ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか。   作:即席社会人

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11.必ず立ち上がる

「……すまない、失態をさらした」

 

「ホンマやで……大の男が泣きすぎや、またベートのやつにからかわれんで」

 

 あれから十数分が経過し、ようやく涙が落ち着く。ふと我に返った俺は自分の行いを思い出して恥ずかしく思っていた。

 

「まあ話聞く限り、ここに来たんはホンマに偶然みたいやな」

 

「……ああ、だからどうして来たのかも、どうやって来たのかも分からないんだ」

 

 なんや……と、ロキはほっとした様な、面白くなくてガッカリしたかのような表情を見せる。

 

「ま、あんたの本音は聞けたんやし、これ以上なんもないなら探らんわ」

 

 そう言ってロキは、何かを悩むように頭を搔く。

 

「……なあ、グレン。ウチのファミリアに来んか?」

 

「……何?」

 

 ロキは一息ついた後、そんな提案をしてきた。あまりにも予想外の提案に、俺は何が裏があるのではないかと探ってしまう。

 

「まあ急すぎるわな、疑われてもしゃあないわ。でもな、こんな提案するのんもちゃんとした理由があんねん」

 

 そう言って、真剣な顔つきで俺の目を見るロキは続ける。そして一本目の指を立てて話し始めた。

 

「まず一つ目は、匿うためや。悪いけど、ドチビんとこじゃあんたの身元を隠し通すには限界がある。もし外に漏れて他の神々(アホども)に全部バレてもうたら、ウチらよりも過激な奴らが団員(子ども)けしかけて殺しにくるかもしれんのや」

 

「……そんな」

 

「いや、可能性としては全然あるで、むしろ高いぐらいや。そんぐらい、あんたの闇の力とやらは神々(ウチら)にとって危険なもんなんや。たとえ敵意がなかったとしてもな……それに、フレイヤにも目つけられとるんやろ? うちに入れば、あのアホもおいそれと手は出せんはずや」

 

 そう言った後、ロキは二本目の指を立てる。

 

「二つ目は、あんたの目的のためや。オラリオのダンジョンはまだまだ謎が多い。つまり、深層にあんたの世界と繋がったゲートが現れても何らおかしくないって話や。そして自分で言うのもなんやが、ウチらはこの街でも深層に行ける有数のファミリアや。あんたが帰り道を探すなら、ウチらについて行くんが一番効率ええと思わんか?」

 

 俺ははっと息を飲み、ロキの提案を吟味する。確かに、俺がこの世界に来る前も《大崩壊》による膨大なエネルギーの暴走が巻き起こっていた。

 そしてここにあるダンジョンは、未知のエネルギーの塊そのものだ。ロキの言う通り深層に行けば、何かきっかけが掴めるかもしれない。

 そう悩む俺にロキは三本目の指を立てる。

 

「最後の理由は……万が一のためや」

 

「万が一……?」

 

「……ウチのリヴェリア(ママ)があんたを闘技場で見つけた時、その体からむせ返るほどの闇の残滓を感じたそうなんや。しかもいつ暴走しだすか分からんぐらい不安定なもんやったって聞いとる」

 

 ロキの発言に、リヴェリアは黙って頷く。なるほど、彼女から特に警戒されている理由が分かったような気がした。

 

「わざとやなくてもそんな力が暴走してみぃ。ドチビのホームみたいな、なんも無いとこで何ができるって言うねん。見つけんのが遅れて暴走が止まらんくなるのが目に見えとる」

 

 ロキがスっと目を見開く。

 

「でもここやったら、そんなことは万が一にも起きん。ここにはあんたよりも上の実力者と治療が満足にある。もし暴走が起きても、手遅れになる前にどうにかする手立てはいくらでも立てれんねん」

 

 ぶっちゃけ、一個目と二個目の理由よりコレがメインなんやけどな。と、ロキは椅子から転げそうなほど背を反らせてそう続ける。

 

「色々言ってくれるが、結局監視が目的なんだろ?」

 

