「随分と多い魔力量だったからどんな傑物かと思えば、こんなに小さな子か。」
「これでも人生を何周もしているものでな。」
日記帳からふわふわと浮かび上がったリドルを見上げ、セブルスはそう返した。人生を何周も、というところでリドルが目を見開く。完璧に作りこまれ、計算し尽くされた驚きの表情だ。
「人生を何周も? 」
「魂ごと。そのせいで魔力が有り余っている。このままでは幼い身体も壊れかねないし常に魔力を吸っておいてもらうくらいがちょうどいいだろう。」
「ふうん……。ところで、君。」
「何だ? 」
「名前は? 」
「セブルス・ティ……スネイプ。純血名家の魔女の母親が何を血迷ったのかマグルと駆け落ちして生まれた半純血の魔法使いだが何か? 」
危ない、セブルス・ティストルウールと名乗るところだった。セブルスは前髪をかきあげた。クリストファーにしつこく言われて丁寧に手入れしていた髪のさわり心地に慣れたからか、非常に指の通りが悪い。あとでどうにかしよう。
「純血名家の魔女の母親が、何を血迷ったのかマグルと駆け落ち……? 」
「そうだが。マグルの父親は私を疎んでいるものでな、魔力制御はできるが果たしてどうしたものか。」
「なるほど。……わかったよ。セブルス。今日から僕は君のお兄ちゃんだ。」
「は? 」
セブルスは今度ばかりは取り繕わぬ表情でぱちぱちと目を瞬かせた。闇の帝王が兄? 冗談も大概にしてくれないだろうか。意味がわからないにもほどがある。
「君と僕の環境はよく似ているからね。どうだい、弟にならないか? 」
セブルスは無言でトムを見つめた。クリストファーとソフィアとフェリシア、彼らは前世で“家族”のなんたるかをセブルスに教えてくれた。家族というのは悪くないものである。アイリーンとトビアスを家族と呼ぶ気がない以上、ひとりくらい家族を作ってみたっていいだろう。それにお兄ちゃんである。本当の幼子だった頃、優しいお兄ちゃんかお姉ちゃんがいたらいいのに、と夢想したこともある。と考えれば、悪いことでもないだろう。それに、何だかんだでセブルスは家族のいる生活に、その温もりに慣れてしまっている。
「わかりました、トム義兄様。」
年上の家族にうっかり敬語になるのはクリストファーと長年養父子をやってきた影響だろう。それに魔法大臣をやったりして上流階級と接することも多く、セブルス自身クリストファーのことは“養父上”と丁寧に呼んでいたこともあってトム義兄様なんていう呼称になった。
「……トム義兄様、か。」
「嫌ですか? 」
重ねて言う、敬語は年上の家族に対するものだからである。決して闇の帝王の卵だからとかではない。我が君に対して敬語を使っていた癖が出てきたわけでは、断じてない。
「いや、気に入ったよ。トムという名前はあまり好きではなかったんだけどね、義兄様と呼んでくれる可愛い弟がいるのなら悪くない。」
「可愛いですか。」
中身七十超えの爺を捕まえて可愛いとのたまうか。セブルスは半眼になった。
「うん、可愛いよ。そうだね、兄弟になるというのならばただセブルスと呼ぶのでは芸がない。何か愛称を考えよう……そうだね、セヴァ、はどうかな。」
セブルスは投げやりな気持ちで軽く頷いた。リリーにかつて呼ばれていたセブでもなく、ソフィアに呼ばれたセヴィでもない愛称が新たに考案されたらしい。
「セヴァ、君の両親は君を不当に扱っているのかい? 」
「別に。両親に対しては便宜上そう呼んでいるだけで関心も何もないですから。どうなろうとも知ったことではありません。まあ、僕という魔力持ちが生まれたことで家庭が破綻した父には同情しないこともありませんけど。」
そんな考え方ができるようになったのは、伊達に七十年以上も過ごしたからではないからだろう。クリストファーと養父子の絆を育み、恋愛感情はなかったもののソフィアと共にフェリシアを育て、余裕が持てるようになったからだ。彼らの存在はセブルスの中に強く根付いている。
「復讐しようとは思わないのかい? 」
「無意味です。そもそも復讐する価値もあるのですか? 」
復讐する、ということは関心を持っているということであり、わざわざ自分が気にかけてやる価値を認めているということである。セブルスは便宜上の両親に対して復讐するほどの執着など持ち合わせていない。それは、本当に幼子であった頃なら持ち合わせていたかもしれないが、ホグワーツ教授と校長とマクーザの魔法大臣をつとめた身である。今さらそんな子どもっぽいことは言わない。それに慈しんでくれたクリストファーもいることであるし、セブルスにとっての親は彼だけだ。
「……僕も君のような考え方ができれば楽だったのかもしれないね。」
ぽつりと呟いたトムの言葉はおそらく本音だろう。セブルスは実体化している彼の方を見た。闇の帝王は人心掌握術に長けている。数分接してわかったが、人心掌握術に長けているのは、元々は人の痛みが、感情がわかる少年だったからなのだろう。
何となく我が君と呼んでいた頃とは違う一面を垣間見れたような気がして新鮮だった。