偉大なる魔法使いの二度目の人生はイージーモード   作:優鶴

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ヴァルブルガ・ブラックの愛する家族

はじめて婚約者に会うというのにどうやら親が決めた婚約者というのが気に入らないらしく、朝から不機嫌なシリウスにヴァルブルガはどうしたものかと溜息をこぼした。

ヴァルブルガとオリオンの結婚も親が決めたものだったがふたりは愛しあっているし、政略結婚だってお互いに愛しあうことだってできるのだ。まずは会ってみないことには始まらないし、オリオンの尊敬するアリアナの曾孫でヴァルブルガとオリオンのよき友人であるトムの義姪である。ヴァルブルガはシリウスの婚約者である令嬢に会うのが実のところ楽しみでたまらなかったし、息子のせいで彼女が嫌な思いをしてしまうのは避けたいところだった。以前に何度か会ったことがあるが、彼女は可愛らしく聡明な子でヴァルブルガを義母と慕っている。そんな未来の義娘が可愛くないはずがない。

とはいえ息子がどうにもならないのは知っていたので、結局シリウスを婚約者――可愛いロザベルの元に送りだすしかなかったのである。オリオンがついていってくれたからいくばくかは安心ではあるが、それでもシリウスが酷い態度をとりそうだからあとでロザベルを慰めなければと思いながらハウスエルフに子どもの好むお菓子をたくさん用意させて、さてシリウスとロザベルはどうしているかとそわそわと扉を見る。こんなことは淑女のすることではないとわかっているけれども、子どものこととなるとどうにも心配になって世話を焼いてしまうのが親の性である。オリオンはきちんとふたりの間を取り持てているかしら。ヴァルブルガは夫を愛しているが、彼は時に器用でないこともわかっていた。

「シリウスは大丈夫かしら……。」

「ヴァルブルガ、心配しても仕方ないよ。」

呟いたところで扉が開いてオリオンが出てくる。微笑まれて、そうかしらとヴァルブルガは心配そうに軽く首を傾げた。オリオンが出てきたということは、今部屋にはシリウスとロザベルがふたり。大丈夫かしら。

「でもロザベルさんが不快な思いをしてしまったら申し訳ないわ。」

「大丈夫だろう、何せアリアナ先生の曾孫でヴィクトリア先輩の姪だ。シリウスに黙って傷つけられるほど弱くもないだろうし。」

「ええ、そうなの。どうだったの? あなたがふたりを置いて出てきたということはもう大丈夫なの? 」

「うーん……まあ、大丈夫だと思うよ。」

「あら、どうして? 」

「理由はあとで話すよ。もしかしたらシリウスの方から君に相談が行くかもしれないけど……。」

「そんなに焦らさないで。言えないようなことなの? 」

「まあまあ。たぶんお菓子も必要ないだろうから。あまり親に詮索されるとシリウスも嫌だろうしあの子から言いだすのを少しは待ってあげてもいいんじゃないか? 」

「何を言い出すというの? 」

「わかっていたら楽しみがないだろう。」

「はぐらかさないでちょうだい、オリオン。」

ヴァルブルガは苛立ったように早口で言った。いったい何を根拠に大丈夫というのか。

「ヴァルブルガ。」

名を呼ばわれて腰を抱き寄せられて、ヴァルブルガは咎めるようにオリオンを睨みつけた。こんなことで誤魔化されてたまるものですか。

「シリウスとロザベル嬢を見ているとどうにも君が恋しくなって。」

「……これで誤魔化したつもりなの? 」

「本心だよ。ここのところ仕事が忙しくてあまり時間を割けなかったから。」

ヴァルブルガはオリオンを愛している。最近忙しくなってふたりの時間が減っても夫の愛を疑ったことはなかった。それでもやはり新婚の――若かりし頃の蜜月は懐かしくて、オリオンが恋しかった。

こんなのに騙されないんだから、という思いとこれからまた忙しくなるかもしれないのだから今くらい、という思いがせめぎ合う。しかしオリオンを見上げれば目が合って、その瞳に熱が宿っているのをひとたび見てとってしまえば簡単に気持ちは傾いた。

