「おはよー!」
余裕を持って家を出た挙句、走って登校したおかげでいつもよりも早く学校に到着したアタシは勢いよく教室の扉を開ける。しかし、そこには誰もおらず、アタシが一番乗りなのだとすぐに気づいた。
「……」
とりあえず、自分が使っている机に鞄を置いて周囲を見渡す。誰もいない教室はほとんど見たことがないのでどこか新鮮だ。特にやることもないので席に着き、鞄の中から教科書類を取り出すがそれすらもあっという間に終わってしまい、完全に手持無沙汰になってしまう
(……こんなに、教室って広かったっけ?)
静かな教室でジッと黒板を見つめる。朝の練習だろうか、グラウンドの方から運動部の子たちの声が微かに聞こえた。それが余計に今のアタシが一人なのだと自覚させられる。でも、どうして――たったそれだけでアタシはこんなに
「……ん?」
その声の中に聞き覚えのあるものがあることに気付き、フラフラと誘われるように窓の方へと向かう。カラカラと音を立てながら窓を開け、耳を澄ませるとグラウンドではなく、別の校舎の屋上から『ワン・ツー』という掛け声が聞こえた。
(これって……)
そうだ、確かこの時間帯は屋上でアイドルグループ、『MORE MORE JUMP!』の皆が朝練していると聞いたことがある。教えてくれたのはそのアイドルグループに所属している国民的アイドル、『桐谷 遥』その人だ。まさかあのはるかちゃんと同じクラスになれるとは思わなかったので
――いかないで。
「……なん、で」
『復学』という言葉を思い浮かべた時、何故かズキリ、と心が痛んだ。そのあまりの痛さに体がふらつき、慌てて近くの机に手を置いた。おかしいな、どうしてこんなに、アタシ――。
「……咲希?」
「ッ……」
その心配そうな声で顔を上げれば目を丸くしてアタシを見つめる、幼馴染の『星乃 一歌』ちゃん――いっちゃんがいた。彼女の綺麗な黒髪が窓から入り込んだ風で僅かに揺れている。今更、気づいたがアタシが体を支えるために手を置いた机はいっちゃんの席だった。
「あ、れ……いっちゃん、おはよ、早いね?」
「う、うん、おはよう……日直と委員長の仕事があって……ってそんなことより、咲希、大丈夫? 顔色、悪いけど」
「え? そう、かな?」
慌てて机から手を離すが、彼女の顔を見ているとさっきまで胸を燻ぶっていた不安が一気に膨れ上がる。いや、これは安心? ううん、やっぱり不安もある。寂しさ、悲しさ、嬉しさ。あまりにもたくさんのオモイがこみ上げ、どれがどんな感情なのか判別できない。
ああ、駄目だ。そのせいで呼吸が乱れ、目に涙が溜まっていき、いっちゃんの顔を見ることができない。泣いちゃだめ。泣いちゃだめ。そう言い聞かせなければ今にも泣いてしまいそうだ。
「さ、咲希、やっぱり、具合が……早く保健室に! あ、でもこの時間に先生っているのかな……」
「だ、大丈夫だよ、いっちゃん! 何でもないから!」
アタシの様子がおかしいと確信したいっちゃんは鞄を投げ捨てるように床に置き、アタシの体を支えながら歩き出そうとする。それを止めてするりと彼女から逃げるように体を離した。
「ほら、色々と仕事があるんでしょ? 早くいかないと怒られちゃう!」
「でも!」
「アタシは大丈夫だから、ね?」
「……無理はしないでね? いくら咲希が
「はーい、わかってまーす!」
「……じゃあ、行ってくるね」
いつものように軽い口調でふざけるといっちゃんも納得してくれたようで日直と学級委員の仕事に向かった。その背中が見えなくなるまで手を振り続け、アタシは――。
「――いかないで、か」
今にもいっちゃんに吐き出しそうになり、我慢し続けた言葉をそっと教室に零した。
今日のアタシは、どうしちゃったのだろうか。そんな疑問に答えてくれる人はどこにもいない。
使用楽曲コード:N01001211