周回逆行N回目   作:優鶴

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登場人物(シリウスとリリー)の腐発言が一瞬だけあります。地雷な方は飛ばしてください。


修正力が仕事をしない

「セブ、あのね。わたし、結婚するわ。」

ホグワーツを卒業してからもリリーと交流が続いているというのは不思議なもので。イギリスに根を張り、ヴォルデモートへの対策も練った。ジェームズも矯正したことだし、あとはリリーを送り出すだけなのだ。半ば父親のような心持でもあり、嫉妬やら何やらそういったものはなく。

「うん、おめでとう、リリー。ところで誰と? 」

「シリウスと。」

――は?

セブルスは笑顔のまま凍り付いた。あのクソガキを七年間面倒見た私の苦労はいったい何だったんだ。仕事しろ修正力。私がいなくなってもピーターを代わりに据えたくらいなのだ、世界には何かしらの修正力とでもいうべきものが働いているはずだ。それともあれか、リリーが住みやすいようにとか思って純血思想改革でもしたからブラックが彼女を恋愛対象として見たのか。いずれにしろ想定外が過ぎる。

「セブ? 」

「……いや、ううん、ちょっと予想してなかったっていうか。てっきりジェームズとばかり……。」

「本気? 」

「え? 」

「本気で言ってるの、それ。」

テーブルに手をついて乗り出してきたリリーにセブルスは頭を下げた。おめでとう、と言わないのは礼を欠いているということだろう。

「すまない、失礼だった。おめでとう、リリー。祝福の気持ちは変わらないよ。」

「違うわ。ジェームズが好きなの、誰だと思ってるのよ。」

「リリーじゃないのか? 」

「冗談よね? 」

「……リリーが気づいていないだけ、とか? 」

「ちーがーうー! 的外れにもほどがあるの、見当違いも見当違いよ! ジェームズが好きなのってあなたでしょ、セブ! 」

「……リリー、なんて? 」

彼女の口から発せられたあまりにもありえない言葉にセブルスは凍り付いた表情筋をそのままに聞き返した。彼女は今なんといった? 意味が分からなさすぎてわからない。

「ジェームズはあなたが好きなの。恋愛的な意味で。もう、セブったら鈍いわね。」

聞き間違いではない。うん、きっと聞き間違いではない。聞き間違いであってほしいがそんなわけはない。二回もの聞き間違いなんて元裁判官の矜持が許してくれない。プライドは時に面倒なのだ。というわけで、理解したくはないがわかった。あのやんちゃで手のかかる面倒な眼鏡の恋愛対象はどうやら自分であるらしい。

「―――はぁ!? 」

漏れ鍋にセブルスの絶叫が響いた。

 

******

 

「……突然の訪問、すまない。」

グリモールドプレイス十二番地、ブラック邸。ハウスエルフに先ぶれは出させたが、突然の訪問であることに変わりはなく。突撃訪問した先でシリウス・ブラックはさして嫌な顔をすることもなくセブルスを出迎えた。いつぞやの時空ではありえない対応である。学生時代は鬱陶しいポッターが常に絡んできたが、ブラックとは純血主義の舵切り共同戦線を組んだりとわりと平和な関係が続いていたのだ。色々頑張った私は偉い。

「いや、良いんだが……いきなりどうしたんだ、そんな世界が終わったみたいな顔してよ……。」

「ああ、うん。終わるのかもしれないな、世界。」

「はあ!? 」

「なんか終わる気がするんだ。」

あの駄眼鏡と仲良しこよしなど世界がひっくり返ってもあり得んと思っていたが、まさかまさかの恋愛沙汰である。世界は終わる。

「何をわけのわからんことを……。」

「突然訪問して不躾だったな、すまない。あー、そうだな。まずはおめでとう。リリーをよろしく頼む。」

「それ、父親のセリフなんじゃないか? 」

「む、そうだろうか……。」

「あー、まあ、ありがとな。プリンスにも婚礼の報せは届くだろうから頼む。」

「ああ、とびきりの祝福を贈ろう。」

「で、お前はどうなんだ。」

「私か? 別に結婚する気はないが。血筋が血筋だしな、子どもを残してもろくなことはなさそうだ。知っているだろう? 」

「そりゃあな……。」

半純血というのが微妙な立場であることは重々承知だ。いわば半端者であるわけで、どうしようもない。純血主義の舵切りをした時にすべてを宣言した。

そして、ソフィアもステアフォールスの一人娘だ。従兄のことがあるとはいえ、放っておいてもらえるとも思えない。契約結婚として籍を入れた時にエドウィンに言われたが、当時ソフィアの両親が彼女の見合いを強硬に進めなかったのはセブルスの存在が大きかったそうだ。セブルスはソフィア以外と結婚する気など毛頭ない。

