 一息つく間もなく、今度は自身の影が蠢く。それに気づき、すぐさまその場から飛び退く。しかし、移動したとしても自身の影からは逃れられない。

 

「影······影なら!術式解放ッ!」

 

 突如、シャルルから光が溢れる。

 魔力放出(光)による特性を用いた影封じ。これによって自身の足元の影は消え、その他の影すらも彼に近づくことは叶わない。

 

 妨害を封じたシャルルは一目散に敵の元へ走る。が、そこで時間切れ。

 ―――8分20秒が経過した。

 

 世界が暗黒に包まれる中、一箇所だけが真っ昼間のような明かりを灯していた。夜空に輝く星とはこういう事を言うのだろう。

 そんな空間に青年は静かに歩み入っていくる。

 

「マスター、何が目的でこんな茶番演じてんだ?」

 

「俺にとって見れば、どれも茶番だ。目的のためなら最善の選択肢を取るのは何ら不思議じゃない」

 

「誰かを傷つけてもか?」

 

「ああ」

 

 青年から目の前の光源である幻想の騎士は見えないが、どんな表情でどんな想いで対話しているのかは手に取るように解る。だが、止める気など毛頭ない。

 

「ならやっぱり、ちょいとばっか痛い目見てもらぜ」

 

 青年はここでの最善手である行動、―――右足のみ一歩下げ、半身のような体勢を取った。

 次の瞬間、上空から鋭利な物体が落下し、青年の胸部をほんの少し掠め、数秒で流血が止まる程度の傷を作った。

 

「·······?(········?)」

 

 上空から落下してきた鋭利な物体、もとい何の変哲もない石斧。それを目視して青年は初めて顔を不思議そうな物を見るような表情になった。

 

 不意に、彼が作り出した世界が硝子のように砕け散った。

 

「―――ッ!?!!?

 黒耀 優斗の石斧かッッッ!!!!!」

 

 呆けた顔から一転、逆鱗にでも触れられたかのように顔を怒りで歪ませる。いつも飄々とした顔からは想像できないような激昂である。

 

 その平常とはかけ離れた激情を見て、シャルルはすぐさま走り出す。

 

「好機!!」

 

 最早、彼には地の利はない。あの閑静な住宅街ではない以上影も少ない筈。何より魔力放出(光)は未だ健在。ここが好機であるのは誰の目から見ても明らかである。

 

「まだだッ!!」

 

「なっ!?」

 

 地面としていた樹海の根が沈み始まる。根の裏側の影を用いて基盤を無茶苦茶にしているようだ。

 

(黒耀 優斗の石斧、その効力は運命の再編纂。言わばサイコロの振り直し。俺の才が消えたが、運命は絶対。時間は要するが同じ目が出るのを待てばいい。

 そして何より、この状態でも勝ちの目はある。

 脳味噌の機能を30%から100%に!シャルルが次出すあらゆる手を予測しろ!!)

 

 瞼を縫い合わせたように開け、シャルルの予備動作から次の行動を予測する。だが、その演算は人の身体だけでは足りない。そもそも、そういった造りをしていない。例え、神に祝福されたと言っても過言ではない人間でも。

 

 限界を迎えた血管か破れ、脳の酷使によって自律神経が乱れ、血圧変動が引き起こされる。そうして限界になっていく身体を伝えるように鼻血が流れ始める。

 

「――――――」

 

 そんな彼へ樹海の根に隠れていた四国の大英雄が暗殺を仕掛ける。

 

「その身体で!!暗殺なんて赦されるとでも思ってんのか!!?」

 

「ブっ!!?」

 

 首に振るわれた抜き身刀を側面から殴ることで折り、次いで顔面を怒りのままに殴り抜く。あまりの威力に樹海の根では止まらず、三本通過してようやく止まることが叶った。

 しかし、身体は無事とは到底言うことができなかった。その場に手をつき、酸素を求めるように咳き込む。そんな姿を青年は冷めた目つきで眺める。

 

「やった事がやった事だったから見逃してたが、お前も同罪だ。殺しておく」

 

「ガッ·······!!」

 