「……一緒にお茶を飲みましょう、オリオン。話がしたいわ。」

「私も話がしたい。」

愛してるよ、ヴァルブルガ――それからオリオンは手を差し出した。

「エスコートをお許しいただけますか、レディ。」

茶目っけのある笑みでそう言われて思わずふざけないで、と返しそうになったのをヴァルブルガは思いとどまった。もう子どももいるのに若い頃に戻ったように戯れて、おかしいような嬉しいようなくすぐったいような。そう思えば自然とヴァルブルガも笑みがこぼれた。

「聞くまでもないでしょうに。」

まったくあなたってば、と笑って手に手を重ねる。仕事の時は常にオリオンの手にはめられている手袋は外されていたからヴァルブルガも自分の手袋を外した。どうせ家の中で誰も見ていないのだ。はしたないだとか言ううるさい肖像画のことなんて知ったことではない。

「ねえオリオン、あとで踊りましょう。」

「ヴァルブルガはダンスが上手かったね。」

「あら、今だって上手よ。ブラック当主夫人たるもの無様はさらせないもの。」

「そう、私はダンスが苦手だったから君が引っ張ってくれて助かった。……こうしてみると君に頼りきりで不甲斐ない夫だね。」

ぱちり、とヴァルブルガは目をまたたかせた。不甲斐ない夫だなんて思ったことはなかった。仕事はよくできるし社交もそつがないし楽器も上手で教養もあって魔法も使いこなして、何一つ欠点のないオリオンがダンスが苦手だと告白してくれた時には、実のところだいぶ嬉しかったのだ。ヴァルブルガはダンスが好きだし得意だから、社交ダンスは自分がこの人を手伝ってあげられるのだと知って。

ああ、でももしかして。ダンスは嫌だっただろうか。それがふと不安になってヴァルブルガは夫を見上げた。オリオンは不器用で機微に疎いけれども、ヴァルブルガだって人の感情がすべてわかる自信なんてないから。

「オリオン。」

「何か問題でもあったか? 」

「いいえ……あなた、もしかしてダンスは嫌い? 」

今度はオリオンが驚いたように目を瞬かせた。これはどんな驚きかしら、とヴァルブルガは考える。図星をつかれた驚きかしら。そうだったらダンスのお誘いをするなんて気が回らなかったものだ。

「まさか。ダンスは得意じゃないけどヴァルブルガとのダンスは好きだよ。」

返ってきた言葉にはヴァルブルガの方が驚いた。

「あら……わたくしとならいいの? 」

「君は本当に楽しそうにダンスを踊るから。その時一緒にいるのは私が良い。」

これはまた、熱烈な愛の告白だった。あら、とヴァルブルガはオリオンに預けていない方の手で口元をおさえた。

「……あなた、今日はどうしたの? 若者のようにわたくしを口説いて。」

「シリウスとロザベルがあまりに初々しく見えたものだから、私もヴァルブルガを口説いて愛したくなってね。」

普段ならばブラック当主がそんなことでどうするの、と言っているところだが、ヴァルブルガは言わなかった。驚いたし少し恥ずかしいけれども、たしかに嬉しいのだ。夫が真っ直ぐに愛を伝えてくれるのが。だから今日くらいは、ブラック当主夫妻ではなくて、オリオンとヴァルブルガとして若い頃に戻ったように愛を囁き合ってもいいのではないかしら。そう言い訳をして、ヴァルブルガは微笑んだ。

「わたくしもあなたに愛されたいわ、オリオン。」

オリオンの表情が甘くとろけた。頬に手が添えられる。次に何をされるのかわかって、ヴァルブルガはオリオンの腕に手を預けて目を閉じた。唇が重なる。

シリウスとロザベルについての心配などとうに忘れていて、ヴァルブルガの目にはオリオンしか映っていなかった。

 

[newpage]

 

翌朝、日の光で目覚めたヴァルブルガは一瞬起きたのがいつもの自室のベッドではないことに戸惑って、それから昨日のことを思い出した。

時計を見ればもう9時にもなっている。だいぶ寝坊してしまったようだ。一緒に寝たはずのオリオンはもう行ってしまったようで、起こしてくれればよかったのに、と思いつつも寝かせておいてくれたのが夫の優しさであることも理解していた。