「そうか。まあ宣言してたしな……子供ができないならありかと思ったんだが、ジェームズも残念だな。」

「……本当なのか? 」

「何がだ? 」

「リリーに聞いた。ポッターが私を好いている、だとか質の悪い冗談を……。」

「気づいてなかったのか!? 」

「気づいてない! そんな可能性恐ろしすぎて考えたこともないわ! もはや天変地異だ! 」

「ジェーのどこが気に入らないっていうんだ? 」

「初対面からマイナス印象しかないわたわけ! 」

はあ、とセブルスは肩で息を整えた。怒鳴って少し冷静になった。うん、冷静に考えればあり得ないことである。これは夢だ。しかし頬をつねってみたら痛かった。なにゆえに。

「レギュの言ったとおりだな……。」

「レギュラス? 何か言っていたのか? 」

セブルスとトムのごとくべったり、というほどでもないがいつぞやの時空に比べてシリウスとレギュラスの関係は大きく改善されている。セブルスは甘やかしてくる義兄しか知らないので何とも比較しようがないのだが、あれはおそらくわりと一般的な兄弟なのだろう。レギュラス本人は当主補佐くらいがちょうどいいと思っているようで、今や兄弟は会えば和やかに話をするくらいには仲が良い。かつては思いつめて行方をくらましたことを知っているだけに、あまり気負わない様子の彼には安堵した。

――と、そんなことを考えている場合ではないのである。

「“ポッターの行動からして、どう見てもセブルスに恋心なんて伝わっているように見えませんが”だとさ。」

あまりに物まねが似ているもので、セブルスは耐え切れずふきだした。やれやれ、といった様子で肩をすくめる様子が目に浮かぶ。

「レギュラスがそんなことを……。」

「あいつも言うようになったよなあ。ま、大人しいよか付き合いやすいんだが。」

「ヴァルブルガ様の期待がお前にも寄せられるようになったから気を抜けるようになったんだろう。」

「耳が痛い……。」

まだレギュラスはホグワーツにいるが、クィディッチでは相変わらず女子生徒の黄色い声を浴びていることだろう。兄が当主の座におさまったことで肩の荷がおりたのか、余裕ができたようで爽やかさが増している。容姿も家柄も能力も申し分なし、ブラック当主というなら気後れしそうなものだが弟という絶妙な位置。引く手あまたに違いない。

「……それよりだ、ブラック。いつからだ。いつからポッターが私を好きなどとぬかし始めたんだ。リリーが好きなんじゃなかったのか。」

「リリーに惚れたのはホグワーツ特急だろ。あれ、一日かそこらで冷めたはずだぞ。」

「は!? 」

「入学初日に湖畔で色々言っただろ。あれからすっかりお前に夢中。」

「嘘だろう……? 奴はリリーが好きなのだとばかり……。」

「傍から見てて丸わかりだったからな。ルシウスやナルシッサから何か言われなかったのか? 」

「まあ……つるむなというようなことを言われるには言われたが、……絡んできて鬱陶しいけどあっちは腐っても名家の子息、みたいなことを溜息まじりにこぼしたらそれ以来何も。」

「ああ、お前が気づいていないのにも薄々気づいていたが……気づくだろ?! 七年もあれば! てっきり途中で気づいてバツが悪くなって気づかないふりでもしてんのかと! 」

