ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか。   作:即席社会人

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13.鍛冶繋がり

「フッ……! ハッ……!!」

 

 翌日、俺は日の出前から剣の素振りを行っていた。昨日のサポーターの子の事が気になって、どうも眠りにつけなかったのだ。

 しかし、少しでも忘れようと剣を手に取ってみたが、一人孤独だとどうしてもあの出来事が頭をよぎる。その瞬間、手の力が緩まって剣を地面に落としてしまう。

 痺れた手を見て溜息をつき、1度休むために廃教会のボロいベンチに腰掛ける。これじゃ今日はダンジョンに潜れないな、と俺は頭を抱えていた。俺は以前、ベルにかけた師匠の言葉を思い出す。

 

『剣を振るえば、いずれ何かが見えてくる。たとえ見えずとも、それはお前の糧となるだろう』

 

 見えないならば剣を振るえばいい、何も考えなくてもいい。まあ、もちろん何かが見えているのなら、それに向かって剣を振る方が効率がいい。

 しかし、剣とは全く違うことを考えながら振るのは逆効果でしか無い。頭が剣以外の煩悩に圧迫され、動きが鈍くなる。いつもはしないであろう些細なミスが増える。訓練ならまだしも、本番での失敗は一つで命に直結する。実力じゃない。今の俺の心情に、命を乗せられる自信はなかった。

 避けられない危険や、乗り越えなくてはならない試練には立ち向かわなければならないが、くだらないミスや事故はできる限り避けるべきだ。

 

「あれ、グレン? 見えないからどこに行ったんだろうって思ってたよ」

 

 そんな思いを馳せていると、地下からベルの声が聞こえてきた。外を見ると、もう朝と言ってもいいぐらいに太陽が天に昇っている。

 

「おはようベル。ちょっと眠れなくてさ……」

 

「大丈夫? 昨日帰ってきた時からそんな感じだったね。僕でよければ、話聞こうか?」

 

 ベルは隣に座って、俺の顔を覗いてくる。よく見てみると、今日の彼は冒険に出かける時の服装と違って防具をつけていなかった。そういえば、昨日エイナさんと防具の新調に行くって言ってたな。俺が考え込んでたせいで、それ以上話は進展しなかったけど。

 

「ベルは、サポーターのことどう思ってるんだ?」

 

 俺はそんなことを考えつつ、ベルに一つ質問を投げかける。

 

「サポーター? うーん……凄いなって思うよ、安直かもしれないけど。冒険者が前だけを見て戦えるのって、サポーターが後ろで支えてくれているからじゃないかな。まあ、僕達にはまだサポーターは居ないけど……」

 

 あはは……と、乾いた笑いをするベルを見て、俺は微笑む。そうだよな、ベルはそういうやつだ。やっぱり俺は、ベルと仲間になれて良かったと感じた。

 

 でも、だからこそあの日の出来事を今のベルに話したくはなかった。せっかくの装備新調、しかもエイナさんが着いてきてくれるっていうのに、今あの日の話をしてベルの心に引っかかりを作りたくなかった。

 後のことは、また今度話すとしよう。

 

「なあベル、ここで話してて時間大丈夫か?」

 

「え……あっ!? もうこんな時間!? ごめんグレン君、もう行かなきゃ!」

 

「ああ」

 

 俺の指摘に気づいたベルは、まるで兎のようにピョンピョン跳ねながら廃教会を飛び出していった。俺はその後ろ姿に手を振って、ふっと一息つく。

 

「……さて」

 

 ベルも出て行ったことだし、もう一つやることがあるな。そう思って立ち上がり、俺は廃教会の地下室へと足を運んだ。

 

「う〜……ベル君……むにゃむにゃ」

 

 相変わらずの寝言を呟く我が主神、ヘスティア様。彼女には聞きたいことがあった。これは最近忙しくしている理由にも当てはまるだろう。

 

「ヘスティア様、朝だぞ。起きろ」

 