「それだけあんたの力が特異やってことや。でもまあ、力ずくで縛り付ける気は無いから安心しいや」

 

 俺は迷っていた。確かにロキの言う通り、このファミリアに入った方が元の世界に帰る手立てが見つかる可能性が高い。そして今よりもっと強くなるための環境も、ヘスティア様とベルには悪いがこっちの方が整っている。

 

「悪いがロキ、改宗(それ)は出来ない」

 

 でも俺は、その申し出を拒否することにした。ロキに対して、唯一身につけたままだった首飾り(ペンダント)を見ながらそう答える。

 

「俺はヘスティア様と約束したんだ。勝手に置いて行かないって……彼女を置いて自分勝手な選択はできない」

 

 それに、俺はヘスティア様にまだ恩を返せていない。あの時倒れていた見ず知らずの俺を治療し、あまつさえ団員(家族)として迎え入れてくれた。 そして、俺のために首飾り(こんなもの)まで用意してくれた。出会ってからまだ数日も経っていないのに、彼女は俺にできる限りのことを尽くしてくれている。俺は今までの人生でこんなに親身になってくれた人などいただろうか? 

 なのに俺は、彼女に何も返せていない。その上あの時の約束を破り、裏切ることなど到底出来なかった。

 

「……なるほどな、そりゃドチビとの約束の証って訳か。治療の時に絶対手放さんかった理由がわかったわ」

 

 ロキは軽くため息をつき、頭を書きながら続ける。

 

「なら、無理強いは出来んわ。それに、改宗(コンバージョン)は今やなくてもええしな」

 

「……」

 

「もし心が揺れ動く時がやってきたら、そん時に遠慮なくウチの戸を叩いたらええわ」

 

 ほれ、とロキはポケットから一本のビンを取り出す。

 

「ポーションや、長々と付き合わせて悪かったな。もう結構動けるようやし、これ飲んではよ帰り」

 

「……いいのか? 俺はここの人間じゃないぞ」

 

「特に他意はないわ。強いて言うなら、将来ウチに入ってくれそうな団員候補にゴマすっとくんもええやろ?」

 

 ニヤニヤと笑うロキを尻目に、俺は貰ったポーションを飲み干す。やがて体の傷は癒え、オッタルと戦う前と変わらないほど体調も戻っていた。

 

「……俺の武器は」

 

「……あそこ」

 

 俺の話に答えたのはアイズ・ヴァレンシュタインだった。そう言って彼女が指さす方向に、あの時覚醒したた『黒の剣』が、形を変えずそこに立てかかっていた。やはり、夢じゃなかったのか……。

 

「ほぇ〜、なかなかゴツい武器やな。しかもこれ普通の剣とちゃうぞ。これも、グレンの世界からやってきたもんなんか?」

 

「……昔俺が、ある老人から受け取ったものだ」

 

「ほーん、ま、細かいことはまた今度聞くわ」

 

 俺は武器を担いで、ロキ達と軽い会話を交わしながらこの館の出口へと向かった。

 

 

 ☥

 

 

「気をつけて帰るんだぞ」

 

 俺が館の門をくぐる前、リヴェリアさんにそう声をかけられる。

 

「ありがとう、リヴェリアさん」

 

 彼女にお礼を言った時、隣からトントンと肩を叩かれる。そこに居たのはアイズさんだった。

 

「アイズさん……?」

 

「アイズでいいよ」

 

「じゃあ、アイズ。どうしたんだ?」

 

「……あの子に伝えて欲しいことがあるの」

 

 そう言いながら暗い顔で俯きだすアイズ。俺はそれを見て彼女が何を伝えたがっているのかが何となく分かった。

 

「悪いけど、それは俺の口からじゃ言えない」

 

「……え?」

 

「いつかまた出会う時が来る。その時、直接彼に言うんだ」

 

「……分かった」

 

「おーい、ウチは無視かいな! 一番色々したったやろ!」

 

 真剣な眼差しでそう答える彼女を見た時、隣で一柱の女神がワーワーと喚いている。そんな彼女の前に俺は立ち、頭を下げた。

 