「違う! 無理だ! だめだ! ポッターはだめだ、あいつと付き合うくらいなら死ぬ! それか世界滅ぼす! 」

「やめろプリンス、お前が言うと洒落にならない。」

「はあ……仕方ない、金持ちの夫が欲しくて面倒見が良い魔女を探して適当にあてがうか……。金があれば性格はどうでもいいっていうご令嬢、探せばひとりくらいいるだろ。」

「……告白、はないんだよな……? ジェーが俺に何も言わないはずもないし告白までされてお前が気づかないはずもないだろ。」

「覚えがない。されたら速攻フッてるし縁切ってる。」

もっと早い段階で気づいていれば別に矯正の必要はなかったのだ。リリーを好きでないなら用はないし、骨の髄まで利用し尽くしてやったのに。

「社交辞令の笑顔だろうが、お前の笑顔は整ってるんだよ。で、世間知らずのジェーが惚れたと。絡まれるのが嫌ならもう微笑むな。」

あの駄眼鏡を世間知らずと称するとは、さすが親友、慧眼をお持ちで。洞察力の鋭いことで――もちろん褒めていない。嫌味である。何が世間知らずだ。

まあ、それはそれとして。

「……便利なんだぞ、作り笑顔。」

「それには全面的に同意する。」

ブラックは深くうなずいた。なるほど、彼もブラック当主らしくなってきたものである。これだけ顔が良いと微笑んでいるだけで万事が進みそうだ。

「もう手遅れだろ。ジェーはお前にベタ惚れだぞ。」

「あー死にたい……。」

「リリーはセブジェ推しだぞ。」

「何て? 」

「カップルそれぞれの名前の先頭の文字ふたつをとった言い方。そういう表し方があるんだ。ちなみに俺はジェセブ推し。」

なまじ頭の回転が速いだけにその意味を理解してしまったセブルスはこめかみを揉みほぐした。頭が痛い。

「……脳天かち割るぞ。」

「リリーはお前たちをくっつけたがってるが別に俺は妄想してるだけで良い。」

「次期ブラック当主がこれとは……ヴァルブルガ様とオリオン様にお会いしてお前を廃嫡させるか。」

「結婚控えてるんだぞ!? んな無情な! 」

「あー、リリーを路頭に迷わせるわけにもいかんしな……わかった、いいから一発殴らせろ。あとポッターも殴ってくる。」

「ご褒美だぞ。」

「は? 」

「ジェーのことだからお前に殴られても喜ぶぞ。」

「……救いようのない馬鹿だな。気持ち悪い。」

どうやら解決方法はないらしい。世界は無慈悲である。セブルスはとりあえず腹いせにブラックを締め上げておいた。

 

******

 

「セブルス! ……えー、どうか、僕と結婚してください! 」

「お断りします! 」

花束を持ってポッターが跪いた瞬間から嫌な予感はしていたのだ。よりにもよってプリンス邸に乗り込んできて庭でプロポーズなどしやがった天敵をセブルスは速攻で拒んで後ずさった。

「そんな! 僕が他の人と結婚してもいいっていうのかい! 」

「どうぞ結婚してください! 祝福します! 」

見つかったのだ。没落貴族の令嬢が。性格はアレですが金はあるのでポッターと結婚してくださいと頭を下げたら二つ返事で了承してくれた女神が。彼女との縁談がまとまりかけているという報告を聞いて安心していたところでこれである。やめてくれ。

「ああ、非情な……僕は七年、いや八年ずっと君を想って……。」

「何だこの気持ち悪い生物……。」

「あ、悪口歓迎。どんどん罵って。」

「お祖父様! 変質者! 」

セブルスはソノーラスをかけてあらん限りの声で叫んだ。これにひとりで対応するとか無理。助けてお祖父様。逃げ場がない。好意を持った相手の言動はとことんプラスに解釈する奴だとは思っていたが、それが自分に向けられるとは思わなかったのだ。冗談じゃない。こんな自分の黒歴史とトラウマの塊みたいなやつと結婚するとか想像するだに恐ろしい。先ほどからずっと鳥肌がおさまらないのが証拠である。生理的に拒否反応が出ている。これは生存本能なのだ。まずもってセブルスは結婚する気など毛頭ないのだ。私はソフィアを愛しているしレティが世界で一番可愛い。

