先ほどまでアルバムを見ながら思い出話に花を咲かせていたのにたった数分でアタシの部屋は重い空気に包まれ、今にも押しつぶされそうになっていた。
「……」
いっちゃんはほなちゃんやしほちゃんより顔色は悪くないものの、やはり状況を上手く呑み込めていないようで戸惑ったように視線を彷徨わせている。
ほなちゃんがこの中で最も精神的に追い詰められていた。ボロボロと涙を流しながら自分を守るように体を抱きしめ、震えている。
しほちゃんも悔しそうに手を握り締め、アルバムを睨みつけていた。とてもではないが、話しかけられる様子ではない。
「……ねぇ、咲希。何が、あったの?」
「……そ、れは」
いっちゃんも同じように思ったのか、ほなちゃんとしほちゃんを見ながらアタシの名前を呼ぶ。しかし、その問いにアタシは答えられない。
「ううん、違う……私の方が知ってる。そうだ、確か……」
だが、いっちゃんはアタシの返答もあまり聞こえていないようで頭痛を抑えるように頭を抱えた。今のアタシたちはバラバラになってしまった世界の記憶とこのバラバラにならなかった世界の記憶が混ざっている状態だ。記憶を呼び起こそうとすると2つの記憶が重なってどちらがどの記憶なのか、すぐに判断できなくなっている。
「……そうだよね。うん、咲希にも言っておかないと」
それでも、いっちゃんは記憶の整理を終えつつあるようで気持ちを切り替えるように頭を振り、顔を上げてアタシのほうを見た。その表情がいつものいっちゃんと違い、思わず生唾を飲み込んでしまう。
「話す、といっても私も、未だにわからないんだけど……咲希が入院してからしばらくして穂波と志歩とは疎遠になったんだ」
そして、彼女の口から出たのはアタシの知らない、皆の中学校生活のこと。見たくても見られなかった、アタシのいない空白の時間で起こった出来事だった。
「……そう、だったんだ」
今の状況から予想していたことだが、いっちゃんの口からはっきりとそう言われるとショックだった。でも、思い返してみれば予想できたと思う。
お見舞いは途中からいっちゃんしか来なかった。
手紙やメールを送っても2人からの返事は来なかった。
いっちゃんに学校の話をねだると少しだけ寂しい顔をしていた。
そう、兆候はあった。しっかりといっちゃんを見て、考えて、話をして、向き合えばちゃんと気づけたはずなのだ。
それでも、アタシは気づかなかった。気づけなかった。気づく余裕があの頃のアタシにはなかった。
じゃあ、なんで、そんなに余裕がなかったのか。
(そうだ、思い出した……)
いっちゃんの話を聞いてアタシも『
「……咲希?」
いっちゃんの呼ぶ声が遠くに聞こえる。
どんどん、顔から血の気が引いていくのがわかる。
上手く呼吸ができず、視界が狭くなっていく。
「ぇ、ぁ、さ、きちゃん!?」
「咲希、しっかりして!」
あれだけ気が動転していたほなちゃんとしほちゃんもアタシの異常に気付いて慌てた様子でなにか言っている。でも、今のアタシにはそれに応えるほどの余裕がない。それほど今のアタシは動揺していた。
「ぅ、そ……」
ガタガタと体が震える。頭が締め付けられるように痛い。今にも気を失ってしまいそうだ。
だけど、それでもアタシはゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返った。
狭くなった視界に映ったのはアタシの机。いや、机じゃない。その机の上に置かれた、アルバムを取り出した時に置いた数冊のノートだった。
「さ―、―――!」
「―――め! ―――――――」
「――、―――て―!?」
3人の声が聞こえる。もう、その言葉を認識できないほどアタシは限界を迎えていた。
「ぁ……」
ふらふらと、彷徨うように手を伸ばしながら前へと、歩き出す。何度も転びそうになりながら、
ゆっくりと、目の前に置かれたノートを手に取る。ノートの表紙には何も書いていない。だが、何度も使われているようで紙が少しだけよれている。
開けるな。
開けろ。
読むな。
読め。
思い出すな。
思い出せ。
思い出せ。
思い、出せ。
思い出してよ、
「―――――――――――ああ」
開かれたノートに広がっていたのは――ずっと目を逸らしていた、
長くなったので分割しました。