ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか。   作:即席社会人

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16.酒の夜

「「「6万3000ヴァリス……!!!」」」

 

 時刻は夕方。三つの麻袋から大量に顔を覗かせる金貨に、俺たち三人は声を合わせてそう呟く。一人増えて朝から晩までのダンジョン探索とはいえ、ここまで稼げたのは初めてだった。

 

「わっ、わっ、夢じゃないよね! 一日でこんなにお金が入るなんて!」

 

「まさかここまでの金額になるなんて……これもリリのおかげだな!」

 

「お二人とも凄い! Lv.1の五人組パーティの収入にダブルスコアを付けてしまうなんて! まだまだ上を目指せますよ!」

 

「いやあ、兎もおだてりゃ木に登るって言うじゃない! まさにそれだよ、それ!」

 

 浮かれ過ぎて興奮の度合いがおかしくなっているベルは、全く訳の分からないことを呟いていた。

 酒場でもないのに三人で騒いで笑い声をあげる。もう夕闇が降りている時間だからか、摩天楼(バベル)の簡易食堂には俺たちぐらいしかいなかった。他の冒険者は既に酒場か本拠地(ホーム)に足を運んでいることだろう。

 

「では……ベル様、グレン様、そろそろ分け前を……」

 

「うん、はい!」

 

 と、ベルは麻袋の一つ──2万1000ヴァリスをリリの手に渡す。

 

「へ……?」

 

「ああ、これなら神様に美味しいもの食べさせてあげられるかも!」

 

「そうだな、俺もヘスティア様にはお世話になりっぱなしだ。何かいい恩返しは……」

 

 リリに収入も渡したことだし、ベルと一緒にヘスティア様への贈り物を考えようと話していると、ポカンとしたリリが目に入った。

 

「どうしたんだリリ?」

 

「グレン様……これは一体?」

 

「一体って、分け前だろ? 均等に分けられてなかったか?」

 

「そ、そうじゃなくて……自分達だけで使おうとか、リリには渡さないでおこうとか考えないんですか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、興奮が少し鳴りを潜める。リリはファミリアで除け者にされている。今までの会話からも、例え冒険に連れて行ってもらっても理不尽なことばかり押し付けられてきたのだろう。リリに染み付いた冒険者への恐怖が、俺たちの行動に裏があるのではないかと不安にさせていると気がつくのに、そうそう時間はかからなかった。

 

「俺たち二人じゃこんなに稼げるはず無かったんだ。リリがいてくれたから、だろ?」

 

 俺は膝を曲げて、彼女に目線を合わせてそう話す。ベルもその言葉に便乗するように、そうだよ! と元気よく語りかけた。

 

 だからありがとう、これからもよろしくな。と感謝の言葉も付け足した。ベルも、リリと会えて本当に良かったと話して笑っている。

 

「リリ、帰ろう」

 

 その言葉にボーッとするリリの手を引いて、俺たちは摩天楼(バベル)を後にする。

 

「……変なの」

 

 俺たちはその小さな呟きを、聴き逃してしまっていた。

 

 

 ☥

 

 

「あれは……酒屋か?」

 

 帰り道の途中、俺は大きめの酒屋を発見する。俺がそう呟いた時、リリの表情が少し強ばったのを感じた。その瞬間、俺は昨日エイナさんの元で抱いたある疑問を思い出す。その疑問の解決のため、俺はその場で立ち止まってベルに声をかける。

 

「悪いベル。少し買い物するから、先に帰っててくれ」

 

「え、買い物ぐらいなら僕たちも……」

 

 と、不思議そうな顔をするベルに向けて、俺は少し笑みを浮かべて振り返る。

 

「なに、せっかくまとまったお金が入ったことだし、ヘスティア様への恩返しさ。何を渡すかはお楽しみにしたいんだ」

 

 だからさ……と口元に人差し指を添えながらそういうと、ベルは何かを察したように頷いた。どうやら理解してくれたようだ。

 

「ベルも、ヘスティア様に何か渡すんだぞ?」

 

「うん、僕も用意するよ!」

 

 そう頷いたベルは左手で俺に手を振りながら、右手でリリの手を引いて先に帰路に戻って行った。

 

「良いんですかベル様?」

 

「いいんだよリリ、グレンがあんな提案するなんて珍しいんだ」

 

 という二人の会話が微かに聞こえた。

 

 

 ☥

 

 

「さてと……」

 

