『旅とは、時間の中に純粋に身を委ねることだ。』
昔、そんなことを言った作家がいたらしい。最も、なぜ僕がそれを知っているのか、そもそも自分がどこで生まれたのか、そんなことさえわからないのだが。
僕は今はモンドという街に身を寄せている、と言って良いのだろうか。何せ僕が今いるのは立派な石造りの住居ではなく宿屋なのだから。宿泊費は………まあどうにか宿の雑用を手伝うなどして賄っている。
さて、僕がなぜこうなったのか経緯を話そう。まず、気がついたときには僕はモンド郊外にある森で寝ていた。もう一度言う。寝ていた。なんの能力もない普通の少女が森の中で一人で寝ているというのは非常に危険だ。というか少年でも危険だ。ましてやこの世界の森は後から知ったのだがイノシシなどはもちろん、スライムなる魔物やヒルチャールなる意思疎通が困難な民族が普通に蔓延っている。
それはさておき、僕が横たわっていた隣には、やけに綺麗なある乗り物が置かれていた。アルファベットを象ったマークがついたそれはぱっと見自転車に見えなくもなかった。しかしあるところが決定的にそれとは異なっていた。複雑な構造をした機械仕掛けがくっついていたのだ。「……バイク?」無意識に呟いていた。そう、それはバイクという乗り物にしか見えなかった。思えば、自分の服装も麻のシャツに革ジャン、ダボっとしたジーンズとそれっぽい服装をしていた。おまけに革のキャスケット帽を被りグローブまでつけている。さてとこのバイクは自分のものだと断定して良さそうだ。
そして考えははこの世界には街と呼べるものはあるのか、そもそもここはどういう場所なのかという問題に移る。街があるならそこに行きたいし、街がなかったとしても村くらい存在するだろう。そんなふうに考えていたとき、後ろの方から声が聞こえた。
「君、ここで何してるの?モンドで最も有名な吟遊詩人が話を聞こうか?」
彼はウェンティという名の吟遊詩人だった。もっともモンドで一番有名かは定かではないが。自分の名前「知香」と気がつけばこの森にいて、名前以外の記憶がないことを伝え、街はあるか聞いたところ、モンド城という城塞都市があるらしい。ウェンティが案内してくれるというので大人しくついていく。
「そういえばベルが引いてるその…..なんというか………2つしか車輪のついていないものは何なんだい?」
僕は彼にこの乗り物について説明した。その途中で
「……あれ、燃料………入ってるかな……..」
重要なことに気がついた。不安に思ってまたがってキックペダルを精一杯蹴ってみると、2,3回でうなりをあげた。
しかもよく見たらこのバイク、燃料計がついていない。
「ふむ……どうやらその乗り物は周りの元素力を吸収して動いているようだね」
とウェンティ。元素力というのはよくわからないが、どうやら燃料の心配はしなくていいみたいだ。こうして僕たちは風と自由の都、モンド城へと向かった。