周回逆行N回目   作:優鶴

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恩師と真実

「ホラスからSOSが来た。」

「はい? 」

朝、ミルクティーを飲んでいる時に起きだしてきたクリストファーの言葉にセブルスは疑問を返した。

「何でも、滅びたはずの闇の帝王が復活したそうだ。どうすればいいのかと。シスルウール・マナーで匿いたいと思うが。今学期が終わったらホグワーツを辞めるそうだ。」

「ええ、ソフィーもフェリスも特に文句を言うこともないでしょう。スラグホーン教授は恩師ですし、私も匿いたいものです。」

そう返しつつも、セブルスは内心では動揺していた。1996年7月。ヴォルデモート卿の復活が否定できなくなる時期は、セブルスの記憶と同じだ。もしかしたら、あの予言をセブルス以外の人物が聞いていて、リリーはもう死んでいるのでは―――。

そんな嫌な予感が頭の中を駆け巡った。

「パパ、大丈夫? 酷い顔をしているわ。」

「……ああ、フェリス。」

いつの間にかリビングに来ていたらしいフェリシアに心配げに顔を覗きこまれ、セブルスは笑みを浮かべてみせた。

「心配することはない。」

ぐしゃりと頭を撫でれば、髪の毛崩れるじゃないパパの馬鹿! と元気な返答が返ってきた。エイブリーは、今、どうしているのか。娘を手放して平気でいるのだろうか。確か“前”は服従の呪文をかけられていたということで釈放されたはずだが、神秘部の戦いの前に予言玉に関して誤った情報を伝えて拷問されていた。

「……フェリス。」

「何、パパ。」

「お前の、実の父親が今どうしているか、知りたいか。」

フェリシアが息をのんだ。セブルスは今まで彼女に、本当の両親のことをあまり話していない。セブルスとクリストファーは親子ではないし、フェリシアもセブルスと血が繋がっていないことには気づいていてそれをソフィアに聞いていたりもする。直接の血の繋がりがない四人の生活がフェリシアにとっては当たり前で、セブルスとソフィアが実の両親でなかったことを知っても特に荒れることはなかった。

「……パパが話したくなった時、でいいわ。」

セブルスは黙って、もう一度フェリシアの髪を撫でた。この子は優しすぎるのだ。

「養父上、情報収集に行ってきます。」

「くれぐれも無理をしないように、セブルス。」

「……ええ。」

もう30も半ばになり、魔法大臣を目前にした魔法執行部部長の肩書きを手に入れている。ティストルウールとステアフォールスの伝手もある。手に入らない情報など、ないに等しかった。

 

******

 

果たして、歴史は同じ流れを辿っていた。

セブルスが予言を密告していないにも関わらず、ポッター夫妻は1981年10月31日に死亡し、ハリー・ポッターは生き残った男の子になり、ヴォルデモート卿は消滅していた。そして、1996年6月18日、神秘部の戦いが起こり、シリウス・ブラックが死に、ヴォルデモート卿の復活が魔法省に確認された。大臣もファッジからスクリムジョールになっている。ということは、もう少しでダンブルドアが腕の呪いを受ける―――?

ダンブルドアに向かって死の呪文を唱えた感覚が鮮明に蘇ってきた。

「……、歴史の、修正力。」

セブルスは、いないはずだ。いないはずなのに、予言がもたらされるはずがないのに。スラグホーン教授は、魔法薬学の教授を続けているはずなのに。

「セブルス。」

後ろから声をかけられ、セブルスは振り返った。

「養父上……。」

「もう寝なさい。随分と遅い時間だ。あと少しで日付が変わる。」

資料漁りに没頭して時間を忘れてしまっていたらしい。セブルスは唇を噛んだ。歴史の修正力というのを聞いたことはあったが、これほどまでに強固なものだったとは。

「ホグワーツはそろそろ終わる。明後日、ホラスがここに来るだろう。安眠薬が欲しいのなら処方するが。」

「大丈夫です。……お気遣い、ありがとうございます。」

「何、息子を気にかけるのは当然のことだ。」

歴史の修正力というのならば、もう30も半ばに差しかかったセブルスの頭を撫でるこの人はいないはずだ。馬鹿なことを考えたものかもしれない。イギリス魔法界から逃げ出したのは、セブルスなのに。

「……明日、スラグホーン教授を出迎えなければなりませんね。」

「ああ、その通りだ。」

「わかりました。」

軽く頭を下げ、セブルスは寝室へと足を向けた。

 

******

 

