気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 俺はずっと安定した場所にいたい。崩れそうな足場を進みなくない。今までの生活が壊れることに恐怖を覚えるよ。
 それでも、それでも進むからこそ勇者なんだろうな。 



一人で立ち上がらずとも

 

 

 

 

 夏凜の誕生会から約二週間経ったある日。俺達はいつも通り部室に集まっていた。

 

「うっし。それじゃあ俺は犬探しに行ってくる。」

 

「いってら〜」

 

 今日は犬探しだけしか依頼がきていない。よって、犬探しに割く一名以外は部室でダラ〜としている。その一名が俺なんだけどな。

 風先輩の声援を受け部室を退出する。部長とは思えない、気が抜けた声だったがいつものことだからスルーする。犬探しガンバロー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬探しを終えた日の夜。俺は食事やお風呂を済ませ寝る準備をしていた。

 猫か犬を探した日はクロが一緒に寝ようと俺の寝室に来る。今回も変わらず、トテトテと布団に入ってきた。

 

「全く、甘えん坊さんだな〜。」

 

 甘えているのか頬ずりをしてくる。

 あぁ〜、心が浄化されていく。この勢いで覚者へと至るか。

 

「もう遅いから寝ちま······?」

 

 突如としてスマホが鳴る。

 なんだ······こんな時間に。どっかからの広告か?

 スマホを充電器から外し起動する。どうやら、風先輩からのチャットが来たようだ。

 

『シャル起きてるー?』

 

『起きてますよー』

 

 既読無視してもいいが、ここはしっかり返してくおく。もし、大事な内容だったら後日大変なことになるからな。

 

『悪い子ね』

 

『風先輩もでしょ』

 

『アタシはスーパー良い子だから問題ナシ』

 

 なにその、スーパーサヤ人みたいの。ってか問題大アリだろ。いろんな意味で

 

『どうしたんですか?』

 

 こんな会話のためにチャットをしてきた筈がない。

 

『今日、シャルが犬探しに行った後いろいろあったのよ』

 

『ふむふむ』

 

 寝てませんよアピールの相槌を打ちながら風先輩の話しを読む。

 

『樹のクラスで歌のテストがそろそろあるみたい』

 

『歌のテストかー』

 

 なんで皆の前で歌う必要があるのか謎なヤツね。

 

『樹って人見知りな所あるじゃない?』

 

『あるな』

 

 お花見で会ったときも俺との会話、ほとんどなかったもんな。

 

『歌のテストって皆の前で歌うでしょ?』

 

『だいたいわかった』

 

 つまり、歌のテストがヤバいってことだな。

 

『シャルにもどうやったら樹の歌のテストが成功するか考えて欲しいの』

 

『了解です』

 

 歌のテスト対策か······俺の場合は楽譜を見ることしかやってなかったな。別段、恥ずかしくて歌えないとかなかったし。

 

『じゃ、明日の放課後聞くわね』

 

『はーい』

 

『おやすみー』

 

『おやすみでーす』

 

 スマホの電源を切り、充電器を刺し込む。充電開始の音を聞き、テーブルの上に置く。

 

「じゃ、寝るか。」

 

「にゃっ」

 

 布団を被り目を閉じる。それだけでスッと眠りにつける。本当に英霊の体は便利だとつくづく思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。今日の勇者部の活動は停止して作戦会議となっている。

 

「作戦決行は明後日·····みんな、いい案持ってきた?」

 

「自信たっぷりですっ!」

 

「一つだけならあります。」

 

「考えてやってきたわ」

 

「ばっちしだ。」

 

「お姉ちゃん、そこまでしなくても·····!」

 

「樹は安心してなさい。歌のテストなんて吹っ飛ばしやるから」

 

「吹っ飛ばしちゃダメだよ〜!」

 

 作戦決行は明後日か······たっぷり時間を取れるのは今日のみ。ここで決まらなければ不味い。

 

「まずは友奈から」

 

「はい。私が持ってきた作戦は······なせば大抵なんとかな―――」

 

「却下。次、東郷お願い」

 

「なんで·····!?」

 

 作戦で根性論持ってきたら駄目だろ。無茶な作戦を根性で補うのまだしも、作戦自体を根性にしちゃーな······。

 

「ご褒美作戦はどうでしょう。」

 

「続けて」

 

「飴と鞭。歌のテストが終わったら樹ちゃんが大好きな物をあげる。これをすることによって歌のテストを頑張れると思うんです。」

 

「採用。次、夏凜お願い」

 

