普段は学生たちで賑わっている学園都市も、夜になればその姿を変える。
完全下校時刻を過ぎた今、第七学区は昼間とは打って変わって静寂に包まれていた。
公園、商店街、ゲーセン、駅前、学校——どこを見ても人っ子一人いやしない。
普段は鬱陶しくてしょうがない情景が不思議と恋しくて堪らなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
肺が痛い。けれどこの脚を止めるわけにはいかない。
激しい足音と青息だけが、ガラリとした夜の街に、静かに響き渡っていた。
少し走ると、鉄橋が見えてきた。
街の中心部から離れた鉄橋には街灯もなく、薄暗い。
今夜実験が行われる場所にたどり着くためには、この鉄橋を渡らなければならない。
「ーーッ⁉︎」
何の変哲もない寂れた鉄橋には似合わない、不自然なほどに青白い光が見えたと思ったら、少し遅れて爆音が届く。
「あれは……」
咄嗟に空を仰いだが、綺麗な星空が見えるだけで異常はない。
だとしたら、こんな現象を引き起こせるのは俺の知る限りただ一人。
「御坂さんか⁉︎」
俺は鉄橋に向かって全力疾走した。
この時間、この場所で、彼女が誰かと戦闘を行っている。
偶然とは思えない。
『おっ姉さまあぁぁ〜♡』
……チッ!
頼むから生きててくれよ。
鉄橋に近づくと人影が見えた。
御坂さんと……もう一人は誰だ?
そこには明らかにブチギレてる御坂さんと、そんな彼女に立ち塞がるように立ちつくす男がいる。
さっきの雷撃がこいつに向けられて放たれたものだとしたら、明らかに御坂さんはこの男を殺そうとしている。
だとすれば、この男があの
……けど、どうにも様子がおかしい。
「ざっけんなぁっ!戦う気があるなら拳を握れ!戦う気が無いなら立ち塞がるな!半端な気持ちで人の願い踏みにじってんじゃないわよ!」
御坂さんの狂犬のような絶叫が、鼓膜を震わす。
男のすぐそばへと雷撃が放たれるが、男はピクリとも動じない。
お前と戦う意志はない、そう言うように両手を広げている。
何かの攻撃の予備動作か。
それとも本当に戦う意志がないのか。
どちらにせよ、その行動は御坂さんの神経を逆撫でするのには十分だった。
「戦えって言ってんのよっ!!」
逆上した御坂さんは今度こそ必殺の雷撃を、その男に向かって放った。
その瞬間、俺は驚愕の声を漏らした。
「……マジかよ」
男は何の抵抗も見せなかったのだ。
そのまま雷撃は男に直撃し、体は地面へと叩きつけられ、1メートルほど転がりぐったりとうつ伏せで倒れ込む。
いまいち状況が分からねえが、とりあえず今の光景で、この男が一方通行じゃないってのは理解した。
一方通行の能力はあいつらに散々聞かされたからな。
男は立ち上がる。足はガクガクと震え、曲がっていた。
まるで生まれたての子鹿の様なのに、何故か力強さを感じる。
今にも崩れそうな膝に力を込め、その真っ直ぐな目で御坂さんを見据え男は叫んだ。
「戦いたい理由なんてわかんねえよ。他に良い案があるのかどうかも分っかんねえよ!けど嫌なんだよ、お前が傷付くところなんえ見たくねえんだよ!自分でも何言ってっか分かんねえよ!けど仕方ねえだろ、お前に拳を向けたくねえんだから!」
……。
「もうこれ以外に方法がなくたって、他にどうして良いのか分からなくたって、それでも嫌なんだよ!何でお前が死ななきゃいけねえんだよ!どうして誰かが殺されなくちゃならないんだよ!そんなの納得出来るわけねえだろ!」
