「いよいよクリスマスね! 」
「リリー、あんまりはしゃぐと転ぶから気を付けて。」
「もうっ、セブったらすっかりチュニーみたいなことを言うようになったわ! 」
キングス・クロス駅に到着したリリーがぴょんぴょんと飛び跳ねるのを見てセブルスは苦笑した。彼女は家族が好きなのだ。会えるのは嬉しいのだろう。ペチュニアとの仲をどうにかするにはきっと自分が謝罪するのが早いだろうから、会えたらすぐにでも頭を下げるか。
ポッターとブラックは意外なことにホグワーツ特急を降りればもう絡んでこなかった。前もそうだったかは記憶を封印したので思い出したくもない。両親が迎えに来ていたということもあるのだろう。親の前で他の生徒との諍いを見せたくないという子供らしい羞恥心がはたらいたのかもしれない。何にせよ素晴らしいことだ。
「楽しみだわ、夏休み! セブ、たくさん遊びましょうね! 」
「そうだね。二年生の予習もしておこうよ、きっと授業が楽になるから。」
「わからないところがあったら教えてくれる? 」
「もちろん、僕でよければ。」
「やったあ! セブの教え方は優しいから好きなの! 」
「そうかな……うん、それなら嬉しい。」
スリザリン贔屓の厭味ったらしい教授で通していたわけだからそんなことを言われたことがないのは当たり前である。レティシアに勉強を教えていたのが功を奏したか。あまり甘やかしすぎてはいけないと思っていても我が子に厳しくすることなどできようはずもなかったから。
「あ、リリー、カート押すの代わろうか? 」
「いいわよ、自分で押すわ! 」
荷物は先にプリンス邸に送ってしまったのだ。魔法界に家があるというのはつくづく便利なもので、何となく手持ち無沙汰である。
「セブはおじいさんのところで過ごすのよね? あ、でも……そうすると会えないかしら? 」
「お祖父様に言えばこっちにも連れてきてもらえるから。あ、それともリリーが遊びに来る? 魔法界の家だから僕たちも魔法を使えるんだって。」
「じゃあ休みの間も練習ができるってこと? すごいわ、行きたいわ! 」
「うん、手紙を送るよ。」
たわいもないことを話していればゲートにつくのはすぐだった。子供と親たちの喧騒の中でゲートをくぐればその先にはノー・マジ界――キングス・クロス駅。
「お帰りなさい、リリー! 」
「お母さん! うん、ただいま! 」
ぱあっとリリーが顔を輝かせ、カートを手放して母に抱き着いたのでセブルスはカートを受け止めた。結構重いのでこのカートは目を離すとすぐに転がっていってしまう。危険なのだ。
「君がセブルスくんかな? リリーから話は聞いているよ。」
「はい。初めまして、えっと……ミスター・エバンズ、ですよね。」
人の良さそうな紳士だ。そういえばリリーの両親と会ったことはなかったかもしれないな、と今更ながらに思った。
「そう、リリーの父だよ。いつも娘がお世話になっているね。」
「いえ、こちらこそお世話になっています。……あの、ところでペチュニアは……。」
「何よ。」
エバンズ氏の後ろから不機嫌そうに顔を出したのはペチュニアだった。そんなところに隠れていたのか、と思いつつセブルスはまず頭を下げた。こちらに否があるのは明らかだし、子ども同士の諍いでなら先に頭を下げたくらいでそれほど問題もないはずだ。
「ペチュニア、酷いことを言ってごめん。」
「……え? え、え、何、何なの? ちょっとやめなさいよ、顔上げて! みんなこっち見てるでしょ! 」
周りの目を気にする癖は変わらない。それは生来のものなのか、魔法という異物が身近にあったせいなのか。
「あ、うん……ごめん、もっと周りを気にすればよかったね。」
「なに……あなた、本当にセブルスなの? 別の子みたい……。」
「反省したんだ、君への態度が悪かったって。」
「あら、そうなの……いいわよ、別に。わたしだって嫌なこと言わなかったわけじゃないし……。」
意外にあっさり受け入れられ、セブルスは目をしばたたかせた。こんなにすんなりいっていいのか。ちょっとペチュニアはいい子すぎるんじゃないだろうか。
「……許してくれるのか? 」
「だって、謝られたら怒れないわよ……。」
なるほど。セブルスは内心うなずいた。彼女は実のところ、とてもいい子なのだ。子供同士の不器用さが邪魔をしていただけで、彼女はどうやら結構素直らしい。
「ペチュニア、甘いものって好き? 」
「突然なに? 別に好きだけど。」
「さっきリリーに遊びに来てって誘われたから、何かお菓子持っていこうかなって思って……。」
「え? リリー、そうなの!? お父さんとお母さんに言った? 」
「チュニー? 何のこと? 」
「友達を家に誘うならお父さんとお母さんにも言いなさいよ! 」
「そうね! あのね、お母さん、今度セブが遊びに来てくれるの。いい? 」
「あら、いいわね。いつかしら? 」
「えっと、まだ決まってないの……セブ、いつ? 」
「お祖父様に聞いてから手紙を送るね。それでいい? 」
「うん! 楽しみにしてるわ。」
「……待って。セブルス、おじいさま、って? 」
「あのね、チュニー、セブはこれからおじいさんとおばあさんと暮らすんですって! 」
「え……そう、なのね。」
「ああ、ホグワーツに行くにはそっちの方がなにかと勝手がよくて。じゃあ、そろそろ僕は行こうかな。」
「またね、セブ! 」
「うん、またね、リリー、ペチュニア。」
軽く手を振り、セブルスは9と3/4番線を通り抜けた。さすがにもうホームは閑散としていて、祖父を見つけるのは簡単だった。
「お祖父様! 」
「元気にしていたか、セブルス。」
「はい、ホグワーツの生活はつつがなく。」
「そうか、それは結構。」
「まああなた、そんなそっけないことを言って。セブルス、初めて会うわね。マリア・プリンスよ。お祖母様、と呼んでちょうだい。」
「はい! お初にお目にかかります、お祖母様。これからよろしくお願いします! 」
初対面の印象ほど大事なものはない――胸に刻んだセブルスは元気よく祖母に挨拶を返した。あらあらまあまあ、と見る間に顔が綻んだので成功である。
「お前によく似ているだろう、マリア。」
「そうかしら? 自分ではあまりよくわからないけれど、それなら嬉しいわ……さあ、セブルス、行きましょう。」
「はい、お祖母様。」
キングス・クロス駅から煙突飛行を使うのは、実は初めてなのだ。差し出された祖母の手を取り、セブルスは柔らかく笑ってみせた。