 そう言って、俺はヘスティア様の毛布を剥ぎ取る。ぶるっと一瞬身震いした彼女は、頭を揺らして眠い目をこすりながら起き上がった。

 

「ん〜……ベル君?」

 

「ベルはもう出たぞ。ヘスティア様も起きないとまずいんじゃないか?」

 

「……あ」

 

 短い単音を発した後、ヘスティア様は布団から飛び起きて身支度を始める。

 

「ヤバいよヤバい! いきなり遅刻したらヘファイストスから金槌で頭かち割るって脅されてるんだよ!」

 

 そんなことを呟きながら、ヘスティア様は荷物をまとめて外に出ようとする。ヘファイストス様……恐らく俺がビジョンで見た眼帯をつけた赤髪の女の人のことだろう。と、考えながら俺はヘスティア様の腕を掴んで引き止める。

 

「待ってくれヘスティア様」

 

「何をするんだグレン君! 主神であるボクの頭がザクロになってもいいというのかい!?」

 

「いやそうじゃなくて。ヘスティア様、やっぱりヘファイストス・ファミリア……というよりヘファイストス様本神と何かあったんだろ?」

 

「ギク……!」

 

「大方俺の首飾り(ペンダント)と、ベルのナイフが関わってるんだろ?」

 

「ギクギクっ……!!」

 

 先程までの大暴れが嘘のように、ヘスティア様の動きが止まる。分かりやすすぎる……。

 

「や、やだな〜グレン君。ボクはファミリアの主神だよ? 別のファミリアの主神に頭を下げて、あまつさえ借金なんてする訳ないじゃないか〜……あはは……あ」

 

 少し間を置いてギシギシと壊れたおもちゃのように首を回しながら、ヘスティア様そう答える。借金……大体の予想が的中してしまい、俺は頭を抱えた。

 

「グレン君今のなし! 忘れろぉ〜!」

 

 バタバタと再び暴れだすヘスティア様を押さえつける。いくら神といえど、小さな体では俺に抵抗することは不可能だった。この神様は隠し事には向いて無さすぎる。突き詰めれば勝手に全部喋るからだ。

 

「で、いくら借金したんだ?」

 

 俺がしたいのは借金の話だ。神と言えど、この下界に降り立った以上人と同じく服、食事、住処がなければ生きることは出来ない。それらを手に入れるには金がいる。金がいる以上、今回の件でも無償で武器作成なんてありえなかった。問題は金額だ。ヘファイストス・ファミリアはオラリオ有数の鍛治ファミリア。しかも今回はヘスティア様とヘファイストス様の個人的な取引だろう。神様同士の取引に団員の鍛冶師(スミス)が関わるとは思えない。

 

 ということは、この二つはヘファイストス様が直々に作成した装備だ。到底想像出来るものでは無いが、目標額(ゴール)を聞けば少しは完済ルートが見えるかと思っていた。

 

「3……700……ヴァリス……」

 

 ヘスティア様は荒い息を整え、空気を大きく飲み込んでボソボソと俯きながらそう答える。しかし、俺には聞こえなかった。

 

「ヘスティア様、もう少し大きな声で……」

 

「だーかーらー! 3億7000万ヴァリスだよ!」

 

「……は?」

 

 ヘスティア様の口から出た数字に、俺は今まで出したことの無い声を出してしまう。もちろん、大金を背負わせられていることは重々承知していた。しかし予想より桁が一つ違うのだ。いや、ヘファイストス様が直接手懸けた作品だ、妥当な金額か? と、頭の中が混乱する。

 内訳はベルのナイフが2億ヴァリス、俺の首飾り(ペンダント)が1億7000万ヴァリスらしい。

 

「……それ、ベルに伝えてる、わけないか。返済できるのか?」

 

 こんな金額、ベルに伝えたら余計パニックになるだろう。

 

「できる出来ないじゃない、やらなきゃならないんだ。それが、助けられてばかりのボクに出来る、君たちへの最大の助力だから」

 

「でも、俺はあの時……」

 

