偉大なる魔法使いの二度目の人生はイージーモード   作:優鶴

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ハリーに金縛り呪文をかけ、何もできないままそれでもこの現場を見させるのは酷だとわかっていた。ドラコの武装解除呪文は避けようと思えば避けることができただろうが、避けなかったのは少しでも敵を混乱させるための罠だ。ニワトコの杖は忠誠心を奪わなければ意味がない。ヴォルデモートが―――トムが、忠誠心を得ることはないだろう。ドラコの魂はまだ傷つけられてはいない。これから見る光景は衝撃的すぎて武装解除のことなど覚えてもいないのだろうから。
校長権限で、意識を向ければ校内のことはすべて把握できる。計画通りだ。セブルスがこちらに向かってきている。ふと視界の端にしなびた杖腕が入る。欲望に抗えなかった己に心の中で苦笑した。偉大だなんだと言われても所詮は人間に過ぎず、幼少期の諸々も相まって自己肯定感も希薄だったアルバスは誰かからの肯定がないと生きていられない人間だったのだ。それに気づいていたのは片手でおさまるほどの人数だが。
死喰い人に一足遅れて向かってくる人物をもう一度確認する。すべては計画通り。打てる布石はすべて打った。後は残った者がどうにかすることだろう。
「―――アバダ・ケダブラ! 」
こちらを責めるようにわずかに歪められた暗い瞳は、アルバスの最期の時にあってもまったく緩められる気配がない。苦しみはない。
緑の色は、マグルでは平和の色だと言う―――自分に向けられた死という名の平穏と終わりをもたらすその閃光は、アルバスにとっては紛れもなく平和の象徴だった。







アリアナ・ダンブルドアはスリザリン

「あら、アリアナ、起きてしまったの? 」

柔らかく微笑んだ女性が自分を覗きこむ。―――は? アルバスは、目の前の状況が本気で信じられなかった。

100年以上経っても己の記憶が薄れていないというのなら、彼女は確かにケンドラ・ダンブルドアで。ここは死後の世界とやらであろうか。

「アリアナは大人しい子ねえ。……少し心配だわ。」

小首を傾げて自分を抱き上げた女性―――母は、くすりと微笑む。

「お腹が空いたのかしら、パース。」

もうひとり自分の顔を覗きこんできたのは、やはりアズカバンに投獄されたはずの父パーシヴァル・ダンブルドア。それに自分はアリアナなどと呼ばれているし、一体何がどうなっているのか。ぱちぱちと目を瞬かせたアルバスの頭を優しくパーシヴァルが撫でる。

「不機嫌そうな顔をしているね。ケンドラ、やっぱりお腹が空いてしまったのかも。」

「あら、そう? 」

じゃあお乳をあげなくちゃ、と授乳体勢に入ったケンドラにアルバスの頭は真っ白になった。無理、精神年齢百歳超えの身で幼児プレイとか無理にもほどがある。

混乱するアルバスをおいて状況は進んでいく。思考回路が完全に吹っ飛んだアルバスはわけのわからぬまま、うっかり状況に流されてしまった。

 

******

 

「……ってこともあったなあ。」

アルバス・ダンブルドアあらためアリアナ・ダンブルドア三歳、窓の外を見てしみじみするなど普通の三歳の少女の所業ではない。

そう、彼、いや彼女は少女なのである。幼児プレイは錯乱して混乱して思考回路をショートさせている間に何とかかんとか終わったらしく、ようやく記憶が落ち着いたのは二歳後半から三歳になった頃である。歩けるようにも話せるようにもなった三歳という年齢ならば少しくらい難しい言葉を使ったところで“この子は天才だ! ”で済ませられる。

彼女はダンブルドア家の長女であり、そして驚いたことに弟も妹もいない。いや、三歳ならば妹は生まれていなくて良いのだが、弟がいないのである。どうやら前世におけるケンドラとパーシヴァルは女の子が欲しくて子どもを三人も作ったらしく、最初に娘が生まれたら蝶よ花よの溺愛ぶりなのだ。ふたり目を作る気配など見せない。将来家長として立つ必要がないのは何とも気楽なものである。

幼い頃は可愛がられていたのだろうが、手のかかるアバーフォースとアリアナの世話をしていた両親しか記憶にないため溺愛されるのはいささか違和感がある。しかし、長女であるからか彼らは全肯定式のだめだめな甘やかし方をした。アルバスは中身が自分でなかったらとんでもないわがまま娘に育っただろうと思っている。親に溺愛されて育ったジェームズ・ポッターがああなったのも理解できた。