 人混みに二人の姿が消えるまで見送った後、俺は目的の酒場へと足を運ぶ。それなりの規模だからか、酒の種類も豊富だった。ワイン、ウイスキー、エール、ウォッカ、ブランデー……。その他にも飲んだことの無い極東のにごり酒や清酒も置いてある。好事家(マニア)には堪らない店だろう。

 あいにく俺は酒をあまり飲まないから、違いもよく分からないが。

 しかし、俺が今探しているのはそのどれでもない。ソーマ・ファミリアがごく稀に出品すると言われる酒、その名も神酒(ソーマ)が俺の目的だ。エイナさんとの話で抱いた疑問。それは酒とソーマ・ファミリアの繋がりだった。

 

 勿論、ヘスティア様への贈り物の件は嘘じゃない。あの神様はあんなナリだが酒はそれなりに飲むらしい。ソーマ・ファミリアの調査のついでというのは俺としても不本意なところだが仕方がない。心の中でヘスティア様には謝っておこう。

 

 と、そんなことを考えながら神酒(ソーマ)を探すが見当たらない。エイナさんの話だと神酒(ソーマ)は只でさえ出品数が少ない上、好事家がこぞって買い占めるため品薄な事がほとんどなのだそう。

 

「だけどまさか、この規模の店で全くないなんてな……」

 

「うーん……やっぱりないかぁ」

 

 ため息をついて、棚の前でうなだれる。それとほぼ同時に、隣の棚でギルドでよく聞く声の人が俺と同じく落胆の声を上げていた。

 思いがけず横を振り向く。その人も俺に気づいたのか、ほぼ同じタイミングで俺の方へ視線を向けていた。

 

「グレン君……!?」

 

「エイナさん、どうしてここに……」

 

 そこに居たのは尖った耳と眼鏡、ギルド職員の制服が特徴的なエイナさんだった。

 

「結構飲むのか?」

 

「そんなに飲まないわよ、もうっ! ……私はちょっと調べたいことがあるからここにいるの。グレン君こそ、どうしてここに居るのよ?」

 

「奇遇だな、俺も調べたいことがあってここにいるんだ」

 

 まさか、と俺たち二人は声を合わせる。

 

「グレン君、もしかしてソーマ・ファミリアの事調べてるの?」

 

「ああ、その様子だとエイナさんも同じみたいだな」

 

 エイナさんも、ソーマ・ファミリアについては思うところがあるらしい。

 何せ主神と規模以外はほぼ全てが謎なファミリアだ。怪しく思わない方がおかしい。俺もリリは信じることに決めたが、ソーマ・ファミリアに関しては懐疑的だ。ハッキリ言って、リリをこんな考えに歪めた団員も、それを黙認するソーマも許せない。

 

「でも意外だな。ギルドは中立で、証拠の薄いファミリアの問題には無干渉なんじゃなかったのか?」

 

「そうね。でもこれは私個人としての調査だから、ギルドは無関係よ」

 

 と、ふと浮かんだ疑問にエイナさんは答えた。しかし彼女の話では、この酒屋にはもう神酒(ソーマ)は置いていないらしい。数日前まではあったそうだが、それももう好事家(マニア)の手の中にあると店主から聞き、諦めて帰ろうとしたその時に俺と偶然鉢合わせした、という訳だ。

 

「うーん。ギルド職員としてはあまり言いたくないんだけど、あそこは──かなり雰囲気が異質かな」

 

「異質?」

 

 俺の言葉に、エイナさんは頷きながら続ける。

 

「団員のトラブルが多過ぎる。それも金銭的なことばっかりよ。ここに来る前も、ソーマ・ファミリアの冒険者が換金所で揉めてるのを見たし……」

 

 数が多くなれば軋轢が増えるのも仕方がないけど、流石に異常だわ。と、彼女は付け足して頭を抱える。ソーマ・ファミリア、金、トラブル──様々な要因が重なって何となく全貌が見えそうになったが、肝心の神酒(ソーマ)というピースがない。ない以上今日の調査は行き詰まりか……と、俺は諦めて次の目的のために棚をまさぐる。

 

「あれ? グレン君、神酒(ソーマ)を探してるんじゃなかったの?」

 

 と、俺の行動に疑問を持ったエイナさんが首を傾げて訪ねてくる。そう言えば、彼女には神酒(ソーマ)探し以外のもう一つの目的、ヘスティア様への贈り物について説明してなかったな。

