ジンクス
目を覚ますと、そこは病室だった。
どうやら気失った後、近くで待機しておくように言っておいた二人のクローンが病院に運んでくれたらしい。
広さは……10畳くらいか?
贅沢なことに、どうやら個室みてえだ。
「痛ってぇ……」
そういえば、腕折れてるんだったな。
視線を落とすと、ギプスでガチガチに固定された自分の両腕がある。
……今何時だ?
閉ざされたカーテン越しから、うっすらと陽の光が漏れている。
壁に掛けられた時計を見ると、時刻は午前六時だった。
だいぶ早い時間に目を覚ましてしまったみたいだ。
いつもなら喜んで二度寝を決め込むような時間だが、何故だか今はそんな気分にもならない。
俺は病室を見回した。
病室内に見舞いの品らしきものが一つも見当たらないところから、医者や看護師以外の人間がこの病室に立ち寄っていないことが窺える。
……いや、分かってたんだけどね?
俺にお見舞いに来てくれる知り合いがいないことくらい。
でも一応、あの二人は来てくれてもいいんじゃねーの?
薄情な奴らだぜ。
……あいつらといえば、実験はどうなったんだろうか。
俺がこうしていられるということは、問題は無事に解決したんだと思いたいが。
今の俺には知りたくても知る術がない。
ちっ、顔くらい見せやがれってんだよまったく。
どうにもならなくてもどかしい状況に頭を悩ませていると、病室のドアがノックされる音が聞こえた。
「どうぞー」
看護師さんが様子を見に来たんだろうか?
病院の起床時間は随分早いんだな。
そんなことを考えていた俺だが、突然の来訪者は看護師などではなく。
「思ったより元気みたいですね」
「何だお前か」
「何だとは何よっ⁉︎」
「いや……別にそういう意味じゃねーよ」
話をしたら、というやつか。
病室を訪れてきたのは、今回俺が実験を止めるために協力したクローン(俺は御坂さん(仮)と呼んでいる)の内の短気の方だ。
ちなみにもう一人はビビり。
我ながらひでえ呼び方である。
「実験はどうなったんだ?」
「あなたが倒された後、乱入した男によって一方通行は倒されたわ。一旦中止ってところね。まあ、肝心の樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>が破壊されている以上、再開されることもないんでしょうけど」
あのウニ頭、本当にやりやがったんだな。
悔しいけどやっぱすげえや。
「そりゃ良かった。正義のヒーロー様に感謝だな、ハハッ」
こうして、彼女たちは無事な姿を見せてくれている。
白井も傷付くことはなかった。
イカれた悪役は正義の味方に倒されて、ヒロインは救われた。
まさしくハッピーエンドってやつだな。
……それは全て、あいつのおかげだった。
しかし、それは言い方を変えると俺には何も出来なかったということだ。
喜ぶべきなんだろうけど、その事実に自分の無力さを思い知らされて何とも言えない気分になる。
それと同時に、素直に喜べない自分の汚さに嫌気が差した。
「あなたも、良くやってくれたわ。お疲れ様」
彼女は自虐気味に笑う俺の目を見て、真っ直ぐに微笑んだ。
慰めでも何でもなく、本心からそう言ってくれているだろう。
「……ふんっ」
くだらない考えが見透かされていることが少し恥ずかしくて、思わずツンケンした返しをしてしまった。
「うふふ」
嬉しそうに笑いやがってよー。
「ちっ、そういえば、ビビりは?」
「ビビり?」
「いやだから、もう一人の方だよ」
「え、……ッ⁉︎、……はぁー、なるほどね」
ビビりというのが、彼女と一緒にいるもう一人のクローンのことを指していることを理解すると、彼女は大きくため息をついた。
そういえばそうだったわねとか、それにしても失礼すぎない?とか、ぶつぶつ呟いている。
しばらくそうしていた後、彼女は恥ずかしそうに口を開いた。
「
「え?」
「だからぁ!……私の名前よ」
「ああ、なるほど」
「ちなみにあの子はビビりじゃなくて
唯衣と一華か。
クローンつっても、名前は普通の女の子なんだな。
「それで、一華はどうしたんだ?」
「バイトよ」
「バイト⁉︎え、なに。お前らバイトしてんの?」
「当たり前でしょ?じゃなきゃどうやって生きてくってのよ!」
「そりゃそうだけどよ」
そーか。いくらクローンと言っても、確かに金が無くちゃ生きていけねーもんな。
……こいつらって学園都市にとってどういう存在なんだ?