 ベルは確かにヘスティア様を助けた。でも、俺はあの時気絶していただけだ。

 

「君だってみんなを守るために戦ってたんだろう? それでいいじゃないか。それに、ボクが言っているのはあの日の話だけじゃないしね」

 

 ヘスティア様はそう言って、俺の目を見て語り続ける。

 

「君はね、ベル君の初めての冒険仲間なんだ。今まで孤独だったあの子を支えて、助けてくれている。それは巡り巡ってボクを助けてくれているってことなんだ。だから、あの日のことを気に病む必要なんてないんだよ」

 

「ヘスティア様……」

 

 彼女の言葉に、俺はなんとなく救われたような気がした。

 

「さ、そろそろ行かなきゃ。これ以上話してるとホントに頭をかち割られそうだ。じゃ、行ってくるねグレン君」

 

 ヘスティア様はそう言って、俺の頭を撫でて本拠地(ホーム)から出て行った。

 この会話の中で、少し感じたことがある。ヘスティア様と話している時、少しだけ気持ちが楽になっていた。

 そういえば俺は、このオラリオに来てからロクに人と関わっていないことに気がついた。よく話しているのはベルとヘスティア様だけで、豊饒の女主人の人たちとは一言二言交わしただけだ。

 

 俺は、この街をよく知らない。もっとこの街をよく知れば、あの日のサポーターのことが何か分かるかもしれないし、気分転換にもいいかもしれない。

 そう考えた俺は、今日一日はダンジョン探索をやめ、オラリオを見て回ることにした。

 

 

 ☥

 

 

 時刻は既に昼過ぎに差し掛かっていた。俺はオラリオの街に出て、様々な露店や道具店を回って時間を過ごしていた。今の時間は冒険者がダンジョンに潜っている真っ最中なのに、人がごった返していて威勢のいい声が響いている。オラリオ……改めて凄い街だ。俺の元いた世界とは比べ物にならないな。

 そんな風に考えながら、メインストリートから少し外れた裏路地へと足を運ぶ。さっきと違って怪しいが、ここも道具屋、露店、武器屋、酒屋がいくつも並んでいる。ふと目に付いた武器屋のナイフを覗いてみる。

 

「2万1000ヴァリスか……」

 

 数日ダンジョンで稼げば買えない武器では無い。既に俺には武器がある訳だが、ベルの動きを見ているともう少し取り回しのいい武器を持っていてもいいんじゃないかとも思っていた。そんなことを考えていると、ふとヘスティア様から貰った首飾り(ペンダント)や、ベルのナイフの値段が余計に恐ろしく感じたので、一度値札から目を外す。

 

「──だろ! ──なあ!」

 

 軒並み静かな裏路地の店だからこそ、ガラス越しでも誰かが店の店主に怒鳴っているのがはっきり聞こえた。俺は店の中に入り、何が起きているのか確認しに行く。この前のこともあったせいか、なにかと余計な首を突っ込む癖がついてしまっていた。

 チリンチリン、と店の鈴が鳴り響く。店主は気づいたようだが、怒鳴る赤髪の男は気づいていないようだった。

 

「だーかーらー! なんでいつもあんな端っこで雑に扱われなきゃなんねーんだよ! こちとら命掛けてんだぞ、分かってんのかよ!」

 

「そんなこと言われてもな……あ! いらっしゃいお客さん、なにかお探しで?」

 

「おい、てめっ……!!」

 

 店主は男を押しのけて、話を切り上げるように俺の元へと歩み寄ってくる。しまった、ただ怒鳴り声が聞こえたから入ってきただけ、なんて言ったらただの冷やかしじゃないか。

 

「そ、そうだな……俺は大剣を使ってるんだが、もう少し小回りの利く武器がないかと思って探しに来たんだが、なにかあったのか?」

 

 そう思った俺は、先程考えていたことをそのまま店主に伝える。この伝え方なら、武器を見に来たていで何が起きたのか知れそうだ。

 

