気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 皆さんは、自分せいで人に大怪我を負わせてしまったということはありますか?····私は負わされた側でしたね····。その時の相手の顔は、なんと言うか····いろんな感情がごった返している表情だったのを覚えています。その時は故意ではないと分かったので和解しました。

2026/3/17/ 修正完了しました。


誇り

 

 

 

 

 

 

 ✕月✕日

 幸い俺は、片腕を失った事による貧血だけだったので数日程度で退院する事が出来た。退院する前にタマの病室に行ったはいいものの心労をかけただけのように思える。伝えたかったことは伝えたし良いんだけどさ。杏はいつも通りで安心した。あと残っている問題と言えば、千景だけだな。俺の退院中ずぅーと寮から出てないらしい。そのため、心の救療をとるため、俺と入れ替わりで実家に帰ったらしい。ここで友奈と離すのは違うと思うんだが·····明日、ダッシュで追いかけるか。そうと決まれば、早く寝よう。

 

 

 

 

 

 

「······よし、これで片付けは終了だな。」

 

 片付けと言っても、俺の荷物なんて着替えと勇者御記ぐらいしかないんだけどな。片腕のみという事もあり、少し手間どったが。

 片付いた病室を一望して、一息つくと見計らったように若葉が入室してきた。

 

「早く退院出来てよかったな」

 

「そりゃそうだが、体力が随分と落ちちまったな」

 

「その程度、ここからいくらでも巻き直せるだろう?」

 

「もちろん。つーことで特訓付き合ってくれよな、若葉」

 

「ああ、何度でも付き合うさ」

 

 まぁ、まずは走り込みからだけどな。そっから片腕の動作確認をして、慣らしていく他ないだろう。本調子に戻るまで長くかかるな。

 荷物を持ち、若葉と共に病室を後にする。そして、廊下に出た俺は若葉とは真反対の方向へと進み出す。

 

「出口はそちらではないぞ」

 

「俺はタマに会いに行くから、若葉は先に帰っていいぞ」

 

「·····わかった」

 

「ちょっと喝入れてくるだけだからな?」

 

 なんだ今の間は。俺は病人に止めを刺すヤバい奴じゃないからな。きっと、優しいタマのことだ。自分の責任だと思っている事だろう。それをぶち壊しに行く。

 

「球子の病室は直進して右に曲がって、二つ目の部屋だ。一つ目は杏が入院していたが、もう退院済みとなってる」

 

「助かる」

 

 そう言い、後ろに一度も振り返らず歩いていく。若葉の言う通りの病室の表札には土居 球子と書かれている。

 深呼吸し、四回扉をノックする。

 

「御影士郎だ」

 

 返事はない。部屋を間違えたかと思い、表札を再度確認するがやはり土居 球子の病室だ。間違えてはいない。

 再度扉をノックする。

 

「聞こえてるかー!」 

 

 声量が足りなかったのだと思い、少し声を張り上げる。すると、扉の向こうから慌てて走るような音がした。

 

『すいません!今、開けます!』

 

 どうやら、見舞いに来ていた杏のようだ。先程若葉が既に退院していると聞いていたため、そこまで不思議とはおもわない。

 

「すいません、驚きでワタワタしてました」

 

「急に来て悪かったな」

 

 謝りを入れながら、病室に入室する。その先には俺の病室と同じ作りの部屋があり、ベットの上には当然タマが上体を壁に預けるようにして座っている。

 

「ッ······、士郎」

 

「よっ!元気そう····じゃないな。まっ、久しぶり、タマ」

 

「うん、久しぶり········」

 

 驚きで瞳を大きく開いていたのも束の間、目を細め、視線が合わないよう俯いてしまった。やはりと言うか何と言うか、相当きてるようだ。

 

「杏、タマと二人で話したいからちょっと席を外してくれ。」

 

「··········わかりました。あまり無理させないでくださいね」

 

「あ、あんず!―――いつッ!」

 

 何故か俺に対して一礼し、追われるように病室を後にする。その際、タマが引き留めようと体を動かすが、傷が痛み、顔を歪ませた。

 にしても、杏がタマに声を掛けずに出ていくとは。杏も杏で焦燥感に駆られてる雰囲気がある。

 

「あんまり急に動くな。怪我が悪化したらどうすんだよ。別に取って食ったりしねぇから安心しろ」

 