「ありがとう、あんたが居なかったら俺はあそこでとっくに死んでた」

 

「な、なんや急に……あんたらしくないわぁ」

 

 頭を下げた俺を意外に思ったのか、彼女は挙動不審になりながら眉をひそめている。

 

「それに、自分の心を吐き出すことが出来た。あんたのおかげで何かが晴れたような気がするんだ」

 

「なんや……水臭いなぁ」

 

 そう言って俺は頭を上げ、彼女の方を見る。顔を若干赤らめながら恥ずかしそうにする彼女が前に立っていた。

 

「本当にありがとう、ロキ様(・・・)

 

「……!! なんや、様ぐらい付けられるやんけ」

 

 そういうロキ様を背に、俺は門の外に足を運ぶ。玄関前に並ぶ彼女たちを一瞥し、改めて軽く頭を下げたあとその場を去った。

 

 最後の最後まで、主神ロキの心の内を見ることは叶わなかった。

 

 

 ☥

 

 

 まだ若干痛む体に悩まされながら、俺はようやくヘスティア・ファミリアのホーム、廃教会の地下室前まで辿り着いた。ヘスティア様に心配させないように、いつも通りに扉に手をかけ、いつも通り戻ってきたことを知らせる。

 

「ただいま」

 

「……え?」

 

 扉を開けて、すぐ目の前にいたのは目を丸くしたヘスティア様だった。彼女は俺を見るやいなや立ち上がり、震えた手を前に出してゆっくりと近づいてくる。

 

「グレン君……なのかい?」

 

「ああ……そうだが──うわっ!?」

 

 ゆっくりと歩いていたヘスティア様は、俺が返事をした途端、俺の胸へと飛び込んでくる。ヘスティア様の目には涙が浮かんでおり、俺は思わず彼女の頭を撫でる。

 

「良かった……良かった……!!」

 

「……待たせてすまなかった」

 

「本当だよ……! 怪物祭(モンスターフィリア)の日の事件からずっと帰ってこなかったじゃないか……! ずっと心配してた……!」

 

 ヘスティア様は鼻をすすり、嗚咽を漏らしながら俺を叱る。

 

「……グレン!」

 

「ベル……」

 

 そんな中、俺の背中から声がかかる。振り向くと、そこに居たのは涙を浮かべるベルだった。

 

「やっと帰って来たんだね……」

 

「ああ、色々あったけど……」

 

「僕が目を覚ました時、神様がずっと暗い顔をしてたんだ。グレンが見つからないって……僕も体が動くようになってからギルドとか、豊饒の女主人の人達とかにも、君のことを聞いて回った」

 

 ベルが大粒の涙をポロポロと流す。

 

「でも、手がかりも何も掴めなくて……本当、今までどこにいたんだよ……」

 

 そう言ってベルも俺に抱きついてくる。帰らなかった俺を心から心配し、心から叱ってくれる彼らに俺は胸の底が暖かくなる。

 

「ごめん、二人とも……」

 

 俺は様々な感情の渦巻きを一度押しとどめ、もう一度二人に謝罪する。

 

「とにかく……ただいま」

 

 俺は涙を流し続ける二人に、もう一度帰りを伝える。すると二人とも顔を上げ、涙で腫れた目で笑顔を作る。

 

「「……おかえり」」

 

 二人のその言葉に、ああ、俺はやっと帰ってこれたんだな、と心の底からそう思った。

 

 

 ☥

 

 

「それで、モンスターに襲われて倒れたところをロキの子に拾われたんだって?」

 

「まあ……そんなところだ」

 

 ヘスティア様にステイタス更新を行ってもらっている途中、彼女とあの事件の日に、俺の身に何が起きたのかを話していた。若干の嘘を混じえてはいたが、ヘスティア様にバレることは無かった。俺の無意識下でも、奴は人間というよりモンスターとしてカウントされているんだろう。

 

「ロキめ……グレン君に何もしてないだろうな……?」

 

 そんな悪態をつきながら、ヘスティア様は俺の背中に指を滑らせる。ステイタス更新が終わった時、彼女は指をピタリと止めた。

 

