周回逆行N回目   作:優鶴

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恋は奇なもの
おはよう世界


ゆっくりと微睡みから意識が浮上していく感覚は手放しがたい。ずっとこの心地よいところに揺蕩っていたいが、目覚めというのは非情なもので。

ゆるゆると瞼を開ければ、見慣れた――そして懐かしい天井が見えた。

「……スリザリンか。」

どうやら今回は学生時代への逆行である。いったいどれほど巻き戻ればこれは終わるというのか。やり直しの機会を希ったこともあるが、こうも繰り返し与えられるとありがたみが薄れるというかなんというか。

しかし、逆行してしまったからにはこの世界でどうにかやっていくしかあるまい。思いつくような自殺方法はあらかた試したし、ちょっと死んでみるというのもなかなか難しい状況なのだ。こんなことをしている死生観が破壊されていくな、とセブルスは半ば他人事のように思った。生きるとか死ぬとかわりとどうでもいい。自身の命に関してガバガバな倫理観はセブルスから注意力を奪うし、だからうっかり死んだりするのである。

さあ、そうと決まればとにもかくにも今がいつであるのかを把握するのが最優先事項である。何気なく机の横の本棚に目をやれば真新しい一年生の教科書が並べられていて、まだホグワーツに入学して間もないということはすぐに察せられた。

この時期ならアメリカに高飛びしてしまっても何ら問題はないのだが、これ以上クリストファーに頼りきりになるのもどうか。養父のことは無条件に信頼しているし大好きだが、彼がいないと生きていけなくなるとそれはそれで問題である。この先養父に拾ってもらうのが難儀な年齢に逆行したらどうするのだ。前世でリリーのことに関してはわりと吹っ切れたし、彼女への罪悪感やら贖罪意識やら諸々はあるものの、今のセブルスが愛しているのはソフィアとレティシアなのだ。あと精神年齢的に今さらポッターに突っかかられても生意気な餓鬼くらいにしか思わない気がする。

なるほど、そんな状況であれば。よし、とセブルスは決意した。少しホグワーツでうまく立ち回ってみよう。ルシウスにでも協力を仰いでプリンス家の祖父母に会いに行けば後ろ盾は得られるし。たぶん。素直で無邪気で礼儀正しい子供を演じるのは朝飯前なので。それならポッターとブラックのちょっかいがエスカレートすれば彼らの実家を通せばいい。およそ三回分の人生を経て、貴族社会での戦術を身につけたセブルスにとっては造作もないことである。

というわけで、勢いで死んだとはいえ前世にそれほど未練も残していないセブルスは、慣れた逆行にきわめて簡単に適応した。

 

******

 

「おや。おはよう、セブルス。よく眠れたか? 」

「おはようございます、ルシウス。ええ、地下は性に合っているようでよく眠らせていただきました。」

「……ふむ。昨日入学したばかりだ、てっきり家を恋しがっていると思ったが肝が据わっている。」

「実家は居心地が良いなどと言えるような場所ではなく……ああ、そうでした! 一つ聞きたいことがあったんです、僕は魔法界に明るくないので貴方なら何か知っているかと……僕の母は魔女なのですが、そうすると……魔法界には、母の知り合いがいらっしゃるのでしょうか? 」

矢継ぎ早に言ってしまったが、入学直後で魔法界に興奮している子供という体で押し通そう。それから今がいつかも把握できたのでルシウスには感謝しておく。小首をかしげて見上げるあざといポーズで問いかけてみれば、ルシウスはあっさりと引っかかった。ちょろい。幼い頃は特に可愛らしい容姿は武器であるからして、上手い立ち回りをするためにはもっと見た目に気を遣わねばならない。健康や美容を意識することは養父のおかげで抵抗がなくなっていることだし。

「母親が魔女ならいるだろうが……セブルス、母親の名は? 次第では……。」

「アイリーン、と……確か、旧姓は……えっと、プリンス? でしたっけ……。」

魔法界に入りたての幼い子供である。母の旧姓などすらすら言えない方が自然であろうと思ったのだが、子どもの演技というのは存外疲れる。今日は最初からそれなりに大人びた話し方で始めたので、願わくばませた子供としてでも認識してもらえると助かるのだが。

「……ああ、アイリーン・プリンスの息子か。当主夫妻が健在だな。跡継ぎもいないはずだ……少し、話をしておこう。」

「ご存じなんですか? 」

「プリンスといえば魔法界では屈指の歴史を誇る名家だ。半純血というのは惜しいが……純血思想に賛同するのならばそれほど障害ともならないだろう。」

純血主義とは何ぞや。ヴォルデモートが半純血であることを知った今となっては、いったい純血主義とは、となかなかに疑問である。純血主義の指導者は半純血であるし、半純血の己もその活動に難なく加えてもらえたわけだ。謎である。グレイバックなぞお貴族様の純血主義とは相反する気がするのだが、こう考えるとヴォルデモートの勢力は謎が多い。まあそれはおいおい考えよう、とセブルスはとりあえず保留にすることにした。今はイギリス魔法界で足元を固める時だ。

「ありがとうございます、ルシウス! 母が魔女とはいえ、魔法界に触れる機会はほとんどなかったので少し心細くて……色よい返事を期待していますね。」

ぱあ、と表情を輝かせることを意識してルシウスを見上げる。たとえ貴族でも、入学したての子供は表情がころころ変わるくらいの方が可愛げがあって良い。正直あまりにも大人びた子供ってのは心配になるもんだ――イルヴァモーニー校長たるエドウィンの言である。間違いないだろう。参考にしてやるぞ、と届きようもないことを心の中でつぶやいた。

 

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