詳しい事情は知らねえが、それでも分かることはある。
この男が御坂さんのために命を賭けようとしていること。
「私には、今更そんな言葉かけてもらえる資格なんてないのよ!仮に、誰もが笑って過ごせるような幸せな世界があったとしても、そこに私の居場所なんてないのよ!」
御坂さんもこの男に助けを求めようとしていること。
白井の悩んでいる姿を見た俺としては気に食わねえ。気に食わねえけど……、
——助けて、と。
彼女が一言、それを求めれば男はどんな奇跡も起こす。
顔も名前も知らない他人なのに、何故だかそう思わせる力がこの男にはあった。
ちっ。
……モブはさっさと働きますか。
鉄橋では相変わらず御坂さんたちが言い争っている。
言うまでもなく通れなさそうだ。
……となると。
「結構高えなおい」
柵から身を乗り出した。
目下の河は黒に染まり、底が見えないせいで余計に恐怖が増す。
泳ぎはあんまり得意じゃねえんだが、行くしかねえ。
覚悟を決めた俺は、勢いよく河に飛び込んだ。
一瞬の浮遊感の後、体がどんどん落ちていく。
恐怖をかき消すために勢いをつけ過ぎたせいで、空中に放り出された体はすぐに俺の制御下を離れ、空中をぐるぐると回転していた。
やばい死ぬ!助けて!マジでこれ死ぬって!
そんな思いとは裏腹に、容赦無く水面は近づいてくる。
結局、顔面から勢いよく水面に叩き付けられた。
「ゴボゴボッゴボッ」
何で俺はいつもこう格好が付かないんだろうか?
必死に水中でもがき苦しむ俺は側から見たらクソダサいんだろうな。
……はぁ。
早く来なかったら俺が全部片付けちまうからなウニ頭!
「……やっと着いた」
何とか泳いで鉄橋を抜け、物静かな工業地帯を過ぎた先にある列車操作場へとたどり着いた。
ここは機体の整備や、終電を走り終えた機体を保管しておくための場所だ。
終電は最終下校時刻に合わせられているため、当然人気はない。
異常なまでの静けさと、あと数十分後にはここが戦場になるという事実が、いやでも警戒心を解くことを許さなかった。
「どうしてこンなとこに一般人がいんンだァ?」
「——ッ⁉︎」
心臓が止まるかと思ったぜ。
恐る恐る、声がした方へと視線を向ける。
暗闇の中心に、そいつはいた。
痛々しいほどに細い体。
今まで外に出たことがないのかと疑いたくなってしまうほどに白く繊細な肌。
その真っ白な髪と赤い瞳は兎を連想させるが、そんな可愛らしいもの、すぐに恐怖が塗りつぶす。
——白い闇。
我ながらめちゃくちゃな表現だと思うが、そんな突拍子もないことを思いついてしまうほど、不気味な存在だった。
「お前が一方通行か?」
「なンだァ、お前?」
「俺はこの実験を止めに来た」
「はァ?どこでンなこと知ったのかは知らねェが、ハンパな正義感なんて捨てちまえ。ガキの遊びじゃねェンだよ」
「勘違いすんな。俺は他人が死のうがどうでも良い」
俺の言葉を聞いた一方通行は、心底不快そうな顔で俺を睨みつけた。
「つまりアレかァ?テメェも悪ふざけで俺に喧嘩吹っ掛けてくるバカってことかァ?」
「はあ?」
悪ふざけなんてとんでもない。
そんな軽い動機でこんなイカれ野郎相手してらんねーよ。
命を天秤にかけても傾くほどの理由を胸に俺は今、ここに立っている。
そんな馬鹿どもと一緒にすんじゃねーっての。
「誰が好き好んでお前みたいなのに喧嘩売るかよ」