「……え?」

 

「どうした、ヘスティア様?」

 

「ど、どうしたもこうしたも、これは一体どういうことだい!?」

 

 そう言って俺のステイタスを紙に写し、俺の前へと突き出す。

 

 

 グレン Lv.1

 

 

 力:H125→D576

 

 耐久:G203→C604

 

 器用:H108→F398

 

 敏捷:I82→F303

 

 魔力:I0→G265

 

 

《魔法》 

 

【ᚾᛁᚷᚢᚱᛟ】

 

 ・ᚲᛁᛃᛟᚢᚲᚨᛗᚨᚺᛟᚢ

 ・ᚺᚢᛃᛟᛗᚨᚺᛟᚢ

 ・ᛃᚨᛗᛁᛉᛟᚲᚢᛋᛖᛁ

 ・ᛖᛁᛋᛁᛃᛟᚢ【ᚺᛁᛋᛁᛃᛟᚢᛋᛖᛃᛟ】

 

【】

 

【】

 

 

《スキル》

 

約束(ディノ・オルコス)

 

 ・早熟する。

 ・約束を果たすまで効果持続。

 ・約束の達成願望により効果向上。

 

 

 トータル上昇値1600オーバー。進化というラインなどとうに超えている、青天井の上昇値。そしてそれが嘘偽りのない事実だということに、ヘスティア様は目を見開く。力単体で300、耐久に至っては400以上も上昇していた。

 原因は語るまでもない、オッタルとの戦いだ。俺は奴との戦いで死の寸前まで追い込まれた。もうダメかと思った時、ヘスティア様との『約束』を思い出してもう一度立ち上がった。

 圧倒的格上との連戦、そしてヘスティア様との約束……もしかしたら、それに《スキル》が反応したのかもしれない……それが俺の考えられる、今回の成長の可能性だった。

 しかしそれよりも彼女は、あるものを見て口を開けたままだった。それは《魔法》の欄だ。

 

「こ、これって……憶測だけど……もしかして……」

 

「そうだ……これは、俺の世界の文字だ」

 

「やっぱり……なんて書いてあるの!?」

 

 ロキ様と同じ疑問を抱いたヘスティア様は、そう俺に詰め寄ってくる。俺は近くの紙を取り、魔法の翻訳を始めた。

 

 

《魔法》

 

黒翼(ニグロ)

 

 ・強化魔法。

 ・付与魔法。

 ・闇属性。

 ・詠唱式【飛翔せよ】

 

 

「これは……俺がこの世界に来る前に持っていた力の一部だ」

 

 俺は翻訳を終えると同時に、俺の過去を知っているヘスティア様に事をかいつまんで説明した。戦いの中で力の一部が覚醒したこと、それと共に『黒の大剣』が戻ってきたこと……ヘスティア様がくれた首飾り(ペンダント)が力を貸してくれたことも……。

 

「そっか、よっぽど大変だったんだね。でも、少しは力になれた見たいで良かったよ」

 

「少しどころじゃないさ……」

 

 これがなかったら、俺は確実に死んでいた。俺は奴に何も出来ないままだった。

 長いようで短い、神妙な空気が辺りを支配する。隣同士でお互いに黙ったまま時間だけが過ぎていく。

 

「……君は今日も、ダンジョンに行くのかい?」

 

 最初に言葉を発したのはヘスティア様だった。

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 俺がそう答えると、再び彼女は俯いて俺の手を握る。

 

「この魔法を見る限り、君が凄い力を内に秘めていることが改めて分かった。でも、この力はとても不安定なものだ……違うかい?」

 

 ヘスティア様は一目見ただけで、今の俺の力にある弱点を見抜く。ロキも言っていたように、不完全な俺の体で闇の力を無理やり引き出すと、俺自身がどうなるか分からない。最悪暴走するかもしれない危険なものだ。

 

「もちろん魔法は使ってもいい。これは君の力だ、僕がどうこういう筋合いは無い。でも……無茶だけはしないでくれ。これは魔法に限った話じゃない、君自身にも気をつけて欲しいことなんだ」