身体にわずかに残る気だるさが昨晩の情事を思い起こさせる。昨日はまるで若い頃に戻ったようにふたりきりの世界に浸って、ダンスをして、一緒に楽器を弾いて、それから――。

願わくばいつまでも続いてほしいと思うような幸せなひとときだったけれども、オリオンとヴァルブルガは魔法界の王家たるブラック当主夫妻だ。

それでも、とヴァルブルガは枕を抱きしめた。夫の愛を疑ったことはなかったけれど、未だ冷めやらぬ若き日の恋の炎がまだオリオンの中に残っているのがどうしようもなく嬉しかった。子どもたちも分別のつく年頃になってきて、穏やかな愛だけがそこにあると思っていたのに若い頃の――あの、焼けつくような恋の残像が見てとれた。

ベッドにはオリオンとヴァルブルガのつけている香がちょうど良い具合に混ざり合って心地よい匂いに包まれている。もう少しこの香りを堪能したいところだったが、時間はもう押している。夫が執務をこなしているのにひとり寝室でオリオンを恋しがるほどヴァルブルガはか弱くなかった。

軽く頬を叩いて自分を鼓舞すると、ベッドから起きてストールを纏う。鏡を覗きこめばやはり髪は乱れていてこれで人前に出ることはできそうにもなかった。ハウスエルフを呼んで髪を整えさせ、自室のクローゼットから服を持って来させて着替える。最後に軽く唇に紅を乗せて、ブラック当主夫人の装いがようやくととのった。

背筋は伸ばして、視線はしっかり前を見て。いつものように誇り高く。そうして寝室から廊下に出れば、シリウスがいた。

これはどうしたことかしら。両親の部屋があるあたりにはあまり近づかないシリウスにしては珍しい。何をしているの、だとか、まさか迷ったのではないでしょうね、だとか言うべき言葉は多くあるはずだったがどうにも出てこない。どうしたものかしらと思ったところでシリウスが先に口火を切った。

「……母上、ベルの……ロザベルとの、接し方を、教えていただけませんか。」

シリウスが自分から話しかけてきたことに、そしてその内容にヴァルブルガは驚いた。昨日オリオンがこの子から言いだすかもしれない、と言っていたのはこのことか。

「そう、レディの扱い方を教えてほしいのね。」

「……はい。」

ヴァルブルガに教えを乞うのは不本意だと表情に出ていたが、返事はしおらしいものだった。オリオンとのこともあって機嫌がよい上にやはり息子は可愛いものであるので、いつもならその叱ったかもしれないが、ヴァルブルガはシリウスの態度を一笑にふした。

「ロザベルさんは素敵なレディだったかしら? 」

「はい、とても素敵で、おれが今まで見たことないくらい……。」

勢い余ったように言ってから、なんでこんなことを言っているんだ、とでもいうようにはっと口を押さえるシリウスにヴァルブルガは思わず笑んでしまった。可愛げのある反応をすることだ。

「レディに相応しい紳士になるにはまずは言葉遣いから直さなくてはね。せめて社交界では格式のある言葉遣いをしなさい。シリウス、あなたの言葉遣いがなっていないせいでロザベルさんが白い目で見られるのも、彼女に嫌われるのもいやでしょう。」

「……それは、いや、です。」

「ええ。そうね、ではまず、オリオン――あなたのお父様をよく見て手本になさい。オリオンは素敵な紳士よ。何かわからないことがあればわたくしに聞きに来れば良いわ。」

「……聞く? 」

「わからないことがあれば聞くものよ。」

「母上も聞くんですか。」

「いくら調べてもわからないことならば誰かに聞くわ。」

ヴァルブルガにだって矜持はあるから何でもかんでも聞くわけではないが、疑問を持ってそれが解消できなければ先生のもとに質問に行くのは当たり前のことだった。そこまで考えてから、ああそうだったわ、とヴァルブルガはシリウスを見た。シリウスは優秀な子で――優秀すぎるあまりに質問をされない、と家庭教師が言っていた。