「……セブルス、大丈夫か。」

「ポッターが庭を穢しています……。」

「何を言われた? 」

「たぶん求婚されました。断りました。無理です嫌ですあれだけはありえません生理的に無理なんですかあれあの気持ち悪いわけのわからない理解不能な謎の生命体……。」

「そうか、わかった。あとで儂からポッター家へよくよく言っておこう。案ずることはない。邸に戻っていなさい、マリアがお茶の相手を欲しがっている。」

「はい、お祖父様。」

この理解不能なわけのわからない生き物を祖父に任せるのは気が引けるが、ここは素直に言葉に甘えておくことにしよう。祖父に軽く頭を下げ、セブルスは軽くつま先を蹴った。バチン、と音がして次の瞬間には邸の廊下が眼前に広がる。姿くらましを使うほどの距離でもないが、一刻も早くポッターを視界から排除したかったもので。

――それにしても。

「……守られてばかりだな。」

クリストファーといい、トムといい、祖父といい、逆行してからこの方誰かに守られてばかりだ。助けを求めればこんなにも手を差し伸べてもらえるものかと驚いた。プライドなど捨てて苦しいのだと喚けばよかった、祖父母に玉砕覚悟で会いに行くかスラグホーン教授に泣きつきでもするんだった――そう思っても、時は戻らない。誰が覚えていなくても、いくら逆行してもセブルスの記憶には一度目の罪と後悔が刻み込まれているのだから。

「失礼します、お祖母様。ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか。」

「あら、セブルス。ええ、ええ、もちろんよ。ほら、いらっしゃいな。美味しいお菓子と紅茶がありますからね。」

「はい、お祖母様。」

「ええ、……先ほど、叫んでいたけれど大事はなかったの? お祖父様が飛んでいったけれど……。」

「問題なく。お祖父様がおさめてくださっているはずです。」

「それは良かったわ。さあさあ、よく食べなさいね。こんなに大きくなって、まあ……。」

「あまり食べると夕食が食べられなくなってしまいますから。」

「……ええ。セブルス、あなたは、わたくしのところにいてね。」

切なげに細められた瞳はアイリーンを重ねているのか。勘当したことからのけじめか、祖父は娘の話題を一切出さない。けれども、祖母は――腹を痛めて生んだ子だ。やはり忘れられるはずもないのだろう。血を分けた我が子はどれほど大切で心配なことか。

「――私は、プリンスの名を棄てるつもりはありません。」

「そうね。いいのよ、わたくしの目の届くところで、元気にしていてちょうだい。それだけでいいの。他は何も望まないわ。……だから、お願いね。」

「はい、お祖母様。」

生きることを望んでくれる人がいるのはやはりいいものだ。安堵したように息を吐いた祖母を眺め、セブルスはこの素朴な幸せをかみしめた。

 

******

 

「……おい、スネイプ、お前。」

「良い椅子だろう? 」

プリンス邸。リリーが夫と遊びに来るというので調えた応接室で、セブルスは清々しいまでの笑みを浮かべてひきつった顔をしたブラックに返事をした。

セブルスが足を組んで座っている椅子――もといポッターを見てのことだろう。あれからあまりにもしつこく、セブルスが差し向けた令嬢との縁談がまとまり果ては婚姻が成立してからも一向に諦める様子を見せないもので、セブルスは観念して開き直ることにした。こちらがあしらえばいいのだ。そこに立っていると煩いのでせっかくいるなら役に立ってもらえばいい。高さ調節可能な椅子は結構便利なのだ。

「ええ、良い椅子だと思うわ、セブ! 」

「わかってくれて嬉しいよ、リリー。」

「愛人かしら? 」

「……誰が誰の? 」

「ポッターがセブの。」

「世界がひっくり返ってもあり得ない。そんなことが起こったら私は死ぬ。」

「あら残念。」

「僕の為に死んでくれるのかい? 」

「おかしいな、椅子が喋っているぞ。」

「あー……もう良い、ジェーが幸せなら何も言わねえよ……。」

「ええ、セブが良いなら私は何でもいいわ。それでね、セブ。今日はね、報告に来たの。私、懐妊したわ! 」

「おめでとう! ……いや、だが、こんな出歩いていていいのか? 安定期に入るまでは……。」

「大丈夫よ。私、身体は丈夫だもの。」

「そういう問題ではないだろう。ブラック、何をしているんだ? 妻の体調くらい気遣え。」

「いや、リリーが大丈夫だというから……。」

「妊娠中は不安定なんだ。安定期に入ったとしても油断してはいけない。適度な運動は安産につながるともいうが……本人以上に周りが気遣わないと。ヴァルブルガ様との関係は大丈夫なのか? ストレスにつながるものは極力避けさせて……。」