 

 お願いだよ……と、消え入りそうな声でヘスティア様は訴えかける。その訴えは、俺に決心させるのに十分な力があった。

 

「もう心配しなくても大丈夫、勝手に行かないよ。無茶も絶対にしないから……約束する」

 

 もう一度ヘスティア様と約束を交わす。それを聞いたヘスティア様は顔を上げ、いつもの笑顔に戻った。

 

「それが聞けたら十分かな。ほら、もうこんな時間だよ、行ってきな」

 

「ああ、行ってくる」

 

 そう言って俺は玄関の扉を開ける。外にはベルが既に待っていた。

 

「じゃ、行こっかグレン!」

 

「ああ、ベル」

 

「二人とも、頑張るんだよ!」

 

「「行ってきます!」」

 

 ヘスティア様にそう言って、俺達はオラリオの街をかけ出した。俺たちは今日も、ダンジョンに挑む。

 

 

 ☥

 

 

「これで良かったのかロキ?」

 

「ああ〜? ママは何が言いたいんや?」

 

「……」

 

 ロキ・ファミリアのホーム、『黄金の館』の一室でロキとリヴェリアが座して会話を繰り広げる。その後ろにはアイズも待機していた。

 

グレン()の事だ。通常の予定なら、彼を力ずくでも私たちのファミリアに改宗(コンバージョン)させて監視下に置くつもりじゃなかったのか?」

 

 ここでは、グレンに知らされなかった多くの真実が飛び交っていた。

 

「あれ〜、ウチそんなこと言ったっけな?」

 

 すっとぼけた顔でロキは手元の酒を飲み始める。

 

「酒を飲む手を止めろロキ、今回に関してはふざけている余裕はないぞ。このまま放置して取り返しのつかないことになったらどう責任を取るつもりだ!」

 

 ロキの終始ふざけた態度に、リヴェリアがついに怒号を上げる。ロキは鬱陶しいと言わんばかりに耳を塞いで受け流していた。

 

「確かに分かるで、あいつを野放しにすることがどんだけ危ないことかぐらい。一番近くで触れたママなんて余計そう思うわな」

 

「だったら何故……」

 

「やったらなんで、ウチがあいつを返す言うた時に口挟まんかってん?」

 

「……な!!」

 

 ロキのカウンターに、リヴェリアがついに沈黙する。ふざけたような口調だが、ロキの言ったことは正論以外の何物でもなかった。ロキが予想外の行動を取った時、リヴェリアが咄嗟に割り込んで彼女を説得すれば事が予定通りに進んだ可能性はあった。しかしリヴェリアはそれをしなかったのだ。

 ロキはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてリヴェリアに問いかけた。

 

「あてられたんやろ、グレンの純粋な心に……ウチみたいにな」

 

 リヴェリアはロキに自分の感情を言い当てられて心臓が跳ね上がる。それと同時にロキも同じ感情を持っていたことに驚きを隠せなかった。

 

「まあウチも最初はとっ捕まえて監視下に置くつもりやってん。あいつがその禍々しい力と同等の性格をしとったらな」

 

 ロキはグラスの酒を飲み干し、テーブルに置く。

 

「でも、あいつは違うかった。なんであんな力を持ってるのかも分からんぐらい純粋で優しい心を持っとった。あいつが立ち上がった時も仲間のためやった」

 

 沈黙するリヴェリアを無視し、ロキは続ける。

 

「そんなやつ、この世界やとカモにされるだけや。骨までしゃぶり尽くされて最後は捨てられる。でもな、あいつはここよりももっと過酷な世界で生きてきたらしいやん、やのにウチらが惹かれてまうほど真っ直ぐな光をその瞳に宿しとった」

 

 ロキはチラリとアイズの方を見て問いかける。

 

「アイズたんは、グレンのことどう思ったんや?」

 

「私は……よく分かりません。でも、あの彼の言葉や涙は、信用できるものだと思ってます」

 