「アル、お昼ご飯よ! 」

「はぁい! 」

アルバスは広げていた本を閉じて迎えに来た母に返事をした。喋れるようになってから交渉し続けたのが“アル”呼びである。アリアナと呼ばれると長年の習慣からなかなか振りむけない。せめて愛称を“アリ”ではなく“アル”にできれば良いものを、と思った末の行動だ。今では両親もアルと呼んでくれている。

「アル、今日も可愛いね! 」

リビングに行くと煙草をふかしていたパーシヴァルが駆け寄ってきて抱きあげられた。

「……父さん、煙草は身体に悪いからやめてって言ってるでしょ。」

女の子らしい言葉もすっかり身についたものである。もうふとした時にじいさん言葉が出ることもない。偉大なる魔法使いの適応能力はすごかった。

「ああ、わかってるよ……わかったからご機嫌斜めにならないでくれ。ほら、また新しい洋服と人形を買ってあげよう! 」

「だめ。そう言って買ってもらった洋服と人形がどれだけ余ってると思うの。やり過ぎよ! 」

「……母さんにそっくりだよ、アル。」

呆れたように言い放てばパーシヴァルは崩れ落ちた。

両親の溺愛ぶりは、手のかかる弟と妹がいたために、そして“お兄ちゃんなんだから”と言われたためにあまり構われた記憶がないゆえに自己肯定感が希薄だったアルバスには今のところ良い影響を及ぼしている。全肯定式のだめな甘やかし方ではあるが、自分の存在意義を問うようなことはない。アルはそこにいるだけで良いのよ、と存在そのものを認めてくれる両親の存在は良いものである。

そして、女性! アルバスの今生は女性なのである。何て素晴らしい。ゲラートと合法的に恋愛ができるのである。いや別に前世が違法というわけではない。ともあら、今生の己は異性愛者だ。結婚できるし子供も産める。両親の惜しみない愛情といいゲラートと結婚できることといい、親友と殺し合い教え子と殺し合ったハードモードな人生からすれば随分とイージーモードである。三歳にして既に前世を吹っ切ったアルバスはこの人生を楽しむことにしている。

「何か考え事をしているの、アル? 」

「うん! 将来白馬に乗った王子様が迎えに来てくれないかなあって。」

我ながら痛いことを言っている自覚はあるが、三歳の無邪気な(ここは重要である)少女が言うことならば許容範囲内である。そして娘を溺愛するこの両親に許容範囲外があるのかは謎である。つまり何も問題はない。

「アルならきっと素敵な王子様が迎えに来てくれるわ。」

「嫁に行くのはまだ早い! 世界一良い男じゃないとうちのアルはやらないよ。」

それより早くご飯を食べましょう、という母に導かれてアルバスは朝食の席に着いた。その辺にあった百味ビーンズを口の中に放り込み、顔をしかめる。土味である。今生でうまくいかないことは百味ビーンズくらいのものだ。まったく、ここまで人生イージーモードにするのなら百味ビーンズくらいおまけしてくれたっていいのに。ぷうっと頬を膨らませるアルバスにパーシヴァルがまた可愛いを連発した。親馬鹿であるが悪い気はしない。

ああいけない、このままではとんでもないわがまま娘が出来上がってしまう。そろそろ両親に過ぎた溺愛をやめるように進言すべきだろうか、なんてアルバスは実行する気もないことを考えてみた。

 

[newpage]

 

「アル、心配なことがあったらすぐに帰ってきても良いんだぞ。他寮の連中に嫌がらせをされたりしたらすぐ言いなさい。」

「アルは可愛いから心配だわ……。困ったことがあればすぐにふくろうを飛ばすのよ? 」

「わかってるわよ、父さんと母さんってば心配性ね。」

アルバスはキングス・クロス駅の9と3/4番線の入り口の前であれやこれや心配する両親に苦笑した。パーシヴァルが自分の入学の見送りに来ているというのはやはり感慨深いものである。

歴史はやはり繰り返すらしく、アリアナが受けた暴行事件はやはり起こったがアルバスは魔法で返り討ちにし、オブリビエイトで証拠隠滅済みであるのでパーシヴァルがアズカバンに放り込まれていることもない。