 やっとマトモなのがきたな。

 東郷の作戦結構いいな。キツイ仕事でも割に合う給料を貰えれば頑張れるってもんだ。だからこそトラック運転手の給料をもっとあげていいと思う。

 

「サプリよ。」

 

「具体的には」

 

「喉の調子を整えるサプリ。肺を整えるサプリ。いろんなサプリがあるわ。それらを用いて樹をパワーアップ·····ミッションコンプリートよ。」

 

「保留。次、シャルお願い」

 

「保留!?サプリをキメなさいよっ!」

 

 ヤバいって····言動がヤバいって。

 さて、俺の番だな。この日のために俺は授業中の時間ずっとマルチタスクしたんだ。情熱が違うぜ。

 

「まず樹にはα波を習―――」

 

「ごめん。それもうやった」

 

「なん···だと·····!?」

 

「やっばりα波よね。シャルル君ならわかってくれると思ってたわ。」

 

 この思考に至った奴がいるとは······恐ろしいぜ。

 

「次行っていい?」

 

「まだだ······!まだ、俺のターンは続いている。二つ目の作戦を発表してやるよ」

 

「二つあるのね」

 

「流石、シャルくんっ!」

 

 ふっ·····策士の俺に弱点はない。甘く見てもらっちゃあ困る。

 

「片っ端から緊張を和らげる行動をする。」

 

「例えば?」

 

「笑顔だ。作り笑いでもヘラヘラするんだ」

 

「樹。」

 

「ぇ、え?」

 

「笑顔よ。」

 

 即実践か。流石だな、風先輩。

 

「に、ニコッ!」

 

 ニヘーとした顔っていうのはああいうヤツか。勉強になります。

 

「どう?」

 

「どうって言われても····」

 

「こんな短時間で効果出るわけないでしょ」

 

「笑顔で緊張をほぐす·····だから友奈ちゃんは·····」

 

「どうしたの?」

 

「なんでもないわ、友奈ちゃん。」

 

 確かに······友奈が緊張してるところを見たことが····夏凜の誕生会でしてたな。いや、あれは咄嗟の嘘がつけなくて動揺しただけか?

 

「シャル、他ある?」

 

「おう、あるぞ。深呼吸をするだな····おっと、これは本番前でするヤツだった。」

 

「本番······っ。」

 

 本番って言葉を聞くのも嫌とは····重症だな。先達としてなんとかしてやらないとだが······

 

「これで最後だ。」

 

「とっておきのよね?」

 

「もちろん。そして簡単だ。」

 

 メモなんて必要ないほどのな。

 

「樹、弱い自分を想像するじゃない。想像するのは常に最強の自分だ。失敗とか敗北とかを想像するな。勝った姿だけを思い浮かべるんだ。」

 

「最強の······自分·····。」

 

 エミヤ先輩あざっす。

 

「まぁ、心の持ちようだな。」

 

「やっぱ精神的な部分になるかしら·····」

 

 緊張ってのは自分に自信がない表れだからな。自分に自信たっぷりの奴が緊張してるところなんて見たことがない。

 

「じゃ、次は風先輩だな。」

 

「練習あるのみっ!カラオケに行くわよ!」

 

「は?あ、ちょ待ちなさい!」

 

 猛スピードで部室を出て行った。目的地はたまに行くカラオケだろう。

 

「よし、俺達も行くか。」

 

「そうだね。」

 

「そうね。」

 

「ほら、樹も行くだろ?」

 

「······あ、はいっ!」

 

 主役が来なきゃ意味ないからな。

 エミヤ先輩の名言があれば少しは前を向ける筈だ。そこからは簡単、ちょっとずつ自分に自信がついていく。勝ったな。

 

 この後、カラオケで歌い明かしたが樹の声は聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。歌のテストまであと一日。流石に二日連続活動を止めることが出来ないため、泣く泣く活動しています。主に風先輩が

 

「ここを右だったかしら」

 

「どれどれ······ここは直進だな。」

 

「う〜ん、ややこしいわねここら辺」

 

「だな。」

 

 樹、風先輩と猫を引き取りに行っている。一昨日里親がやっと見つかったため、猫を預かっている人から受け取りに向かってる。

 

「········。」

 

「これなら海沿いを歩いた方が良かったな。」

 

「そうね。まさか、ここまで入り組んでるとは」

 

「まぁ、それはしょうがない。まだまだ、ここらの地理を完全に覚えきってないからな。な、樹?」

 

 さっきからボーッとしている樹に話しを振る。

 