「シリウス、質問するのは嫌? 」

気付けばそんな言葉が口からこぼれていた。そんなことは聞かれたことがないとでもいうようにシリウスが目を見開く。確かにその表情は驚きに満ちていた。

「質問をしたことはないです。」

「あら、わたくしにレディへの扱い方の教えを乞いに来たじゃない。これも質問よ。」

そしてヴァルブルガは、シリウスが教えを乞いに来たのに――質問に来たのに応じた。

「……はい。」

今日のシリウスは妙にしおらしい。ロザベルの影響はそれほどに大きいようだった。

「他に何か聞きたいことはある? 」

「……聞きたいことができたら、聞きに行きます。」

ヴァルブルガの話など聞かなかったはずのシリウスが、聞く姿勢を見せている。ロザベルと会ったことで何があったのか、聞きたいことはたくさんあったけれども、オリオンにあまり詮索するのは良くないと言われたのを思い出してヴァルブルガは我慢した。

「シリウス、朝食は食べたの? 」

「え、まだ、ですけど……。」

いつもなら寝坊するなんて、と叱るところだ。しかしヴァルブルガも寝坊してしまった今日はシリウスのことも言えない。もしかしたらシリウスがヴァルブルガが起きてくるのを待っていたのだとしたら、なおさらそんなことは言えなかった。

「一緒に食べましょう。おいでなさい、シリウス。」

「……一緒に、ですか? 」

「食事の作法の確認をしましょう。……今度、ロザベルさんとの食事会を計画しようかと。失望されたくないでしょう。」

「はい! 」

いい返事である。ロザベルの名を出せばこの子は何でも頑張るようで、こんなことならもっと早く会わせれば良かったかしらとヴァルブルガは軽く額をおさえた。

ただ、婚約者に夢中になる我が子が可愛いのは事実だった。

 

[newpage]

 

ホグワーツに行くのが待ちきれないらしく、シリウスは9月1日の朝早く――もう4時には起きて、そわそわと荷物の中身を確かめながら広間を行ったり来たりしていた。ホグワーツに行くことで頭がいっぱいらしいシリウスはヴァルブルガとオリオンが朝食を取りに来たことにも気付かない。

「どうしましょうか、オリオン。」

「浮かれるのは構わないのだけど、これは少々……落ち着かせた方がいいか。」

オリオンは苦笑して広間を歩き回るシリウスを見やると、声をかけた。

「おはよう、シリウス。早いね。」

「おはようございます、父上、母上! 」

オリオンの声でようやく気付いたらしく、はっと顔を上げたシリウスが元気よく挨拶する。興奮して染まった頬に寝不足によるものか充血気味の眼。はあ、とヴァルブルガは溜息を吐いた。

「シリウス、鏡をご覧なさい。紳士たるもの落ち着かなければなりません。ロザベルさんにそんな姿を見せられるの? 」

「はい! 確認してきます! 」

居ても立っても居られないといった様子で廊下に駆けだしたシリウスの背中を見てヴァルブルガは叱責をとばした。

「シリウス! 廊下を走るのはおやめなさい! 」

「はい母上! 」

まったく返事だけはいいんだから、とヴァルブルガは嘆息する。廊下を走るのはやめたが、ゆったりと落ち着いた足取りなんてものはなく、早足で歩き去っていく。それは気持ちがはやるのはわかるけれど。ヴァルブルガも自分の入学の時は緊張したものだから。

「ロザベル嬢とホグワーツ生活を過ごせるのがよっぽど楽しみなようだね。」

「それでもシリウスはブラック家の長男でもあるの。みっともない振る舞いをしたら周りから白い目で見られるでしょうし、紳士でいてもらわなくては。」

「シリウスは賢い子だから大丈夫だろう。私もホグワーツに入学する時は君と毎日顔を合わせられるのだと思って楽しみでたまらなかった。」

「あら、初めて聞いたわ。」

「恥ずかしくて言っていなかった。」

「可愛い人ね。」

ヴァルブルガもオリオンが入学してくる年はいつもよりおめかしをして入学式に臨んだのだけど、それはヴァルブルガだけの秘密だ。毎日顔を合わせることができるのも嬉しくて、どの髪型が可愛いかしらと悩みに悩んで上級生には微笑ましげに見守られて。ヴァルブルガのホグワーツ生活は確かに輝いていたから、口には出さなくとも息子にも楽しいホグワーツ生活を送ってほしいという思いもあった。