「なんでそんなに詳しいんだ……? 」

「それは……。」

ソフィアが妊娠した時は気が気でなかった――などと、言えるはずもない。セブルスは誤魔化すために咳ばらいをした。

「プリンスの嫡子として当然のことだ。」

因果関係は自分でもよくわからないが、たいていのことはこう言っておけばどうにかなるのだ。

「よし、俺も勉強するか……。」

「ノー・マジの医療書が役に立つぞ。買い占めたらどうだ。」

「ん、そうか……プリンスも読んだのか? 」

「いくつか。デマもあるから情報の取捨選択には気をつけることだ。」

「ああ、礼を言っとく……ところでプリンス、このあと時間はあるか? 少し話しておきたいことがある。」

「時間ならあるが……。」

「……リリーは先に帰す。クリーチャーにもよく気遣うように言っておこう。」

「わかった。書斎でいいか? 」

「ああ。」

「リリーを送ったら書斎に来てくれ。整えておく。」

「僕は? 」

「ああ、……ポッター……帰っていろ。そして二度と来るな。」

「今日も素敵に毒舌だね! 」

「……相手をするだけ無駄だな。ではブラック、また後ほど。ポッターの足止めも頼む。」

セブルスはさらりと無茶を押し付けた。まあ前世で色々あったのでこれくらいはあまり罪悪感もない。ポッターに比べればブラックは遥かにまともなのでこれで勘弁してやるか、くらいの慈悲はあるが。

「お前も苦労するな……。」

「あきらめた。リリー、身体を大事に。ご子息に会う日を楽しみにしているよ。」

「ええ! そうだわセブ、良かったら洗礼親になってくれないかしら? 」

「ああ、考えておく。」

まさか洗礼親のお鉢がこちらに回ってくるとは思わなかった。リリーに軽く手を振ってから応接室をあとにし、廊下を歩きつつセブルスは溜息を吐いた。果たして、今の自分に洗礼親を引き受ける資格があるのか。自己肯定感に関しては人並みにはなったが、リリーのことに関してだけはどうにも自信が持てない。当たり前といえば当たり前である。かといってポッターは論外である。他には――。

ああ、いたではないか。適任が。

「……レギュラスに、打診してみるか。」

優秀な叔父である、リリーの息子の洗礼親には申し分ないだろう。

「レギュが何だと? 」

「……ああ、ブラックか。早かったな。」

まだ書斎について間もないというのに、この早さである。リリーのことはきちんと送って行ったのか。じっとりとした視線を送れば、ブラックはがしがしと頭をかいた。

「……予言があった。」

「……予言か! 」

ちょうどこの時期だったか。忘れていたわけではない。意識しないようにしていただけで、――まさか、また起こるとは。

「……防音魔法はかけた。ブラック、詳しく頼む。」

「リリーの出産予定が七月の末だ。予言によると……七の月が死ぬ時に、闇の帝王を倒すものがあらわれるだろうと。」

「ブラック邸の警備は――。」

「最高レベルに引き上げた。ブラック家に生まれる子供なら予言の子に相応しい。いや、この予言がされただけならまだよかったんだ。だが、死喰い人が情報をつかんだ。」

「帝王は――。」

「殺しに来るだろう。」

「ああ、予言がなされたのはいつだ? 」

「ダンブルドアから聞いたのが今日。……昨日、シビル・トレローニーが面接の場で予言をしたらしい。あのカッサンドラの系譜だ。」

「厳戒態勢だな。わかった、私もあとでブラック邸に赴いて護りをかけておく。」

「助かる。……どうするかな、秘密の守り人でも使うか? 」

「危険だ。」

「……そう思うか? 」

「ああ……一つ聞きたいのだが、ブラック。どうして私にこの話をした? 」

「お前が一番適任だろ。お前以外にはまだ話していない。リリーを守るということなら裏切らない。プリンスの嫡子なのもいい。プリンスはどこかの勢力に過度な肩入れはしていない。」

