邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム 作:maricaみかん
アリシアは長い間冒険者として活動していたが、ずっとアリシアと対等な存在は現れなかった。
アリシアを恐れる者、つまらない嫉妬をする者、女だからと軽んじる者。
冒険者としての生活に嫌気が差すほど、レティ以外のアリシアの周りにいるほとんどの人間は、アリシアにとって邪魔でしかなかった。
ユーリたちの面倒をアリシアたちが見ることになったのは、長い付き合いのステラに頼まれたからであって、ユーリたちに期待していたわけでは無かった。
そうしてユーリたちに冒険者としてのいろはを教えていたアリシアたちだったが、まずレティがユーリの素直な姿勢に絆されていった。
アリシアにとってもユーリの姿勢は好ましい物ではあったが、レティほどユーリを大切に思ってはいなかった。
それでも、アリシアはユーリたちの事を、これまで自分たちに関わってきた有象無象とは違うと感じていた。
アリシアがユーリに本気で期待することになったきっかけは、人型モンスターを倒してなお、人型の敵を倒した罪悪感に悩んでいた事だった。
キラータイガーをアリシアたちが大勢倒しても心が折れなかった段階で、ユーリは自分を裏切らないのではないかと頭の片隅で考えていた。
だが、アリシア自身の夢である、対等な冒険者の相棒にはなれないだろうとの考えは変わらなかった。
その考えを変えるほどの衝撃をアリシアに与えたのが、人型モンスターと戦っても相手の事を考えるほどの余裕をユーリが持っていたことだ。
人型モンスターと戦った多くの人間は負けて死ぬもので、勝ったとしても辛勝が精いっぱいになる事がほとんどで、そんな人間は人型モンスターに情けをかけるだけの余裕は持てないものだ。
アリシアが人型モンスターとの対話を試みていたことは事実だが、そんな人間は自分だけだと考えるようになるほど、人型モンスターを恐れる冒険者は多かった。
だからこそ、ユーリの悩む姿にアリシアは希望を見た。ユーリならば本当に自分の相棒として一緒に冒険できるのではないか。そう考え始めた。
それからというもの、アリシアにとって毎日が喜びにあふれた日々であった。ユーリの成長を期待しながら待つ時間も楽しいし、ユーリの成長を実感する瞬間もいい。
希望が目の前にあるだけでこんなに嬉しいのだと、アリシアは初めて知ることになった。
ユーリと一緒に冒険出来る瞬間が本当に待ち遠しくて、その時がだんだん近づいているのが目に見えて分かって、アリシアはユーリといる時間が楽しいと感じていた。
ユーリからアリシアたちへの好意が大きい事は誰がどう見ても明らかであったが、アリシアもレティもユーリと過ごす時間が好きだと感じるようになっていった。
ユーリが王都の大会で優勝したと聞いたアリシアは、ユーリのさらなる成長を伝聞だけでも感じており、それを実感したいと考えていた。
ユーリの出場した大会の詳細をアリシアは知らなかったが、サーシャによると、優勝しただけで勲章を受け取れるほどの事だったので、それほどの活躍をユーリがしたのだと自分の事のように喜んだ。
ユーリがカーレルの街に帰ってきた時には思わず戦いを提案してしまうほど興奮していたが、その戦いの中でさらに気分が上がった。
ユーリは目に見えて成長していたし、自分には敵わないまでも戦いの中で十分に対応できていた。
アリシアはユーリの事をすでに認めていたが、はっきりと弟子だと言い切ることでユーリが喜ぶだろうと考えて、オーバースカイを弟子だと認めた。
その時のユーリの喜ぶ顔を見て、アリシアはユーリと出会えて良かったと心の底から思えた。
それからの日々で、ユーリはミア強化という新しい力を手に入れたり、オーバースカイに新たな仲間を加えたり、メルセデスたちという弟子を取ったりと慌ただしい時間を送っていた。
ミア強化というユーリの新しい力を見ることで、アリシアにはユーリとともに冒険している未来がはっきりと見えた。
オーバースカイの新しい仲間はユーリをしっかり支えてくれていたから、安心してユーリを冒険に送り出すことができた。
メルセデスたちという弟子を取ったことで、ユーリは自分たちの考えをより理解してくれた。
ユーリとアリシアたちが対等に冒険する瞬間はいずれなんて遠いものでは無く、目の前にあるのだとアリシアは考えていた。
それから、ブラックドラゴンと戦うことになったオーバースカイとアリシアたち。
ブラックドラゴンはアリシアたちにとって厄介な敵で、ユーリがいなければ間違いなく逃げることを選択していただろう。
それでもアリシアたちが逃げ出さなかったのは、アリシアもレティもユーリだけは失いたくないと考えていたからだ。
アリシアは二度と現れないであろう自分と対等に冒険できる存在として、レティは血は繋がっていないが大切な弟のような存在として、ユーリを何があっても死なせないために踏ん張っていた。
