偉大なる魔法使いの二度目の人生はイージーモード   作:優鶴

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プリンス家の天使

それは、トム・リドルが入学し、ヴィクトリア・グリンデンバルドに振り回されるより少し前の話。

「グリンデンバルド教授! 」

ばあん、と開け放たれた扉にアルバスは振り返った。まったく騒々しい。

「何があったの? 」

入ってきたのはスリザリン寮のゴブストーン・チームのキャプテンでありクィディッチのチェイサーも兼任する学年次席の秀才、アイリーン・プリンスだった。彼女はかつてアルバス・ダンブルドアの懐刀であったセブルス・スネイプの母親である。アイリーン・プリンスが彼の母親だと知った時は衝撃を受けたものである―――スリザリンの中心的な存在のひとりであり、グリフィンドールのフリーモント・ポッターと火花を散らしていた活発な生徒であったのに何故マグルと駆け落ちなぞしたのか。確かに彼女はわりと行動力の塊なところがあるようにも思えるから、そう思えば無理もないことなのかもしれないが。

「先生はフィニアス様と親しいのですよね? 」

「……ええ、そうだけど。それがどうかしたの? 」

そう、今回フィニアスはブラック家の家系図から抹消されていない。ブラック家との伝手があることに越したことはないとゲラートが巧みにフィニアス・ナイジェラスを説得した為である。演説の手腕には本当に感心する。

「私、マグルと駆け落ちしようと思うんです。」

「……ああ、そう。」

そのことね、と思わず天を仰ぐ。やはり来たか。

「いえ、マグルという言い方は正確ではないですね。ブラック家の家系図からスクイブであったがゆえに抹消され、今はマグルとして生きる元幼なじみと駆け落ちしたいと思うんです。」

「ちょっと待ってくれるかしら、ミス・プリンス。今情報整理をするから。」

ブラック家の家系図からスクイブであったがゆえに抹消され、今はマグルとして生きる元幼なじみ―――アイリーン・プリンスはさらりとこれを言ってのけたが、随分と情報量が多い。

「グリンデンバルド教授、私がルクレティア・ブラックと親友であることはご存知ですよね。彼女、弟のことをとても可愛がっていたのですが……弟が家系図から抹消される時に記憶を消されてしまって。フィニアス様に伝手を持つグリンデンバルド教授ならどうにかできるかと思ってこちらに来た次第です! 」

「……そう。ちなみに名前は? 」

「アルナイル・アークトゥルス・ブラックと。マグル界での名前は、トビアス・スネイプです。」

アルバスは頭を抱えた。まさかセブルス・スネイプ誕生秘話がこんなところで発掘されるとは思わなかった。想定外も想定外である。

「グリンデンバルド教授? 」

「……わかったわ、ミス・プリンス。協力しましょう。」

「ありがとうございます、グリンデンバルド教授! 」

嬉しそうに笑い、失礼しました、とスリザリン寮監室を跡にしたアイリーンを見送る。どうしたものかと思いながらアルバスは私室に行くと、暖炉にフルー・パウダーを突っ込んだ。

「ゴドリックの谷、グリンデンバルド邸。」

スリザリン出身者がゴドリックの谷に邸を構えるなど、聞いてみればどこかおかしな話ではあるのかもしれない。

「……アルバス? 今はまだ仕事中のはずでは。」

暖炉の前にはゲラートがいた。杖を振ってフルー・パウダーを落としていれば書類を放り投げた彼に後ろから抱きしめられる。

何せこの夫婦、実の娘と息子をして『砂糖吐く』と言わしめるほどの万年新婚夫婦である。

ただいまのキスを交わしてからソファにふたりして座り、アルバスは溜息を吐いた。

「ミス・プリンス……セブルスの母親が衝撃的なことを言ってきてね。あなたに相談したくって。」

「ああ、アルバスの懐刀か。」

前世で何をしていたかは洗いざらい話してある。その方が相談もしやすいし、そもそも今さら隠すことなど何もないのだ。もう一度言おう、彼らは実の娘と息子をして『砂糖吐く』と言わしめるほどの万年新婚夫婦であるのだ。三桁に登る年数の拗らせた愛とも執着ともいえるものが並大抵であるはずがない。

アルバスがスクイブ云々の顛末を話せば、ゲラートは額をおさえた。

「……難しいぞ? 」

「重々承知よ。まあ、でも今回は私、スリザリンだし……ええ、正直に言いましょう。ジェームズやシリウスよりセブルスの方が気に入っていたわよ。だからミス・プリンスの手助けをしたいってだけ。」

どうせ考えていることなんて口に出さなくても手に取るようにわかってしまうのだから、いちいち隠す必要もない。閉心術もろくに使わずに会話できるのはゲラートだからだ。

「アークトゥルスとメラニアに繋ぎをとっておいてやろう。」

「ええ、ありがとう。―――愛してるわ、ゲラート。」

唇に軽いキスを贈ってからアルバスは立ちあがった。さて、現闇祓い局長であり純血グリンデンバルド家出身という血筋と巧みな弁舌でブラック家と親しい関係を築いているゲラートの協力があればアイリーン・プリンスの願いはすぐかなえられることだろう。

