気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 何もかも過ぎ去った今を生きているとは幸福か不幸か。どちらにせよ、それは―――



暗闇の中でさえも

 

 

 

 今日は勇者部の活動が突如として休みとなり、俺以外のメンバーは風先輩宅へ集合となっている。当然、銀と園子もだ。つまり、今家にいるのは俺とクロだけ········寝放題だなっ!

 布団に入り、寝る体勢をとる。後は目を瞑るだけで終了だ。おやすみなさい―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の夢はどうやら樹海のようだ。ここに良い思い出ないんだけど·········待て、この違和感は······。

 

「夢······いや、違うな。」

 

 この前の夢が俺本来の体であったのに、今回はシャルルマーニュとして来てる。その時点でこれが夢ではないナニかだと確信する。

 う〜ん、この感じ的に·······俺自身と会った時に似てる。ということは今の俺は仮死状態?なんかな。

 

「―――初めまして、かな」

 

 この声は―――!

 声がした後ろへ体を振り向き、発声源を見る。そこには友奈―――とそっくりな人物が立っていた。

 

「友奈······高嶋 友奈か」

 

 微妙に雰囲気と髪につけている飾りが違う。そこから、俺の記憶に合致する人物を検索する。一つだけ当て嵌まる人物を見つけた。

 御影 士郎の勇者御記に載っていた高嶋 友奈。友奈と瓜二つな彼女しかないだろう。

 

「びっくりしないんだね」

 

「死者と会う機会が何度もあったのでな。今更、というわけだ」

 

「士郎くんにも会ったんだよね······どうだった?」

 

「御影の普段を知らない俺に聞かれてもな」

 

「あ、そうだよね······ごめん」

 

 そんな顔しないでくださいよ。罪悪感で胸がズタズタにされてしまう。

 

「·········元気そうだったぞ」

 

「!·······そっか、それは·····良かった」

 

 元気そうだった、というよりははしゃいでたな。久しぶりのシャバの空気を吸えたからだろうか。というか、あの顕現の仕方の謎が解けてないな。

 

「何故、この場に俺を呼んだ?」

 

「········天の神の祟り、受けてるよね?」

 

 把握済みってことか。ということは、此処に呼んだ理由は―――

 

「対抗策でもあるのか?」

 

「うん、あった」

 

 過去形やめてください。それ、今はもうないっていう意味ですよね。

 

「今は?」

 

「·········ごめんね。結城ちゃんにしか出来ない策だったから·········」

 

「それならばしょうがない、か」

 

 出しゃばってしまったのは俺だからな。それに痛みは承知の上だ。

 雫が高嶋の手の甲に落ちる。

 

「―――あ、れ······」

 

「どうした?」 

 

 なにか涙線に刺激を与えるようなことをしただろうか。もし、これで俺が原因だとすると御影に刺される。起きた瞬間殺される可能性がある。

 俺から指摘され、ようやく自覚したのかいそいそと涙を袖で拭う。

 

「ごめんね·······ちょっと、昔を思い出しちゃって····」

 

 ここはどうするべきか··········話を聞いた方がいいのだろうか。いや、でも話したくないのなら無理に聞くのも·······あ〜゛もうやったれ!

 

「話を聞こう。無理ならばそれでいい」

 

「·······それじゃあ、ちょっといい?」

 

「夢が醒めるまでな」

 

 ふぅ〜、なんとかなったな。今度御影に会った時に村正の刀要求しとくか。

 300年間生きるということはどれ程の苦行なのかは俺は知らない。以前600万年間を独りで生きていた男は知っている。その男は記憶を忘却することで生きながらえていた。

 ···········この話はもうよそう。

 

「士郎くんは本当に強くて、優しくて、カッコよくて·······私の憧れ、だったんだ。」

 

 少し照れながらも御影 士郎という男の生きていた証を語っていく。一言紡ぐだけでも、思い出が頭の中を駆ける。

 よし、村正の刀に付け足してカッコよさの伝授も要求しよう。これで俺もカッコよさをグレードアップしないとな。

 

