「聞いてください。」
アメリカ魔法界のパブにて、セブルスはトムに向かって至極真面目な顔で言った。
「レティが“ダディ”って言ったんです。」
「うちのミラとベルも父様って呼んでくれたしアルフィーなんてパパって言ってくれたんだよ。」
セブルスが娘の自慢をすればトムも負けじと愛する子どもたちの自慢をしてきた。ルドミラとメイベルの双子に末っ子のアルフレッド。今のところは姉たち大好きに育っている末っ子だが反抗期を迎えたらどうなることやら。
「私のレティは賢いんです。この前なんてひとりで絵本を広げようとしていましたし、たくさん歩きますしよく笑うんですよ。」
「ミラはもう杖を使っているしベルも簡単な魔法薬の調合ならできるよ。アルフィーはこの前ひとりで僕の膝にのぼれたんだ! 」
「レティだってもうひとりで私の膝にも乗れますし肩車だって怖がらなくなったんですよ。うちの子が一番可愛いです。」
「いやセヴァの次に可愛いのは間違いなくうちの子たちだ。」
「……トム義兄様、相変わらず私のこと好きですね。」
我が子は可愛い世界一可愛い、それはそれとして弟はやっぱり宇宙一可愛いんだよと笑顔で言い放ったトムをセブルスはよく覚えている。シャーロットを愛し愛され我が子に大きな愛情を注ぎながらセブルスに回す愛情もたくさん残っているらしい。トムはもう立派な家族至上主義であるし、この間就職した闇祓いでも順調に出世している。もちろん子どもたちと遊べないだとかシャーロットに愛を囁けないだとか家のことをほったらかすだとかいうのは許されないとばかりに常に定時上がりだ。
「うん、セヴァは万物の中で一番に可愛いよ。それにセヴァの娘を見れて嬉しいし。レティも可愛いね。うちのミラとベルとアルフィーだって可愛いけどね。ティストルウールで親族を集めたら可愛いの大氾濫が起きるよ。僕としてはもちろん望むところだけどね? 」
「トム義兄様が幸せそうで良かったです。」
いつも通りのトムである。少々酒が入っているのもあって何だかあまり脈絡のないことを言ってしまうが、トムは相変わらず頭を撫でてくる。いい年だし恥ずかしいなんて言っても意味がないことはもうわかっている。
「セヴァも幸せそうで良かったよ。」
「……レティは可愛いです。あの子は可愛いです。何をおいても可愛いです。でも可愛い可愛いあの子もいずれ嫁に出すのかと思うともう……。」
いつぞやにソフィアが『こんな可愛い子絶対嫁に出せない』だなんて言ったから、十年以上も先のことを考えてしまうのだ。それはもう我が子は可愛くてたまらなくて、女の子だろうと男の子だろうと構わず溺愛していた自信があるくらいには愛おしい。血を分けた我が子なんだから、それはリリーだって愛の呪文くらいかけるはずだ、なんて少し思ったりもした。もしリリーと同じ立場だったら、それしか方法がなければセブルスだって愛の呪文をかける。我が子を置いて行きたくなどないが一緒に死ぬか我が子だけでも生かすかならばセブルスは間違いなくレティシアを選ぶ。そう思って自己嫌悪に苛まれかけたが、セブルスの罪は自分のそれと引き換えにまるごとソフィアが受け止めてくれた。まだ消化しきれないところはあるが、心底レティシアを溺愛するくらいにはどうにか吹っ切れているのだ。うちのレティが世界一。
「うん、そのまま幸せにね、セヴァ。」
「トム義兄様も。」
最初は子ども自慢だったはずがいつの間にか兄弟に逆戻りだ。何年経っても変わらずに兄の顔をするトムに救われているところだって少なからずあるし、ここにクリストファーが加わってくれればセブルスは今でも弟の、息子の顔ができる。
まったくなんて贅沢な人生であることか。頭を撫でるトムの手を甘受しながら、セブルスは口元を綻ばせた。
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「ダディ、あのね! ダディなの! 」
画用紙いっぱいにクレヨンで描かれた絵は拙かったが、愛する娘のものだったので世界一である。セブルスはあまりの可愛らしさに夢かと思った。
「ね、どう? どう? 」
膝の上に乗り上げてきらきらと瞳を輝かせるレティシアに、セブルスはもちろんとばかりに彼女を抱き上げた。
「さすがレティだな、上手だ。額縁に入れて飾ろう。ところでマミィは描いたのか? 」
「うん! これね、マミィなの! それで、ダディなの! 」
もう一枚の画用紙を持ってレティシアはきゃらきゃら笑う。うん、今日もうちの子が世界一可愛い。レティシアのこととなればセブルスの知能は著しく低下するが、それはそれとして彼は幸せなので何の問題もない。
「ソフィー、レティが私たちの絵を描いてくれたから見に来ないか? 」
軽く守護霊を出して伝言を飛ばせば、レティシアはさらに楽しそうに笑う。レティシアが生まれてから変わった守護霊はユニコーン、幸せの象徴だ。そこに存在するだけで喜びを与えてくれるレティシア、セブルスの可愛い可愛い一人娘。
「おうまさん! かわいい! 」
まだユニコーンはわからないようで、おうまさんと言うのも可愛らしい。娘のやることなすことすべてが可愛く思える親馬鹿は、セブルスの呼び出しを受けてやってきたソフィアにレティシアがこれまた嬉しそうに画用紙を見せるのを見てもちろん写真におさめたのだった。