「心配に決まってるじゃない! 可愛い一人娘を送りだすのよ? 忘れ物はないわね、アル。ああ、髪の毛が少し崩れてしまっているかも。」

両親の愛情を一身に受けられるのは嬉しいが、そろそろ鬱陶しくなってきた。アルバスはカートを構える。

「じゃあ、行ってきます! 」

カートでキングス・クロス駅をくぐりぬけてしまえばこちらのものだ。帽子のつばを持ち上げて両親に笑顔を向けてから、アルバスはカートを滑らせた。キングス・クロス駅を抜ける感覚をもう一度味わうことができるとは。教師は休暇明けは姿現しじゃホグズミードの煙突飛行ネットワークを使うものだから、実に百年ぶりとさえいえるこの感覚は懐かしい。

さて、ではコンパートメントをとることとするか。今回は犯罪者の息子というレッテルを貼られることもないし、快適なホグワーツ生活を過ごせそうである。

カートを無言呪文で軽量化して持ち上げ、座席に運び込む。中からアクシオで本をいくつか取り出してアルバスはそれをめくり始めた。

「―――やあ、ここのコンパートメントにお邪魔しても? 」

視界の端で黒髪がさらりと揺れた。その隙間からパールグレーの瞳がのぞく。ブラック家らしい顔立ちの超絶な美形ではあるが、アルバスの思い人は金髪にオッドアイの超絶美形だったりするので好みにはかすりもしない。

「ええ、どうぞ。」

「いいかい? ありがとう。あ、僕はフィニアス・ブラック。君は? 」

「アリアナ・ダンブルドアよ。」

アルバス・ダンブルドアではなくアリアナ・ダンブルドアと名乗るのも慣れたものである。向こうがその気なら少しお話でもしようかと本を閉じてみる。ホグワーツ特急で本を読む癖があるのは父親が犯罪者のレッテルを貼られていたがために低学年の頃は話しかけられることも相席することも少なく、自分の世界に入れる本が好きだったからなので今生では特に関係もない。

「ダンブルドア……ってことは、マグル出身? 」

「正確に言えば半純血ね。ブラック家の若様にはお気に召さない? 」

「いや、全然。家のしがらみとかに囚われない分そっちの方が気楽だよ。兄さんは婚約者のガンプ嬢と一緒だからってコンパートメント追いだしてきたし、まーた貴族の面倒な付き合いが始まるかと思ってたから僥倖。」

あ、そういえばこいつ家系図抹消されていたような気がする。純血としか関わりたくないのではと思ったが余計な心配であった。

「うん、そうだ。アリアナちゃん、僕と付き合わない? 」

「嫌よ。心に決めた人がいるもの。」

突然わけのわからないことを言いだした目の前の男に半眼になりつつアルバスはばっさりとそれを切った。ゲラート以外にあり得ない。確かにアルバス・ダンブルドアは同性愛者であったことは認めるがそれは相手がゲラートであったからで、それ以外は受け付けないのである。百年以上拗らせに拗らせた執着は伊達ではない。

「え、残念。アリアナちゃん可愛いしブラック家にも反発できるし一石二鳥だと思ったんだけど。」

「最低ね。」

「うわあ辛辣。」

これは打たれ強いタイプである。つまりズバズバ言っても大丈夫なのだろう。アルバスはなけなしのフィニアス・ブラックへの遠慮を宇宙のかなたに投げ捨てた。

 

******

 

「ブラック、フィニアス! ―――スリザリン! 」

帽子が触れるか触れないかくらいでの即決である。代々スリザリンの家系であるのならば特段珍しいことでもないだろう。

それにしても、教員として百年以上見てきた組み分けの様子を再び生徒になって見る日がこようとは。百年後とは誰ひとり同じ人がいない――ゴーストはノーカウントだ――教員席を見て感慨にふけっていれば名が呼ばれた。ダンブルドアのDはかなり早い。

今はまだ副校長であるアーマンド・ディペットが組み分け帽子を被らせてくれる。レイブンクローの寮監席にはガラテア・メリィソートがいる。懐かしい恩師であり同僚たちの顔が並んでいる。

「おやおや、これは珍しい。」

と、懐かしさを感じている場合ではなかった。帽子が喋るのも開心術をかけるのも知っている。一応閉心術でガードはしていたが、さすがに創設者の魔法を破るのは困難ということか。