「はァ?意味分かんね。だったら何で俺の前に立つ?」
「誰のためでもねえ。俺のためだ」
御坂さんがどれだけ悩もうと、どうでも良い。
会ったこともないクローンなんかのために命なんて賭けらんねーよ。
ただ、御坂さんが悲しめば白井が悲しむ。
このままクローンどもが殺され続ければ、いずれあの二人の番が来る。
そして何より、
——そんなことになったら俺が悲しいからな。
「ハハァッ!おもしれェなお前!好きだぜェそういうの!ヒーロ気取りの偽善者よりかはよっぽどマシだァ!」
一方通行の眼が完全に俺を捉えた。
湧き出した殺意がどんどんと膨れ上がる。
360度全てから命を狙われるような感覚が俺を襲う。
両者の距離はおよそ10メートル。
俺も一方通行も、その気になれば一瞬で詰められる距離だ。
一方通行は動かない。余裕をかましているんだろう。
「オイオイどうしたァ?近付かなきゃ俺は倒せねェぞ?」
こいつの言う通り。
慎重に、何て言ってらんねえ。
こっちも死ぬ気でいかせてもらうぜ。
「……」
——まずは、20パーセント。
一気に感覚がクリアになる感覚。
心がスッと晴れていく。
恐怖や焦りなどの不要な感情が頭から取り除かれていった。
今から目の前の化け物との殺し合いが始まるというのに、今の俺は驚くほどに冷静だった。
さっきまでアレほど恐ろしかった一方通行も、今ではただの倒すべき標的。
「——ッ⁉︎」
予備動作なしで駆け出した俺は、一方通行ですら認識できないスピードで間合いへと入り込む。
……こいつの能力はあの二人に耳が痛くなるほど聞かされた。
その中でも特に厄介なのが反射。
本人にとって有害とみなされたものは、どんな状況であっても文字通り反射されてしまうのだ。
本人の無意識下でも発動するため、不意打ちなども効果がない。
まさに、一方通行を最強たらしめる能力だ。
しかし、そんな完全無欠と思える能力にも対処法はあるらしい。
理論は簡単……あくまで理論は、な。
一方通行に反射される直前に拳を引いちまえばいい。
どうだ?簡単だろう。
……まあ、そう簡単に出来ないからこんもやし野郎が学園都市の第一位なんて言われてるんだけどな。
実際には、一方通行の思考や演算パターン、反射の効果範囲や反射が行われるタイミング把握している必要がある。
その上で導き出された非常にシビアなタイミングを逃さない精密な動作が求められるのだ。
なんとも頼りにならない攻略法だろ?
けど、これしかないんだ。だったらやるしかない。
打ち出した拳が一方通行の顔面へと迫る。
——次の瞬間。
今まで体験したことのない奇妙な感覚が右腕を襲う。
「……へェ」
「痛ッ⁉︎」
響くような鈍痛が骨の髄までまで響き渡った。
一方通行から視線を離さず、最小限の動きで自分の右腕を一瞥した。
それはきちんと、人間の腕として正常な形を保っている。
何とか使い物にならなくなるのは免れたらしい。
「ちったァ考えたようだが、そう簡単に攻略出来るほど甘くねェンだよボケがァッ!」
一方通行が前方の地面を踏みつける。
叩きつけられた足を中心に起きた小さな爆発は、砂利を飛散させた。
四方八方に飛び散った大量の砂利は、まるでショットガンのように俺に襲い掛かかる。
避けられないことを悟った俺は咄嗟に両腕で顔を庇ったが、あくまでそれは最低限の防御。
「ぐぅおおぉッ」
弾丸と化した数多の小石は俺の体を深々と突き刺し、あまりの威力に俺は吹っ飛ばされてしまう。
