「トム義兄様、暇つぶしの材料が欲しいです。何かください。」
トムをスピナーズ・エンドに連れてきてから数カ月。つまらなそうにそのあたりに転がっていた箱をクッションに変身させてふかふかクッションに埋もれてテディベアを抱っこしているセブルスの頭を撫でながら、トムはそうだねえと首を傾げた。ここ数カ月で随分“兄”も板についてきたようである。人との触れ合いをあまり知らないせいかもしれないが、ややスキンシップ過多なのは多目に見ることにしている。クリストファーとてよく髪を撫でて来たし、セブルス自身もフェリシアの頭を撫でてやることも多かったせいか違和感は感じない。家族の温もりは既に知っている。
“賢くて大人びてる魔法使いの弟って何て素晴らしくて可愛いんだ……。”とか何とか言いながら兄として接しようとしてくれるトムの表情にはまだ少し影があるものの、闇の帝王になりそうな危うさはない。セブルスが今抱えているテディベアだってトムのお手製である。
「蛇語はどうだい? 」
「蛇語ですか? 」
クッションから顔を上げたセブルスにトムが微笑んでまた髪を撫でる。クリストファー流の髪の手入れをしっかりしているので天使の輪が浮かぶ艶やかさだ。トムの髪も美しいので、彼は本当の兄弟みたいだねと笑ってよくセブルスの髪をいじっている。セブルスがされるがままになるのでヘアアレンジに凝ってきたかもしれない。
「そう、蛇語だよ。きっとセヴァなら習得できるだろうし、蛇の可愛さをわかってくれるだろうと思ってね。」
「蛇と話せるようになるのはそれはそれで便利かもしれませんね。教えていただけますか、トム義兄様。」
トム義兄様と呼ぶとトムは嬉しそうに目元を綻ばせてセブルスの頭を自分の膝に乗っけた。いわゆる膝枕状態である。彼は兄と弟の距離感としてこれが正常だと思っているのかもしれないし、単純にスキンシップ過多なだけかもしれない。
「じゃあまずね、この音出して見て。シュー。」
「今何て言ったんです? 」
「“セブルス”ってね。自分の名前を覚えるのが一番最初だろう? ほら、真似てみて。」
「わかりません。コツを教えてください。」
「コツって言ったって生まれた時から話せるんだしなあ……あ、セヴァ、僕の分霊箱になる? 」
「どうしてそういう話になるんですか。分霊箱になんてなりませんよ。」
「つれないなあ。そうだね、まず舌を歯に押しあてて擦るようにしてシューってね。」
傍から見ればひたすらシューシュー言っている蛇語のレッスンはさぞ奇妙に見えたことだろうが、生憎とスピナーズ・エンドのセブルスの小さな部屋にいるのはトムとセブルスのふたりだけだ。正統なるスリザリンの継承者による蛇語のレッスンは、誰にも目撃されることはなかった。
なお、数カ月後にセブルスはマンツーマンのトムのレッスンによって無事蛇語を身につけて庭に迷い込んできた蛇をペットにし、トムを喜ばせることになる。
『蛇さん、あなたのお名前は? 』
家の中に持ち込んだ蛇に後天的に習得した蛇語でシューシューと話しかけるセブルスをトムが喜色満面で見ている。一年ほど共に過ごし、トムの中ではセブルスは可愛い可愛い弟に分類されているし、蛇はいわずもがな可愛い。可愛いと可愛いが一緒にいる様子はことさらに可愛いのだ。この世の真理である。
『私の名前? ナギニよ。』
セブルスはさすがに頬を引きつらせた。一度目の人生を終わらせた蛇をペットにするとか何その悪夢といったところである。だが、ここで味方につけておけば頼もしいかもしれない。
『よろしくね、ナギニ。僕はセブルスだよ。』
かくして、セブルスとトムはナギニの飼い主になったのであった。