「さて、君は以前グリフィンドールだった。しかし年をとれば人間誰しも狡賢くなるというもの、スリザリン適性も抜群だ―――どうする? 」

「ダームストラングと関わりやすい方で。」

アルバスはあっさりと答えた。今生は欲望に忠実に生きて何が悪い。

「おやおや、何か君に変化があったようだね。よろしい。ならば―――スリザリィィン! 」

ダームストラングと関わってゲラートと会えればそれで良いのだ。二言三言話せば意気投合できるのは前回の経験からわかっている。身体の年齢に精神年齢が引っ張られがちなアルバスとしては、中身が百歳超えでもゲラートと楽しく議論を交わせる自信がある―――それしか考えていない元偉大なる魔法使いはスリザリンの席に歩いていった。

「まさかアリアナちゃんがスリザリンだとは思わなかったよ。」

「私はダームストラングと関わりたいだけだから。」

「ダームストラング? ああ、あそこは男子校だからか。」

行き方もわからない閉ざされたダームストラング専門学校。何を隠そうアルバスの想い人の出身校である。途中で放校されてはいるが。

「ええ、とある生徒に一目ぼれする予定なの。」

「……何だよそれ。」

わけがわからないとばかりにフィニアスは目を眇めた。わからないだろう。わかったらわかったで逆に怖い。

ふと組み分けに目をやればアルバスのすぐ後のエルファイアスがグリフィンドールに組み分けされたところだった。今生では関わることはないかもしれないが、まあ仕方ない。とにかくゲラートに会う、ただそれだけである。アルバスはあらためて決意を固めた。

 

******

 

同室にかけられたプレートの名前は、オリヴィア・マクミラン。聖28一族の一つである。また面倒なことになるかな、と思いつつアルバスは扉を開けた。

「あなたがアリアナ・ダンブルドアですの? 」

敵意のこもった目でこちらを睨んでくるお嬢様、彼女こそオリヴィア・マクミランであろう。アルバスは肩をすくめた。寮生活のことを思って11年間で女性の身体にすっかり順応しきった努力は果たして報われるのやら。

「ええ、ミス・マクミラン。不快なら関わってくださらなくて結構よ。」

今生では何をおいても愛してくれる両親がいるために、誰かに認められようとも思わない。つまり、アルバスは以前のように猫を被る気などさらさらなかった。人生二度目、楽しまなきゃ損である。

「……な、い、今、何と、言いましたの! 」

そんなこの世の終わりのような顔をしなくても。アルバスは半眼になった。貴族ってやっぱり面倒だ。

「半純血だから、不快なら関わらなくて結構と言ったの。」

「わたくしと関わらなくて良いと言ったのですか?! わたくしはオリヴィア・マクミラン、名家マクミラン家の長女でマルフォイ嫡男の婚約者ですよ?! 」

「別に関わる必要性は感じないから。」

猫なんて被っても無駄である。首席を独走してホグワーツの賞を総なめにするまで。ぼっち上等、というか父親が犯罪者のレッテルを貼られて避けられるより自分で好きこのんでひとりでいるという時点で十分違うのだからひとりで行動することに不満はない。ズーフィリアな弟はいないから風評被害に悩まされることもない、両親は揃っている、しかも一身に愛情を注がれている、ここは天国か。天国に違いない。前回のハードモード人生に比べたら穢れた血云々くらい鼻で笑い飛ばせるのである。

あ、でもダームストラングにゲラートを探しに行くなら貴族の人脈は必要か。媚くらい売っておくべきだったかとアルバスが考え込んだ時、オリヴィアが声をあげた。

「……アリアナ・ダンブルドア! わたくし、あなたとお友達になってさしあげてもよろしいですわ! 」

待て、何がどうしてそうなった。荷物の整理を始めようとしていたアルバスは目をむいた。女心は謎である。

「このわたくし手ずから魔法界での良い家柄とそうでないものを教えてさしあげますわ! 」

考えてみよう、彼女は未来のマルフォイ夫人である。あのドラコ・マルフォイの曽祖母なんかにあたる女性である。彼女のコミュニケーション能力は曾孫にまで受け継がれたようだ。悪い意味で。

「ミス・マクミラン。」

「何です? 」

「私は半純血だけど……。」

「……っ、結婚しなければ良いのですわ! 」

そこまで割り切って良いのか純血のお嬢様。すげなくあしらったら何故か懐かれたマクミラン家のお嬢様にアルバスは首を傾げた。可愛いなあ、と思う。スリザリンに行ってみると人脈が違った方面で広がりそうである。二度目の学生生活はそれなりに楽しめそうだ。

 

******

 

