「……」
気づけばアタシは自室でベッドに横になりながら天井を眺めていた。あれからどうしたのか、どうやって帰って来たのかさえ曖昧だ。
いっちゃんたちはどうしたのだろう。困らせちゃったかもしれない。ううん、絶対に困っているはずだ。だって、特に約束もしていなかったのに集められて、変なことを言い出して、勝手に帰ってしまったのだから。
(本当に、どうしちゃったんだろ……)
自分でも原因がわからない、違和感の連続。ただ、この違和感を抱いているのはアタシだけなのだとさっきのいっちゃんたちの様子を見て確信した。
おかしいのはアタシだけ。そう、アタシだけが間違っているのだ。幸い、この違和感は自覚すれば修正できるみたいなので少しの間、我慢すればアタシは皆の知っている『
「――咲希? 今、いいか?」
「ひゃっ!?」
コンコン、とノックをする音と共にお兄ちゃんの声が扉の向こうから聞こえる。このタイミングでお兄ちゃんが来るとは思っておらず、ベッドから飛び起きながら情けない声を漏らしてしまった。
「咲希!? 大丈夫か!?」
「お兄、ちゃん……」
その声にお兄ちゃんが慌てた様子で扉を開けてしまう。昔からお兄ちゃんは心配症なので仕方ないのだが、今はちょっとだけ会いたくなかった。
「大丈夫、みたいだな」
「う、うん……でも、なんで……」
「一歌から咲希の様子がおかしいと聞いてな。放課後も皆から逃げるように帰ってしまったと心配していた。あと、傷つけてしまったのではないかと自分を責めていた」
「……」
やっぱり、いっちゃんは優しい。彼女はアタシの心配をしてくれたのにそれを踏みにじるように逃げてしまった。それを自分のせいだと思わせてしまったのは罪悪感。あとできちんと謝ろう。そして、心配してくれてありがとう、もう大丈夫だよ、と安心させたい。
「咲希、もしよかったら何があったのか教えてくれないか?」
「え? ううん! 大丈夫だよ!」
心配そうにこちらを見つめるお兄ちゃんに笑ってみせた。だが、それを見たお兄ちゃんは少しばかり目を見開き、ゆっくりとアタシの方へと近づいてくる。どうしたのだろう、いつもならあの明るい笑顔を浮かべてくれるのに。
不思議に思っているとアタシの前で片膝を付いた彼はポンとアタシの頭に手を乗せる。そのまま、優しい手つきでゆっくりと撫でてくれた。アタシが大きくなるまではよくこうやって撫でてくれたことを思い出し、
「やっと、笑ってくれたな」
「え?」
「そんな顔で笑ったって無理してることぐらい、
「ぁ……」
今年のひな祭り、ちょっとしたすれ違いでアタシたちは喧嘩をしてしまった。
その原因は幼いアタシが泣いた原因を『悲しい出来事』のせいだとお兄ちゃんが思い込んでしまったこと。あの時のアタシは嬉しくて泣いちゃったのにそれを自分のせいで泣かせてしまったとお兄ちゃんが自分を責めたことだった。
その勘違いがあったから、アタシが泣かない様に笑ったことに気付いたのだろう。それが、今のアタシをちゃんと見てくれているように思えて、自然と目に涙が溜まっていってしまった。
「ッ――」
きっと、今、手を伸ばせばお兄ちゃんはアタシの手を掴んでくれる。でも、この違和感を吐き出してお兄ちゃんにまで『咲希はおかしい』と言われてしまったらもう立ち直れないだろう。だって、今のアタシでは『
「……すまない、咲希」
「お兄、ちゃん?」
何も言えずにいるとお兄ちゃんはどこか辛そうな顔を浮かべて謝った。お兄ちゃんは何も悪くないのに急に謝ったので思わず首を傾げてしまう。
「咲希が無理をして笑っていることしかわからない。何が原因で悲しんでいるのか察することができない。だから、言葉を隠されるとオレにはどうすることもできない」
「……」
「妹が苦しんでいるのに、その理由すら思いつかない情けない兄だ……だから、頼む、咲希!」
お兄ちゃんは真っすぐアタシの目を見つめる。カーテンから射し込む夕焼けがお兄ちゃんの目に反射してキラキラと輝いており、のん気に『綺麗な目だなぁ』と考えていた。
「どうして、泣いているのか! 何故、笑顔じゃなくなったのか! お前を悲しませる悪者の正体を教えてくれ!」
――その名もペガサスマン! オレが、咲希を苦しめる■■をこらしめてやる!
ノイズ混じりの曖昧な記憶。今のアタシにはそれが本当にあったことなのか、それともただの幻なのか。それすらも信じられなくなってしまっている。
それでも、アタシの目から涙が零れるには十分なほど頼もしい
「お兄、ちゃん……助けてッ」
「ああ、オレに任せろ!」
泣いてしまったアタシを抱きしめながらお兄ちゃんが耳元で断言してくれる。
ああ、そうだ。そうだった。いつもアタシはこの声に救われていた。元気づけられていた。笑顔になれた。
だから、『
助けて、お兄ちゃん。
使用楽曲コード:N01031847