 肋骨辺りを横から蹴り飛ばす。這い這いの御影では防ぐこともできず、またも吹き飛ばされる。

 

「はあ······゛、はあ·····゛゛!」

 

「もっと頑張れよ四国の大英雄。これが限界じゃないだろ?」

 

「「···········」」

 

 荒い呼吸を繰り返す御影とそれを静かに眺めている青年。もう打つ手がないように見えるが、まだ一つだけ残っ·ている。

 

 ―――頭上より、極光が大地を照らす。

 

「っ·······、おい、何足掴んでやがる。離せ、おい」

 

 シャルルの真名解放を視認し、すぐさま有効射程から離れようとする青年であったが、させまいと御影が青年の足を右手で掴む。

 

(切断すれば逃げることができるが·······)

 

 一点の曇りない金色の瞳と交差する。青年の親友と文字通り同じ瞳。絶望すらも覆すその瞳が青年は好きだった。

 

「癪だが受けてやる。だから、その手を離せ。お前は確実に燃え尽きるぞ」

 

 疑うことを知らない御影はその手を離す。しかし、動く余力がないのか一向に動く気配がない。それを見てか、青い鳥が御影を引っ張って行こうとするが、ちょっとずつしか進まない。これでは焼死体と焼き鳥ができるだろう。

 

「はあ。何やってんだか」

 

 その一連を見て、青年は大きくため息をつく。そして、仕方なしとばかりに御影が身に纏う和装の襟首を掴み、シャルルにしたように放り投げる。

 

「よし。来いよ、シャルルマーニュ」

 

 今まさに最高潮を達した光が放たれる。

 

 

王勇を示せ(ジュワユーズ)―――」

 

 

「令呪を以て命ずる。

 ―――貫け、シャルルマーニュ」

 

 

「―――遍く世を巡る十二の輝剣(オルドル)ッ!!」

 

 

 

 世界が光に包まれ、視界が真っ白に染まる。まるで世界が浄化されたのかと間違う程の極光に遠く離れた勇者達ですら手で目を隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ·········これで·····」

 

 今世紀最大級の力の本流を叩き込んだシャルルは肩で息しながら周りを見渡す。しかし、空中を舞う木片や熱による煙でよく見えない。

 数十秒程してほんの僅かにだが見えるようになってくると、一つの人影が浮かんできた。

 

「全力全開だったんだぞ·········」

 

 視界が開けた先にいたのは、火傷したのか所々を赤く腫らし、半開きの口から熱を逃がすようにしている己がマスターの姿。この姿にシャルルも戦慄する。

 

「まだ、まだ戦いは終わっていない。

 俺は運命(シナリオ)を超えて行く·······!」

 

「なら、お望み通り斬り伏せるぜ、マスター」

 

 両者共に地を蹴る。

 もちろん魔力放出で影封じは忘れない。そして、得物がある以上リーチはシャルルが有利。天秤はシャルルに傾いている。

 ジュワユーズをアルマスに切り替え、水元素を纏わせ振るう。

 

「凍てつけッ!」

 

「ふんっ!」

 

 体を凍らせて身動きを封じようとするも一息で砕かれる。だが、そこは予想済み。既にシャルルの手にしていたアルマスは大きな棍棒となり、青年の頭上から襲いかかる。

 

「エリュプシオン!―――は?」

 

 あろうことか巨大な質量の塊である棍棒を右腕一本で受け止めきってしまった。オジェ・ル・ダノワ以上の腕力に思考が停止する。

 

「甘いっ!」

 

「はぐっ!!?」

 

 受け止めた棍棒を上へ押し退け、ガラ空きの腹を空いている左拳で撃ち抜く。

 弾丸のような音で撃ち抜かれたシャルルは樹海を何度も跳ね、10km付近でやっとこさ止まることができた。しかし、何度も打ちつけられた痛みで立ち上がることができない。

 

 だが、休む時間など戦場にはない。

 シャルルの頭上に土の球体が出現し、押し潰さんと急降下を開始する。

 

「ふぐっ········!」

 

