「セブルス、次のホグズミード休暇の時に私の知り合いに会えるかね? 」
魔法薬学の授業が終わった後、呼び止められて聞かれたのはそんなことだった。
「ええ、大丈夫です。」
「うむ、うむ! では次のホグズミード休暇には私の部屋に来るように。煙突飛行をつなげておこう! 」
リリーとは完全に決別し、それでも収まることのないグリフィンドールの馬鹿どもの悪戯には常時プロテゴを張ることで対処している。数百回分の人生の魔力が繰り越されているこの身体では常時プロテゴを張ることくらいはわけなかった。
何が言いたいのかというと、ホグズミード休暇は暇になったということだけだ。マルシベールやエイブリーと共に行っても良いが、スラグホーン教授の知り合いに会いに行く方が有意義だろう。退室の言葉を述べ、セブルスは魔法薬学教室を後にした。
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ホグズミード休暇の日。三年生以上の生徒が出払っているのを尻目にセブルスはスラグホーン教授の部屋を訪れていた。
「よく来たね、セブルス! さて、ではいこうか。フルーパウダーの使い方はわかるね? 」
「はい。どちらに行くのですか? 」
「シスルウール・マナーと叫ぶので構わないよ。」
「わかりました。」
これから会う人物の姓はおそらくティストルウールというのだろう。なるほど、あざみ毛か。そんなことをぼんやり考えつつ、フルーパウダーを暖炉に投げ入れ、スラグホーン教授に続いてシスルウール・マナーと叫んだ。
「―――よく来てくれましたね、ホラス。」
玲瓏とした声が響き、美しい金髪がさらりと揺れた。
「はじめまして、セブルス。私はクリストファー・シスルウール。マクーザの魔法執行部部長を務めている。」
イギリス魔法省でも魔法執行部部長といえば次期魔法大臣とさえいえる位置だ。
「セブルス・スネイプです。本日はお招きいただきありがとうございます、シスルウール閣下。」
スリザリンにいれば嫌でも礼儀作法は身につく。丁寧に礼をしたセブルスに苦笑する気配がした。
「顔をあげなさい。あくまでも私的な空間だから寛いでくれて構わない。それと私のことはクリストファーと呼びなさい。閣下などと呼ばれると肩の力が抜けないものでね。」
「はい、ミスター・クリストファー。」
「ミスターはいらないのだけどね。さて、ホラス、セブルス。ソファにかけてくれ。」
またもや苦笑を浮かべたクリストファーはスラグホーン教授とセブルスにソファをさした。素直に腰かければ、ハウスエルフがお茶と菓子を出す。
「パイナップルの砂糖漬けが好みだっただろう、ホラス。」
「覚えていてくれたのかい! これは嬉しい。」
「私の後継に相応しいだろうという人材を紹介してくれるのだからこれくらいは容易いこと。さて、セブルス。私の後継としてイルヴァモーニーで勉学に励むか? 」
いきなり直球で来た、と思いつつセブルスは頷いた。イギリス魔法界を離れてアメリカ魔法界という場所に行けるのならば同じ過ちを犯すのではと怯えることはないだろう。イギリス魔法界と縁を切る。逃げに走るのもまた一手だ。セブルスが予言を伝えなければ、彼女は死なないのだから。
「ええ、励みます。」
「……よろしい。OWLの結果を楽しみにしていよう。どの科目を専攻しているのだ? 」
「魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術、変身術、呪文学、薬草学……それに、古代ルーン文字学、天文術、魔法史、数占い学の九科目です。」
「ホラス、今から科目を増やすことはできるのか? 」
「……手が回らなくなるんじゃないか。」
「セブルス、十二科目、E以上はとれるか。」
「それがイルヴァモーニー魔法魔術学校に留学する条件だというのなら。」
人生二週目なのだし、正直魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術、それに呪文学については勉強する必要すらないくらい身についている。今さらマグル学と占い学と魔法生物飼育学が増えたところでどうにかなるだろう。それにポッターたちの妨害をいなせる実力を身につけているのだから勉強時間も十分にとれる。そう思っての返答だったが、クリストファーは満足げに頷いた。
「十二科目E以上を目指して勉強しなさい。十科目E以上が、私が君を受け入れる条件だ。」
十科目E以上。魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術、呪文学、変身術、薬草学、天文学、魔法史、古代ルーン文字学、数占い学の九科目はとりあえずE以上取れる自信がある。ならば、マグル学と占い学と魔法生物飼育学の三つのうちどれかでE以上をとればいい。
「わかりました。十科目E以上は、約束します。十二科目E以上は努力課題ということで。」
「そうだな。ということだ、ホラス。セブルスの科目を十二科目に増やしてきてくれ。」
「……セブルス、十二科目掛け持ちできる自信はあるのかい? 」
「逆転時計のことでしたらご心配なく。身体に負荷をかけずに使いますので。」
何故そのことを知っている、という顔をスラグホーン教授がしたが、セブルスは素知らぬふりをした。教授時代に嫌というほど使った逆転時計だ、賢い使い方は熟知している。今さら逆転時計乱用で体調を崩すようなへまはおかさない。
「ということらしいぞ、ホラス。我が後継候補はなかなかに見込みがありそうだ。」
くっと笑い声をあげたクリストファーにスラグホーン教授は眉を寄せたが、セブルスが淡々と紅茶を飲んで菓子を食べている様子に覚悟を知ったようだ。
「辛くなったらすぐやめるように。」
「やめません。」
打ちこむものができるのは良い。色々なことを忘れられるから。即答したセブルスにスラグホーン教授は微妙な顔をしたが、翌日には逆転時計を渡してくれた。