周回逆行N回目   作:優鶴

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スピナーズ・エンドにて

あ、殴られるな、と思う。

 

「インペリオ。」

 

そう唱えたのは本当にうっかりだった。唱えてから服従の呪文をかけたことに気づき、セブルスは流石に焦った。自己防衛本能が働いたらしく反射的にインペリオを唱えてしまったが、これはかなりまずいのではないだろうか。そう思って自分の身体を確認し、カレンダーを急いで見やったもののまだホグワーツ入学前だった。これなら魔法省が魔力を検知することもないだろう。

 

呆然とこちらを見ている母親に目をやり、セブルスは溜息を吐いた。

 

「インペリオ。」

 

もう一度服従の呪文を唱えれば、アイリーンはふらりとよろめいた。とりあえず杖を持ってくるように命じてみる。エクスペリアームスを唱え、母の杖を奪ったセブルスは溜息を吐いた。この状況、本当にどうしろというのだろうか。

 

逆行したというのはわかっていることだった。一体何度繰り返せばいいのか。素直に死なせてはくれないのか。神は無情だ。

 

さて、今度はどうやって自殺してやろうか。半ば投げやりな気分でセブルスは両親を見た。一応便宜上両親と呼ぶことにしているが、正直魔法族に生まれたゆえに虐待されたセブルスとしてはこのふたりを両親と思ったことなど微塵もない。特に、マルフォイ家と接して家族というものが何たるかを目の当たりにした今となっては、親とすら呼べなかった。

 

手にした杖を見てセブルスは溜息を吐いた。見覚えのある、杖だった。すぐ手に馴染む黒檀の杖。母の杖の材質はセブルスと同じだったし、使われている材料も似ていて杖の外見は一目目見ただけでは違いがわからないほどに似通っていた。母が死に、スピナーズ・エンドの家を少し整理した時に出てきた杖。この杖を、予備の杖として己の杖と共に常に仕込んでいた。そういえばヴォルデモートが杖を差し出せと死喰い人に迫った時もどこか他人事のような心地でいられたのは、たとえ指名されても一見すれば己の杖との違いがわからない予備の杖を渡せば良いことを知っていたかもしれなかった。

 

黒檀の杖は、よく手に馴染む。杖芯は違うが、予備の杖として常に身につけていたもの。まったく新しい杖を手にするのとは天と地の差があった。杖を手の中で弄びつつ、セブルスは当たりを見回した。右隣には―――杖腕の傍には、見覚えのある黒檀の杖。細部の装飾が僅かに母のものと違うだけのそれを拾い上げる。この年では、出会っていないはずの。

 

ふっと母を見やる。服従の呪文はまだ、解けていない。

 

「ダイアゴン横丁に……。」

 

薬草店にて毒草を買ってくるようにアイリーンに命令を下すと、彼女はどこか遠くを見ながら隠し持っていたらしいガリオン金貨の袋を持ち、その場で姿くらましをした。杖なし姿くらましか、とやはり冷めた目で他人事のようにそれを見やり、セブルスは父親を見る。

 

「ステューピファイ。」

 

夢見心地といったふわふわした表情をしている父を気絶させ、浮遊呪文でベッドまで運ぶ。あとはダイアゴン横丁で母が買ってくる毒草を待つだけだ。セブルスはその間に、腹が空腹を訴えてきたので台所に入って杖を操って料理を始めた。材料を浮遊呪文で浮かび上がらせ、包丁も浮遊呪文で浮かび上がらせて魔法薬学の要領でトントンと切っていく。六歳児の身体ではふとした拍子に包丁を取り落としそうだしそもそも身長が足りないので浮遊呪文で済ませているのだ。成人していたら普通に台所に立ってマグル式で料理をしていたというのに。魔法薬学は材料が魔法じみているだけであって、基本的にマグルの料理と似通ったところが多い。

 

適当に作ったスープにパンを浸して食べていれば、母が毒草を持って帰ってきた。

 

「ご苦労様。ステューピファイ。」

 

ひょいっと肩をすくめ、セブルスは母親も気絶させるとさっさと寝室へと運んだ。邪魔者たる息子は明日には息をしていないから安心すると良い。でも空腹のまま死ぬのはちょっとなあ、とわけのわからない我儘を言ってスープとパンを最後まで食べきってから毒草を口に放り込んだ。毒草なので甘かった。苦しんで死ぬのかなあと思いつつも意識を手放した。

 

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