「若葉ちゃんがみんなを引っ張ってくれるリーダーで、士郎くんは私達の道を作ってくれるもう一人のリーダーだったんだと思う。二人のお陰で頑張れた········どんな強大な敵にも立ち向かえた·········でも負けちゃった·······。」

 

 乃木 若葉、西暦勇者達のリーダー。

 自身の勇者御記では、御影の方がリーダーに向いていると書いていたが皆からは相応しいと認められてたんだな。

 

「そんな窮地をいつも士郎くんが逆転してくれた。えっと·········君の首にかかってる物の元である剣でね」

 

「草薙剣か。あれは正に規格外の代物と言う他ない」

 

 俺の首にかけている草薙剣の欠片を握る。

 推測だが、この剣には因果逆転のような効果がある。真価を発揮した瞬間にナニかが決定される。そのナニかはわからないが刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)同様途轍もないモノだろう。

 

「だから、安心してた·········きっと、今回も何事もなかったみたいに帰ってくるって·······でもっ······〜っ゛·······!」

 

 帰ってこなかった·········か。

 元々承知の上で天の神へと挑んだのか。それとも、ただの蛮勇だったのか俺にはわからない。だが、俺は信じている。蛮勇でも愚策でもない、誰にも譲れない誓いの為に命を賭けたのだと。それが御影 士郎という男だと。

 

「みんな、辛かった、苦しかった、泣きそうだった·······それでも、強くって······いつの間にか、前向いて·······私だけ向けなくて······何十年経っても忘れることが出来なくて·······私、ほんとにバカだな〜、って······ぁ゛〜っ·····」

 

 一人泣いている彼女から目を逸し、何もない空を見上げる。星がないせいか、本当に真っ暗で一寸の光もない。でも、こんな空でも綺麗だと感じる。それだけの雄大さがこの空にはある。

 

 何人もの勇者達の勇姿を見届けた空。覚悟の末を見届けた空。涙流した者も怒りで我を忘れた者も――でも、皆勇者で最高にカッコイイ奴らで·········あぁ、本当に眩しいいぐらいの色彩を放っていたとも。

 

「忘れる、ということは自身の思い出をなかったことにすることだ。弱さも強さも醜さも正しさも·······酷い記憶もあっただろう。喜びに満ちた思い出もあっただろう。」

 

「でも、どれも自分にとっては宝物で替えのない唯一の物だった。だから、忘れることも逃げることも出来なかった。」

 

 俺は母さんを憶えている。

 誰よりも頼れる背中を、優しい声も、温かい手の感触でさえも憶えている。そして、冷たくなってしてまった手も

 

 この数十年間。アイツらとの楽しい記憶も勇者である皆との記憶―――どれも母さんとの思い出に負けない程のものだった。でも、俺は忘れなかった。いくら、それ以上のものを与えられようが、手放さなかった。

 

「生きづらい、それで結構。この記憶を忘れるなら死んだ方がマシだ。何十、何百経とうが俺は忘れない。また、新しい思い出を作っていく。」

 

「それが俺だ。シャルルマーニュという英雄に憧れ、思い焦がれた者だ。」

 

 これだけは何年経とうが変わらないだろうな。そう思うほど、俺はどうしようもない馬鹿でどうしようもない愚者だ。

 

「私の、宝物··········うん、ちゃんとここにある。誰にも負けない········誰にも譲れない······私だけの宝物········」

 

 そっと胸に手を置く。そして、確かめるようにゆっくりと遥か昔の記憶を噛み締めていく。

 何もかも過ぎ去ってしまった今を生きるとはこういうことなのだろう。

 

 なんともない日々を幸福感に浸りながら思い出す。誰とどのうような話をして、どう思ったのか。そんな他愛もない記憶を

 

「うん、うん·······ありがとね。関係ない話しちゃって」

 

