やっぱり死ねなかったか。次の自殺方法を模索するためにセブルスはダンブルドアから憂いの篩を借りて、死に方を導き出した。
バジリスクである。死の呪文のように楽に死ねそうだ。そうと決めたセブルスは早速計画を立てた。憂いの篩を見てコリン・クリービーが石になった場所と日付を割り出し、その場所に向かう。うっかり何かを通して見つめて石化したらたまらないので目を閉じて自分に目くらましをかけて立っていれば、石が床と触れる音がした。
「……そこにバジリスクがいるのなら、自殺幇助をしていただきたいのだが? 」
「自殺幇助? 」
目くらましを解いて気配を探って問いかければ返答があった。
「そんなに死にたいの? 」
「死にたい。」
「……なら、いいよ。ちなみに純血? 」
「半純血だが? 継承者の敵にはふさわしいのではないかね。」
「わかったよ。いつでも目を開けて、そしたら死ねるから。」
「間違っても石化などしないな。」
「約束するよ。」
その言葉に目を開け、黄色い目を視認し、セブルス・スネイプはコリン・クリービーの横に死体として横たわった。
その後、秘密の部屋が開かれている時期に戻ったセブルスは同じようにハーマイオニー・グレンジャーとペネロピー・クリアウォーターが石化した場所で待ち伏せ、目を見ても死ねないと嘆いてジニー・ウィーズリーの傍にいたトム・リドルからバジリスクの毒をもらって薬学教室にて自殺した、ということもあった。
セブルスは天井を仰いだ。何十何百と自殺方法を試してみたのに一向に成果が出ない。自分で死ぬのじゃだめなのかもしれないと思ったが、ディメンターのキスの件を考えるにそれは違う気がする。
自殺するのにすら疲れたセブルスは、ベッドに身を投げ出して目を閉じた。私は死にすら見放された。とりあえず、一歩も部屋から出なかった今回のセブルスの死因は餓死だったが、彼はこの生で死ぬことを諦めてみたのだった。
トラウマ量産機の話
・大広間にて
「セブルス?! 何をしているのです?! 」
「セブルス! 返事をしなさい! 」
「えっ今スネイプ先生何したの……。」
「緑色だったわ。」
「赤色じゃなかった、失神呪文じゃなかった……。」
「嘘でしょ、まさか死の呪文? 」
「そんなわけないでしょ! 死の呪文での自殺なんてあり得ないわ! 」
「ミネルバ、セブルスは生きているの? 」
「え、今何が起こったんだ……。」
阿鼻叫喚だった。緑の閃光に包まれて倒れたスリザリンの寮監兼魔法薬学教授にざわめきが広がる。この日の出来事は、先生方と生徒たちに多大なるトラウマを植え付けた。
・魔法薬学研究室にて
「先生、質問をしたいのですがよろしいでしょうか。」
とある生徒がスネイプ先生の部屋をたずねた。
こんこん。こんこん。こんこん。こんこん。
「……スネイプ先生? 」
教室は、何かの呪文で閉じられていて開けられなかった。首を傾げながら生徒は元来た道を戻り、フリットウィック先生に遭遇したので彼を捕まえる。
「フリットウィック先生、スネイプ先生がどこにいらっしゃるかご存知ないですか? 」
「先ほど合ったけど研究室に行くと言っていたよ。」
「研究室に質問に行ったら何かの呪文で閉じられていて開けられませんでした。」
「質問をするほど熱心な生徒の訪問を拒むなんていただけないね。私が一緒に行こう。きっと解錠呪文で開くだろう。」
「ありがとうございます、フリットウィック先生! 」
そう、ここまでは順調であったのだ。それから起こることを思えば。
「アロホモラ。」
フリットウィック先生の呪文で扉が開いた。中に入ったフリットウィック先生と生徒は、椅子に身を投げ出して手足をだらりとぶらさげているスネイプ先生を目撃することになる。
「おや、セブルスはどうしたんだろうね。」
首を傾げてセブルスの顔を覗き込んだフリットウィック先生は彼が息をしていないことに気づいた。
「フリットウィック先生? どうなさいましたか? 」
「……寮に帰りなさい。」
生徒に死体を見せつけるわけにもいかない。素直に頷いて帰っていった生徒を見送り、フリットウィック先生は唸った。セブルス・スネイプは、ふたりの人間にトラウマを植え付けたのだった。
・スピナーズ・エンドにて
アイリーンは、ふと意識が浮上するのを感じて身体を起こした。身体を起こした瞬間、これまでの記憶が頭に流れ込んでくる。ふわふわとした感覚。服従の呪文に似た感覚。―――息子がインペリオと唱えたのをがっつり聞いてしまっていたアイリーンは蒼白になり、リビングへと飛び出した。
セブルスは毒草を食べたのか死んでいて、その隣にはアイリーンの杖がある。ぎゅっと唇を噛み、アイリーンはセブルスが死んでいることを丹念に確かめた。
「……エバネスコ。」
ふと、後ろで足音が聞こえた。こちらを見ている夫に向かって、アイリーンは杖を振る。
「オブリビエイト! 」
アイリーンは、息子の存在を、なかったことにした。
・アズカバンにて
ディメンターのキスを受けたあとの囚人の顔を見て、職員は顔を引きつらせた。そこにあったのは恐怖に歪んだ表情ではなく、どこか幸せそうに綻んだ口元だった。
異常な男だった。ホグワーツの教員でありながら数多の罪状を並べ立てて自首し、ろくに裁判をされずとも文句を言わず、さらに自分の発言で罪状を増やした。アズカバンに十年収監を申し渡されて、彼は言った。「だったらさっさとディメンターのキスをしてくれませんか。」と。アズカバンから十年経てば出られるなんていう言葉は彼には通じなかったようだった。
……この男にディメンターのキスを受けさせたのは、もしかして、罰ではなくご褒美だったのかもしれない。職員は首を振ってから、無造作に放置された憂いの篩に思わず好奇心で顔を突っ込んだ。凄惨な記憶だった。レイブンクロー出身の職員は、グリフィンドールとスリザリンの諍いを客観的に見ることができたからこそ、グリフィンドールの正義を信じる残虐さに吐き気がした。
ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが、魔法省の一職員が流した情報によって糾弾されるのはもう少し後の話。
・ホグワーツの廊下にて
「……スネイプ教授が、石になったコリン・クリービーの傍らで、亡くなられていました。」
死者が出た。ホグワーツ中に激震が走り、ホグワーツは閉校の危機にさらされた。教員が死んだという事実は、それは大きいものだった。
ハリーだとて素直に喜べなかった。
「……スネイプ先生が死んだってことは、マルフォイは犯人じゃないかもしれないわよ。」
ハーマイオニーの意見にハリーは反論できなかった。
「贔屓してくれる先生を殺すなんて、僕だってしないや……じゃあ、犯人は誰なんだよ? 」
ロンだってそう言った。説得力のある意見だった。ハリーは、もう何を信じていいのかわからなくなった。