分霊箱は暇つぶし
「……またここか。」
セブルスは溜息を吐いて母親を見た。どうやら父親は仕事に行っているらしく、家にいるのは母だけだ。
結局溺死した前回の人生を思い出す。思い出した途端、イルヴァモーニーが恋しくなった。養父だとか便宜上妻であった共同研究者兼同期兼親友だとかエイブリーから引き取って育てた娘同然の可愛いフェリシアのこととか、なかなかに良い人生を送ったものだと思う。エドウィンも何だかんだ最後はイルヴァモーニーの校長なんかをつとめていて、付き合いは続いていた。フェリシアとエドウィンの息子はお似合いだったようにも思う、なんて詮無いことを考える。
母の杖が隠されていた場所まで歩いていき、それを手に取る。
「……エクスペリアームス。」
黒檀の杖は母のものだが、セブルスのものともよく似ているので本来の持ち主でなくとも扱うには不自由しない。さて、七歳のこの身体では不自由だ。何をしてやろうか。少し首を傾げて考え込んだセブルスは前世で読んだハリー・ポッターの伝記の内容を思い返した。あったじゃないか、いい暇潰しになりそうなのが。ばちんと姿くらまし特有の音が響き、セブルスは次の瞬間にはウィルトシャーに到着していた。
「……ふむ、まずどうするか。」
人生周回のせいで魔力量がとんでもないことになっているからマルフォイ邸の結界を破るのは容易だ。だが、あまり派手に動いてマルフォイに勘付かれるわけにもいかない。
魔力を放ち、抜け道を探ってみる。魔力で空間を探る魔法はクリストファーが編み出したオリジナル魔法で彼直伝のものだ。探られたことすらもわからないだろう。闇祓い時代に重宝した技術だ。
そんなことを考えながらセブルスは淡々とマルフォイ邸に侵入を果たした。自身に目くらまし術をかけてすぐに書庫へとたどり着く。
無言呪文でアクシオ、リドルの日記、と唱えてみるもやはり効果はない。
「ウェニーレ、リドルの日記。」
イルヴァモーニーで首席を誇ったフェリシアのオリジナル呪文だ。呼び寄せ呪文アクシオの上位互換である術。さすがにそれへの反対呪文はなかったのだろう、黒い日記帳がセブルスの手元に飛んできた。背後の棚にぶつかって落ちる前に浮遊呪文で浮かせてから手に取る。なるほど、これが帝王の分霊箱か。暇潰しになるだろうか、なんて考えつつ、セブルスは今まで来た道を辿ってマルフォイ邸の外に出ると姿くらましした。
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魔力を注ぎまくれば実体化できるらしい日記を前に、セブルスはどうしようかと小首を傾げた。傍から見れば可愛らしいことこの上ない仕草だが、中身は七十越えの爺である。それを考慮してみればまったくもって可愛らしくもなんともない。
「魔力を注ぐ……手っ取り早いのは、血か。」
セクタム・センプラではさすがに大量出血になりすぎる。あれは強力なだけあって反対呪文も長くて面倒なのだ。ヴァルネラ・サネントゥール以下略。
「ディフェンド。」
これが一番早いかな、と思ってセブルスはその呪文を唱えた。指先が切れ、血がじわじわと日記に吸い込まれていく。闇の魔術を考案しようと躍起になって作った己の十八番呪文とは違い、やはり優しいものだ。
「エピスキー。」
すぐに癒せばそこまで問題でもない。身の内にある魔力は何周もしているせいでとんでもなく膨大になっているので有効利用法を発見できて良いだろう。
「魔力はこれで足りただろう? 話をしないか、トム・リドル。」
暇潰しになればいいなあ、なんて分霊箱が聞いたら自分はそんな用途で作られたんじゃないとでも怒りに震えそうなことを心の中で思いながら、セブルスはトム・リドルを召還したのだった。