セブルスがトムを兄にしてから数年、11歳の誕生日を迎えた頃、一羽のふくろうがやってきて入学許可証が届けられた。セブルスはそれを部屋にて開封した。ちなみに今現在のセブルスの物置にも等しかったはずの小さな部屋は、トムとふたりがかりの検知不可能拡大呪文と変身術とその他諸々によって果てしなく快適な部屋と化している。両親の記憶を適当にいじって兄と送る生活はなかなかに快適であった。ので、ホグワーツに行く日が来ることなんてすっかり忘れていたのである。
「おや、入学許可証かい。」
朝のシャワーを浴びてきたトムがセブルスの後ろからそれを覗きこんだ。深緑色のバスローブがよく似合っている。部屋の隅でとぐろを巻いていたナギニもするすると近寄ってきた。
「別に、ホグワーツに行く気はないですし。」
「行かないのかい? 」
「はい。前々世はホグワーツでしたけど前世はイルヴァモーニーで六、七年生を過ごしてそのままアメリカで過ごしまして。なかなかに快適ですよ、アメリカ魔法界。」
「セヴァが言うのならアメリカに行くのも良いかもしれないね。」
「そうですね……。トム義兄様は優秀ですし、養父上のところに行くのも良いかもしれません。結婚する気ないからって跡取りにできるような人物探していましたし。」
そう言いながらセブルスは養父の顔を思い浮かべた。捨てられた者にとって拾ってくれた者は絶対なのである。エドウィンにもファザコンと呆れられることはあったし、そんな雰囲気があったのはセブルスも承知しているので特に反論もしなかった。父親として慈しんでくれたクリストファーが大好きなのは至極当然のこと。彼と今生でも養父子関係を築けるというのなら嬉しい限りだが、確証はない。
まあ養父子関係を築けなくてもトム義兄様がいればいいや、なんて思ってしまったあたり、セブルスもセブルスでこの数年でかなりトムに馴染んでいる。トムだって今では惜しみなく愛情を注いでくれるのだ。彼は我が君なのではなく慕わしき義兄君である。
「ではアメリカに行くとしようか、セヴァ。」
「はい、姿くらましはできるでしょうし。」
年齢が5歳とか6歳なら怖くて試すこともできないが、11歳ともなればばらける危険性はないだろう。トムが引っ込んだ日記を抱え、ナギニを首に巻きつかせたセブルスはくるりとつま先で回転して姿くらましをした。
******
果たして、姿くらましは成功した。セブルスの有り余る魔力のおかげで触れられるほどに十分に実体を保っているトムが隣に立つ。髪の色も同じなので傍から見れば兄弟に見えるだろう。
それにしても、とセブルスは目の前に聳えるティストルウール邸を見上げた。仕事が終わったあとはここに姿現しして帰ることが多かったせいか、癖でついティストルウール邸の門前まで姿現ししてしまった。どう考えたって不審である。ティストルウール邸は割と警備も固く、限られたものしかこの門前は知らないはずなのである。
とりあえずクリストファーが出てきてくれるのを待とう。開心術でもかけてもらえばどうにかなるだろう。常に庇護者としてあり続けたクリストファーに絶大な信頼を寄せているセブルスはそう楽観し、門前で待つことにした。
トムは物珍しいのかきょろきょろとあたりを見回している。ウィルトシャーのマルフォイ邸やロンドンのブラック邸とも違う様相だ、それは珍しいものだろう。そんなことをつらつらと考えている間にクリストファーが現れた。
「……失礼。君たちは何をしているのだね? 」
「開心術をかけてみてください。」
セブルスは無条件にクリストファーを信頼している。彼は一度として裏切ることなく、ずっと味方でいてくれたのだから。閉心術を解いて目を合わせてみると溜息と共に丁寧に開心術がかけられる気配がした。前世における彼との出会いから最期までの記憶がところどころ浮かび上がってくる。クリストファーは溜息を吐いてセブルスとトムを見やった。
「ああ、確かに私は今でも子どもを作れ後継を育てろとうるさく言われている。セブルス、そして君はトム、だったか? 君たちに私の後を継いでマクーザの重役に上り詰める覚悟があるのなら、受け入れよう。」
セブルスは頷いた。元よりその覚悟だ。前世では魔法大臣まで上り詰めたのだから、重役につく覚悟などとうにできている。トムも目をぱちぱちと瞬かせながらもはい、と返事をした。良いだろう、とクリストファーが笑む。
「今日から私を父とも思いなさい。」
「はい、養父上。」
父の呼び名を許されたと解釈し、セブルスはあっさりと応じた。トムがはくはくと口を開け閉めしている。
「トム? 」
「……養父さん、と、呼んでも、良いんですか……。」
優秀な魔法使いの父親。トムにとってそれは常に心のどこかで憧れていたものでもあった。マクーザの魔法執行部部長であるクリストファーは、その条件に該当する。
「構わない。では、これから生活習慣を正していくぞ。」
来なさい、と促されてトムとセブルスはティストルウール邸に足を踏み入れた。セブルスにとっては馴染んだものだが、トムにとっては違う。
これからトムもセブルスが受けた生活習慣矯正の洗礼を受けるのか、と思うと少しおかしな気分でもあった。ちなみに、トムはセブルスより遥かに早く生活習慣矯正に順応してみせたのだった。