 

「ああ、今日丁度まとまった金が入ってな。日頃お世話になってるヘスティア様に、何か贈れそうなものも探しに来たんだ」

 

「ああ、そういうことね」

 

 エイナさんはそう言うと、ちょっと待っててと言葉を残して一旦席を外す。しばらくの時間が経過して、しゃがんで酒瓶を吟味する俺の肩をトントンと叩いた。

 

「ねぇグレン君、これなんてどうかな?」

 

 振り向いた俺にエイナさんが差し出してきたのは、装飾の入ったボトルに輝く黄金の酒だった。

 

「これは──ウイスキーか?」

 

「そう、これ結構飲みやすくて、頑張った日は私も飲むのよ。贈り物用としては少し値が張っちゃうけど……」

 

 エイナさんは申し訳なさそうにそう言いながら、俺に値札を見せてくる。9000ヴァリスか……確かに高いな、今日の収入の半分近くになる。まあエイナさんが勧める逸品だ。間違いはないだろう。それに正直、ヘスティア様にはこの程度では感謝しきれないほどに世話になっている。

 

「いや、これにするよ」

 

 俺はそう言い、彼女からボトルを受け取って会計を済ませる。何とか満足出来る品を見つけた俺は、エイナさんに感謝しつつ共に酒屋から外に出た。

 

 

 ☥

 

 

 外は未だに夕焼けが眩い光を放っている。酒屋に居た時間は数十分程度だろうか? 思った以上に早く出てきてしまったな。

 

「ベル君の浮気者ぉぉぉ────っ!!!」

 

 空を見上げながらそう思っていると、突然聞いたことのある声が耳に入る。何事だと前を見ると、全力でダッシュするヘスティア様の姿が俺たち二人の前を横切っていった。

 

「あれは……神ヘスティア?」

 

 エイナさんも気づいたようだ。ポカンとした顔をしながら、ヘスティア様が走っていった方向に目を向けている。

 俺は、ああ、そういうことか……と少ない情報ながら状況を理解していた。

 

「ねぇ、大丈夫なの? 結構怒ってるみたいだったけど……」

 

「多分大丈夫だ」

 

「えぇ……」

 

 エイナさんの心配を尻目に、俺はヘスティア様の状況を整理して推測していた。

 ヘスティア様はベルのことを浮気者だと叫んでいた。俺たち三人が並んでいればそうは言われないはず。つまり、ヘスティア様は俺と別れてしばらく経ったベルとリリの2人を見かけたのだ。大方手を繋いで仲良く喋っていたのだろう。

 つまり、ヘスティア様はベルとリリが仲良くしていたことに妬いて怒っている、という単純な回答が出てくる。

 

「機嫌は治らないだろうけど、次に日が昇るまでには恐らく帰ってくるさ」

 

 ヘスティア様とベルのタイミングの悪さに呆れて笑いがこぼれてくる。まあ、そんな二人を見るのも面白いんだが。と笑った後、改めてエイナさんに顔を向ける。

 

「今日はありがとう、おかげでいい買い物が出来た」

 

「別にいいのよ。私もグレン君の力になれたなら良かった。それじゃ、気をつけてね」

 

「あ、あの……エイナさん!」

 

 手を振って別れの挨拶をするエイナさんを、俺は慌てて引き止める。

 

「どうしたの?」

 

「今日、俺がソーマ・ファミリアについて調べてたこと、ベルには内緒にしててくれないか?」

 

 俺のその言葉に、エイナさんは立ち止まる。

 

「正直言って私は、あなたがソーマ・ファミリアを調査すること自体反対なの。職員の私と違って、あなたはヘスティア・ファミリア所属の冒険者。争いの火種になりかねないわ」

 

 でも、理由があるんでしょ? と、エイナさんは俺に問いかける。俺は彼女を説得するため、息を整えて説明を始めた。

 

「俺たちが今雇っているリリ──サポータの子は、ファミリアでかなり酷い扱いを受けているみたいなんだ。調査のためとはいえ、その子にソーマ・ファミリアとの繋がりを勘づかれたら、もう関わってくれないと思う。ベルは嘘が下手だし、隠し事も上手くない」

 

 それに、これは信じると決めた相手を疑うような行動だ。そんなことにベルを巻き込みたくない。こういうのは──俺の役目だから。

 

「それに、今のリリを孤立させるときっと俺は後悔する。だから……頼む!」

 