統括理事会がこの実験を隠蔽してるってことは、他のクローンはどっかの研究所なりでその存在を隠されながら生活してたんだろうけど。
そりゃあ、御坂さんと同じ顔した二万人のクローンがそこら中に居たら明らかにおかしいからな。
ってことはあのボロアパートで生活してるこいつらはその研究所から逃げ出して来たってことになる。
だったら、学園都市がこいつらを捕まえようとしても不思議じゃない。
流石のこいつらでも、学園都市がその気になればあっという間に捕まっちまいそうなもんだが。
なんか気にかかるんだよな。
……まあ、考えて仕方ないか。
こうして無事なら今はそれで良い。
「今回は来れなかったけど、必ず顔は出すと言ってたわ」
「おう」
「それと……」
「ん?」
唯衣は、深呼吸し覚悟を決めたような顔をして言った。
「ありがとう」
別に、感謝されたくてやったわけじゃない。
全部、俺のためにやったことだ。
そもそも、ぶっちゃけ俺は何の役にも立てなかったしな。
けど……。
気付けば唯衣から告げられた感謝の言葉にどこか満たされている自分がいた。
俺の行動原理はいつだって自分のためになるか、ならないか。
自他共に認める究極の自己満だ。
今回も、仮に俺が実験の内容を知っていたとしても、御坂さんがクローンのオリジナルじゃなくてこいつらにも出会ってなかったら絶対に手を貸さなかったと胸を張って言える。
この行動原理は変わることは絶対にない。
これからも。そして……
「……別に。礼なんかいいよ」
「この借りは必ず返すわ。とりあえずその怪我を早く治しちゃいなさい」
「ああ。お前……唯衣も困ったことがあったら何でも言ってくれ」
その後、唯衣はそろそろバイトの時間だと病室を後にした。
さっきまで騒がしたかった病室は途端に静寂に包まれ、控えめな冷房の音だけが静かに響き渡る。
……二度寝するか。
こうして俺の入院生活は始まった。
人生の初の入院ということで、不安がなかったと言えば嘘になるが割と充実しているんじゃないだろうか。
病室は個室だから他人にあんまり気を使わなくて良いし、最初は退屈だと思えた暇な時間も慣れれば悪くない。
メシも想像してたよりずっと美味いしな。
強いて言うとすれば、手術がちょっと怖かったけど。
医者のおっさんはサラッと説明しやがるんだけどよー。
体に鉄板入れるって普通にヤバくね?
……まあ、終わっちまったら大したことなかったんだけどな。
あれから定期的に唯衣と一華も顔を出しに来てくれている。
二人ともバイトで忙しいってのに、有難いよ。ほんとに。
一華なんて病院に来るだけでパニックを起こしてそのまま一日入院しちまったんだぜ。
あの時の唯衣の顔は見ものだったな。
白井ともあの後一度連絡を取ってて、そんときは忙しくて見舞いに来れないって言ってたけど、退院の日には顔を出してくれるらしい。
……っとまあ、そんなこんなでそこそこ充実した日々を送らせてもらったよ。
残念ながら夏休みはとっくに終わっちまってるが、明日には退院出来るらしい。
あれだけ待ち遠しかったその日が明日に迫っているというのに、どこか寂しさを感じつつ、俺は明日に備えて早めに眠りにつくのだった。
そんな退院前日……いや、当日の深夜。
そりゃあもう気持ち良く熟睡していた俺は、とんでもない衝撃と痛みで飛び起きた。
「痛っだっ⁉︎」
最悪の目覚め。
どうやら何か硬い物で顔面を殴り飛ばされたらしい。
「騒ぐな」
「——ッ⁉︎」
恐る恐る目を開ける。
部屋の電気がつけられていて、寝起きの俺には酷く眩しく感じられた。
今すぐ目を閉じてしまいたかったが、現状を把握するべく懸命にその不快感に抗った。
ボヤけていた視界が徐々に戻る。
その光景を見た俺は、思わず驚愕の声を漏らしてしまう。
「うおおっ⁉︎」
「おはようさん」
襲撃者の正体は、見知らぬ女だった。
年齢はパッと見18〜19くらいか?