「····うん」

 

 体勢を元に戻し、また暗い表情を一瞬だけ覗かせ、俯いてしまった。このままの状態では一生怪我は治らないだろうな。

 

「········」 

 

「········。」

 

 冷たい沈黙が流れる。

 こういう時、元気づけるにはどう声を掛ければいいか俺は知らない。タマが暗い理由は負けて怪我したことだと思うが、それに対してどう想っているのかがわからない。

 

「······士郎はさ―――」

 

「んっ?」

 

 静寂を破ったのは予想外にもタマの方からだった。

 

「タマに、怒ってないのか?」

 

「?·····何でだ?」

 

 俺がタマに怒る?

 なにか俺がタマに怒る理由などあっただろうか。先週の休み時間に愛媛産のミカンを顔面に投げられたことだろうか。

 そんなことを考えていると、意を決したのか泣き顔を上げ、俺と視線を交差させる。

 

「タマのせいで····士郎の左腕が·····」

 

「そっちか」

 

 タマに聞こえない声量で小さく呟く。ここはあたかも知っている風を装う。タマの勇気を無駄には出来ない。

 しかし、これでタマの暗い理由が判明した。それなら、如何様にもやり方はある。

 

 少し照れくさいが、タマの勇気に勇気で応える。

 

「タマ。俺はお前に感謝こそすれ、怒ったりはしてない」

 

「はあ!??なっ、なんで····!?」

 

「正直、あの時俺は逃げ出しそうになった。進化体を目前にして、タマと杏が後ろで後退しているのに、俺は逃げたいと思った」

 

 切り札を持たない俺からすれば、進化体と一人でやり合うと言う事は自殺行為に等しい。それに、あの時は刀を収束した後だったからな。策もないときた。正しくあの時俺は死を覚悟し、逃げようと舵を切りかけた。

 

「でも、士郎は逃げずに戦ったろ!?」

 

「そりゃあな。

 勇者の中で誰よりも小さく、誰よりも戦うことに適さないタマが、身の丈以上の勇気を振り絞って友達抱えて逃げてるのに、俺がだけ逃げるなんて出来ないだろ?」

 

 タマの頭に右手を起き、目にかかった髪の毛を親指で上げる。潤んだ綺麗な瞳がよく見える。

 もしも、あの場でタマが立ち上がらす、自身の運命を受け入れていたのなら、俺は尻尾巻いて逃げ出していただろう。草薙剣を使用することを考えずにな。

 

「でも、あれはタマのせいで―――!」

 

「タマが盾で踏ん張ってたから杏は生きてる。俺も間に合った。全部タマのせいじゃない。タマのおかげで生きてる奴がいる」

 

「それでも、士郎が治らない怪我を負った事は変わりないだろ!?」

 

「こんぐらいは怪我とは言わねえさ。

 まだ刀を握れる。まだ誰かの手を取れる。まだ落ち込んだ友達を引っ張り上げれる。どうだ、まだまだ現役だ」

 

 我慢の現界が来たのか、大粒の涙が頬を流れ、布団を濡らしていく。次に鼻水がちょっと顔を出してきた。これではもう時期顔がぐちゃぐちゃになるだろう。

 

「どうして、だよぉ·······タマにそんな、優しくされる理由は―――」

 

「理由?理由ならもちろんある。

 タマが、強いては皆が俺にとっての誇りだからだ」

 

「―――!!」

 

 若葉、ひなた、千景、友奈、杏、タマ。全員が俺にとっての誇りであり、俺が絶対に未来へと進ませようとしている奴らだ。未来は暗いモノなんかじゃない、未来は明るいものじゃないと駄目なんだ。

 

「ほら、鼻水出てるぞ。」

 

「んっ·····」

 

「自分でしてくれると助かるんだが」 

 

 近くの机にあったティッシュを取り出し、タマの鼻を噛む。流れでやってしまったが、絵面的にセーフと見せかけたアウトだろう。

 ティッシュをゴミ箱に投げ入れ、泣きやんだタマと視線を合わせる。

 

「元気出たか?」

 

「――――もちろん!タマ、完・全・復・活!!!」

 

 そう言いマッスルポーズを決めるタマ。小さい力瘤が出ているのを見るに、結構衰えているのが見て取れる。しかし、元気がでたのならそれで良い。

 