「はぁ……、はぁ……」
「これでちっとは分かっただろ?お前とオレとの差は、そのちっぽけな脳みそを使ったぐれェじゃ埋まんねェンだよ」
気づけば俺の倒れている場所のすぐ近くに立っていた一方通行が、まるでダメな生徒を諭すような口振りで言った。
……この状況でやることが説教とは。
こりゃ、相当舐められてんだろーな。
攻撃力も守備力も正真正銘最強クラス。
腹立つくらいに羨ましい限りだぜ全く。
悲鳴をあげる身体に力を込める。
身体中の激痛が、更に強まった。
一方通行は、ゆっくりと立ち上がる俺をただ眺めていた。
「……まだやンのかァ?」
「……やるしかねぇよ」
例え相手が化け物でも。
俺は俺のためなら、止まらねえ。
今この瞬間も、頭を支配しようとしている恐怖や痛みを気合いで追い出す。
……落ち着け。
失敗はしたが、反射をこの身で体験出来ただけでも一歩前進。
最低でもチャンスは4回もあるんだ。
あいつらが笑えるんだったら、手足の一本や二本くれてやるよ。
——30……いや、35パーセント。
俺は更に脳のリミッターを解除した。
ここまで引き上げたのは初めてだ。
一方通行は動かない。
ただ、こちらを見て一言。
「良いぜェ、殴らせてや——」
言い終わるよりも早く、拳を叩き込んだ。
「チッ」
どうやら上手くいかなかったらしい。
俺の右腕は普通では考えられない方向に折れ曲がっていた。
これはやばい、と痛みを感じる前に痛覚を遮断した。
余計なものは身体の動きを阻害する。
一方、よっぽど喋りを遮られたことが気に障ったのか、一方通行にさっきまでの余裕は感じられない。
一方通行の身体が深く沈み込む。
「調子にのってンじゃねェぞォッ!」
まるで砲弾のように、一方通行は飛び出した。
すぐそこまで近づいている死の象徴のような男に、不気味な緊張感が全身を駆け巡る。
触れられればそれだけで殺されてしまう両腕が、凄まじいスピードで目前まで迫ってきた。
当然、俺は回避に徹するしかない。
そうして、1、2、3……、と回避を重ねていったが、どうにも様子がおかしい。
確かに、今の俺の反射神経と身体能力は常人の比じゃない。
脳のリミッターを解除した俺は文字通り、人間の限界を突破している。
……だとしてもだ。
もう少し苦戦するかと思っていた。
それなのに、苦労するどころか一方通行の動きを観察する余裕すらある。
足運びや重心、身体の使い方はめちゃくちゃだし一発一発の隙がデカすぎる。
何より、俺を狙う腕の軌道が馬鹿正直すぎるだろ。
そんなんじゃ当たる攻撃も当たらねぇ。
こいつ……喧嘩慣れしてねえんだ!
というか、強すぎて慣れる前に相手が死んじまうのか……。
その事実は一方通行が紛れもない強者であることを意味していた。
だが、その事実は勝機にもなり得る。
「ハァ、ハァ……。なンで当たんねェんだチクショウッ!」
嵐の様な攻撃が止んだ。
その隙に後ろに飛んで距離を取る。
勿論、こっちが圧倒的不利ってことに変わりはない。
せめてもう一つ。
この状況を変える何かがあれば……。
「おいおい?散々上から目線で物言う割には触れることも出来ねぇみたいじゃねえか。ハァ、ハァって犬みてえだな?」
わざとらしすぎる挑発だが、これでいい。
こうゆうプライドの塊みたいなバカにはやり過ぎぐらいが丁度いいんだよ。
「——ッ⁉︎ザケンじゃねェぞッ‼︎」
ほらな?