真っ黒な髪を低めの位置で結んだ短めのポニーテール、左耳にはシンプルなフープピアスが二つ、左肩から手の甲にかけて派手なタトゥーが彫られている。
背は女にしては高く、手足もすらっと長い。全体的には細身だが、それでいて出るところはしっかり出ている。
目付きが異常に悪いのは少し気になるが、それを帳消しにするほどに整った顔をしていた。
分かりやすく言うなら、グレた絶世の美女。
ちなみに、そんな残念な要素混みでも俺のドストライクだった。
そんな美女が真夜中に自分の病室に忍び込んでくるという、世の男性諸君なら大喜びのシチュエーションなわけだが、俺は素直に喜べない。
寧ろ恐怖している自分がいる。
あまりの急展開も手伝って、心臓がバクバクいってやがる。
一応言っとくが、別に強がってるとかそういうんじゃないぜ?
今から言う説明を聞いたら納得してもらえると思う。
彼女の右手に握られている物、……拳銃。
何故だか、その銃口がバッチリと俺の額に向いている。
……というか、押し付けられている。
言っただろ、な?
「え、えーっと……誰?」
この状況では至極真っ当な質問を彼女に投げかけると銃口を押し付ける力が強まった。
「勝手に喋るなっつたろ」
言われてねーよ!
とんでもなく理不尽だが、こいつに口答えしても無駄だろう。
俺は諦めて、口を開く代わりに両手を上げた。
「良い子だ」
「——ッ⁉︎」
それを見た女は、何故か拳銃のグリップで俺の頭をぶん殴る。
これ以上殴られるのは勘弁なので、俺は痛みを必死に我慢して声にならない悲鳴を漏らした。
今絶対殴る意味なかっただろ⁉︎
痛みにもがき苦しむ俺を見て、女は悪魔のような笑みを浮かべながらベッドの隣の椅子に腰掛ける。
「それで用件だが……って自己紹介がまだだったな。あたしは
「お、おう。俺は——」
「貴船海翔だろ?あんたのことは知ってるよ……なんでもな」
今度は悪ガキのように歯を見せて笑う司。
大人びた顔立ちでそういう顔をされるとちょっとキュンとしてしまう。
思えば俺の周りには見てくれだけは良いってやつが多すぎる。
「そんであんたはなんでこんな真似を?俺に一体何の用だ?」
「簡単に言えばスカウトだ。あと司な」
「はいはい。それでスカウトって?」
「海翔、お前最近あのもやし野郎とやりやったんだって?」
もやし野郎……とは、
「なんでそれを?」
「それは後で分かる。そんなことより、だ。あたしはあんたを気に入った。だからこうして迎えに来てやったんだぜ?」
こいつ、すげえ恩着せがましく言ってきやがる。
説明を聞いても訳分かんねーしよ。
一体こいつは俺を何にスカウトしてーのか。
そもそもこいつがなんであの実験の存在を知ってるのか。
「ちゃんと一から説明してくれよ」
「だからー!迎えにきてやったて言っただろ?とりあえず黙ってついてこい」
こいつ……女版ジャイアンみてーなやつだな。
「ちなみにお前に拒否権はねーからな」
司は俺に向かって紙のような物を投げつけてきた。
それは一枚の写真。
「どう意味かは流石に分かんだろ?」
その写真に写っているものを見た瞬間、頭が真っ白になった。
写真を穴が開くほどに凝視する。
「テメェ……」