「構わないとも。どうさすぐ醒める夢なのだから」

 

 ただ、醒めるのをじっと待つよりかはこうやって人と話しておくほうが楽だからな。

 

「これで、ようやく士郎くんに前向いて会えると思う。」

 

「それでこそだ」

 

 御影もそっちの方が嬉しいだろうしな。これで要求するグレードを更に上げれる。へへ、村正の刀飾るの準備しなくっちゃな。

 

「多分これからは齧ることはないと思うから安心してね」

 

「あぁ·······ん、齧る?」

 

 あれ、高嶋 友奈に以前会ったけ?しかも齧られるなんて·········そんな記憶はないな。

 

「それじゃあ、またね。次······はないと思うけど、いつも応援してるよ。」

 

「········そちらこそ、御影への挨拶を考えていろ」

 

 絶対に終わらせる。天の神は必ず俺と御影で仕留めてやるとも。それが俺にできる最後の役目だ。

 暗くなっていく視界で覚悟を決める。どのような状況であったとしてもやりきらなければいけない。この後走る者達の為に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「齧らない·········でも、物を投げられるのは慣れないや········ごめんね」

 

 いつも彼を見ていると士郎くんを思い出してしまう。そのせいか、牛鬼という精霊に身を降ろした私は彼に齧りついてしまう。牛鬼の本能による影響だと思う。

 彼が従える十二勇士の方々は、ある記憶が呼び起こされてしまい、つい目を背けてしまう。

 

 あの日のように―――

 

 会場に放り投げられた爆弾。その場にあの子もいた。

 帯刀していた若葉ちゃんがいくつも起爆しないように斬ったが、それじゃ全然足りなかった。どうすることも出来なかった。

 

 また、誰かが死ぬ―――

 

 嫌だ、嫌だ。誰も失いたくない、誰も死なせない······そう思っても体は動かなかった。歳のせいでは絶対違う。そんな言い訳赦されない、赦さない。

 

 そんな時、あの子だけが動いた。

 残り数秒で爆発するという爆弾を集め、自身で覆って―――次の瞬間には会場は真っ赤になっていた。

 

 意味が解らなかった。理解したくなかった。その場にいる誰もがそう思っていた。

 誰かの泣き声が聞こえる。誰かの絶叫が聞こえる。そんな中、私はただ呆然と爆発の中心部を眺めることしか出来なかった。

 

 

 孫が出来たと喜んでいた彼が。

 

 

 結婚記念35年目だとはしゃいでいた彼が。

 

 

 ひなちゃんが愛情たっぷりで育てた彼が。

 

 

 生徒達に愛されていた彼が。

 

 

 士郎くんそっくりな彼が。

 

 

 テロリスト共はそんな私たちのことなんて考えない。無慈悲にも一つの爆弾が投げられた。そして、私の近くに落ちる。

 

 避けようなんて思わなかった。ここで死んでいいと思った。きっと、それは士郎くんに怒られるだろう。でも、私は―――

 

 後ろで怯えている私と同じ名前をした子が視界に映った。人の死なんて、人生で初めて見るだろう。それも、こんな残酷なものを

 

 あれは意識してした行動だったのだろうか。いつの間にか私はその子を力一杯押し退けた。爆発が当たらないぐらいまで力一杯、と。

 

「士郎くんなら······みんな、生きて········」

 

 そんな妄想をいつもしてしまう。

 士郎くんなら、誰も死なずにあの場を切り抜けれたのではないか、と。

 

 やっぱり、私はバカだ。

 

 

 

 






 高嶋が泣いた理由としては、シャルルの諦め方が御影に酷似してたからですね。
 そして、爆弾物を爆発しないように斬るという人間離れした所業をする若葉ちゃん。意味わかんないです。
 ちなみに、あの子とは·······なんて言おうかな。一言で表すならば、上里家唯一の勇者適正を持って産まれた者です。

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