 アイズは彼を自分と重ね合わせて見ていた。それは、お互いに誰も助けに来ない孤独な世界で戦っていた者同士だったからかもしれない。

 

「ほれ、正直者のアイズたんもこう言うてるんやし」

 

「だがな……」

 

 リヴェリアは尚も折れなかった。既に心では、グレンのことは皆と同じように信用できると思っている。しかし、唯一彼の闇の残滓を直に触れた彼女だからこそ、彼の力の暴走が気がかりで仕方がなかったのだ。

 

「なあ、リヴェリア……今回のウチの勝手な判断、ホンマに悪い思うてる。でもな、あいつのあの目を見た時に何か分からんけど感じてん。あいつは大丈夫やって、誰に語られた訳でもないのにな」

 

「……」

 

「これは勘や、当たってるかどうかも分からんもんや。でもこれは女神としてやない、ロキとしての勘や」

 

 ロキはリヴェリアに真剣な表情を向ける。

 

「ま、要するにウチもドチビと同じく女神としての本能やなくて、ロキ(自分)としての勘を信じてみたくなったんや……リヴェリアも、ウチの事信じてくれんか?」

 

 初めて聞いたロキからのお願いに、リヴェリアは驚嘆する。真剣な表情の彼女を見て、リヴェリアはどうしたらいいのか戸惑ってしまう。

 

「……ずるいぞロキ」

 

「そりゃウチには褒め言葉やでママ、なんせ天界きってのトリックスターやからな!」

 

 ガハハと豪快に笑うロキをみて、リヴェリアもほんの少し口角を上げる。

 

(本当に、うちの主神は読めないお方だ)

 

「ロキ」

 

「ん、なんや? まだ文句でもあんのか?」

 

 怪訝な顔をするロキに、リヴェリアは少し顔を赤らめながら続ける。

 

「その……私にも、一杯くれないか?」

 

 それはロキの持つ酒の所望だった。

 

「……リ、リヴェリアが、酒を!? それも自分から!?」

 

「なんだ、ダメなのか?」

 

「そ、そんな訳ないやろ! せや、とびっきりの酒が倉庫に残ってるんや。すぐ用意するからちょっと待っててや!」

 

 ロキがバタバタと酒と空いたグラスを探しているのを横目に、リヴェリアはアイズに声をかける。

 

「アイズ、君も少し飲んでいったらどうだ?」

 

「……え?」

 

「どうなんだ?」

 

「……じゃあ、いただきます」

 

「ちょっと待てーい!」

 

 地獄耳で聞きつけたロキが、酒の準備そっちのけでリヴェリアを連れて少し席を外す。

 

「なんだロキ?」

 

「なんだも何も、ママも知ってるやろ!? アイズたんの酒癖の悪さ!」

 

「なに、そんなことか。大丈夫だロキ、何が起きても私が何とかするよ」

 

「ホンマに頼んだで……屋敷ごとぶっ飛ばされたらかなわんからな」

 

 そう言ってロキは再び酒の準備を進める。その間にリヴェリアはアイズの元へ歩み寄り、彼女の隣で忠告する。

 

「アイズ、もし酒の席で何かあるようだったら、久しぶりに稽古をつけてやろう」

 

 その悪魔の囁きに、アイズは顔が青ざめる。思い出したくない記憶が次々と呼び起こされ始めた。

 

「おーい、二人とも準備できたで!」

 

「そうか、ならば早速飲むとしよう」

 

「……は、はい」

 

 真ん中の小さなテーブルに三杯の小さめのグラスが置かれる。そのテーブルを中心に囲うように椅子に座り、それぞれが手前にあるグラスを手に取る。

 

「そんじゃ、これはあいつの秘密を共有する者同士の盃みたいなもんや。これからも仲良くしよう、ってことで乾杯!」

 

「乾杯だ」

 

「……か、乾杯」

 

 三人が一斉に酒を煽る。この瞬間、彼女らは同じ秘密を共有する同志となったのだった。

 

 ちなみに、結局アイズは暴れだして、リヴェリアに稽古という名の理不尽なお仕置を受けたのはまた別のお話。

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