写真に写っていたものは。
ボロボロになってベッドに横たわる白井の姿だった。
訳も分からないまま司に連れて来られた先は第10学区。
学園都市で最も治安が悪い学区だ。
少年院や墓地、実験動物の処分場や原子力関連の施設など、他の学区では敬遠されるようなものが軒並み揃ってる他、無能力者が集まったチンピラ集団、スキルアウトの根城となっているスラム街のようなものも存在する。
司は普段、この学区に居を構えているらしい。
理由は家賃が一番安いから、だとよ。
そんな第10学区でも一際雰囲気が悪い雑居ビル。
その中にある小さな事務所がこいつのアジトとのことだった。
「帰ったぞー」
司は立て付けが悪いドアを乱暴に開く。
外観から予想できていたが、中もそれに負けないくらいにはボロくて汚い。
中心にはローテーブルが置いてある。上には物が散乱しており、菓子のゴミや飲みかけの缶コーヒー、中身が微妙に残っているマグカップ、食べかけのカップラーメンの容器や山盛りの灰皿など……そりゃあもう酷い散らかりようだった。
俺は別に気にならんが、潔癖症のやつが見たら発狂しちまうだろうな。
そしてそんな悲惨なテーブルを挟むように三人掛けのソファが二つ置かれている。
後は、電気ポッドとか紙皿、割り箸やマグカップなど、生活してくのに最低限の物だけが揃えられていた。
そんな、家主のだらしなさが最大限表された事務所で各々好きなようにくつろいでいる人間が二人。
ソファに寝転がって心底楽しそうに漫画を読んでいるやつ。
床にそのまま仰向けで寝っ転がって壁をぼーっと眺めているやつ。
……なんつーか、パンチ効いてんな。
「おいお前ら!前に言ってた新人を連れてきたからこっちこい!」
「別に入るって決めた訳じゃねえぞ!」
司のデカイ声を聞いてようやく俺たちが入ってきたことに気付いたようだ。
……強盗だったらどうすんだよ。
司の呼びかけに、二人がゾンビのようにノロノロと集まってくる。
「この男があの第一位に挑んだと噂の貴船海翔?」
訝しむような視線を俺に向ける二人の内の一人。
実は敢えて触れてなかったんだが、事務所に入ってからずっとこいつのことが気になっていた。
最初に俺に声をかけてきた少女は、率直に言えばどえらい美人。
長くて綺麗な黒髪、真っ白で透き通った肌。黒目がちで切れ長な目はどこか冷ややかで色っぽい印象を放っている。
旅館の若女将みてーな?着物が似合いそうな和風美人って感じだな。
だが、美人だから気になってたって訳じゃない。
気になってたのはその格好。
赤いドレス。
ゴスロリ……って言うのか?
花びらみたいな装飾がいっぱい付いてて、やたらとゴージャスな感じがする。
金持ちのパーティーとかにも、そのまま参加できそうだ。
和風美人とゴスロリなんて、相容れないような組み合わせなのに不思議とすっげえ似合ってる。
「……そうだけど」
「……まあ、リーダーが別人を連れてくる訳ないものね。申し遅れたけど……」
そこで彼女は区切る。
そしてやたら大袈裟な仕草で右足を一歩前に出し、左手を体の外側に広げて右手を顔の前に翳すと——
「私は
……だそうだ。
つーかヴェルファイアって車だぞ?
