キング「スカイさんの動画?」   作:蒙古襲来

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キング「スカイさんの動画?」

 

 「…ってなわけで~、この度セイちゃんはYou〇ubeに自分のチャンネルを立ちあげたわけなんですけど~、いや~これがまた自分で言うのもなんですが面白くてですね~、ぜひキングにも見てもらいたな、と思いまして」

 

 教室の窓から外の世界を覗くと遠くの方で空がややオレンジ色に染まり始めていることに気が付いた。と同時に鐘が鳴り、本日の授業がすべて終わったことを告げる。誰もが待ち望む放課後タイムの到来。級友たちが楽しそうにお喋りするのを耳にしながら私、キングヘイローは鞄の中に教科書等をしまい込み、さぁ今日は久々のオフだから部屋に戻ってウララさんとゆっくりしましょ、と早々に教室から出ていこうとした。ところが教室の出口付近で旧友の一人に行く手を阻まれる。誰かと思えば、朝のホームルームの時から何度もチラチラと視線を送ってきては一人ニヤニヤしていたセイウンスカイ、スカイさんだ。なによ、と睨みつけるとスカイさんはもったいぶってなかなか話そうとしない。なので無言のまま無理やり押しのけて進もうとすると、まぁまぁそう慌てないでくださいよ、面白いこと教えてあげますから、と得意気な顔でスカイさんは言った。そして身振り手振りを交えて、時には大げさに一人芝居を演じながら話すスカイさん。要約するとどうやら自分がネットにあげた動画が最高に面白いのでぜひ見て欲しいという宣伝のようだった。ハイハイ時間があったらね、と適当に受け流すと、満足したのかようやく解放された。

 

 「チャンネル名は『青雲の気ままな釣りチャンネル』だからね~登録よろしく~。……あ、スぺちゃん今帰り?ちょっと面白い話があるんだけど~聞いてかない?」

 

 「え、なんですかなんですか!!」

  

 後方から聞こえてきたいやにいつもよりも間延びした声と、宣伝とも知らずに胸躍らせる級友の声を振り払うかのように私は自室へと急いだ。

 

 「あ、キングちゃん!お帰り!」

 

 「ただいま、ウララさん」

 

 部屋に戻るとルームメイトの元気な声。ウララさんがニコニコといつも通りの可愛らしい笑顔を浮かべてお出迎えしてくれたので、妙に今日は疲れていたのだがそれも一瞬で吹き飛んだ。

 

 「あ、ねえねえキングちゃん!セイちゃんがね、すごいこと教えてくれたんだ~!」

 

 あっ(察し)。どうやらスカイさんに抜かりはなかったらしい。

 

 「なんかね、セイちゃんがYou〇ubeに映ってるんだって~!すごいよね~!?ウララ、キングちゃんと一緒に見ようと思って待ってたんだ~」

 

 「オホホ、そ、そうね…」

 

 「えっーと確か、せーうんの気まぐれお昼寝チャンネル、だっけ?」

 

 「『青雲の気ままな釣りチャンネル』よ。ほら、スマートフォン貸して?」

 

 早速You〇ubeを起動してみたはいいが肝心のチャンネル名を忘れていたウララさんからスマホを受け取る。正直気乗りしないが、ワクワクとした様子でスマホの画面を覗き込むウララさん、しかも自分と一緒に見るのだと待っててくれていた彼女の好意を無碍には出来なかった。半ばやけくそになりながらチャンネル名を打ち込んで検索にかけた。

 

 「あ、これかな~?」

 

 「………そう、みたいね」

 

 検索の末、該当する動画が複数、スマホの画面に映し出された。サムネイルを見る限りそのほとんどがチャンネル名の通り、釣りをする動画のようだ。ふーん、釣りねぇ…。スカイさんが授業をさぼっては釣りに興じていたのは知っていたけど…。

 

 「早速見てみようよ!」

 

 「そうね…」

 

 ウララさんに言われて一番上の動画を再生する。軽快な音楽と共に動画は始まり、次いでスカイさんのいつもの掴みどころのない、何とも言えない口調がスマホのスピーカー部分から流れ始めた。川辺に腰を下ろしてこちらに手を振るスカイさん。今日はね~こんなことがあったんですよ~、と取り留めのない話を四十分くらい話してようやくスカイさんは川面に釣り糸を投げ入れた。それから十分、二十分、三十分…当たりはなし。画面には胡坐をかいて座り、水面を静かに見つめ続けるスカイさんが映る。たまに欠伸をしたり体を伸ばしたりする姿も映った。当たりは来ない。ついにはスカイさんがウトウトと舟を漕ぎ始めた。そして川のせせらぎや小鳥のさえずりにまじってスカイさんの寝息がかすかに聞こえ始めた頃、画面は暗転して動画は終わった。

 

 え、なにこれは…(困惑)

 

 「あれれ、いつの間にか動画終わっちゃったね。お魚釣れたのかな~?」

 

 隣でウララさんがそう言った。しかしそれを耳にしながらも私は生返事さえしなかった。すごく面白いんですよ~、と大見得をきったスカイさんのニヤニヤした表情が頭に思い浮かんでは消えてを繰り返した。

 

 (つ、つまらない…!壊滅的につまらない…!)

 

 ふと壁に掛けられた時計を見る。どうやら二時間弱、私とウララさんは異世界に迷い込んでいたようで貴重なオフの貴重な時間がつぶれてしまいましたわ(白目)

 

 でもすぐに気が付いて後悔した。ああ、スカイさんは必死だったのだろう、と思ったからだ。こんなにも面白くない動画をスカイさんはなぜあれほど推したのか…。一歩間違えば黒歴史になってしまうこんな映像をおすすめするなんて自滅行為をどうして…。そう、きっとスカイさんは自分が面白い動画を作り上げたと思っていたのに再生数が思うように伸びなくて思い悩んだのだろう。おそらくこんなへっぽこ動画にコメントはおろかイイネさえつかなかったのだろう。それでも動画をあげ続けたのは自分の世界観を理解してくれる人が一人でも、たった一人でもいいから欲しかったに違いない。飄々としていたけれども、本当は必死だったのだ。すると教室でのスカイさんの熱心な布教活動が痛々しく見えてしまって悲しくなった。

 

 いいわ!このキング、スカイさんの級友、良きライバルとして…!初のイイネとコメントを進呈して差し上げるわ!

 

 さぁ、そうと決まれば早速コメントを………

 

 「うわぁ、これすごいねえ!ここにセイちゃんへのメッセージが数えきれないくらい書いてあるよ~」

  

 画面をスクロールしながらウララさんは目を輝かせた。

 

 へ?

 

 再生数:55万回視聴  コメント数:769 イイネ:10万

 

 

 えええええええええええええええ!!!(王の叫び)

 

 …これは後に知ったことだが、スカイさんの動画は作業用だとか睡眠用だとかに最適らしくカルト的な人気を誇っているらしい。また彼女の寝息だけを集めたASMRなるものも存在するらしくこちらも驚異的な再生数を誇っている。

 

 世界は広い。自分のセンスや好みなど当てにはならないのだな、とキングはこの時思い知らされたとかいないとか。 

 

 しかしそんな彼女も後にYou〇ubeで伝説の歌姫として名を残すことになるのだがそれはまた別のお話である。

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