邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:maricaみかん

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100話 目覚め

 カタリナにキスをされてから、なにか関係が変わってしまうかもしれないと思っていた。

 だけど、カタリナの態度はこれまでと変わらないままで、ぼくは安心したような、寂しいような、悩ましい気持ちの中にいた。

 カタリナのことはもちろん大切だけど、恋人になりたいかどうかは、ぼくにはよく分からない。

 まあ、カタリナから積極的になってきているという訳ではないので、カタリナも今の関係を望んでいるのだろう。

 ただ、アクアとカタリナは前よりよく一緒に過ごしていると思う。

 ぼくには内緒の話もしているような感じで、ちょっと寂しい気もするけど。

 でも、2人が仲良くしてくれているのは素直に嬉しい。だって、大切な人どうしが仲良くしてくれているんだからね。

 

 そんな日々を過ごしている中で、ある日、シータの様子に変化があった。

 少しうなされているような雰囲気だったので、心配もある。

 だけど、これまでのずっと何も反応しない姿と比べると、いい方向に進んでいるのだと思いたい。

 うなされているシータの手を握りながら、シータに声をかけることにする。シータが少しでも楽になってくれればいいな。

 

「シータ、きみとまた話がしたいよ。たった一日の関係だったとはいえ、ぼくはシータのことが大好きなんだ。美味しいもの、楽しいこと、きみにはいっぱい知ってほしいよ」

 

 シータはぼくの言葉に少し反応したように見えた。なんだろう、具体的に何が反応なのかはわからないけれど、そんな気がする。

 だったら、もっと言葉をかけたらいいのかもしれない。もしかしたら気のせいかもしれないけれど、ぼくは希望を捨てられなかった。

 

「シータ、早く目を覚ましてよ。あの飴だって用意しているし、他にも美味しいものを食べさせる準備はできているんだ」

 

 必死に言葉をかけていると、シータが身じろぎをしながら少し声を出している。

 これはぼくの言葉が効いているのだろうか。そう思いたい。何よりも、シータに目覚めてほしい。

 絶対にシータのことを幸せにしたいんだ。シータの幸せそうな顔を見れば、きっとぼくも幸せになれる。

 ただ1度出会っただけの人にこんなことを思うのはおかしいかもしれない。

 でも、そんなことは関係ない。もうぼくにとってシータは大切な存在なんだ。それでいい。

 だから、目を覚ましてよ、シータ。きみとまた何度でも話をしたいんだ。

 

「おにぃ、ちゃ……」

 

 シータがはっきりと声を出した。ぼくのことを呼んでいる。

 もしかしたら、今日目覚めてくれるかもしれない。いますぐにでも。

 そう思えてくると、手に少し力が入る。ダメだ。シータの手を強く握ったらシータが苦しいかもしれない。

 だけど、それでも力をうまく抜くことができない。

 ダメなお兄ちゃんだよ、ぼくは。シータがいないともっとダメになっちゃうんだ。だから、お願い。

 

「シータ! 頑張って。またぼくにきみの笑顔をみせてほしい。そのためなら、何でもするよ」

 

 ぼくはシータにすがりつくようにして言葉をかけていた。

 そんな中、シータのまぶたが動いたのが見えた。これは、本当に希望があるのではないか?

 シータが目覚めたらシータとしたいことは無限と言っていいくらいにある。

 その思いとともに、シータにさらに言葉をかけ続けていく。

 

「シータ、ぼくはきみが大好きなんだ。だから、帰ってきて」

 

 そして、シータの目が開いた。

 シータはぼんやりした様子のまましばらくじっとしていた。

 そのままシータの様子を見ていると、シータの目がこちらを向く。

 こんな動きをするってことは、シータはきっと本当に目が覚めている。

 ぼくはきっと隠しきれないほどの喜びを抱えながら、シータに笑顔を見せる。

 シータはぼくの顔を見て、ぼくが握っている手の方を見て、またぼくの顔を見て、笑顔を返してくれた。

 良かった。本当にシータの意識が戻ったんだ。体中から力が抜けるような感じがして、シータの手を放そうとしてしまう。

 すると、シータはとても強い力でぼくの手を握り返してきた。結構痛いけど、努めて顔に出さないようにする。

 

「おにぃちゃん、シータからはなれちゃダメ。おにぃちゃんは、シータとずっといっしょにいるの」

 

 シータの目には強い執着のようなものが見えた気がした。

 シータと初めて出会ったときには、こんなふうじゃなかったと思うけれど。

 それでも、言葉や声からシータらしさを感じることができて、本当にシータが目覚めたんだという実感がわいてきた。

 良かった。このまま目覚めない可能性だってあったかもしれない。その不安はずっとあった。

 だけど、これからきっとシータとずっといっしょに過ごすことができる。

 それを考えると、いま手に感じている痛みなんてどうと言うことはない。なんなら、もっと強く握ってきたってかまわない。

 

「もちろんだよ。だったら、ぼくと同じ部屋で過ごしてみる?」

 

「うん! おにぃちゃんといっしょにねるの、たのしみ!」

 

 シータが喜んでくれているようで何よりだ。でも、アクアの許可も取らずに決めてしまったのはまずかったかな。

 まあ、アクアがシータを拒絶するとは思わないけれど。さすがにシータとアクアを入れ替えるのはダメだろうけどね。

 そんなことをするつもりはないから、きっと大丈夫だと思う。

 