 痛む体に鞭打って横に飛び、何とか球体を回避。そして、すぐさま立ち上がり体勢を整える。

 豆粒のように見えるマスター目掛けて疑似勇士と共に樹海を駆ける。どうやら、まずは体勢を崩すことに専念するようだ。

 

「ちっ·······!!」

 

「ふっ、はっ、せい!」

 

 鼻血を垂らしながら死角から狙う疑似勇士を見もせず避け、更には魔力放出で視界を潰しながら振るわれるシャルルの剣をいなしている。

 これを予測だけで回避しているのだから彼もまた大概である。だがしかし、そんな無理を続ければ先に機能不全を起こすのは妥当である。

 

「―――ぶはっ」

 

 呼吸をしくじり、鼻血が喉に逆流したことで咳き込む青年。それと同時に緊張の糸が切れたのを感じ取ったシャルルが地を蹴る。

 

「そこだッ!!!」

 

 右手で持ったジュワユーズを青年の心臓目掛けて突き出す。

 認識する時間、対処する時間を考えれば十分間に合う。けれど、それは手で対処する場合のみである。

 

「早まったな、シャルルマーニュッ!!!」

 

 光の前に物体があるのならば、影ができる。周知の事実である。そして光が強い程影も濃ゆく黒くなる。それもまた周知の事実。

 

 青年の背後にある自身の影が、―――シャルルの右手首を斬り落とした。

 

「ッ―――、まだだ!!」

 

 落ち行くジュワユーズを左手で再度握り締め、より距離を縮める。しかし、それは―――

 

「読めているぞ!!」

 

 再び、影が走る。握り直した左手を無情にも斬り落とした。もう武器を握る手は残っていない。

 後数mm程度だと言うのに届かない。打開策を脳味噌をフル回転させながら、落ちてゆくジュワユーズを見つめる。

 

 青年を勝ちを確信する。が、まだ聖騎士帝は勝ちを手放してはいはない。

 ―――勝利の女神様は英雄に微笑んだ。

 

「うっ、おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 手がないのなら足で。

 ボールを蹴るように足の甲でジュワユーズの柄の先端を蹴り、ほんの数mmを埋めんと押し出す。

 勝利を確信していた青年が思考を切り替えるよりも早く、ジュワユーズの切っ先は青年の肋骨を貫通し、心臓を貫いた。

 

「あ―――――――――」

 

 背中から刀身を現すジュワユーズ。その光景を俯くようにして確認しながら、数歩後退る。その少しの衝撃で数滴か樹海を赤く染める。

 対して、勝者であろうシャルルは体勢を崩し、樹海の根に尻をつけていた。

 

「勝利への渇望、か。

 ああ、そもそも俺には勝利する資格がなかったってことだろうな」

 

 敗北を受け入れた青年が一人ごちる。誰に対しての言葉ではなかったが、勝者として一つ聞きたい事があった。

 

「アンタは勝ちたかったのか?俺にはアンタの目が俺に勝って欲しいって言ってるように見えた」

 

「ああ、最初はそうだったさ。でも、途中からヤケになってな。俺も俺として白星上げたかったからな」

 

「そっか」

 

 才を持たない自分本来の力で、そう心の内で付け足す。

 そんな会話をしていると遠くの方から勇者である少女達の声が聞こえてくる。談話もそこまでにし、青年は座っている従者の腕を掴み、引き上げる。

 

「!? だ、大丈夫ですか勇斗さん!!?」

 

「大丈夫だ。答え合わせの時間ぐらいは残ってる」

 

「答え合わせ、って何のですか?」

 

「全部のだよ。てことで皆の所まで下がってくれ」

 

「? わかりました·······」

 

 心配そうな友奈を他の面々がいる場所まで下がらせる。全員の視線が集中するのを感じた青年は少し正面をずらし、語り始める。

 

「·········」

 

「これで本当に最後の戦いは終わった。てことで約束を果たすんだが、その前にその方法について説明する。一度だけしか説明しないからよく聞いておくんだぞ」

 

 全員に話すようでいて実際はもう一人の天才にしか向いていない。作為的な何かを感じてか、向けられた側も一語一句逃さないように集中している。

 

