砂塵の中   作:筋肉バカ

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夕焼けの空で

渇くな。

 

初日の登校が終わり、なんとなく身体がグッタリとした感覚ぎする。別に体力的に疲れているわけではない、どちらかというと気疲れに近いだろう。

 

オレンジ色の夕焼けが帰り道を照らす。この空の色はどこも変わらないようで、何ごともないように俺を照らす。その光は俺には眩しすぎる。そう、この世界は眩しく、ゆっくりと動いているように見えるのだ。

 

身体が暑い。口の中に不愉快な砂の感触が戻ってくる。

 

それにしても、あの音ノ木坂学院という学校は、もうすぐ廃校とはな。

 

始まったと思えば、もう終わりか。まあ、生徒の人数を増やし定員割れを防ぐために男子生徒をテストとして加えるというのは悪くないアイディアだ。一時凌ぎ、時間稼ぎにはちょうど良い。問題はその先だろう。

 

その場凌ぎで今回は乗り切るつもりだろうが、はてさて次はどう出るか…教員と理事長の手腕が試されるところだな。

 

しかし、廃校寸前の学校に叩き込まれるとは、俺の運はついていないようだ。あの学校が廃校、もしくはどこぞと統合されれば、俺はどうしようか?まあ、それは上が決めることか。

 

生徒会長とも面談があった、絢瀬絵里とかいう金髪の綺麗な女だ。あれは中々の上物だ。しかし、少し愛想が悪かったな。まあ当然か、女子高に急に男が入るのだ、俺も逆の立場なら警戒するだろう。

 

 

ジャリジャリと口に砂が当たる。

 

「ッ、クソが。」

 

 

帰り道を歩きながら、どこかに水場がないか探る。

 

渇く。渇く。暑い。なにもかもが渇いていく。水が欲しい。水だ。潤いが欲しい。はやくこの渇きを、火照りを和らげたい。

 

暑い、渇く。身体がより重くなる。ズルズルと足を引きずるように、身体を前へと動かす。

 

家まではとてもじゃないが遠い。水が欲しい。潤いが…

 

そう考えていると、近くに公園を見つける。あそこだ、あそこで潤そう。

 

俺はそのまま、縋るように公園に入り、水飲み場へと向かう。

 

水飲み場に行くと、その近くには砂場があった。子供が造ったのか、壊れかけの小さな砂の城がポツンと置かれている。

 

最低だ。砂も、砂場の城も、今は見たくない。今はやめてくれ。嫌いなんだよ。

 

水道に近くづき、蛇口を捻と、相変わらずジャバジャバと綺麗な水が溢れ出てくる。それを見るだけで、身体の火照りがほんの少し治まるのを感じる。そのまま蛇口に口を近づけ、水を口に含む。

 

冷たい水が口を潤し、砂の感触を洗い流す。それでもまだ砂の感触が消えない。なら、消えるまで洗うだけだ。

 

バシャバシャと水が下に落ちる音がする。水が跳ねて制服を濡らし、靴を濡らす。だが、それでいい。その少し冷たい感覚が、濡れる感覚が心地良い。

 

結局、また2分ほど水場で口を濯いでいた。俺はそのまま、手を洗い、顔を洗う。

 

コツコツと足音が後ろから聞こえる。

 

「あの、大丈夫かしら?」

 

 

女の声だ、それも綺麗な。振り返ると、そこには真っ白な制服を着た学生が立っていた。しかも、やたら奇妙な格好で。

 

目はサングラスで隠され、顔はマスクで覆われ、頭は帽子を被っている。つまり

 

 

「不審者が他人を心配ですか?」

 

 

俺は少し警戒しながらそう聞いた。この世界の男女比は俺のいた世界と逆になっている。すなわち、女性の方が圧倒的に数が多い。だから、男子高はとても少ない。あっても、音ノ木坂と同じように廃校になるか、どこかの定員割れしている女子高と共学になるか、共学(といっても女子生徒がほとんどだが)の学校に転入するかと、片身が狭い。そんな世界なら、男が女にナンパされるなんてこともあるだろう。あるいは、俺の場合もう少したちの悪いやつか。例えばそう、カツアゲとかか。

 

「不審者?」

 

彼女は少し首を傾げ、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

「いや、貴女ですよ。」

 

と言うと、「私のこと?」と自分を指さす。

 

「鏡で自分の姿を見れば分かります。では。」

 

俺はそのまま、家へ戻ろうとするが

 

「ちょっと待って。」と呼び止められる。

 

「体調悪そうだけど、本当に大丈夫なの?」

 

「別に、喉が渇いただけです。」

 

そう答えると、彼女は納得していないような声を出し

 

「本当に?」と聞いてくるので、ただ「ええ。」とだけ答えた。

 

 

「そう。ならいいけど。ずっと水場で水を眺めてて、その後ずっと口を濯いでたから大丈夫かな?って思ったけど…平気ならそれでいいわ。ところで、貴方どこの学校の生徒かしら?」

 

 

なんだこいつは?

 

「自己紹介なら、相手よりまず自分が名乗るべきでは?」

 

すると彼女は一呼吸おいて

 

「それもそうね。初めまして、私はUTX学園の…そうねぇ、名前は教えないわ。」

 

フフン。とどこか自信有り気に鼻を鳴らす彼女に、少し内心イラっとする。

 

「なるほど、UTX学園…」

 

あの隣にあるバカデカイ学校か。噂には聞いているが、かなり施設も良い金持ち学校らしい。

 

「私は、音ノ木坂学院の男子生徒のテスト中です。」

 

「名前は?」

 

「貴女が名乗らないのに、私が名乗る必要は無いかと。」

 

すると彼女は口元に手を当て、「フ~ン。」と面白いものを見るような声を出す。

 

「それで?他に用件は?」

 

「いいえ、それだけよ。じゃあ、またいつか会いましょ。」

 

彼女はそのまま、手をヒラヒラと振りながら去っていった。

 

 

「なんなんだ、アイツは?」

 

 

口の中にまた、砂の味が広がった。

 

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