「それは……」

 

「このバカ店主(ジジイ)が、俺の作った装備を雑に扱いやがるんだよ! お前も冒険者だったら分かるだろ!? 武器を雑にされたくねぇってことぐらい!」

 

 店主の言葉を遮って、男は俺にそう詰め寄る。黒い作業着といい話といい、どうやら彼はここに装備を置いている鍛冶師(スミス)のようだった。それも、かなり職人気質だ。

 

「でもなぁ、せめてもう少し売れるようになってもらわんと……」

 

「ふざけんなよ、俺にもやっと……!!」

 

 聞く限り世知辛い現実だ。いくら渾身の作品でも、売れなきゃ表には出して貰えないし、表に出なきゃ人目にもつかない。するとまた更に売れなくなる、負の連鎖だ。

 

「とにかく、こちとら客を待たせてんだ。お前は外で頭でも冷やしてろ!」

 

「……お、そういやお前、武器を探してるんだったな。だったらこれなんてどうだ?」

 

 店主が俺という逃げ道を見つけたのか、途端に攻勢に出始める。しかし、その男は一切引かず足元の木箱から短剣を取り出して俺に勧めてきた。訳は分からなかったが剣は見せてくれるようだったので、俺は彼の手から短剣を受け取り、剣身を覗く。

 デザインも無骨で飾り気は無いが、剣身はまるで濡れているかのように光り輝いていた。なんでこんな下町の端っこに置かれそうになっているのかが不思議だ。俺が剣に興味を示したのを感じ取ったのか、男はニヤニヤと笑って俺と肩を組んでくる。

 

「まだ銘は付けてねぇんだが、俺としては悪くねぇ逸品だと思ってる。どうだ? 今なら安くしとくぜ?」

 

「アンタ困るよ! それはもうウチの商品だ、勝手に値下げするんじゃないよ!」

 

「うるせー! もうお前んとこに武器は置かねぇ! 買い戻しだ買い戻し! こちとら客と取引があんだよ、もう出てくぞ!」

 

「あ、ちょっと……!!」

 

 男は店主を言いくるめ、俺を引いて店を出ていく。訳が分からず静止の声をかけようかと思ったが、俺は首根っこを完全に捕まれたせいでそのままズルズルと引っ張られ、連れていかれてしまった。

 

 

 ☥

 

 

「いやー、悪ぃ悪ぃ。あのままじゃ埒があかなくてよ、引っ張って済まなかったな」

 

「いや、別に構わないんだが。いいのか? 取引先だったんだろ?」

 

「いいんだよ。あそこに置いてても、いつ人の目に止まるのか分かったもんじゃねぇ。それよか、必要なお前に売った方がお互いWIN-WINだろ?」

 

 俺と男は、路地裏の廃材置き場に腰をかけて話をしていた。

 

「自己紹介してなかったな、俺は『ヴェルフ』。ヘファイストス・ファミリアの下っ端鍛冶師だ」

 

 と、男──ヴェルフはそう自己紹介する。そういえばそうだ。あの時はゴタゴタに巻き込まれて、良く考えればお互いの名前すら知らなかったな。

 

「俺はグレン、つい先日ヘスティア・ファミリアに入団した冒険者だ」

 

 ヘファイストス・ファミリア……ヘスティア様も言ってたっけ。今日は妙にこのファミリアと縁があるな。そんなことを考えていると、ヴェルフは俺に短剣を渡してくる。

 

「まあなに、多少乱暴でも壊れねぇようにしてある。思いっきり振ってみろ」

 

「いいのか?」

 

 ヴェルフは武器を雑に扱われるのを嫌がっていたはずだが。

 

「構わねぇよ。店で雑に扱われるのと、冒険者に振るわれるんじゃ訳が違う。俺は誰にも見られず腐っていくのが許せなかったんだ」

 

 そのヴェルフの言葉に安心し、俺は短剣を抜く。順手持ち、逆手持ち、体術も加えて素振りをする。更に、立てかけてあった空き樽目掛けて思い切り投げ飛ばした。ドカッ、と乾いた音がして樽に短剣が突き刺さる。

