「セブルス。」
「はい、何でしょう養父上。」
朝食をとりながらセブルスは話しかけてきた養父に答えた。三年ほど共に過ごしてきて、セブルスとクリストファーもすっかり親子らしくなったものである。
「今度外務大臣がイギリス魔法省に行く。外交の一環としてな。」
「左様ですか。何かサポートをした方が良いことでも? 」
「セブルスはイギリス魔法界出身だからな。恐らく護衛の闇祓いとして名が挙がるだろう。行くか? 」
「ええ、構いません。」
セブルスは軽く頷いた。養父の期待を裏切るのは嫌だし、イギリス魔法界と関わるのでも死喰い人としてではなく外務大臣の護衛としてならばだいぶ意味が違ってくるだろう。
「そうか。……無理はするのではないぞ。わかっているな。」
「ええ、心配してくださってありがとうございます。」
「これでも私はセブルスの親代わりのつもりだ。心配するのは当然だろう。」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。ぐちゃぐちゃになるじゃないですか、といいつつもセブルスはそれを拒否しない。こういうちょっとした親子の触れ合いは新鮮で、何となくくすぐったい。19歳にもなって、中身は40をとうにこえているというのにまだまだ子どもであるものだ。クリストファーの年齢がセブルスの精神年齢よりも高いことが幸いし、彼には素直に甘えられている。きっと、これが本来の父と息子の関係なのだろうと思うほどには、この距離感は心地よい。
「わかってますよ。私の父は、クリストファーですから。」
「……可愛いやつめ。」
またぐしゃぐしゃと頭を撫でられてセブルスはくすりと笑った。
「照れ隠しですか? 養父上だって十分可愛いですよ。」
「前言撤回。生意気なやつめ。」
「これでももう成人ですから。」
「まったく、ああ言えばこう言う……まあ、いい。食事を再開しなさい。」
「話題転換が無理やりすぎませんか? 」
「そこは突っ込まないでくれないか。」
渋い顔をしたクリストファーに苦笑し、セブルスはミルクティーに口をつけた。
「無理はしませんよ。何かあったら、養父上を頼ります。」
クリストファーが顔を緩めたのが視界の端に映る。
「……ところでセブルス、聞くが。結婚する気はないのか? 」
「ありませんよ。」
「なら、気が向いた時にでも後継ぎとなる者を探してみろ。私がセブルスを引き取ったように。イギリス魔法界に行くなら、良い機会かもしれない。」
「頭の隅にでも留めておきます。」
******
「君が護衛とは心強いよ、本当に。クリストファーのお墨付きとはね! 」
「もったいないお言葉です、大臣。」
イギリス魔法省のアトリウムで接待を待ちながら笑う大臣にセブルスは軽く礼をした。一瞬視界の端を赤毛がかすめたような気がしたが、気のせいだろう。
「それにしてもセブルス、本当にクリストファーは見る目があるものだ。そして君という優秀な人材を我が国の寄越してくれるとは、イギリスも素晴らしいね。」
「大臣、お戯れを。」
暗にイギリス魔法界の目は節穴か、と皮肉を言う大臣をいさめる目的で苦笑を浮かべながら短く返す。
「君は謙遜が得意なようだ。もっと自信を持っても良いのだがね。」
「大臣にそれほど評価していただけるなんて嬉しいものですよ。ですが、過度な自信は驕りと油断につながりますので。」
「それでこそ精鋭の闇祓いだ。私はいつ君に魔法大臣の座を明け渡すことになるのかな。」
「ご冗談を。私はまだまだ下っ端の闇祓いですよ。」
「下っ端とはよく言うね。過度な謙遜は自己卑下に繋がる。やめなさい。」
そんな会話を交わしながらも周囲に気を配り、護衛に穴がないように周りに視線を巡らせていた時、ひとりの男が現れた。
「ようこそ、イギリス魔法界へ、大臣閣下。案内をつとめさせていただきますエイブリーです。」
は、とセブルスは目を瞠った。エイブリー。そうか、彼は死喰い人になりながらも、魔法省に勤めていたのか。ちら、と目を上げたエイブリーの瞳がセブルスをとらえ、その表情が驚愕に染まる。
「知り合いかい、セブルス。」
「―――ええ、大臣。かつての同級生です。」
「それでは積もる話もあるだろう。あとで話す場所を設けることにするからゆっくりと話すと良い。」
「私は大臣の護衛です。傍を離れるわけには……。」
「私が自分の身を自分で守れぬ無能だと? セブルス、君を護衛として連れてきたのは旧友に会う機会を持ってほしいとも思ってのことだよ。何、少しくらい問題ない。」
「……わかりました。」
大臣も闇祓い出身だ。それほど言うのなら、今も腕は鈍っていないだろう。苦々しく頷いたセブルスに満足げに笑み、大臣はエイブリーに案内を促した。
******
「久しいな、エイブリー。」
「……ああ、久しいな、スネイプ。マクーザの外務大臣の護衛か? 」
「まだ駆け出しの闇祓いだがイギリス魔法界出身ということで採用されたらしい。それと、私の姓はもうスネイプではない。シスルウールに改姓した。」
「シスルウール? 名家じゃないか。」
「ああ、名家だが。母方の家系がシスルウールの流れを汲んでいたゆえな。」
短い沈黙が落ちた。しかし、気まずくなる前にそれは破られる。
「……力になると、言っただろう。何かあれば。」
「ああ。それがどうかしたか? 」
ホグワーツ特急で言った言葉だが、プライドの高い貴族たちが頼るなどとは考えもしなかったためにセブルスは軽く目を瞬かせた。
「この間、娘が生まれた。」
「そうなのか。おめでとう。」
「俺も妻も、どちらも死喰い人なものでな。捕縛される気はないが、いつ捕縛されて投獄されるかわかったものではない。イギリス魔法界が落ち着くまで預かっていてくれないか。」
「大事な娘を私に預けて良いのか? 」
「お前だから預ける。それに、アメリカ魔法界ならば、闇祓いのもとならば安全だろう。」
苦悩が見えた。彼は、まだ19になったばかりの青年なのだ。
「……責任を持って預かろう。イギリス魔法界が落ち着いた暁には、その手に返せるように。」
「助かる。……もし、俺も妻も死んだら……エイブリーが断絶するようなことがあれば、その後のことは、任せる。」
セブルスは短く頷いた。
イギリス魔法界に行くのならば、後継を探してみるのもいいかもしれない、そんなことを言った養父の顔が浮かぶ。彼女を、後継のように育ててみるのも良いかもしれない。