 俺はそう言って、エイナさんに深々と頭を下げる。すると彼女は、俺の額を指でピンと弾いて俺に顔を上げさせる。

 

「……はぁ、分かったわ。ソーマ・ファミリアの調査も、ベル君への秘密も協力してあげる。でも、無茶はしちゃダメよ?」

 

 それに、ダメって言っても続ける気でしょ? だったら私が手綱を握った方がマシかもね。と、エイナさんは呆れ混じりの溜息をつきながら俺に笑いかける。

 

「ありがとう、エイナさん」

 

「うん、気をつけてね」

 

 その言葉を残して俺は帰路に着く。正直、エイナさんがもの凄く甘い采配をしてくれていることはすぐに分かった。何とか黙認してくれた彼女の言葉にだけは逆らわないよう、俺は細心の注意を払って今後の調査に乗り込むことにした。

 

 

 ☥

 

 

「ぬぁぁぁぁぁっ……!?」

 

 酒臭い……。

 

 翌日、ヘスティア様の情けない呻き声が本拠地(ホーム)を駆け巡る。どうやらこの神様はあの後、同じ零細ファミリアの主神『ミアハ』様と日付が変わるまで飲んでいたらしい。おかげで完全に二日酔いに悩まされていた。頭を抱えながらゴロゴロとのたうち回るヘスティア様を見て、ベルは心配そうにリンゴのすりおろしを用意していた。

 

 ちなみに、贈り物のウイスキーは暗所に保管されてある。こんな状態のヘスティア様に渡しても喜ばれないだろう。昨日はこの二人を笑っていたが、俺もつくづくタイミングの悪いヤツだ。

 

「……ベル君、食べさせてくれるかい?」

 

「は、はい。わかりました……」

 

 ベルにリンゴを口元まで運んでもらい、ヘスティア様はモソモソとそれを食べる。その姿は正しく、小動物そのものだった。

 

「……ベル君、グレン君、今日はダンジョンに行かなくていいのかい?」

 

「今のヘスティア様を放っておけないしな。今日は久々の休みだ」

 

 そう言ってヘスティア様に温めたミルクを渡す。俺が片手で持っていたカップを、小さな両手で受け取ってゆっくりと口をつける。そんな彼女は、なんだか申し訳なさそうな顔と不安な顔をしていた。どうやら今日はヘファイストス様のバイトを無断欠席するようだ。

 

「そうだベル。ヘスティア様への贈り物、何にするか決めたのか?」

 

 微妙な空気感を緩和するべく、俺はベルに贈り物の話題を振る。

 

「う、うん。物って訳じゃないんだけど……神様、昨日の探索で随分お金が入ったんで、豪勢な食事でも……ど、どうですか?」

 

 と、ベルはヘスティア様に提案する。すると、彼女のツインテールがピーンと跳ね上がってベルの方に顔を向けた。

 

「デート……」

 

「あ……」

 

 俺は、ヘスティア様がまずい勘違いをしているのではないかと声を漏らす。ベルとしてはお世話になっている彼女への恩返しのつもりだろうが、ヘスティア様は既に別の意味で捉えてしまっていたのだった。二日酔いのせいか、俺がいる事も完全に忘れている。

 

「今日行こうっ!!」

 

「え」

 

「今日行くんだっ!!」

 

 ヘスティア様は体調不良などいざ知らず、ベルにそう詰め寄ってそう叫ぶ。

 

「か、神様、体調は……」

 

「もう治った!」

 

 その言葉に嘘はなさそうだった。まるで今までの二日酔いが嘘かのように軽やかな足取りでベッドから出る。

 

「グレンも誘おうと思ってたんだけど、今日で大丈夫?」

 

「いや、俺は……遠慮しておくよ。今日は用事もあるし、二人で楽しんでくれ」

 

「そんな、悪いよ……」

 

「いいんだ。それに、これはベルからヘスティア様への贈り物だ。俺が受け取る訳には行かない。せっかくいいタイミングがあるんだ。これを逃したら、次がいつになるかも分からないぞ?」

 

「グレンがそう言うなら……」

 

 ベルから不意な誘いを受けたが、なんとか理由をつけて断った。当神はこれだけ好意を寄せているのに、ベル自身は気づきもしない。この前ヘスティア様から【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】が発現した理由も聞いたが、どうやらベルは『剣姫』アイズに想いを寄せているらしい。その上、昨日はリリと仲良く手を繋いで帰る始末だ。ここまで来るとヘスティア様が可哀想だとすら思う。

