ゴボリ、という音を立てて泡が空へと登っていく。いや、違う。空じゃない。キラキラ輝く何かが揺れている。あれは――。
(アタシ、なんで……)
揺蕩う意識の中、なんとか認識できたのは今、アタシは海の底へと沈んでいる、という現状だけだった。しかし、海の中にいるはずなのに息が苦しくない。だが、体が動かず、口から漏れる小さな泡が海面へと向かっていくのをただ見ているだけしかできなかった。
『ようこそ、■■■へ』
ゆっくりと沈んでいく中で、緑色の誰かが嬉しそうにそう言った。誰なのだろうか。その声を聞くと不思議と元気になれた。
『だから、次はゆっくり進んで行けば■■■じゃないかしら』
口から泡すら出なくなった頃、桃色の誰かが励ますようにそう言った。誰なのだろうか。この声に何度も励まされたような気がする。
『今の■■■■の想い、心にグッときちゃった!』
海面の光すら届かなくなった時、黄色の誰かが嬉しそうにそう言った。誰なのだろう。この時、アタシは確かに楽しかったはずだった。
『■■が感じたことを、もっとだしていいんじゃないか?』
もう何も見えなくなった。それでも黄色の誰かが諭すようにそう言った。答えの出ないアタシに彼は――いや、彼だけじゃない。緑色の誰かも、桃色の誰かも、赤色の誰かも、黄色の誰かと誰かも、青色の誰かも、アタシが困っている時、何度も手を貸してくれた。
(待って……行かないで……)
真っ暗な海の底。アタシは上か下かもわからないまま、それに向かって手を伸ばす。
その言葉は、想いはきっと、アタシにとって大切なモノ、だった。
それを聞くだけでこんなにも心の奥がキュッと締め付けられるのだから。
でも、思い出せない。
どこで聞いたのか、誰に言われたのか、どうしてそんな言葉をかけてくれたのか。
想い、出せない。
大切な、何か。それは一体、どこに行ってしまったのだろう。それは確かにアタシの中にあったはずなのに。
記憶が、灰に塗れていく。どんどん君が、遠のいていく。この
――咲希。
微かに緑色の誰かが、アタシの名前を呼ぶ声が聞こえた。一瞬だけ誰かの背中を思い出したのにそれを認識する前に消えてしまう。
(もう、ダメ……)
重たくなっていく瞼と薄れゆく意識。そのせいなのか、ゴボリ、ともう出なくなったと思っていた泡が再び口から漏れる。真っ暗なはずなのにその泡だけは光っていた。それがアタシの大切な何かに見えて――。
――アタシは、それを掴むことすらできずに
使用楽曲コード:N00570110