「········。」 

 

「樹······?」

 

「······ぇ、あっ!な、なにお姉ちゃん?」

 

 完全に自分の世界に入ってたそれですね。

 

「大丈夫か、樹?」

 

「体調悪いの?」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「それならいいんだけど·····」

 

 ちょっと心配だが、樹が大丈夫って言ったんだ。なら大丈夫だろ。

 

「······ここだな。」

 

 駄弁りながらも目的地に到着した。風先輩がチャイムに近づき押す。

 

「勇者部でーすっ!猫を引き取りに来ましたー!」

 

「········んっ?」

 

 家の中から子供とお母さんの言い合いが聞こえる。どうやら、預かっているうちに情が出来たらしい。

 

「あちゃ〜·····もっと聞いとくべきだった」

 

「しゃーない。交渉しにいくか。どっちの味方する?」

 

「子供で」

 

「りょーかい。」

 

 俺の説得術第一番を使うときがきたな。

 

「樹はここで持っててくれ」

 

「あ、わた―――、うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後交渉は成功し、猫を飼う方針になった。お母さんも納得する形になって良かった、良かった。

 

「なんとかなったわね。」

 

「良い形で収まって良かったよ。」

 

「そうですね·····」

 

「経験者がいて助かったわ」

 

「猫はいいぞ」

 

 猫アレルギーの人がいるとかの理由で飼えなかったら流石に交渉出来なかったけどな。子供も俺と約束してくれたし心配しないでいいだろう。

 

「じゃ、俺はこっちだから」

 

「また明日ね〜」

 

「今日はありがとうございました。」

 

「おっと忘れるところだった」

 

「なんか忘れ物?」

 

「おう。」

 

 ポケットから一つの紙を取り出し、風先輩に近づいていく。

 

風先輩これ、お願いします。

 

 樹に聞こえないように風先輩の耳元で伝える。紙をスッと風先輩のポケットに滑らせる。

 

「ひゃ!?」

 

「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

 

「い、いや····なんでもないわよ。その声で囁かないの!

 

「すまん、すまん。」

 

 初めて風先輩の乙女ボイス聞いたわ。なんかいけないことをしてる感じで······ヤバいな。

 

「またな。」

 

 そそくさとその場を後にする。明日の歌のテストが心配だが、あの紙があれば大丈夫だ。樹なら大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。ホームルームが終わった瞬間部室に全力疾走で向かう。

 

「·······」

 

「早すぎだろ風先輩」

 

 最短最速で来たにも関わらず既に先客がいた。妹好き好きお姉さんがいつもの席に座っている。

 

「······」

 

「······」

 

 沈黙。いつもなら風先輩と俺だけでも馬鹿騒ぎしているが、今回はなにも喋らず、なにもせずじっと座っている。

 

「「――!」」

 

 扉が開く音がした。瞬時に扉の方を向く馬鹿二人。

 

「結城 友奈来ました!」

 

「失礼します。」

 

「·····東郷····友奈····。」

 

 風先輩は樹じゃないと知った瞬間ガクッとなった。

 

「樹ちゃん成功しましたでしょうか······。」

 

「う〜ん·····樹ちゃんなら大丈夫だよ。」

 

 そんな話しをしているとまた扉が開いた。

 

「失礼するわよ。」

 

「なんだ····にぼっしーか···」

 

「なんだとはなによっ!」

 

 風先輩は一と百しかないというのをメモしとくか。

 

 

 

 

 

「失礼します。」

 

「!――樹ぃぃ!!」

 

「うわっ!」

 

 樹が入ってきたと共に凄い動きで樹に抱きつく風先輩。

 ちょっと待ってくれ·······今、どうやって座ってる状態から抱きついた?関節を完全に無視してる動きだった。

 

「どうだった、樹?」

 

「ばっちしですっ♪」

 

「でかしたっ!」

 

「これがサプリの力よ」

 

「やったね、樹ちゃん!」

 

「ぼた餅よ、樹ちゃん。」

 

「さっすが!アタシの樹!」

 

「ちょ、お姉ちゃん、止めて····!」

 

 めっちゃ嫌がられてますけど。

 

「祝杯をあげるわよー!」

 

「イェーイ!!」

 

 お祭り騒ぎだな。樹の人望がよくわかる。←お祭り騒ぎにしてる張本人

 

 ありがとうございます、エミヤ先輩。

 

 

 





 シャルルマー·····いや、⬛⬛ ⬛⬛はさっさと尻を地面から上げろ。誰かの手を借りろ。

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