「おはよう、アリアナちゃん! 」

何故か懐かれた貴族その2、フィニアス・ブラック。何故かテンションの高いオリヴィアにたたき起こされ、談話室に引っ張りだされたと思ったらこちらもやたらと元気なフィニアスである。肉体年齢に精神年齢が引っ張られがちとはいえ中身百歳超えに11歳の相手は辛い―――わけもない。アルバスは二度目の人生を全力で楽しむと決めている。

「やっぱりアリアナちゃん可愛いよね。付き合おうよ。」

「私には心に決めた人がいるの。まだ出会ってないけど。」

「出会ってないなら先に出会った僕の勝ちじゃない? 」

「私の好みは金髪よ。」

「ということは僕は髪を金色にする魔法を覚えれば良いんだね? 」

「そうね……。」

アルバスは首を傾げ、杖を振った。フィニアスの髪の色が金色になる。伊達に偉大なる魔法使いをやっていたわけではないのだからこれくらいの魔法はお茶の子さいさいだ。

「うん、好みじゃないわ。」

「わあ、辛辣。心配しないでアリアナちゃん、僕は諦めないよ。」

「ブラック家から勘当されますわよ、フィニアス! 」

アルバスが再び杖を振ってフィニアスの髪色を黒色に戻したところでオリヴィアが一喝するも、彼にはまったく応えていないようである。

「ところでアリアナ、会ってもいないのにどうして心に決めていますの。」

「え? 夢? とか。」

適当に答えたアルバスにオリヴィアは目を輝かせた。

「まあ、ロマンチックですわ! 」

恋のお話は好きなお年頃なのだろうと思いつつ、アルバスは彼女の頭の中で繰り広げられている妄想はわりとどうでもよかった。きっと家柄が良い人よ、そしたら背も高くて性格もいいんだわ、アリアナの王子様ってそんな方でしょ?夢見る乙女である。

「ミス・マクミラン。」

「な、何ですの! 」

「昨日私に魔法界での良い家柄を教えてくれるって言ったわよね。フィニアスは至高のブラック家のはずだけど、関わって良い人かしら。」

「女性の尻を追いかけ回す変態に関わることはあってはなりませんわよ! 」

「でもフィニアスはブラック家よ。」

「……前言撤回いたします。フィニアス、即刻ブラック家から勘当されてきてアリアナから離れなさい。」

「嫌だよ、資金源がなくなるから。」

「あなたにとってのブラック家はただの資金源なんですか! 」

「……フィニアス、ミス・マクミラン、早くしないと朝食に遅れ……。」

「アリアナ! 」

「……何、ミス・マクミラン。」

「フィニアスはフィニアスなのにわたくしはミス・マクミランですの? あのフィニアス・ナイジェラス様の子息でありながら女性の尻を追いかけ回す変態は名前呼びでマクミラン家の直系でありマルフォイ嫡男の婚約者である誇り高きわたくしはミス・マクミラン? どういうことですの! 」

「じゃあオリヴィア。早くしないと朝食に遅れるわよ。遅れたら厨房に行ってハウスエルフからご飯をもらえば良いけど……マクミラン家のお嬢様が朝食を食いっぱぐれるなんて体たらく、許されるの? 」

「……許されませんわね。よろしいでしょう、アリアナに免じてフィニアスの変態は見逃して差し上げます。」

アリアナに免じてフィニアスの変態を見逃す……純血主義者なら普通は反対ではなかろうか。アルバスは首を傾げた。11歳の子どもは矛盾だらけだ。

「……僕、変態認定されたの? 」

「当たり前ですわ! 」

朝食に向かうにしろ、オリヴィアとフィニアスの口喧嘩が勃発する。まあ、仲が良いのは良いことである。同学年の有力貴族の子女ふたりを無意識に誑かしたアルバスは大広間へと足を向けた。

 

******

 

ダンブルドア家の一人娘、アリアナ・ダンブルドアの学生生活は順調であった。前世のことをすべて吹っ切り今生を全力でエンジョイすることに決め、猫を取っ払って脱ぎ払って素で接していたらブラック家とマクミラン家とマルフォイ家への伝手ができるなどという棚ぼたである。犯罪者の息子のレッテルがないってこんなに違うのか。

そんな彼女は今、数人の女子生徒に囲まれている。前世は犯罪者の息子のレッテルが貼られていたしこういった状況は慣れているので頭は冷静だ。さて、何が飛んでくるかと思いながらローブの下で杖を構えておく。