だが、ユーリはアリシアたちの想像を超え、ブラックドラゴンを討伐することに成功する。
その際にアリシアたちは足手まといになっていたことを考え、アリシアたちはユーリが自分たちを超えたのかもしれないと素直に思えた。
それがきっかけとなり、アリシアたちはオーバースカイに加入することを望んだ。
オーバースカイの一員としてユーリとともに冒険する日々はこれまで感じたことがないほど楽しくて、アリシアはつい張り切って危険な冒険を繰り返していた。
ユーリたちが危ない瞬間もあったが、アリシアは全力でユーリたちと戦う喜びのためにもっともっとと望んでしまった。
そんな生活をしていたある日、アリシアたちのもとにアクアがやってくる。
ユーリと一緒に居ないアクアがアリシアたちのもとを訪れることは無かったので、疑問に思いながらもアクアを迎え入れる。
「アクア、一体何の用かな? ここにユーリ君はいないけれど」
「ユーリはアリシアたちをとても慕っていた。だから、本当に残念」
アクアの言葉に不穏さを感じたアリシアたちが動こうとする前に、アクアはアリシアたちを拘束した。
まるで対応できなかったことに驚きながらも、アリシアはアクアの真意を確かめようとする。
「ユーリ君に実力を隠していたのかい? それはなぜ……いや、アクアはいったい何をするつもりなんだ……?」
「アリシアたちの体はアクアがもらう。安心して。アリシアたちの夢はアクアが代わりに叶えてあげる」
アクアの言葉を聞いてアクアが何をするか察したアリシアたちは全力で抵抗しようとするが、アクアにはまるで通じない。
自分たちが助からないであろうことは理解していたが、それでもあきらめる事ができずにアクアに言葉を投げかける。
「待ってくれ。ユーリ君はようやく出会えた私の相棒なんだ……せめて、あと少しだけでも……」
「アクア、どうしてこんなことを? わたしはこれからもユーリ君を見守っていたいよ……」
「アリシアたちはユーリが危ない目にあってもユーリを危険な冒険に連れて行った。だから、こうする」
そのままアクアはアリシアたちの体内に入り込んで、アリシアたちの体を支配する。
そのままアリシアたちの体を調整して、アクアがアリシアの契約技を使えるようにした。
ユーリの前でこの契約技を使う訳にはいかないけれど、せめてアリシアの技を残したいとアクアは考えていた。
アクアの行動によって、仮にアリシアたちの命が失われたとしてもアリシアの契約技はアクアの中に残ることになった。
それによって、アリシアたちを殺したとしても、アリシアが契約技を使っているように装う事は出来る。
それでも、アクアはアリシアたちを殺すことなどまるで考えようとはしなかった。
アリシアたちの事はアクアだって尊敬していて、だからこそアリシアたちと和解できる可能性を残しておきたかった。
そしてアクアがアリシアたちとしてユーリと接する時間が始まった。
アリシアたちの事を慕っているユーリの前でアリシアたちを演じることは少しだけつらかったが、それでもアクアはアリシアたちの支配を解こうとはしなかった。
アリシアたちが話題に出しそうな冒険者の話をしている中でユーリとカタリナの絆を感じたアクアは、カタリナともう一度話したいと感じていた。
どうしてあの時にカタリナを乗っ取るという選択をしてしまったのだろう。あれからずるずると皆を支配してしまっている。きっとほかの道もあるはずだったのに、アクアはその選択をできなかった。
アリシアたちとしてユーリと接していく中で、アリシアたちのユーリへの情をしっかりと認識していったアクアは、だんだん悲しさに襲われていった。
アリシアたちは間違いなくユーリを大切にしてくれていた。アリシアたちがユーリと仲良くする姿は見ていて楽しかった。
アクアはアリシアたちが好きになっていたことを自覚して、でもその好きを思い返すほどに悲しくなっていった。
アリシアたちとの思い出は楽しい物が多かった。なのに今はアリシアたちの事を思い出すと苦しい。
アリシアのユーリと対等な関係で冒険するという夢はユーリにとっても自分にとっても大切な夢のはずだったのに、今はその夢の話をしていたくない。
アリシアたちの事を考えれば考えるほど悲しくて苦しくて、アクアはユーリに触れていたくなった。
ユーリの温かさを感じている間だけはきっとこのつらさを忘れられるはずだから。
だからユーリが帰ってきた時に、アクアは全力でユーリに甘えた。ノーラはアクアの選択に納得していない様子だったが、それでもアクアを止めようとはしなかった。
ノーラのその行動がユーリを不幸にしていないのだと思える数少ない希望で、アクアはいつかノーラに止められる日がやってくることが恐ろしかった。
ユーリを不幸にすることは絶対に嫌だ。でも、ユーリを不幸にしない選択が、自分がユーリのもとから離れる事だったら。
アクアはそんな未来が訪れることの無いようにと必死に願っていた。