「……ああ、わかった。」
闇祓い局長からの連絡に簡潔に返事をし、シリウスは両面鏡を置いた。局長もなかなかに情報がはやい。
「シリウス! 」
ばたばたと駆け込んでくる音にシリウスは顔を上げる。声からリリーであるとわかったし、何を問いたいのかもわかっていた。
「クリーチャーから聞いたわ、本当なの? セブが……! 」
「闇祓い局からも今しがた連絡が来た。……局長の情報だし、確かだろ。」
――セブルス・プリンスが、あのレストレンジ夫妻に襲撃された。結果は相討ち。双方、無傷に近い状態で発見された。外傷はプリンスの掌に血が滲んでいたことくらい。おそらく杖を握り込んだせいだろう。
局長からはくれぐれも内密に、とのお達しだった。無傷で三人分の遺体があるということは、死の呪文が使われたということ。相手が死喰い人だとはいえ、禁じられた呪文が使われたというのは外聞が悪い。魔法省は間違いなくプリンスの若当主による死の呪文の行使を隠蔽する。局長が内密に、と言ったのはそういう意味だ。
シリウスは小さく舌打ちをした。あれほど反発していたはずの貴族にすっかり染まってしまった。幼い自分ならばこの隠蔽を糾弾したが、今はそうすれば事態が余計にややこしくなるとわかってしまう。
「どうして……逃げなかったの。」
「リリー。」
「そうよ、いつからかそうだったの。彼、自分のことを一切かえりみなかったわ。レストレンジを処理することでハリーを守ろうとしたんだわ。」
「……それなら、なおのこと、ここでじっとしてるわけにはいかないな。ハリーはどこに? 」
「部屋よ。レギュラスが見てくれているわ。でも、シリウス……。」
「プリンスは命をかけて闇の帝王の腕をもぎ取ったんだ。レストレンジが欠ければ死喰い人の勢力は弱体化する。俺たちは戦いやすくなる。そこを叩く――それがあいつへの餞だろうよ。悲しむのはあとだ。」
「……っ、わかった、わかったわよ! 私は何をすればいいの? 」
「俺はレギュと出てくる。……リリー、ハリーを頼んだ。この邸の守りは堅固だが完全じゃねえ。プリンスが死んだことで綻びができた。修復はしたが、隙を見せたかもしれない。」
「……ええ。最善を尽くしてきて、シリウス。」
「言われなくても。」
カツ、カツ、と靴音を立てて部屋を出て行ったシリウスを見送ってリリーは手を握りしめた。ホグワーツに入ってからは勉強面でよく支えてくれたし、マグル生まれというだけで向けられる視線から守ってくれた。ペチュニアとの仲も取り持ってくれたし、相談にはよく乗ってくれた。世話になっていない時なんてないくらいだった。頼りっぱなしなことに気づいたのはもうホグワーツを卒業してからで、何も返せていないと思った矢先にこれだ。私の大切な、大好きな親友。幼馴染なんて言葉じゃ語りきれない。いつも気遣ってくれた。
「セブ……私、まだ、貴方にありがとうって言ってないのよ……。」
つう、と頬を伝ったあたたかいものにリリーははっと握りしめていた手を開いた。淑女にあるまじきこととはわかっているけれど、ぐいっと目元をこする。するべきことは決まっていた。
「……私の戦いは、これからよ。」
息子を、ハリーを守る。彼が作ってくれた機会を無駄にするわけにはいかないのだから。