砂塵の中   作:筋肉バカ

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プロローグ:砂の味

夢を見た。ひどい悪夢を…

 

ジャリジャリと口の中に砂が入った感触がする。それがまたひどく不愉快な気持ちにさせる。

 

身体が、口の中が暑い。まるで砂漠の真ん中に取り残されているような、このまま脱水になってしまうのではないかと思うほどに身体が渇れる感覚がする…いや、渇れてるのは身体だけではない…か。渇く、心も身体も、魂でさえも渇れ果てそうだ。それくらい暑い。

 

不愉快だ、この渇きも、暑さも、口に残る砂の感触も。すべて不愉快で、最低だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリッ!!!と喧しい音が耳に響く。耳障りだ、そして不快だ。

 

 

目を開ければそこには何も無い。いや、それは少し違うか。

 

ゆっくりと柔らかく、暖かい布団をめくり、大きく欠伸をする。さて、今朝の天気はどうだろうか?曇りか、晴れか、雨か、それとも霧でもかかっているか。ゆっくりとカーテンの方向を向くと、隙間から朝日が照らしている。

 

晴れか。

 

ああ、今日も渇くな。

 

ジャージから、これから通うであろう学校の制服に身を通す。

 

サイズが少しきついな、もうワンサイズ大きくしておけば良かったか?まあ、合わなくなればもう一度採寸してもらえば良いか。まあ、もう選んでしまったのだから今更できないかもしれないが。

 

寝室の扉に手を掛け、ドアノブをゆっくりと捻ると、ガチャリと扉がゆっくりと開く音がする。まあ、当然か。これはただの扉だ。それ以上でも以下でもない。部屋を仕切るだけの木の板だ。

 

 

廊下をゆっくり歩く。ギシギシと板の軋む音がする。

 

まずは水が欲しい。綺麗な水、流れている水が。

 

キッチンに行き、蛇口を捻り水を出す。ジャバジャバッと勢いよく水が流れ出る。俺はただそれをしばらくジっと眺めている。

 

ああ、渇くな。

 

口の中に砂の感触がする。それを洗い流したい。

 

俺はそのまま蛇口から流れる水に口をつけ、口を濯ぐ。

 

 

砂の味がする。砂の感触がする。

 

ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ口の中で砂が舌に、歯に、頬の内側にまとわりつく。水で口を濯いでいるはずなのに、まだ残る。

 

結局2分ほど口を濯いでいた。その頃になって、ようやく口の中から砂の感触が無くなる。俺はそのまま干してあったグラスを1つ取り、そこに水を注いで勢いよく飲み干した。

 

身体の火照りが和らいでいく。だが、まだ潤わない。

 

 

ブーブーと寝室から携帯のバイブ音がする。

 

煩わしいと思いながら、寝室に向かい机の上にあるスマートフォンを掴み、電話をかけてきた人物の名前を見る。

 

 

《南》

 

 

「南?」

 

誰だったか?いや、聞き覚えがある。そうだ、俺の通う学校の理事長か。

 

そのまま俺は電話に出る。

 

「もしもし。」

 

『おはようございます!大地君、の携帯で合ってるわよね?』

 

綺麗な女性の声だ。いや、実際面接で会ったさいも、綺麗な人だった気がする。

 

『今日から貴方は、私達の学校に通うことになりますが、気持ちの方は大丈夫ですか?』

 

彼女の少しこちらを心配しているような、不安気な声が聞こえてくる。

 

「ええ、十分に。」

 

そう答えると、彼女は

 

『そうですか!じゃあ、今日からよろしくお願いしますね。それから、「音ノ木坂学院男子学生」の腕章も忘れないようにして下さいね!では、待っています。』

 

と安心したように言い、電話を切った。

 

 

ああ、十分だとも。準備はいつでも万端だ。ただいつも、俺は渇いている。まるで砂漠に取り残されているように。

 

口の中に再びジャリジャリと砂の感触と味が戻ってくる。俺はただ渇いていくだけだ。いや、違う。俺は渇いたままなんだ。あの頃から何も変わらずに。

 

 

今でもあの記憶が脳にこびりついている。砂嵐のように頭の中を渦巻いている。頭の中にまで砂が入っているような感覚がして、さらに不愉快な気持ちになる。それの繰り返し。

 

俺は再びキッチンに向かい蛇口を捻る。新鮮な、綺麗な水が目の前で勢いよく流れていく。ジャバジャバと手を洗う。手に砂がついている気がしたから。口を濯ぐ、口の中に砂がまだ残っている気がしたから。頭を洗う、頭に砂が…いや、頭の中にまで砂が入ってきているような気がしたから。頭を水で洗い、顔を洗う。

 

「ッ。」

 

軽く舌打ちをする。こんなことで学校などやっていけるのだろうか?ましてや女子高など、下らない。

 

俺はこれからどうなる。なにがしたい?俺はなんだ?俺は誰だ?なにを求めている?

 

 

そう考える。いや、決まったことだ。諦めるしかない。もう疲れた。考えることに、なにもかもに疲れた。

 

俺は脱け殻だ。

 

ジっと自分の手を見つめる。俺は再び蛇口で手を洗う。

 

消えない、砂が。俺の中に残っている砂は、きっと永遠に消えることはないだろう。俺が生きている限り、ずっと。身体が暑い。

 

今はただ、この身体がいつ潤うのか知りたい。いや、潤わなくてもいい、少しでも、この渇きと熱を和らげたいのだ。そして、この口に残る砂の感触も。無くしたい。なにもかもすべて。

 

なぜだ?なぜ俺は生きている?俺は確かに死んだ。あの日、あの場所で。なのに、今こうしてのうのうと再び生を受け、生きている。死んだはずだったのに。俺は死んでいるべきだ。

 

神よ。もし神という存在があるならあなたに問う。あなたは俺をなぜ生かしたのか?何をさせようとしているのか?

 

俺を生かしても無意味だと。俺は死体も同然だ。渇いて砂にまみれた醜い死体なのだ。そんな俺になにを求める?

 

ただの歩く死体に。

 

そう問えばきっとあなたはこう答えるはずだ。

 

『では、なぜ今日まで生きてきたのか?』と。

 

死のうと思えばいつでも死ねるだろうと。

 

 

俺にもわからない。ただ、なぜかなんとなく生きている。理由はわからない。もしかしたら理由など無いのかも。

 

 

不愉快だ。なぜ自分がまだ生きて、生きようとしているのかがわからない。本能的なものだろうか?まだ、俺に生への渇望があるとでもいうのだろうか?

 

わからない。今はただ、目の前の1日を過ごすだけだ。

 

教えてくれ、俺はなぜまだ生きている?

 

最低だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥歯を噛むと、またジャリッと不快な砂の感触がした。

 

 

 

 




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