神様の二次創作   作:ホッシー@VTuber

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そのニッコリに触れて

 『フェニックスワンダーランド』。鳳財閥が経営する国内有数の大型遊園地。

 アタシも幼い頃からずっと――。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 ――ううん、今は無視しよう。何度も通い詰めている思い出の遊園地だ。家族で一緒に行ったのはもちろん、いっちゃんたちとも遊びに行ったことがある。特に可愛い物好きのしほちゃんはマスコットキャラクターであるフェニーくんがお気に入りでグッズを集めているほどだ。

 

 

 

 

 

 閑話休題(その話は置いておいて)

 

 

 

 

 

 違和感を覚え始め、お兄ちゃんやいっちゃんたちにそのことを伝えた次の日の放課後、アタシは1人でフェニックスワンダーランド――フェニランに来ていた。

 平日の午後でも学校帰りの生徒や休みを取ったのか、家族で遊んでいる人たちがいる。その人たちは皆、笑顔。少し前まではお客さんがあまり来なくて困っていたとは思えないほど盛況している。

 もちろん、フェニランに来たのは遊ぶためではなく、件の違和感のことをお兄ちゃんの仲間たち、『ワンダーランズ×ショウタイム』の皆に話すためだ。

 運動神経が抜群で天真爛漫な鳳財閥のお嬢様、『鳳 えむ』ちゃん。

 彼女の歌声を聞いたら誰もが魅了されてしまうほど歌が上手い歌姫、『草薙 寧々』ちゃん。

 演出以外にも装置やロボットを自作してショーに組み込み、観客を笑顔にしてしまう錬金術師、『神代 類』さん。

 そして、未来のスターであり、『ワンダーランズ×ショウタイム』の座長、アタシの自慢のお兄ちゃん、『天馬 司』。

 この4人が『ワンダーランズ×ショウタイム』であり、フェニランの『ワンダーステージ』でショーを行っている。最初は立地やステージの老朽化が原因でお客さんがあまり入ってこなかったらしいけど、今となってはフェニランの宣伝大使となって色々なところで素敵なショーをしていた。

(大丈夫だと思うけど……やっぱり、不安だな……)

 昨日、お兄ちゃんが『ワンダーランズ×ショウタイム』の皆に事情を話してみないかと提案された時、すごく悩んだ。いっちゃんたちはアタシのことを昔から知っているから信じてくれた。でも、えむちゃんたちはそこまで交流があるわけではない。特に同じ学校のえむちゃんはともかく、学校すら違うねねちゃんとるいさんはアタシの話をどう捉えるのか、全く予想ができなかった。因みにえむちゃんは信じてくれそう。

 でも、お兄ちゃんがあんな提案をした理由もわかる。お兄ちゃんやいっちゃんたちはアタシの違和感を聞いても『そうかもしれない』と思っても実感していない様子だった。

 それは『天馬(てんま) 咲希(さき)』を知りすぎているせいだとお兄ちゃんは推測し、ならばアタシのことをあまり知らない人に聞いてみようと思ったのだろう。だから、少しでもこの状況を把握できるのなら、とアタシは頷いた。

 そして、なにより――。

「ん? おお、咲希、来たか!」

「こんにちは、咲希くん、随分と妙なことになっているようだね?」

 

 

 

 

 

 

 ――様々な演出を考え、機械にも詳しく、雑学に溢れている天才、るいさんの意見が気になったのである。

 

 

 

 

 

 

「るいさん、こんにちは! えっと、お兄ちゃん、話ってどこまで?」

「ああ、司くんからだいたいのことは聞いて――」

「――さ、咲希ちゃあああん!」

「きゃっ」

 一足先にワンダーステージに来て事情を説明してくれていたお兄ちゃんに声をかけるとるいさん本人から答えが出てきた。しかし、その答えの途中で凄まじい勢いかつアタシが吹き飛ばないほどの絶妙な力加減でえむちゃんが抱き着いてきて思わず、悲鳴をあげてしまう。

「え、えむちゃん?」

「ごめんねぇ! ぜんぜん、気づかなくて! あたしにできることがあったら何でもするよ!」

「ちょっと、えむ! いきなり抱き着いたら天馬さんがビックリしちゃうでしょ!」

「でもぉ!」

 ぐりぐりとアタシの胸に頭をこすりつけるようにしながら泣くえむちゃんの腕を引っ張ったのはねねちゃんだった。アタシとしてはえむちゃんの態度だけでアタシの話を信じてくれているとわかって安心しているのだが、傍から見たら危なく見えたのかもしれない。

「どうして咲希に抱き着く時は手加減できてオレの時は全力なんだ……」

「それだけえむくんに信用されているということじゃないか」

「……納得できんが、悪い気がしないのがなおさら質が悪いな」

 わいわいと騒いでいるアタシたちを見ながらお兄ちゃんとるいさんが何か話している。よく聞こえないが、皆の反応を見ると一先ず、ドン引きしていないようだった。

「さて、咲希くんも来たことだし、改めて情報を整理しよう。司くんからも話を聞いたけれどやっぱり本人の口から事情を聴いておくべきだろうからね」

「あ、はい……ごめんなさい、ショーの練習があるのに邪魔しちゃって」

「何を言う! 我が妹が苦しんでいるというのにショーの練習ができるか! オレたち、『ワンダーランズ×ショウタイム』に任せろ!」

「そうだよ! お友達が困ってるのにショーの練習してもぜんぜんわんだほいじゃないもん!」

「はいはい、二人は落ち着いて……でも、わ、わたしも、気になるから。気に、しないで」

「と、まぁ、こんな具合で皆やる気満々だから安心してほしいかな」

 アタシの謝罪に『ワンダーランズ×ショウタイム』の皆は『気にしなくていい』と口を揃えて許してくれた。それだけでもアタシは1人じゃないと言ってくれているようで目に涙が溜まっていってしまう。駄目、ここで泣いたら余計に心配させてしまう。だから、アタシにできるのは――。