「フィニアス様とオリヴィア様に近づくなんて一体どういう了見なの? 」

「卑しい半純血の分際で……。」

これくらいは想定範囲内である。アルバスはざっと周りを見回した。同級生が数人、上級生―――それも最上級生まで、それなりに人数がいる。さしもの学年首席も十数人でかかってこられれば敵わないと見たか。甘い、こちとら歴戦の猛者である。幾度となく決闘をしてきたし、いったいどれだけニワトコの杖の主人をつとめあげたと思っているのだ。これくらい相手でもない。

「ええ、確かにそうかもしれませんね。私は半純血。フィニアスやオリヴィアには分不相応でしょう。」

「あら、生意気な口を。フィニアス様かオリヴィア様が駆けつけてくるとでも思っているの? 」

「おふたりは今日はディペット校長に呼ばれているのよ。」

勝ち誇ったように嘲笑う彼女らは、自分たちがどれほど醜いのかも理解していないのか。アルバスは溜息を吐いた。

「純血主義のことは理解しているつもりですが、私は実力主義ですし気が長くもないんですよ、皆さん。」

懐で杖を振る。―――エクスペリアームス。

十数本の杖がアルバスの元に飛んでくる。アクシオを唱えてそれを手におさめたアルバスはもう一度自分を囲んでいる女子たちの方を見た。

「半純血にさえ劣る身で私を攻撃し、あまつさえフィニアスとオリヴィアの交友に干渉しようなどそれこそ分不相応というものですよ。あなた方こそ分をわきまえたらいかがなんです? ―――杖は、証拠品としてでも提出させていただきましょうか。やるのならやられる覚悟くらい持たれているのでしょう? 返してもらえるなどと楽観するのは愚かですよ。杖を失った魔女など赤子にも等しいのですからね。」

まだ成人もしていない者も多い中でこんなことを行うのは大人げないとはわかっているが、快適な学生生活のためである。今回は狡猾を謳われるスリザリン寮に入ったのだから、裏でこれくらいしたって何の問題もないはずだ。

こういう手合いには圧倒的な実力差を見せつけて恐怖感を植え付けるのが手っ取り早い。場の空気を支配するアルバスの魔力に圧倒されて動けない女子たちの間をすり抜け、スリザリン寮に向かう。

別に杖を折る気はないし、杖を奪って反撃手段を奪った上で何か屈辱を味わわせたわけでもない。手加減した方である。大人数で挑んできて油断した向こうが悪い。

悠々とした足取りでその場を去っていくアルバスを引き留める者はいなかった。

 

******

 

「アリアナ! 」

スリザリン寮の部屋に戻って集めた杖をどうしようかと考え込んでいると、バァンと音を立てて扉が開いた。いつだろうと淑女たろうとするオリヴィアらしくない荒々しい動作である。

「無事ですわね? あの、先輩含めて……絡まれたと聞きましたの。わたくしが関わったせいですのね……。わたくしは、マクミラン家の直系長女でマルフォイ嫡男の婚約者と言いながらもその自覚を持っていませんでしたわ、だからアリアナ、あなたを。」

「少し“お話”してきたから大丈夫よ。あ、オリヴィア。これ、彼女たちの杖なの。どうすれば良いかしら? 」

「……“お話”? 」

「ええ、半純血にも劣る身であなたやフィニアスの交友範囲に口を出すなんてそれこそ分不相応だってね。杖を折らなかっただけ感謝してほしいわ。」

あくまでも“お話”である。まかり間違っても“脅迫”ではない。

「……心配は無用でしたわね! アリアナはたくましいですもの! 」

中身は百歳超えの爺なので、というわけにもいかずアルバスは肩をすくめた。

「オリヴィア、杖の処理は任せるわ。」

なお、アリアナ・ダンブルドアはフィニアス・ブラックとオリヴィア・マクミランを手懐けそれに不満を持った女子生徒らを鎮圧したこの一件から“スリザリンの女帝”などと呼ばれ始めることになるが、本人にそんなつもりはまったくなかった。

 




・オリキャラ
オリヴィア・マクミラン
今はまだ生まれていないが年の離れた妹にブラック家に嫁ぐメラニア・マクミランがいる。メラニアはシリウス、レグルス兄弟の父方の祖母にあたる。オリヴィア本人はマルフォイ嫡男(アブラクサスの父)の婚約者。
純血主義は崩さないけど結婚しないならお友達になってさしあげてもよくってよ、特別に魔法界のいい家柄とそうでないものを教えてさしあげますわ! なあたり、確実にマルフォイの嫁である。アリアナとは卒業後も付き合いが続く。半純血だけど下手な純血より優秀だとは思っている。
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