「キングス・クロスに行くのは久しぶりね。」

「そうだね、ホグワーツを卒業して以来だ。」

「懐かしいわ。……シリウスはスリザリンに選ばれるかしら。」

「スリザリンでなくても構わないだろう、あの子が楽しければ。」

「……そうね。」

ヴァルブルガは静かに頷いた。シリウスがホグワーツで快適に過ごせるように、教えられることは教えたつもりだしできることはした。これ以上心配しても仕方がない。

「大丈夫だろう、あの子なら。今までたくさん頑張ってきたのだから。」

礼儀作法に社交のマナー、それから魔法の勉強もシリウスは頑張っていた。ヴァルブルガは家庭教師からそのように聞いていたし、オリオンはこまめにシリウスを褒めていた。

「ホグワーツの授業がつまらないかもしれないわね。」

低学年のうちは、魔法の教育を受けていないマグル生まれと同じ授業を受けるものだから魔法界育ちの子どもたちに授業は物足りない。シリウスはことに優秀な子だから。その懸念を示せばオリオンは一笑にふした。

「授業がつまらなくてもロザベル嬢がいる。ホグワーツの生活はきっと楽しいよ。」

「それもそうね。」

そう、これ以上心配しても仕方ないのだ。シリウスは今頃鏡の前で念入りに身だしなみをチェックしているところだろうか。聞きに来たら相談に乗ってあげましょう、とびきり格好よくして送りだしてあげなくては。

もしかしたら浮かれているのはシリウスではなくてヴァルブルガの方かもしれなかった。

 

******

 

「久しぶりね、リオ! 」

「ベル! 」

キングス・クロス駅。忘れ物はないか、身だしなみは大丈夫か、そんな確認をしていたらすっかりもう出る時間になっていて、煙突飛行で向かった駅には既にロザベルがいた。手を振って駆け寄ってくるロザベルをシリウスが嬉しそうに抱きとめて、ダイアゴン横丁に買い物に行った時以来の再会を喜ぶ子どもたちは可愛らしかった。

「お久しぶりです、ヴァルブルガ先輩! 元気にしてました? 」

「あら、ヴィクトリア。あなたは……元気そうね。」

声をかけられて振り向けばヴィクトリアの姿。尊敬するアリアナ・グリンデンバルド教授――今は校長――の孫娘である彼女はよく懐いてきてくれる可愛い後輩でもあった。

「はい、元気です! ヴァルブルガ先輩はシリウスの付き添いですか? 」

「ええ、そうよ。ヴィクトリアは? 」

「ロザベルの付き添いです。弟たちは忙しくて一緒に行けないというから、私が一緒に。」

「そうだったのね。」

「はい! あ、オリオンも久しぶり! 相変わらずヴァルブルガ先輩とお似合いね。」

「ありがとうございます、ヴィクトリア先輩。」

「ふふ、ヴァルブルガ先輩、とっても綺麗だもの! 自慢の奥方でしょう? 」

「ええ、素敵な妻ですよ。」

あら、とヴァルブルガはオリオンを見上げた。随分と褒めてくれるものだ。

「ヴィクトリアおばさま、行ってきます。」

柔らかく微笑んだロザベルが頭を下げる。行ってらっしゃい、とヴィクトリアも元気に手を振って返した。

「行ってらっしゃい、シリウス。何か問題があればふくろうを寄越しなさいね。」

「はい、母上。」

「楽しんできなさい、シリウス。勉学をおろそかにすることのないように。」

「はい、父上。では行ってまいります! 」

晴れやかな笑顔で元気いっぱいに返事をして、シリウスはロザベルと手をつないでホグワーツ特急に乗り込んでいく。

「来年にはレグルスもホグワーツね。」

「邸も静かになるな。」

グリモールドプレイス十二番地のブラック邸は夫婦ふたりで住むには広すぎる。シリウスとレグルス、ふたりも遊び盛りの男の子がいればにぎやかだったものだけれど。

「オリオン。」

ふと思いついてヴァルブルガは夫に声をかけた。何か、とでもいうようにオリオンの視線がホグワーツ特急から外れてヴァルブルガに向けられる。

「わたくし、子どもが欲しいわ。レグルスがホグワーツに行ったら寂しくなるもの。あなたに似た娘だといいわね。」

シリウスとレグルスがいるからブラック家は安泰だ。もう後継ぎのことを考える必要もない。だから、ヴァルブルガは女の子が欲しかった。弟はいるが妹はいない。娘が欲しかった。