「あー、横槍刺すようで悪いんだが、俺も聞いていいか?」

 

 誰もいないであろう場所から上げられた声に勇者部の全員が視線を向ける。その先には隻腕の和装を身に纏った男性がいた。よく見ると左肩に青い鳥が停まっている。

 

「御影 士郎か。まあ、いいぞ。()()()聞いとけ」

 

「え?」

 

「おう、遠慮なくそうしとく」

 

 その場に胡座をかくようにして座る。どうやら、先程の戦闘での未だ癒えておらず彼からの提案は願ったり叶ったりのようだ。

 

「今、御影 士郎って聞こえた気がするんだけど·······」

 

「そう聞こえたわね········え、ほんとのほんとに?」

 

「どうした?幽霊でも見たような顔して」

 

 現在進行系で見てるんですけど、というのが勇者部の総意であった。

 

「ほら、有名人がいたからって騒がない。このままだと話せず治せずで俺ぽっくり逝っちまうぞ」

 

「わわっ、それはマズイですって。みんなシー」

 

「「しー♪」」

 

 騒がしくなりかけた場も、銀の呼び掛けと友奈と園子のまねっこによって沈静&浄化された。

 

「まず、どう治すかシャルルで実演するから見といてくれ」

 

「見といてくれよな!」

 

 まず治すのは影によって切断されたシャルルの両手。未だ止血せず、だらだらと血が流れ出ている。まあそこは潤沢な魔力によって補われているため失血死することはない。

 

「“汝が両手、健在である。”ほら、見てみろ」

 

「――うおっ!マジか、元通りだ」

 

「生えた?と言うよりは復元?」

 

「神経接続甘いから一時間は動かそうとすんなよ」

 

 先程までは何もなかった空間に、突如として両手が出現する。起こりも兆候もなかった。本当はあったと言われても疑いようがない程までのものだった。

 

「我が口から出でたる言の葉は全て真である。これを『真言提訴』と俺は呼んでいる」

 

「んな無茶苦茶な·········」

 

「個人が何故そんな力を········」

 

「何故と言われればこう答えるしかない。俺が天才として産まれ、全知全能を体現したからだ」

 

「「???」」

 

 説明になっているのだろうかと頭が良い組が思えば、当然ちょっと頭が足りない筆頭である友奈と銀は?で一杯だろう。

 

「簡単に言うなら、正しい俺がこう言うなら逆説的にそうじゃなきゃいけないよね、と世界の修正力が働く」

 

「「あ〜、なるほど〜」」

 

「納得はできたけど、あまりにも無法すぎない?口だけで相手倒せちゃうじゃない」

 

「弱点は当然ある。と言うか、俺が使う技には全部弱点がある。ヒントばら撒いちゃいるが、まあ········気づいてないわな」

 

 シャルルの方をチラリと見るが、点でさっぱりという顔に思わず肩を竦める。まあ、それで勝っているのだから立つ瀬ない。

 

「真言提訴であれば口を開けさせなければいけない。しかも出力がピーキーでな、ちょっと言葉に力入れたら真実になっちまう。

 影を操るヤツは元の物体にしか干渉できない。元の物体以外は透過しちまう。まあ俺の影はあらゆる物の写し身だから何にでも干渉できるんだがな。

 まあ、こんぐらい話せば良いだろ」

 

 ずらしていた正面を直し、全体を一望するように調整する。各々の表情を見つめるが、ちゃんと全部を理解しているのは園子を含めて三名のみであった。

 

「よし、それじゃあ治して行くぞー。ついでに御影も―――」

 

 そう言い、御影の方へ視線を向けると、彼は鬼気迫る顔でこちらに何かを叫んでいた。

 

「後ろだ―――ッッッ!!!!」

 

 その言葉を聞き、後ろを振り向くために首を回そうとするがもう手遅れ。不可避の一撃が青年の腹部を縦に裂いた。

 

「ごぷ···········」

 

「勇斗さんっ!!!」

「マスター!!?」

 

「ああクソッ!!出遅れた!!!」 

 

 一番最初に気づいた御影ではあったものの胡座をかいて座っていたために一歩目が遅く、間に合わなかった。

 