「シータよ、ようやく話すことができるな」

 

 急に得体のしれない声が何処かから聞こえてきた。可愛らしい感じの声ではあるけれど、何者かもわからないと怖いだけだ。

 なんとなく、シータのそばから聞こえてくるような気がする。

 

「何者だ!? 一体何をするつもりだ!?」

 

 もうちょっと落ち着いて対処をしたほうが良かった気がするけど、いきなりのことで動揺してしまった。

 これでシータが傷つくことになったらぼくは悔やんでも悔やみきれない。

 だけど、今のところはシータは苦しんでいる様子はない。得体のしれない声は、危険な契約技ではないのかな。

 

「ほれ、こっちを見るがいい。こっちだ、こっち」

 

 声のする方を向いてみると、シータが抱えているウサギの人形から声が聞こえているようだった。

 だとすると、シータの敵ではないのかな。いや、ようやくの意味次第だ。目を覚ましたからだというのならいい。

 何か他の原因だったら大丈夫なのだろうか? すぐには思いつかないけれど、シータと初めて出会った時には話していなかった相手だ。

 念のため、警戒は解かないでおこう。いつでもアクア水やミア強化を使えるようにしないと。

 それでも、はっきり敵対するのはまだ気が早い。むやみに敵を作るべきではないから、対話から試みてみよう。

 

「シータの人形だよね? いったい何のつもり?」

 

「急に話しかけられて警戒するのは分かるが、わしはお主の敵ではない。無論、シータの敵でもな」

 

「ミリンちゃん、はなせるようになったの? いったいどうして?」

 

 シータが知らなかったということは、シータが倒れている間に話せるようになったとか?

 でも、一体どういう状況になったらそんなことに? まあ、それは重要ではないか。

 ミリンというこの人形の話が本当だとすると、何を目的に話しかけてきたのだろう。

 

「アクア様の手によってわしは話せるようになったのじゃ。シータ、お主のことは傷つけたりせん。お主は実験体仲間なのだからな」

 

「じっけんたい? それってなあに? おにぃちゃん、しってる?」

 

「えっと……どうしても知りたいのなら説明するけど、知らないほうがいいと思うよ」

 

「それもそうか。シータ、すまなかったな。わしとお主は仲間で友達だ。それでいいか?」

 

「うん! ミリンちゃんが話せるようになって、シータ嬉しいよ!」

 

 ミリンとシータは上手くやっていけそうな雰囲気だ。なら、大丈夫かな。

 でも、人形が話せるようになるって、一体どういうことだろう。聞いてみても大丈夫かな。

 

「ミリン、答えたくなかったら答えなくていいんだけど、人形がどうして話せるようになったの?」

 

「ああ、当然気になるわな。端的に言うと、わしはモンスターなのだ。プロジェクトU:Reによって言葉や行動を封じられていただけでな。アクア様の力によって、こうして話せるようになったわけだ」

 

 それはつまり、ミリンはシータの契約モンスターだということか?

 それよりも、父親が言っていた意思をもちながら言葉や行動を封じられたモンスターがミリンだということか。

 改めて怒りが湧いてくるけれど、あいつはもう死んでいるのだから、気にしなくてもいいか。

 それにしても、アクアがミリンのことを助けてくれたのか。ほんとうにアクアは優しいな。

 やっぱり、アクアがぼくのペットで良かった。何度でもそう思う。

 

「そうなんだね。ほんと、あいつらはろくでもない奴らだったよ。でも、今ミリンと話せていることは嬉しいよ」

 

「むぅ……おにぃちゃん、ミリンちゃんよりもシータとおはなしして!」

 

「そうだね。それで、シータはいま体の調子はどう?」

 

「げんき! おにぃちゃん、おいしいもの、たべさせて?」

 

「なら、前に食べた飴はどうかな? 今はそれなら持っているよ」

 

 他にも準備できるものはあるけれど、急に食べさせていいものか分からなかったから、飴で様子を見ようと思う。

 美味しいものをいっぱい食べさせたいという思いはあるけれど、まずはシータの健康が第一だ。

 

「それでいいよ! ちょうだい!」

 

 シータに言われるがままに飴を渡すと、また楽しそうに飴をなめている。

 シータのこの顔が見られることが、今は何よりも嬉しい。もっと元気になってくれたら、もっと楽しいことを教えてあげるからね、シータ。

 

「それが飴とやらか。わしが物を食えんことが悔やまれるな」

 

「ごめんね、ミリン。でも、ぼくにはどうすることもできないよ」

 

「いや、気にせずとも良い。仕方のないことだとは分かっておる。それよりも、ユーリよ。シータのことを大切にしてやってくれ。この子は、本当にこれまで苦しんできたのじゃ」

 

「もちろんだよ。もうシータはぼくの大切な妹なんだから、決して見捨てたりはしないよ」

 

「ならばいい。シータ、飴とやらはうまいのか?」

 

「おいしいよ! おにぃちゃん、もっとちょうだい?」

 

「今はもう持ってないかな。ごめんね」

 

 シータは少しだけむくれている様子だったけど、すぐにぼくに抱きついてきて、頬を擦り寄せてきた。

 シータは目覚めたし、新しい出会いはあったし、今日はいい日だったな。

 これから、もっとシータと仲良くなっていこう。そして、これ以上無いくらい幸せになってもらうんだ。

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