「やあ、ようこそホラス。」

「クリストファー、ありがとう。世話になるよ。」

「お久しぶりです、スラグホーン教授。」

「もう教授ではないよ、セブルス。」

「いいえ、それでも私にとってあなたはいつまでも教授です。」

手を差し伸べようとしてくれたから。その言葉は、喉の奥に飲みこんだ。

「初めまして、ミスター・スラグホーン。ソフィア・ステアフォールスと申します。アメリカ魔法薬学研究会の副会長をつとめていますわ。どうぞお見知りおきを。」

「おや、セブルスの奥さんかい? 」

「ええ、まあ戸籍上は妻です。」

「利害の一致で結婚したようなものです。」

おやおやそんなことを。スラグホーン教授は楽しげにほっほうと笑った。

「初めまして、ミスター・スラグホーン。父がお世話になったと聞いております。フェリシア・エイブリーです。」

「……何と、エイブリーと! セブルス、君が引き取ったのかね。」

「ええ、色々とありまして。……良ければ、この子の両親がどうしているのか、教えていただければいいと思いまして。」

「ああ―――母親の方は、もう十年も前にアズカバンで亡くなっている。父親の方は、今、アズカバンに投獄されて……。ディメンターのキスを受けたという噂も……。」

顔に苦渋をにじませるスラグホーン教授に、セブルスもいたましげな表情を作ってフェリシアの頭に手を置いた。

「そうでしたか。……イギリス魔法界が落ち着いたら、フェリスを返してほしいと言われていたんです。もし自分たちが死んだら、あとを頼みたいとも。」

「……彼らは、この子を愛していたのだね。」

先日イルヴァモーニーを卒業したばかりのフェリシアには、イギリス魔法界とは、エイブリーとは遠いものだろう。

「イギリス魔法界が落ち着いたら、今度こそイギリスに連れていこう。」

「……うん、パパ。」

ディメンターのキスを受けているなど、どうか、噂でありますように。フェリシアの父親が、セブルスの学生時代の友人が、生きていますように―――。

 

******

 

結局、エイブリーがディメンターのキスを受けたという話は本当だった。それを聞いたフェリシアは、子どもができるまでイギリス魔法界には行かないと言い張った。私の居場所はアメリカで、イルヴァモーニーなのだと言い張って、魔法薬学の教授輔佐に就任している。しかし浮いた話はまだ一切なく、フェリシアはまだクリストファーとセブルスとソフィアとホラスの四人が住むシスルウール・マナーで一緒に暮らしている。

イギリス魔法界でもセブルスの記憶の通りに1998年に戦いが終息したらしい。2002年になった今、まだフェリシアをイギリス魔法界へ連れ帰れていないのはエイブリーに申し訳ないとも思っている。ちなみにセブルスはもう魔法大臣にのぼりつめていた。マクーザの魔法大臣としてキングズリーと会談をするのも微妙な心地だったし、ハーマイオニー・グレンジャーや例のハリー・ポッターと遭遇することもなきにしもあらずということで、魔法大臣になったことを少し後悔していた。

「セブルス、読んでみるかい。ハリー・ポッターの伝記。」

「イギリス魔法界からでも取り寄せたんですか、ホラス。」

スラグホーン教授という呼び方はこの数年ですっかり取り払われて、ホラスの呼び方に切り替わっていた。二年だけ、教員生活を共にしたこともあるのだからファーストネームで呼ぶのにさほど躊躇いはない。

「その通りだよ。大戦も終わったことだしね。」

「では、読んでみますか。」

死に際に、父とも母とも違うと気づいた。そういえば彼自身のことを見たことはあっただろうか。父を、母を、重ねてはいなかっただろうか。そう思えば、彼自身の人生を知るのも悪くないのかもしれない。

そんな軽い気持ちで読み進めたが、読み終わった後には色々と複雑だった。

まず、セブルスが辿った役割をピーター・ペティグリューが辿っていた。そして、影の英雄として祭り上げられていた。これもしかしたら自分の死後に影の英雄とか言われていたのか、と思うと複雑な気分だった。

次に、分霊箱のこと。ダンブルドアはそんなことを一言も言っていなかった。他にも色々だ。ダンブルドアが言っていないことが多すぎて、愕然とした。

そんな心地で視察に出掛けてしまったから良くなかったのだろう。

「大臣?! 」

「閣下、泡頭呪文を! 閣下なら使えるでしょう! 」

そんな言葉を無視して、セブルスは沈むがままに任せた。うっかり足を滑らせて湖に墜落なんて間抜けなことをしたものである。死にたがりは改善されていなかったしフェリシアも成人しているし、彼女はマクーザの闇祓い副局長になっている。特に思い残すこともない。

最後に想ったことなんて、物理的窒息系の魔法は試していなかったな、なんていう間抜けなことだった。

 

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