「……私は、ヴァルブルガ似がいいな。」

「どちらでも可愛いわ。」

ホグワーツ特急の出発を知らせる笛が鳴る。シリウスは今頃ロザベルと楽しくお話でもしているところだろうか。急いで何人かの子どもが乗り込んでいき、それから特急の扉が閉まる。汽車が発車して、みるみるうちにホームから遠ざかっていく。やがて汽車はカーブを曲がって見えなくなり、見送りの保護者たちがホームをあとにしていく。

「帰りましょうか、オリオン。」

「ああ、レグルスが待っているだろう。」

煙突飛行で帰ろうと暖炉のそばまでいけば、ちょうどヴィクトリアが吸い込まれていくところだった。フルーパウダーを被って、グリモールド・プレイス十二番地と口にして、オリオンとヴァルブルガはキングス・クロス駅を後にした。

 

[newpage]

 

「シリウス、レグルス、聞きたいことがあるのだけど。」

ブラック邸。ホグワーツ一年生のクリスマス休暇に帰ってきたシリウスを囲んで家族でお茶をしながらシリウスの話を聞いて、話が一段落したところでヴァルブルガは切りだした。子どもたちの四つの目がヴァルブルガの方を向いて、ふたりして首を傾げる。

「聞きたいことですか、お母様? 」

「何ですか、母上。」

「あなたたち、弟か妹ができるのはどう思う? 」

暖炉の火がぱちぱちと爆ぜる。一瞬の沈黙のあと、レグルスが目を輝かせて口を開いた。

「僕が兄になるんですか?! 」

ぱああっと嬉しそうに表情を輝かせたレグルスの頭を撫でてシリウスも口を開く。

「レグルスが兄になるのか? 」

「はい、弟か妹ができたらとっても可愛がります! お兄様みたいに! 」

「俺みたいに? 」

「はい、お兄様はかっこよくて僕の自慢のお兄様ですから! 」

レグルスに尊敬した眼差しを送られているシリウスもまんざらではないようで、これなら三人目の子どもを作っても大丈夫かしらとヴァルブルガは安堵の息を吐いた。それからオリオンを見やれば、軽く頷かれる。

「楽しみだね。」

「……ええ、シリウスもレグルスも可愛がってくれそうだわ。」

仲良く話を弾ませる兄弟を微笑ましく眺めて、それからヴァルブルガは大事なことを言っていないのに気付いた。

「シリウス、レグルス。明日にでもクリスマスプレゼントを見に行きましょう。欲しいものを考えておくのよ。」

「「はい! 」」

綺麗に揃った返事にヴァルブルガは微笑んだ。シリウスがロザベルと会ってからというもの、クリスマスプレゼントを一緒に選びに行くほど一家の関係は改善の一途をたどっている。シリウスがロザベルと会う前のままであったらホグワーツの話を家族で聞いたりすることも叶わなかったに違いない。それから、オリオンとの間でもうひとり子どもが欲しい、なんて話もしなかったはずだ。息子たちと良い関係を築けているから娘が欲しいと言える。

「ヴァルブルガ、女の子が生まれたらどんな名前にしようか。」

「気が早いわ、オリオン。」

ヴァルブルガはくすりと笑った。気は早いけれど、オリオンがそれだけ三人目の子どもを欲しがっている証だ。

オリオンとシリウスとレグルスとお菓子とお茶を囲んで話をして、流れているのは穏やかな時間だ。きっとこれが幸せというんだわ。ヴァルブルガは己の好みを完璧に把握しているクリーチャーが用意してくれた紅茶を飲みながら、夫と子どもたちと平穏に過ごせる幸福をかみしめた。

 




・オリキャラ
クレメンティーナ・ブラック
のちのち出てくるオリキャラ。ヴァルブルガとオリオンの娘。ハリーの6歳上で一年だけ在学が被っている。ブラック家らしからぬおっとりとしたお姫様。本と次兄が大好き。
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