 それに、用事があるというのもあながち嘘ではなかった。

 

 俺はヘスティア様の方を見て親指を立てる。彼女もよくやった! と言わんばかりに親指を立てていた。

 

「ではベル君、六時に南西のメインストリート、アモールの広場に集合だ!」

 

 ヘスティアそう高らかに宣言し、本拠地(ホーム)を後にする。その背中は嬉しそうで、こっちも微笑ましく思えるものだった。

 

 

 ☥

 

 

「結局、今日も収穫ゼロか……」

 

 時刻は深夜。俺は五時半にベルが出ていった後、準備をしてオラリオ中の酒屋を巡りに巡った。しかしどこの店にも神酒(ソーマ)は置いていなかった。元々運は悪い方だが、こうも空回りだと流石に凹む。

 調査は一筋縄ではいかなそうだ。どうすればいいかと迷っていると、どうやら普段通らない細道に入ってしまったようだった。すると突然、ガタンガタン! と何かが激しく転がり落ちる音が聞こえた。持っていた魔石灯をそちらに向け、何が起きているのかを確認する。

 

「──じゃねぇか!」

 

「ギャハハハハ!!」

 

 そこで俺は見た事のある顔とつるむ複数人の男を目にした。ゲラゲラと笑いながら足元に話しかけている。暗くて良くは見えなかったが、階段の下にはぐったりと横たわるリリの姿があった。そして見た事のある顔の男とは、あの日ベルと剣を混じえていたあの冒険者()だった。

 

「おい、これはどういうことだ?」

 

「ああ……!? な、テメェは!?」

 

「知り合いですかい、ゲドの旦那?」

 

 いち早く俺の存在に気づいた男──『ゲド』と、ヤツの隣にいる犬人(シアンスロープ)の男が俺に敵意の眼差しを向ける。すると、奥からゾロゾロと仲間がやってきた。ヤツらの装備には月と盃のエンブレム……ゲド以外はどうやら、ソーマ・ファミリアの連中らしい。

 だが、そんなことは関係なかった。例え短い間柄だったとしても、仲間をこんなふうにされて平然としていられるほど、俺は大人じゃなかった。

 

『でも、無茶はしちゃダメよ?』

 

 ハッと、エイナさんの言葉を思い出して冷静になる。そうだ、俺がソーマ・ファミリアの調査を続行できているのは、あの時エイナさんが黙認してくれたおかげだ。彼女の顔に泥は塗れない。リリの救助を最優先に設定し、ヤツらを倒すのではなく追い払うことに意識を向ける。

 

「なんでいっつもテメェはよォ!」

 

 ゲドが叫びながら、剣を振り回して襲いかかってくる。それを俺は冷静に躱し、ヤツの手首を捻って武器を落とさせる。

 

「ギャアッ……!?」

 

 そのまま膝をついたヤツの眉間に俺の短剣を差し向ける。ゲドとソーマの連中の動きはピタリと止まり、数秒の時が流れる。

 

「失せろ」

 

「ク、クソがっ……!!」

 

 ヤツは自分の武器を拾うことなく、何度聞いたか分からない捨て台詞を吐いて俺に背を向ける。短剣を仕舞い、次はお前たちだと言わんばかりにソーマの連中を睨みつけた。

 

「おい旦那、俺たちがソーマ・ファミリアだって知っててやってんのかい?」

 

「だったらどうしたんだ?」

 

「これはウチのファミリアの問題だ。安っぽい正義感振りかざすってんなら、殺すぜ?」

 

 そう言ってヤツらは得物を抜き、俺を囲むように陣取る。

 

「あんたらのファミリアの問題だろうと、リリは俺たちの仲間だ。手を出すヤツは許さねぇ!」

 

 最初はただの脅しだったみたいだが、折れない俺に犬人(シアンスロープ)の男は苛立ち始める。

 

「チッ、お前らやっちまえ!」

 

 ついに襲いかかってくるソーマの連中。俺は武器を抜かずに、まずは得物を持つ腕を捻り、怯んだところを投げ飛ばす。その繰り返しでヤツらをのしていく。

 

「遅い!」

 

「何ッ……!?」

 

 バタバタとなぎ倒されるソーマの連中。これがリリの救助を最優先し、ヤツらを出来るだけ怪我させずに追い払うための、俺に出来る最適解だった。

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