「そりゃあ良かった。じゃ、俺は帰るな。」

 

「·····おう。いつでも来ていいからな!」

 

「毎日来てやるから覚悟しとけよぉ。まっ出来たらだがな。」

 

「楽しみに待っとくからな!」

 

 手を振りながら、病室から退出する。

 これで当初の目標は達成したため、ようやく帰れる。早く走り込みを始めなくては若葉との距離が離れてしまう。それにしても

 

「恥ずいな·········」

 

 ちょっとどころではない。かなり恥ずかしい。

 本音を言ったまでではあるが、顔が暑くなるのを感じる。汗ばんできている。部屋に戻ったらシャワーを浴びた方がいいかもしれない。

 予定を決めながら階段の方へ向かっていくと、曲がり角から誰かが飛び出してきた。

 

「あの」

 

「うおっ!って杏か。急に声をかけないでくれ。心臓が止まるかと思ったぞ········」

 

「私もちょっと話したいんですが、今いいですか?」

 

「? 大丈夫だが、どうしたんだ?」

 

「ここでは話せないので場所を変えましょう。」

 

 杏から話だと。思い返せば、杏と喋ったのは少なかったな。これを機に杏のことを知れたらいいなと思うが、嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 場所は変わり、中庭のような所に来た。周りでは入院している子供やお年寄りなどの人達が知り合いと和気あいあいと過ごしている。

 中庭が一望できるベンチに隣り合って座る。

 

「タマっち先輩はどうでしたか?」

 

「もう大丈夫だろうな」

 

 タマは完全復活、とは身体的には言えないが、精神面だけ見れば大丈夫だろう。後は時間が解決してくれる筈だ。  

 

「タマっち先輩、この数日間上の空って時が多くてとても心配だったんです。」

 

「タマは優しい奴だよ、ほんと」

 

 今回の件に関しては三体で来た進化体が悪い。誰もこの事態は予測出来なかった。死者が出なかっただけ御の字だ。

 

「そうなんですよ。でもその分、今回の事を自分の責任だと塞ぎ込んでしまい········」

 

「そういや、ひなたから杏は精神面がボロボロって聞いたが」

 

 話題をタマから逸らし、杏の話へと移させる。このままでは一日中タマの良い所を会話するだけになってしまう。いつもならそれも良いが、今は時間がない。

 

「はい。最初、タマっち先輩の姿を見たらこのまま死んでしまうんじゃないかと思って、慌ててしまい、みっともない姿をみなさんに見せてしまいました。」

 

「俺は見てないからセーフだな」

 

「ふふっ、わかりました。士郎さんはセーフにしときますね。」

 

「そりゃあ助かる。」

 

 そう言えば、精神汚染は広がるものだと聞いた事がある。まさかとは思うが千景や友奈もこんな状態とは言わないよな。

 

「正直言うと私、士郎さんが病室に来た時、怖くなちゃったんです。」

 

「えっ?俺そんな怖かったか?」

 

 怖い顔して向かったつもりはないんだが。今度からは病室に向かう時は笑顔で向かうことを決めた。

 

「いえ、そうじゃなくてですね。······士郎さんが怒ってタマっち先輩を傷つけに来たんじゃないかと疑ってしまったんです。」

 

 杏が想像する俺に絶句する。

 もし、俺がそんな奴なら俺は俺を殺すだろう。誇りを汚そうとする奴は例外なく斬る。誰であろうがな。

 

「でも、士郎さんの顔がいつも通りで心配して損した気分です。」

 

「俺はそんなに怒らねぇよ·····むしろ、今回の事に関しちゃあ感謝しているかな。」

 

「それは良かったです」

 

「·····よし。そろそろ本題だろ?」 

 

 無駄話を切り上げるために一度深呼吸を挟み、杏に問いかける。俺の言葉が以外だったのか、目を丸くしてこちらを見入る。

 

「気づいてたんですか?」

 

「そりゃあなぁ。ずっと何か言いたそうにしてたろ」

 

「····流石ですね。」 

 

 先程までの会話は言わば心の準備時間。言い辛い事なんていくらでもある。それをズバズバ言える人間などそこまでいないだろう。

 

「実はもう戦いたくないんです···········」

 

「おう。わかった、俺から若葉に言っとくよ」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん。だって、戦いたくないんだろ?」

 