「えっ、は?」

「戦いは終わったんじゃないの!?」

「!········?」

「落ち着いて、樹。大丈夫だから」

「············」

 

 目の前で起きた事実を呑み込めない勇者部の面々の中、園子だけが冷静にこの先を見据えていた。ちなみに、樹は姉である風の手によって目を隠され、凄惨な光景を目にしていない。

 

 心臓に突き刺さっていたジュワユーズが支えを失くし、根に落ちる。そして、青年から溢れる臓物と血によってその刀身を赤く染め上げた。

 

 青年の体が力なく樹海に倒れるよりも速く、背後から黒いヘドロのような物体が傷口から入り込み、その傷口を黒いヘドロで満たす。

 

「“ふっ、ふははははははははははははははははははははははははふはははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”」

 

 狂気、そして歓喜に満ちた笑い声が樹海に響き、少女達に恐怖を与える。風に目を隠された樹は空いている両手で両耳を覆っている。

 そんな少女達の前に四国の大英雄と聖騎士帝が立つ。

 

 そんな中、打ち捨てられた名も無き英雄の体が粒子になって空へ舞っていった。

 

「下がってろ。お前らにはアレはちと荷が重すぎる」

 

「アンタはあれが何か知っているのか?」

 

「アレは··········俺達の不手際だ」

 

「?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で呟く御影を見て、不思議に思うシャルルだが深い詮索はここでは無用。正面に向き直る。

 そんな二人より一歩前に乃木 園子が立つ。

 

「て、園子!?」

 

「おい、聞こえなかったのか。乃木の子孫でも容赦し、って痛い痛い」

 

「大丈夫、すぐ終わらせるから」

 

「“あぁ、正しく全知全能。これが世界、これが生命、これぞ神秘!こんなにこんなにこんなにこんなに美しい景色は初めてだ。”」

 

 絶え間なく流れてくる情報。そして、いとも容易く処理してしまう思考速度。才だけではなく完成した肉体をも手に入れた事にご満悦な悪神。だが、やはり頭が悪い。

 情報を得る事に注視するばかりで、未だ解答を得ていない。だからこそ、まかり通る。

 

「あなたの名前はなんて言うの?」

 

「“私の名は悪棲(あくる)。全知全能の神にして唯一絶対の――――――!?”」

 

「あーあ、やっちまったな」

 

「! マスター!?」

 

「おいおいマジか。死なずの化け物かよ」

 

 考えもせず自分の名を名乗った悪棲を嘲笑うようにして舞台に舞い戻る先程腸ぶち撒けられた青年。その姿は普段となんら変わっていない。

 

「おっと喋るな。口の中にだって当然影はあるんだぜ」

 

「“!!?”」

 

 口を開けて何か喋ろうとするも黒い物体が口を満たし、言葉が出てこない。先程懇切丁寧に説明した弱点を忘れていたのだろうか。

 

「お前、俺が何の保険もなしに戦ってるとか思ったのか?余程頭が緩いみたいだな。

 まあ、と言っても同一人物は世界に弾かれるからな。そこは賭けた」

 

 園子へ一瞬だけ視線を移し、すぐまた驚愕と恐怖で顔が歪んでいる悪棲へと戻す。

 ―――そこに悪棲の姿はなかった。

 

「逃げやがった、アイツ!!」

 

「いい。俺が連れ戻す」

 

 追いかけようとする御影を手で制し、次の瞬間消えたと考えるよりも速く、悪棲を乱雑に投げ捨てる姿がそこにはあった。

 

「“  、  、  !????”」

 

「ほら、もう一回もう一回。頑張って見ようぜ」

 

 そうしてまた逃げる。投げ捨てる。逃げる。投げ捨てる。逃げる。投げ捨てる。

 繰り返すに十度。最早、見ている勇者部と英雄二名は悪棲に憐れみを向けていた。

 

「ほら、逃げろー」

 

 逃げる意志を完膚なきまでに潰された悪棲は腰が抜け、這うようにして青年から離れようとしている。

 

「地球一周行って見よう」

 