「……私以外にあてがないのか? 」

「いや……ジェーに話そうと思ったんだが、ちょっと、あれはな……。」

「同感だ。」

「ジェーは大丈夫なのか? お前、愛の妙薬でも使ってないよな? 」

セブルスは思わず手近にあった壁にガンと派手な音を立てて腕をたたきつけた。今すぐにでも怒鳴りたいところだが、一度深呼吸をして気持ちを整える。しかしまったく収まってくれなかったので、セブルスは防音魔法がかけてあるのをいいことに遠慮なく叫ぶことにした。

「私への侮辱と受け取るぞ! そんなこと頼まれても誰がするものか! 」

「ああ、そうだよな……愚問だった……。」

「その通り、愚問だ。それで、予言だな? オリオン様とヴァルブルガ様の反応は? 」

「闇の帝王とは縁を切ったと……まあ、どこまで本当だか。予言のことを知らせる気はない。」

「レギュラスには? 」

「あー、……レギュなら大丈夫か? 」

「帝王から死喰い人の誘いが来ていたのは知っているか。」

「……レギュに? 」

「オリオン様とヴァルブルガ様含め、丁重にお断りしたそうだ。帝王と縁を切ったというのは信じて良いだろう。」

どうやらブラックの方には伝わっていなかったらしい。セブルスは軽く溜息を吐いた。当主になったばかりの長男に心配をかけまいとしたのか、まだブラックが家族の信頼を得られていないということか。

「あとでレギュに確認しておく。事の仔細は追って連絡する。」

「ああ、なるべくリリーの傍を離れるな。貴族への根回しなら私も協力する。」

「助かる。……で、プリンス。お前、どこまで知ってるんだ。」

「は? 」

「予言があったことに対して何も疑問を呈さず受け入れた。もっと驚くと思っていたんだがそうではない。まるで、予言がなされることを知っていたかのような……。」

鋭い視線が自分を射抜くのがわかってセブルスは天を仰いだ。

「……これだから、勘のいい奴は嫌なんだ……。」

「おい、待て。ずるいぞ。なんかそのセリフカッコよくないか。」

「そうか? 」

基準がいまいちよくわからないが、褒められたと思っておこう。その方が精神衛生に良い。さて、それはともかく、どうやって誤魔化すか。

「闇の帝王という大きな脅威がある。それに対抗するように魔法界の王家の当主がノー・マジ生まれの魔女を娶り、子ができた。予言の舞台としては整いすぎているくらいだろう。」

「はー……まあ、そりゃそうなんだが……。いい、お前はリリーを裏切らないだろ。じゃ、そろそろ俺は行く。レギュにも色々確認しないとな。」

「ああ、こちらでも手は打っておく。……安産を祈っている。」

「おう、礼は言っとくぜ。」

歴史の修正力――そんな言葉が、頭をよぎった。自分の役割をペティグリューが代わりに果たしたように、変えられない歴史というのはあるものか。もしかすると、前の世界ではトム――ヴォルデモートがいなくなったイギリス魔法界にまた別の波乱が待っていたのかもしれない。

「セブルス。ここにいたか。」

「あ、お祖父様……。」

気配にも気づかなかった。研ぎ澄まされたはずの神経はいつの間にか鈍っている。不覚だ。

「予言がなされた。十中八九ブラックのところだろう――内容は、」

「ブラックの当主が先ほど来ました。聞いています。」

「そうか。ならば構うまい。くれぐれも無理はするな、セブルス。」

「……善処いたしますね。」

何か言いたげな祖父に有無を言わせぬ笑顔を返し、セブルスは身を翻した。まずは情報収集から。情報は鮮度が命だ。一分一秒たりとも最新情報の更新を怠ってはならない。

ここまで来てしまった。アメリカに逃げずに、イギリスで踏みとどまれた。寂しさはあるが、自分ひとりでも大丈夫だと証明できた。

力はある。どうしようもなくて藁にも縋る思いでダンブルドアをたずねたセブルス・スネイプではない。自分の力だけで、もう一度この状況でリリーを守ろうと足掻いてみるのもまた一興ではあるまいか。セブルスは持ち上げた口の端がかすかに震えていたことに気づかないふりをした。

 

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