一方通行は怒りで面白いくらいにわなわなと身体を震わしている。
だが、待ってやる道理はない。
俺は地面を思い切り踏みつけた。
操作された運動エネルギーで勢いよく巻き上げられた砂利が一方通行を襲う。
「おいおいモノマネかァ⁉︎いちいち舐めた真似してンじゃねェぞ!」
そんなものお構いなしと、小石の群れの中に突っ込む一方通行。
それを俺は、上空へと飛び上がり回避した。
「無駄だァ!」
地上まで約10メートル。
一方通行はその貧弱な身体からは想像出来ない跳躍力で一瞬にしてこの距離を詰めてきた。
流石に空中では身動きが取れないと踏んだのだろう。
まるで自分の巣に迷い込んだ獲物を蹂躙する蜘蛛のように、ゆっくりと2本の腕を伸ばす。
「チェックメイトだァッ!」
「勝手に勝った気になってんじゃねえよ!」
俺は能力を限界まで行使して前方の空気を蹴り上げた。
爆音と共に、一方通行との距離がどんどん離れていく。
何とか目前に迫る死期からは逃れることは出来た。
——が。
止まれねえ⁉︎
後方には積み上げられたコンテナ。
さっきと同じ要領で咄嗟に後方へと足を出すが間に合わずに背中から激突してしまう。
「がはぁっ」
背中を襲う衝撃が、肺の酸素を全て吐き出させる。
痛みはないが、呼吸が出来ない。
「ハハッ、すげェな!空気を蹴ってぶっ飛びやがった!」
気づけば無我夢中で呼吸を整えていた。
どんだけ俺が人間の限界を越えようとも、呼吸が出来ないのはキツい。
「はぁ……はぁ……」
「さっきの言葉、そっくりそのまま返すぜ。ハハッ、ザマァみやがれ」
「はぁ……、はぁ……、うるせっ」
挑発でも何でもなく、心の底から愉快そうなのがムカつくぜ。
……ん?
視界が白い。
最初は身体の異常を疑った。
本来、自分の身を守るために掛けられた制限を強制的に解除しているのだ。
その上、こいつとの戦闘で受けたダメージで身体はボロボロ。
痛覚を遮断している分、体の限界には気付けない。
今この瞬間だって、突然力尽きてもおかしくはなかった。
しかし、左手に感じたサラリとした感触がそれを否定する。
確認すると、左手は真っ白に染まっていた。
どうやら、さっき勢いを止めようとして放った後ろ蹴りがコンテナをぶっ壊してしまったらしい。
中に入っていた白い粉末状の何かがぶち撒けられ、霧のような白煙となって辺りに漂っていた。
.……⁉︎
『本人にとって有害とみなされたものは、どんな状況であっても文字通り反射されてしまうのだ』
『この状況を変える何かがあれば……』
『どんだけ俺が人間の限界を越えようとも、呼吸が出来ないのはキツい』
……いけるかもしれねえ。
俺は寄り掛かっていたコンテナを思い切りぶん殴った。
積み上げられていた一番下のコンテナは一方通行の方へと吹っ飛び、それに続いて上のコンテナたちは周りのコンテナの山を巻き込んで崩壊していく。
「今度はどンなおもしれェもンを見せてくれンだ?つってもこれじゃあ何も見えねェが」
「すぐに分かるさ」
さっきの数倍も濃ゆい白が視界を塗りつぶした。
目を閉じて、聴覚、嗅覚、触覚を最大限に研ぎ澄ます。
今の俺ならば、視覚に頼らなくても周りの状況が手に取るように分かる。
落ちてくるコンテナに気を付けつつ、俺は急いで一方通行から距離を取った。
目を開けて、視界が晴れたことを確認する。
ふう。
何とか一段落ついたところで、
……粉塵爆発って言葉は知ってるか?
まあ簡単に説明すると、空気中に可燃性の粉塵が浮遊してる状態でその粉塵に火をつけたら、後は勝手に辺りの粉塵に燃え広がって爆発が起きるって現象だ。
そして、今この場にはその粉塵爆発ってのを起こすために必要な条件がほぼ揃ってる。
まず酸素。これは説明不要だな。
そして次に爆発下限濃度以上の粉塵。
こいつは今さっき俺がぶち撒けたやつだ。
ついでに今夜は幸いにも無風。
後は着火源さえ用意してやればドカン、てわけだ。
距離は十分に取っているが念の為、思い切り息を吸い込んだ。
電気エネルギーを操作。
御坂さんやあいつらには遠く及ばないが、それでも爆発を起こすには十分な雷撃を粉塵が舞う空間に放つ。
——直後。
前方の空間そのものが爆弾と化した。
凄まじい爆風によって生まれた衝撃波が容赦無く身体を叩く。
まだ爆風は止んでいないが、待っている暇はない。
俺は構わずに一方通行の元へと駆け出した。
……いた!