響きは確かにカッコいいけども。
なんつーか、気持ち良さそうなところ申し訳ないけど、妙に笑いを誘うポーズと名乗り口上だった。
俺がどう返事をしたものかと思案していると、司がコソッと耳打ちしてくる。
「気持ちは分かるけど、下手なこと言わねーほうがいいぞ。特にあのポーズを馬鹿にされるとブチギレっから。あいつなりに一生懸命考えてるんだよ」
こいつはギニュー特戦隊か。
「よろしくな、ささささき。え、えーと……その服かっこいい、な?」
「笹咲よ!……こほん。しかし貴方、見る目があるわね」
一瞬素が出たが、すぐにまた演技がかった色っぽい声に戻る。
ひらり、とその場で回転する笹咲。
どうやら服を褒められたのがよっぽど嬉しかったらしい。
こんなにも眩しいドヤ顔を見るのは生まれて初めてだった。
「これは
……という設定らしい。
早速こいつの扱い方が分かってきた気がする。
変わってはいるが、素直で良い奴そうだ。
そんな俺たちのやり取りを横で見ていた、漫画本を読んでいた女が口を開く。
「あ〜、コイツ頭イカれてるから気にしなくてイイぜ〜」
「なっ、なんですって⁉︎」
はっきり言うなよ。
「————————ッ」
シュバシュバシュババッ!
笹咲は全身を躍動させ、聞いたこともないような言語で呪文を唱えると——
結局さっきの厨二病ポーズをとって、自分を馬鹿にしてきた相手を睨みつけた。
「ほらな?」
しかしこいつの眼中に笹咲の姿はない。
「ふーっ、ふーっ」
めちゃくちゃ悔しいんだろうな。
笹咲は目に涙を浮かべながら怒りに震えている。
「アタシは
冴島鐘湖と名乗った目の前の少女の印象は、一言で言うと悪戯好きのクソガキ。
ちっせえ体に、ぺったんこな胸。
……まあそれは笹咲も同じなんだが、笹咲はあの演技がかった振る舞いと顔つきのせいでどこか歳不相応の色っぽさがある。
それ比べてこいつはそーゆーのが一切ない。
いや可愛いんだけどよ。方向性が真逆ってゆーか。
パッと見小学生みたいな女だ。
「ちなみに冴島って呼んだら殺すからな?可愛くねーから嫌いなんだ」
物騒な言動とは裏腹に、歯を見せながらとんでもなく眩しい笑顔をこっちに向けてくる。
「分かった。こちらこそよろしくな」
こうして俺が司以外のメンバーと挨拶を交わすと、そこまで静かだった司が口を開いた。
「取り敢えず挨拶は済んだなー。じゃ、みんな仲良くするように!以上!」
「「はぁーい!」」
そう告げると、ソファ深々と腰掛けポケットから取り出したタバコに火を付けた。
それを合図に笹咲と鐘湖もゾロゾロと元いた場所に場所に戻っていく。
「ぷはぁー」
余りに美味そうに吸うもんだから、一瞬声をかけるのを躊躇っちまったがそうゆう訳にもいかない。
俺にはこいつに聞かなきゃいけないことがある。
「おい待て。今度はこっちの話を聞いてもらう番だ」
「聞いてるから好きに聞いてくれー。……後一応言っとくが、お前がここで何を聞こうと拒否権がねーってのは変わんねーからな」
「……分かった。じゃあ早速だけど、白井に何をした?」
こいつが俺に寄越した写真に写る白井は、酷い怪我を負っていた。
何かトラブルに巻き込まれたのか。
それともこいつらが巻き込みやがったのか。
まずはそいつをハッキリさせなくちゃならない。
「そんな怖い顔すんじゃねーよ。勘違いすんな、あたしらは白井黒子に指一本触れちゃいねえ」
「じゃあ一体何があったんだ」
「
「ああ」
——樹形図の設計者。
学園都市が誇る世界最高峰のスーパーコンピューターで、その性能は今後25年追い抜かれることはないと言われている。
ちなみに、樹形図の設計者は七月二十八日正体不明の高熱原体によって破壊されている。
「その樹形図の設計者の
その争奪戦とやらに参加する動機があり、白井と繋がりを持つ人間。
「御坂さんか」
「そーゆーこった」
とある男の活躍によって凍結に追い込まれた実験……