 俺は刺さった剣を抜いてみたが、刃こぼれ一つしていなかった。更に空き樽には綺麗な切れ目が入っている。

 

「凄い……!」

 

 ただその一言に尽きる。ヴェルフの剣は改めて凄いものだ。普通に飾っていてもそれなりの人から求められる逸品だろう。故に何故、店の端っこで雑多に売り出されそうになっていたのか疑問が深まる。

 後ろからパチパチと拍手が聞こえる。その音の主はヴェルフだった。

 

「お前すげぇな、ホントに新人かよ。十層の冒険者でも多分勝てねぇぞ」

 

「そうか?」

 

「ああ、なんていうか……手馴れてんだよ。グレン、お前軍にでも入ってたのか?」

 

「ああ……まあ、そんなところだ」

 

 俺はヴェルフの言葉に少し顔を暗くしてしまう。ハッ、と我に帰ってヴェルフの方を見る。

 

「あー、まあなんだ。グレン、今手持ちどれぐらいあるんだ?」

 

 彼はなにか察したように話題を変え、俺に武器を買うか聞いてきた。どうやら気を使わせてしまったようだ。俺はポケットに入った麻袋の中を確認する。

 

「そうだな……6000ヴァリスってところだ」

 

「6000……かぁ」

 

 ヴェルフはうーん、と頭を悩ませる。どうやら俺の手持ちではかなり心もとないらしい。それもそうだ、俺があの店で初めて見たナイフが2万1000ヴァリス。しかし、ヴェルフから受けとった短剣はそれよりももっと上等なものだろうというのが一目で分かった。安く売ると言っても流石に限度がある。しばらく時間がたち、頭をボリボリと掻きむしった後、彼はふっと息をついて俺に話し始めた。

 

「ああ、いいぜ。6000で売ってやる!」

 

「いいのか? 完全に赤字だろ?」

 

「ああ、赤字だな。せめて1万で売りたかったが仕方ねぇ。あそこで腐っていくよりよっぽどいい! これも何かの縁だ! 持って行け!」

 

 ベルは鼻先をポリポリと掻きながら、笑顔で俺にそう言う。俺はその言葉に甘え、代金の入った麻袋ごと渡し、短剣を鞘に収める。

 

「いやぁそれにしても、一日で俺の作品が二つも売れるなんてな。今日はいい日になりそうだ」

 

「二つ?」

 

「ああ、言ってなかったな。今朝、俺の作った防具が売れたんだよ、誰かが見つけてくれたみたいでな」

 

 ヴェルフはそう言いながら、豪快に笑う。

 

「それでさ、俺の装備を手に取ってくれる人もいるんだって自信が持ててよ。いてもたってもいられなくて直談判して回ってたんだ」

 

 ああ、なるほどな。装備屋の店主に文句を言ってたきっかけはこれだったのか。と俺は内心で納得する。

 

「まあとにかく、装備のことで相談があったらいつでも話しかけてきてくれ。俺は摩天楼(バベル)にあるファミリアのテナントによくいるからよ」

 

 ヴェルフはそういった後、安く売ったんだ、贔屓にしろよ? と笑顔で肩を組んでくる。それに対して俺もああ、と笑顔で返した。

 

 そうして俺たち二人は別れた。俺は探検の再会を、ヴェルフは次の武器屋に向かって歩き始める。

 その時、ふと鞘に書かれた文字に目が止まる。ヴェルフ──『ヴェルフ・クロッゾ』。これがフルネームか。でも、あいつは家名(ファミリーネーム)を名乗らなかった。どうしてだろうか? と疑問に思ったが、そもそも俺には家名が無い。軽い自己紹介の場だったし、そこまで気にする理由もないのだろうと結論付けた。俺は腰の後ろに短剣を巻き付けて装備する。そしてまた、オラリオの探検に足を踏み出した。

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