 

 

 

 

 

 

「はいっ、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――笑顔でお礼を言うことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから昨日から起こっている違和感の連続について皆に話した。もちろん、お兄ちゃんたちと話し合った推測を含めて。

 一通り話を聞き終えた皆は少しの間、黙った後、その沈黙を破るようにるいさんが呟いた。

「ふむ……違和感、ね」

「あれって思うことはあるけど、結局、自分の記憶違いだったり、勘違いだったりするからそれとは違うよね」

「それに加え、オレや一歌たちは咲希の話を聞いても力になれなかった。咲希に近しい人間ほど何かの影響を受けていそうだと昨日の時点で話していた」

 るいさんの呟きを皮切りにねねちゃんやお兄ちゃんが話し合いに参加していく。えむちゃんだけでなく、るいさんやねねちゃんもアタシの話を疑わず、真剣に考えてくれている。本当に、いい人たちだ。それだけでも胸の奥に燻っている何かが軽くなったような気がする。

「むむぅ……目の前にいる咲希ちゃんは咲希ちゃんだけど、咲希ちゃんの中では咲希ちゃんじゃない? でも、咲希ちゃんの中にも咲希ちゃんの思い出がある?」

「ええい、やめんか! 咲希がゲシュタルト崩壊する!」

「だって、咲希ちゃんは咲希ちゃんなのに咲希ちゃんじゃないんだよ!?」

「いや、だから、咲希は咲希であって……でも、咲希は咲希に違和感を覚えてだな!」

「余計にややこしくなるからやめて……」

「まずは呼称について考える必要がありそうだね。司くんが知っている咲希くんを咲希A、咲希の中にいる咲希を咲希Bと呼ぶのはどうだろう?」

「人の大切な妹に変な記号を付けるんじゃない!」

「……ぷっ」

 思わず、吹き出してしまったアタシに皆の視線が集まる。

 目をぐるぐるさせて混乱するえむちゃん。

 そんなえむちゃんにツッコミを入れつつ、乗ってしまうお兄ちゃん。

 そのせいで頭を抱えてしまった2人に呆れた目を向けるねねちゃん。

 そんな中、俯瞰的に状況を把握してまとめようとしつつ、場を和ませるように冗談を言うるいさん。

 これが『ワンダーランズ×ショウタイム』。お兄ちゃんの自慢の仲間たちであり、あのナイトショーのように不可能を可能に変える力を持っている素敵なチームだ。

「ごめんなさい、やり取りが漫才みたいで面白くて」

 ひとしきり笑った後、涙が溜まってしまった目を拭いながら謝る。それに対して4人は顔を見合わせた後、安心したように笑みを浮かべた。

「咲希ちゃん、やっと笑ったね!」

「……え?」

 どうしたのだろうと首を傾げているとえむちゃんがにっこりと笑いながらアタシの手を取る。おかしいな、ちゃんと笑っていたつもりだったのに。

「話を聞く分には『違和感だけ』って言っているけど……それだけ天馬さんの中の何かが揺らぐんでしょ? なら、きっと大変だったよね」

「改めて、言わせてほしい。咲希くん、君の問題は司くんの問題。そして、司くんの問題は僕たちの問題なんだ。だから、全力で協力するよ」

「……っ」

 きっと、心の中で思っていたのかもしれない。『ワンダーランズ×ショウタイム』はあくまでお兄ちゃんのチームだ。だから、妹であるアタシの問題にはさほど力を入れてくれないかも、と。

「ふっふっふ、あーっはっはっは! さすが、オレの仲間たちだ! 頼りにしてよかったと心の底から思っているぞ!」

「はいはい、ならとりあえず、黙ってて。話し合いに集中できないから」

「なんだとっ!?」

「ごめんね、司くん。今回ばかりは寧々に賛成かな。影響を受けているであろう司くんの意見は不明瞭な部分が多いから僕たちがその影響を受けてしまう可能性も考えられる。一先ず、見守っていてほしい」

「お、おう……なんかすまない」

 ああ、アタシはバカだ。お兄ちゃんの信頼している人たちを信じ切れていなかった。相談しているアタシがまず、相手のことを信じなければならないのにそれができていなかったのだ。どれだけ失礼なことをしていたのか、そう考えると自分が嫌になる。

「皆さん!」

 耐えきれなくなってアタシはその場で立ち上がる。いきなり立ち上がったアタシを皆が見上げる中、頭を深々と下げた。

「ごめんなさい! アタシ、皆さんのこと、信じ切れてなかったみたいで……でも、もう疑いません! お願いします、助けて、くださいっ」

 温かい。心の中がポカポカと温かくなっていく。その温かさで胸が膨らんでいくのを感じる。それに後押しされるように目から涙が零れた。悲しみではなく、安心と喜びの涙。そんな涙が、地面に落ちていく。

「……咲希、もう一度言うぞ」

 頭を下げているアタシの頭にポンと大きな手が乗る。反射的に顔を上げるとそこにはいつもの勝ち誇ったお兄ちゃんの笑顔があった。

「オレたち、『ワンダーランズ×ショウタイム』に任せろ!」

「……うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 頷いたアタシは自覚する。お兄ちゃんのキラキラした瞳に映るアタシを見なくてもわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 今のアタシはきっと、笑顔だ!




使用楽曲コード:N01102349
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