あの一方通行が地面に膝を着いている。
しかしその身体には傷一つ付いていない。
——そう、爆発が起こるほどの燃焼によって酸素が奪われ酸欠状態になっているのだ。
一方通行がどんな攻撃も無傷で耐える化け物だったとしても、人間である以上この状況では思うように動けない。
絶好のチャンス。これを逃すわけにはいかない。
倒れ込むように全体重を乗せた左ストレートは一方通行の顔面へと吸い込まれ。
深々と突き刺さった。
「いっ、は?痛え。痛え……、クソ」
地面に倒れ込んでいる一方通行は驚きを隠せない様子でボソボソと呟いている。
遂に破ったんだ。
一方通行を最強とたらしめていた圧倒的防御を。
その事実と達成感で一瞬全身の力が抜けそうになった。
しかし左腕の違和感が飛びそうになっていた俺の意識を呼び起こす。
俺の左腕は、可動域とは真逆の方向へと折れ曲がっていた。
そりゃあリ痛覚が戻った時を想像すると怖いくらい見事に。
「いやァ、今のは驚いたぜ。ここまで追い詰められたのは初めてだ、褒めてやろうかァ?」
そう言う割にはピンピンしてやがる。
一方通行の顔を凝視すると、派手に吹っ飛んだ割に目立つ外傷は一つもない。
どうやら反射は完璧には破ることが出来なかったみたいだ。
さっきのような大きな隙を生み出す手段ももう残されていない。
チャンスは後二回……いや、回避を考えると一回か。
流石の俺もちょっと焦るぜ。
ピンチはチャンス……なんてポジティブ思考の持ち主だったら友達なんてとっくに出来てる。
いや、諦めねえけどよ。
何にせよこのままじゃ不味い。
俺は更にリミッターを解除するために、演算に集中した。
両腕の痛みが頭の回転を僅かに、しかし確実に邪魔してくるのが煩わしい。
……痛み?
「……あっ」
気づいた時にはもう遅かった。
身体中から力が抜け、膝から崩れ落ちてしまう。
そして、
「ぐがああぁっ!」
今までのツケを払わせられるように、酷使していた身体中に激痛が駆け巡った。
痛みに抗うために力を込めることさえ困難だった。
只々痛みに身を任せ、打ち上げられた魚のようにのたうち回ることしか出来ない。
「自分の立場を弁えねェからそうなるンだよボケが」
返す言葉もない。
一方通行の手が伸びる。
「今すぐ楽にしてやるよ」
今度こそ死を覚悟した。
——情けねぇ。
「何をしているのですか?とミサカは状況説明を求めます」
「あァ?」
どこからか聞こえてきた声に反応した一方通行の腕がぴたりと止まった。
声がした方へと顔を向ける。
声の主は御坂さん、そしてあの二人にそっくりな容姿をした少女だった。
しかし雰囲気がまるで違う。
クローンというよりかは、まるで感情のないアンドロイドを見ているような感じだ。
こいつがあいつらが言っていた
「見て分かンねェのか?よくあンだろ?秘密を知っちまった一般人の口封じのために殺すってやつだ。結構楽しいなァこれ」
「この実験は統括理事会が隠蔽しています。この方に知られてしまっても特に問題はないのでは?、とミサカは疑問を投げかけます」
「相変わらずめんどくせェなァ、お前」
「意味もなく人を殺すのは良くありませんよ、とミサカは命の大切さをあなたに伝えてみます」
「俺にお前が、それを言うかァ?」
「ミサカを殺すことは無意味ではありません、とミサカは自身の存在意義を主張します」
そう言う彼女からは、理不尽な実験で自分の命が奪われることに対しての疑問や躊躇いが一切感じられなかった。
あいつらも昔はこんな風だったと言ってたが、それにしても変わりすぎだろ。
「……良いこと思いついたぜ」
「良いこととは?、とミサカは具体的な説明を求めます」
一方通行はクローンの質問には答えることはなく、俺の顔を覗き込んで言った。