「じゃあ、ミス・プリンスに安心してとでも伝えておくわ。頼りにしてるわよ。」

フルー・パウダーをつかみ、ホグワーツスリザリン寮監研究室と口にする。次の瞬間には、きちんとホグワーツのスリザリン寮監研究室に到着していた。

「いるかしら、ハウスエルフさん。ミス・プリンスにこれを届けて頂戴。」

―――相談を受けた“彼”のことについてはあなたの卒業までには解決できそうよ、安心して頂戴。

そのメモをテーブルにおけば、一拍して消えていく。ハウスエルフとはつくづく優秀である。どうして魔法使いに仕えているのか謎であるほどに。

 

******

 

「ゲラート、アイリーンから手紙よ。子どもが生まれたって。」

アイリーン・プリンスから衝撃的なカミングアウトをされてから数年。ブラック直系男子に復帰したアルナイルと結婚し、プリンス家の女当主として立つ彼女から届いた手紙をアルバスはひらひらと振った。

「見に行くか? 」

プリンス夫妻の結婚はゲラートの尽力によるところが大きい。逆行してすべてが吹っ切れ、奥方至上主義となった彼は妻が喜ぶのであれば何でもするのであった。ちなみにそれは妻の方も同じである。ゆえに彼らは実の息子や娘、はては孫たちにすら『砂糖吐く』と言われるのだ。ちなみに前世では決闘していたことを知るトム・リドルは万年新婚なグリンデンバルド夫妻を見るたびに死んだ目をしていたりする。失礼な教え子である。

「お祖父様お祖母様、アイリーンに子どもができたの? ほんと? 」

丁度仕事から帰ってきていたヴィクトリアがきらきらと目を輝かせて祖父母を見上げた。アルバスは微笑んでその頭を撫でる。もう子どもじゃないのよ、と頬を膨らませる様は可愛らしい。どのじじばばも孫は可愛いものである。

「ええ、ヴィクトリア。見に行く? 」

「もちろん! トムも連れてくわ! 」

またもやヴィクトリアに振り回され、疲れ果ててボロ雑巾と化するであろうトムを思ってアルバスは静かに合掌した。中二病になる暇もないくらいにヴィクトリアに振り回されておくがいい。よくよく付き合ってみればトムは可愛らしい。だがしかしヴィクトリアを泣かしたら許さない。孫馬鹿は健在であった。

 

******

 

「トムっ、トム! アイリーンのところに子どもが生まれたから見に行くわよ! 」

「何だヴィクトリア、騒々しい。黙れ。今本を読むのに忙し……。」

「あらやだ、アイリーンに子どもが生まれたのよ? 本なんていつでも読めるけどアイリーンの生まれたての赤ちゃんを見れるのは今だけ! ほら行くわよ! 」

「離せ! 」

手首をがっちりつかんだヴィクトリアに沸点の低いトムは杖を構えた。

「アバダ―――。」

「はぁいアウト。」

諸事情あってマグル式体術を極めたヴィクトリアに不可能はない。至近距離にいたこともあって、彼女は物理でトムの手首を強打して杖を取り上げた。手首を抑えてのたうちまわるトムの反対側の手首をこれまたがっちりつかんだまま、ヴィクトリアは宣言する。

「さあ、行くわよトム! ちなみに名前はセブルスというらしいわよ! 」

それ前世で自分を裏切った奴では。確か母親の旧姓プリンスだったよね、自称半純血のプリンスだったよね。元闇の帝王の目は死んだ。

「……毎夜毎夜ダンブルドアを呪っている僕の努力はどこに行った……。」

「あら、トムってば毎晩毎晩お祖母様を呪っているの? 一日も欠かさず? それはもはや恋よ、愛よ、執着なのよ! いやだ私のライバルってお祖母様だったの? 確かにお祖母様は素晴らしいけれど今は私の敵! さあトム、あの年増ではなく私を選びなさい! 」

「……グリンデンバルド一族なんて大っ嫌いだ! 」

彼は叫んだ。トム・リドルのライフはとっくにゼロなのである。

 

******

 

ヴィクトリアに振り回されまくり、やっとのことでプリンス邸にたどりついたトムはアイリーンの腕に抱かれた赤ん坊に思わず癒された。いやこれは前世で自分を裏切った奴、とは思いつつもグリンデンバルド一族には存在しないこの無垢さと純真さと可愛らしさ。癒されるなという方が無理である。赤子ってなんて純粋なんだ。

「セブルス、お前はグリンデンバルドに誑かされるなよ……。」

「あらトム? 今聞き捨てならないことが聞こえたわね。ちょっと表に出なさい。用意はいいかしら、ヴィクトリア。」

ダンブルドアといあわせてしまったのが運の尽きだった。トムの悲鳴がプリンス邸に響き渡るも、無情にも助けてくれる人は誰もいない。

手首を強打されたところにさらに追い打ちをかけられたトムはボロ雑巾になった。イケメンが台無しである。

「うーあ? 」

大丈夫? とでもいうように母親に抱かれたまま一生懸命に手を伸ばしてくる幼子に、トムは陥落した。認めよう。いくら自分を裏切ったのだといったって、この赤子には何の罪もない。見たところ記憶もなさそうだし。

よし決めた。全身全霊でこの子を可愛がる。アイリーンに可哀想なものを見る目で頭を撫でられながらトムは決意した。グリンデンバルドに誑かされてはいかんのだ。

結局見た目だけは美人なヴィクトリアがセブルス・プリンス君の初恋をかっさらい、トムが崩れ落ちるのはもう少し先の話である。

 

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