 全力を込めた蹴りが悪棲の土手っ腹に直撃し、初速が見えない速度で彼方へと飛んでいった。

 そうして数秒後、後ろから飛んできた悪棲を―――

 

「ほら、もう一周!」

 

 蹴り返し、最初とは逆回転に地球一周を体験させる。地味に優しい青年であった。

 そうして元の位置に戻ってきた悪棲を今度は天空へと打ち上げる。

 

「んー、豆粒だな」

 

 天空へと打ち上げられた悪棲を親指と人差し指で挟むようにして眺める。青年の言う通り豆粒のような大きさで、星と勘違いしてしまいそうだ。

 

「プチっとな」

 

 親指と人差し指を合わせる。

 そうして豆粒は世界から消失した。ものの二分で終わった蹂躙だが、決定的な差を見せつけるには十分だった。

 満足した表情で、また全員に向き直る。

 

「てことで、俺の目的も終わったし、治すぞ。

 “汝らが供物、今この時をもって返還とする。”」

 

「「ッ―――!?」」

 

「あー、心臓と記憶は痛いだろうが我慢しろ。ついでに御影、“治れ”以上」

 

「俺だけ雑じゃねえか」

 

 頭を抱え、心臓を抑えて痛みに堪える東郷と園子。そして雑に治された御影。

 

「まあ、これで一件落着。

 ふぅー、疲れたぁ···········俺の三年間の大立ち回りが終わったぁ」

 

 全ての肩の荷を下げて、樹海の根に腰を降ろす。両手も樹海の根につき、最後になるであろう樹海の空を眺める。

 

「そう言えば、アタシ達についた嘘って何だったんですか?」

 

「神樹の結界に大穴開けたの俺。あと名前詐欺ってるけど、そっちはいいや」

 

「ん?今さらっとヤバい事言ってなかった?」

 

「結界壊したって、大丈夫なんですか?」

 

「ここがベストタイミングだったんだよ。俺の目的のためにも、お前らのためにも。それに結界の役目も失くなったしな」

 

「何対何対で?」

 

「8:2」

 

「やってんな、お前」

 

「悪棲だけは俺が殺したかったからな。親友(アイツ)のためにも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海が解け、いつものように学校の屋上にある祠へ場所が移る。そこに御影を含む十人と一匹が今後について話し合っていた。

 

「マスターの目的が終わったって事は俺はもうお役御免でいいのか?」

 

「え、シャルルさん還っちゃうんですか?」

 

「退去ってヤツ?でも、目的達成してさようならは都合良すぎでしょ」

 

「英霊ってのはそういうもんだ。マスターに選択権は託す」

 

 シャルルのその言葉で全員の視線が青年に刺さる。ここでさようならすれば言葉という凶器が青年に襲いかかるだろう。

 

「“シャルル、御影は受肉しろ。”んで御影は配送」

 

「ちょ、おま―――」

 

 御影が反論する間もなく、青い鳥と肩に触れた青年共々姿を消した。とある上里の家にでも飛ばされたのだろう。

 そして、驚く間もなく青年のみが戻ってきた。

 

「ああもう無茶苦茶すぎでしょ、アンタ」

 

「御影さんは一体何処に·········」

 

「さあ?今ごろ再会のハグでもしてるんじゃね」

 

 さも何も知らないように語る青年ではあるが、コイツがそうした張本人である。もうこれには笑うしかない。

 

「あの、受肉ってなんですか?」

 

「普通の人間と同じになるってことだ。退去する必要はない。俺が死ぬまで付き合ってもらう」

 

「まあ、そういう訳だから、今後もよろしくな!」

 

 これにて物語は終幕。けれど、彼らの人生は潰えず、後日談は続いていく。描写されることはないが、まあそこはご想像に任せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
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  • シャルルマーニュ
  • 御影 士郎
  • ⬛⬛ ⬛⬛
  • 結城 友奈
  • 東郷 美森
  • 犬吠埼 風
  • 犬吠埼 樹
  • にぼっ······三好夏凜
  • 乃木 若葉
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  • その他(北野とか柚葉とか)
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