 杏の確認を肯定する。承認されるとは一ミリも思っていなかったんだろう。鳩が豆鉄砲喰らったようなな顔をしている。

 

「タマっち先輩も戦えません。二人が一度に抜けるんですよ?」

 

「杏は戦いたくないんだろ?」

 

「······はい。」

 

 タマと杏が戦線から離脱する。

 確かに後方からの支援も皆を守る盾がなくなるのは痛手だろう。しかし、俺的には戦いたくない奴が戦うのは少し酷な話だと思う。

 

「それなら戦わなくていいんだぞ。そもそも俺はお前らが戦うのはどうかと思う」

 

「·······」

 

「杏ぐらいの年代だったら武器なんか持たずに、戦う事なんか考えなくていい。友達と笑って、喋って、買い物して、日々を楽しんでるだろうからな」

 

 俺を除いた皆が笑顔でショッピングモールを買い物袋を手に提げて楽しむ姿を幻視する。

 そうであったら、どれだけ良いか。

 

「杏は何も心配しなくていいぞ。····あっ、大社にも話しを通しとくから。」

 

 杏とタマの生活保護と楽出来る程の金を巻き上げてやる。首洗って待っとけよ、大社。

 

「大丈夫です。私から若葉さんに言います。」

 

「そうか。でも、大社には俺も用があるからついでに言っとくな。」

 

「あっはい。お願いします」

 

「これで話しは終わりだな。俺はもう帰るが、まだ用はあるか?」

 

 ベンチから立ち上がり、体を伸ばしながら杏が未だ座っているベンチへと振り返る。

 

「大丈夫です。改めて、タマっち先輩の事、本当にありがとうございました。」

 

「おう。杏もタマにしっかりと寄り添ってくれ。」

 

「もちろんです。タマっち先輩は私がしっかりと見守っていきますねっ!」

 

「あの元気の塊のようなヤツをか。キツイけど頑張れよ·······」

 

「·······無理かもしれません。」

 

「そこは嘘でも『うん』って言ってくれ······」

 

「精一杯やってみます。それではまた」

 

「おう。俺も時間あったら様子見に来るから」

 

「いつでも歓迎します。」

 

 ふぅー、これで心配事を二つ片付けられた。順調だな。さて、千景の様子を見に行かなきゃな。その前に荷物を置きに行かないと。

 

 

 

 

 

 

 寮までの途中の道で千景とばったり出くわした。不運なことに、夕日のせいか目を細めるしかなく、千景の顔があまり見えない。

 

「おっ、千景じゃねぇか。外で出会うなんて珍しいな」

 

「···えぇ、そうね。」

 

 外で会うのも珍しいが、それ以上に珍しいことがある。

 

「友奈は一緒じゃないのか?」

 

「今から実家に帰るの、流石に高嶋さんは一緒じゃないわ。」 

 

「こんな時間帯から行くのか。着くのは朝ぐらいか?」

 

「そうね。早朝には着いていると思うわ」

 

 いつも一言で会話を終わらせる千景とは思えない。遂に千景と仲良くできたのだと思ったが、現実はそう甘くない。

 

「それで?さっきから地面を見てるが、何か落ちてるか?」

 

「ッッ····!」 

 

 何か気になる物でも落ちてるのかと千景付近の地面を確認するが、何も落ちていない。至って普通のタイルだ。

 なら、下をずっと見ている理由として考えられるのは貧血だろうか。そう考えると、千景の顔が心なし青く見えてきた。

 

「気分が悪いなら、寮で休む事をオススメするぞ。」

 

「貴方には関係ないでしょっ···!」

 

「そうか。じゃ気をつけてな」 

 

 先程まで穏やかな表情から豹変し、声を荒げる。

 最初に思い浮かんだのは、杏が言っていた切り札の副作用。もしくは単に俺が嫌いであるということ。後者であれば俺は寝込むだろう。

 

「えぇ·······」

 

 そう言い、俺に目もくれず横を通り抜けていった。何処か急いでいるようだったが、大丈夫だろうか。

 今は大丈夫だと願うしかないな。

 

 

 

 





 今、凄く調子がいいです。これも二時間程度で書けました。多分、そろそろ落ちてくので安心して下さい。

 さて······何だか不穏な感じがしてきましたね。まっ後はゆっくりと崩れていくのを楽しみにしていきましょう。

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