「お前に良いもン見せてやるよ」
「……どう言うことだ?」
「命懸けてまで守ろうとしたこいつが目の前で何も出来ずに殺される……、一体どんな気分なんだろうなァ?」
一方通行はまるで最高の玩具を見つけた子供のように興奮で身体を震わせた。
これは脅しでも何でもない。
こいつは俺の反応を楽しむためなら今すぐにでも目の前のクローンを殺してみせるだろう。
「まァ、今回の実験は失敗になっちまうんだろうが。足りねェ分はまた作って足せば良いだけだもんなァ?」
「やめろ」
「嫌なら止めてみなァッ!」
既に一方通行の視界には俺はいなかった。
もう俺が何を言おうとこいつは止まらない。
クローンも、実験として想定されていた戦闘内容と違う一方通行の暴走に対応が間に合わない。
気付けば、駆け出していた。
もうとっくに身体は限界を迎えていて、能力を使うどころか、こうして身体を動かしていることすら奇跡みたいな状態だってのに。
俺はクローンの盾になるべく、背を向けて一方通行に立ち塞がった。
彼女に放たれた小石の弾丸が、無防備な俺の背中を叩く。
振動が骨まで響いて、痛みなんてものを通り越した何かに意識を奪われそうになる。
力めば力むほど、逆に力が抜けていった。
今度こそ、動けない。
「やっぱりお前スゲェなァ、あの状態からまだ動けるとか。でも流石にもう終わりかァ?お前だったらまた動き出しそうである意味怖えェなァ全くよォ」
残念ながら、こいつの期待には応えられそうにない。
正真正銘全てを出し切った俺に出来ることといえば、黙ってこいつの殺されることを待つのみ。
「……」
「ちっ、ダンマリかよ。つまンねえな」
遂には声すら出すことも出来なくなった俺の姿を見た一方通行は、とうとう俺から興味を無くしちまったようだ。
「まァ、せいぜいこいつが殺されるのを大人しく見とくンだな」
一方通行の狙いがクローンに定まった。
もう、こいつを邪魔するものは存在しない。
一方通行の魔の手がゆっくりと、確実にクローンに迫る。
もう終わりかと思った。
——その時。
「今すぐ御坂妹から離れやがれ!」
夜の操車場に一人の少年の声が響き渡った。
この声を、俺は知っている。
名前も顔もよく知らねえってのに、この絶望的な状況を何とかしてくれる。
そんな力強さがその声にはあった。
ヒーローは遅れてやってくる、そんな言葉がふと頭をよぎる。
つくづく自分の無力さを思い知らさられるようで少し悔しいが、認めるしかなかった。
こいつが何とかしてくれる、と。
まあ、言いたいことはたくさんあるけど。
後は任せた。
心の中で俺はそう告げて、静かに意識を失った。
みなさんは粉塵爆発ってどの作品で知りました?
なんであんなに戦闘で使いにくいものが、こんな話題が成立するくらいには漫画とかで登場してるのか不思議ですよね笑
なんて前置きは置いておいて、文字数が長くなってしまいましたが、今回も読んで頂きありがとうございました。
とりあえず絶対能力進化計画編はこれで無事完結です。
本当は貴船に勝たせてあげたかったですが、やっぱりそこは上条さんですよね笑
その代わりと言っては何ですが、貴船には主人公補正をモリモリに出来るだけ活躍してもらいました笑
そのせいで、今度は貴船の能力がレベル5でもおかしくないくらいに強くなってしまいましたが……。
とあるの化学サイドは所謂修行イベントで能力が向上することがないので簡単に登場人物を強化することが出来ないのでそこは少し大変だなと改めて思いました。
それと戦闘描写はやはり難しいですね。
読みにくかったかもしれませんが、自分なりに全力で書きました。
そのせいで日数が空いてしまいましたが笑
また次回もよろしくお願いします!