しかし、それは樹形図の設計者が運良く破壊されていたからこそ出来たことだ。
樹形図の設計者が再構築されようものなら実験は再開され、今度こそ止めようがなくなってしまう。
御坂さんが争奪戦に加わるのは当然のことだった。
「後は簡単。
一通りの説明を受けて、白井が何故あのような状態になっているのかを知ることは出来た。
しかし、まだ分からないことがある。
白井が怪我を負った原因……争奪戦と、俺がこいつらの仲間にならなくちゃいけねえって話に繋がりが見えねえ。
「次の質問だ。さっきのお前らの仲間になるって話、拒否権がないってどういう事だ?そもそも何者なんだよお前ら」
「……まずは最初の質問に答えるが、この前の実験でお前は統括理事会に利用価値がある人間として目を付けられた」
「はあ?」
急に話のスケールがデカくなりやがった。
学園都市の司法、立法、行政、軍事から貿易に外交にいたるまで全てを掌握する最高機関、統括理事会。
そんなお偉いさんたちから評価されるほど偉くなったつもりはねーぞ。
「そんで
「つまり、白井は俺を呼び出すためのただの演出ってわけか」
「ああ、本命はちゃんと別に用意してある」
白井以外で俺が人質に取られると困り、学園都市も簡単に手を出せる相手といえば、あの二人しかいない。
「本人たちも知らねーだろーが、あいつらは裏の世界だとちょっとした有名人でよー。今では
操車場で見た妹達を思い出す。
俺に逆にあの二人以外の妹達を殆ど見たことねーから分かんなかったが、本来あのアンドロイドみたいなのが普通なんだとしたら、確かにあいつらの存在が異質だということにも頷ける。
「あそこまで感情表現が多彩な個体はハッキリ言って前代未聞だ。あたしも詳しいことは分かんねーけど、学園都市の研究者がイチモツおっ勃ててケツ追いかけても不思議じゃないだろ?」
なるほどな。こいつの言いてーことがようやく分かったぜ。
言い回しは下品だが、司の言う通り。
医学の研究のために動物実験を行うことを俺たちが仕方ないと思うのと同じように、科学の進歩のためならクローンがいくら死のうと仕方がないと研究者たちは考えているのだろう。
もし仮に俺が命の大切さを研究者たちに説いたとしても、連中の目にはハンバーガショップの目の前で騒ぐエセヴィーガンくらいにしか映らねえだろうよ。
もっとも、現代に生き、その恩恵を受けている俺には研究者たちの考えを否定する資格はないし、そもそも間違っているとも思わない。
だからあいつらを守りたいっていう俺の考えは、ただの身勝手なのかもしれない。
だけど、……だけどよ。
友達を守りたいって考えは、そんな大層な思想を前にしても貫き通す価値があるとは思わないか?
……言っただろ、俺の行動原理は究極の自己満だって。
「つまり、あいつらに手を出さねー代わりにお前らの仲間になれってことだな」
「そーゆーこったな。ちなみにあたしたちはたまたまお前らの所属先に選ばれただけだから。そこんとこ勝手に勘違いして恨むんじゃねえぞ?まっ、あたしがあんたのことを気に入ってたのは本当だけどな!」
司はまるで欲しかった玩具がようやく手に入った子供のように笑った。
「じゃあ、二つ目の質問だが……」
そこで司は言葉を区切り、肺に残った煙をゆっくりと吐き出して言う。
「あたしらは学園都市の暗部組織、『ジンクス』。歓迎するぜ新人」
今回もお読み頂きありがとうございます。
元々今回は残骸編の話を書こうと思っていましたが、前回勢いで貴船の両腕を折ったのを描き始めてから思い出してしまいました笑
そこで急遽考えていたのとは違う物語を考えたり、必要なキャラを考えていたせいでこんなに時間がかかってしまいました。
次回あたりでもう少し新キャラを掘り下げた後に、暗部らしいダークな展開に入っていこうと思っているので、どうかもう暫くお付き合い下さい笑
また次回もよろしくお願いします!