周回逆行N回目   作:優鶴

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薬学教室にて

そうして二度目の死を迎えたはずであるのに、これはいかなることか。セブルス・スネイプは魔法薬学教授の研究室にて額を覆った。

 

ナギニに殺されたと思ったら大広間で、気づくなり自殺したはずだ。はあ、と溜息を吐いて黒檀の杖を引き寄せる。

 

「プライオア・インカンタート。」

 

緑の閃光が噴き出した。どうやら長年の相棒である杖は己同様記憶を持っているようだった。ホグワーツ教師に就任してすぐの頃、基本的に研究室に入る時にはコロポータスをかけるようにしていたはずだからこの杖が記憶を持っていないのだとしたら直前呪文はコロポータスになるはずだから。

 

机の上には予言者新聞が放り出してあった。そういえば予言者新聞などとっていたか、ぼんやりとそれを手に取り、日付を確認する。

 

1981年10月26日―――その日付を見た瞬間、いてもたってもいられなくなった。自分が伝えた予言で“彼女”が狙われ、死ぬ直前の日。おそらくもう忠誠の術はかかっていて、守り人はピーター・ペティグリューになっているのだろう。

 

もし、己の記憶通りなら。これで万が一にも“彼女”が助かる可能性ができるのなら、それに賭けたかった。それを確認するまで生きるだけの覚悟はなかったが、頼むから、もし、ほんの少しでも可能性があるのなら。もしこの逆行にわずかでも意味があるのなら。おこがましくも、贖罪になるというのなら。

 

『ピーター・ペティグリューの左腕を確認せよ』

 

羊皮紙にそう走り書きをして立ち上がる。送る相手は誰が良いだろうか?

 

もし、もしダンブルドアが秘密の守人がピーター・ペティグリューであることを知っていたとしたら。“彼女”に忠告をして、守ることもできるだろうか。そこまで考えて嫌なことに思い当たる。あの、悪夢のような己の愛憎をひとところに詰め込んだ存在が死ななければならなかったのは、何故か。ダンブルドアはそれ以外の方法を模索せず、ただハリー・ポッターを死ぬべき時に死ねるようにと育ててきたのだった。

 

そこまで考えてしまえば、もはやダンブルドアに信頼を向けることなど不可能に等しかった。双子呪文で走り書きをした羊皮紙を増やし、ふくろう小屋へと足を踏み出す。

 

まだ闇の帝王が消滅していないからか、ホグワーツの空気は明るいとは言い難かった。

 

やがてふくろう小屋にたどり着く。ふくろうたちも心なしか記憶にあるものより元気がないように思えた。

 

羊皮紙に署名はしていない。必要ないだろうと思ってのことだ。匿名の方が信じてくれるかもしれないとさえ思っている。

 

そんなことをつらつらと考えながら、二羽のふくろうにメモ書きを託した。

 

「……リリーの元に。」

 

その名を口にする資格を、己は持っているのだろうか。飛び立っていったふくろうを見送り、もう一羽のふくろうにも届け先を告げた。

 

「ミネルバに、頼む。」

 

アバダ・ケダブラの呪文を止めようと唱えられたプロテゴ・マキシマの声が脳裏に蘇った。感覚としてはつい先ほどのことだ。彼女には本当にお世話になった。

 

ミネルバ宛てのふくろうも飛び立っていった。同じホグワーツの敷地内にいるのにふくろうを使う己を自嘲するように唇の端を歪めた時、背後に気配を感じた。

 

「このようなところで何をしているのかね、セブルス。」

 

己が殺したはずの人物だった。緑の閃光に打たれ、落ちていったはずの白髭が揺れている。もはや信頼はできなかったが、闇の帝王を倒すということに関してだけは信用していた。青い瞳が覗きこんでくるのを感じて眼を逸らす。開心術をかけられているのだということはわかったが、帝王をさえ欺きとおしたセブルスの閉心術はダンブルドアと言えども破れないだろう。

 

「……少々、情報収集を。新しい情報が入りましたら、すぐにお伝えいたします。」

 

無愛想にそれだけを告げてさっさとふくろう小屋を後にする。死ぬ前にあなたは十六年後に呪いのかかった指輪を嵌めて死にますよとでも警告の文でも遺しておいてやろうかと考えながら。

 

「ああ、それと―――ペティグリューが裏切っています。」

 

驚いたように青い瞳が見開かれたが、セブルスは振り返ることなく自分の研究室へと歩みを進めた。ハロウィーンが近いが、ホグワーツ城は浮かれた様子も見せていない。数日後に“彼女”が死ぬことさえなければそれで良い。支離滅裂な思考回路をどうにかしようとすら思えず、研究室にたどり着いたセブルスは薬品の戸棚をひきあけた。

 

かつて脱狼薬の調合に使ったウルフスベーン、すなわちトリカブトを取り出す。確か致死量は3~4mgだが保険をかけて1gほど摂取しても大丈夫だろう。他人ごとのように冷めた気分でそんなことを考え、ふと思い立ってから羊皮紙に羽根ペンを走らせた。

 

Dear.ダンブルドア―――親愛なる、等とは思ってはいないが。口の端を上げ、十六年後の死を予言してみた。最後に、Good byとだけ遺して。そのままトリカブトを煽り、セブルスは毒がまわり切る前に己に向かってステューピファイを唱えたのだった。

 

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