邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:maricaみかん

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112話 思惑

 今日はハイディの屋敷へと来ている。理由はもちろんハイディたちと会うためだ。

 ハイディたちに会うのはそう久しぶりとは感じないけれど、それでも会える機会は少なく感じる。

 だからこそ、その少ない時間をしっかりと楽しまないとね。

 

 ハイディの騎士になってしまえば、一緒にいられる時間は増えるのだろうけれど。

 最近は本気でハイディの騎士になることを検討しているぼくが居る。

 ハイディならば、みんなと一緒に騎士みたいな扱いにしてくれると思うんだよね。

 みんなともハイディとも長く一緒にいられるのならば、それ以上はない。

 まあ、みんなに相談しているわけではないから、今すぐにとはいかないけれど。

 

「ハイディ、今日は一体何の用事? 普通に話をするだけ?」

 

「そのようなところだ。貴様と会話をする機会はそう多くないのでな」

 

 そう言うってことは、ハイディもぼくとの時間を楽しみにしてくれているはず。

 まあ、そうでもなければ王族がただ遊びに来たりはしないか。

 なにせ、ハイディが出会う相手はある程度選べるだろうし。

 いや、そうでもないのかな? よくわからないけど、政治のためだけに人に会っているのかもしれないよね。

 

 ハイディがどういう仕事をしているのかは聞いたことがないから分からない。

 とはいえ、自分から聞こうとは思わない。言っていいことなんてそう多くないだろうし。

 ハイディが話したいと思うのならば、いくらでも聞くつもりではあるけれど。

 まあ、そんなことはないか。相談する相手としては間違いなくぼくは不適格だし。

 

 リディさんが今日もお茶を用意してくれる。また前とは違う味で、本当にお茶には色々あるのだと思い知っている。

 リディさんは相当お茶が好きなのか、それともお茶を用意するのが仕事なのか。

 まあ、リディさんがお茶が好きだということは分かる。そうでなければ、ぼくにお茶を楽しむことが大事なんて言わないだろうし。

 

「リディさん、今日も美味しいです。お茶って沢山の種類があるんですね」

 

「それは良かった。そうですね、茶葉の種類や加工の仕方、組み合わせなどによっていくらでも味は変えられますから。いくらでも追求できると言っていいですね」

 

 なるほど。茶葉が10種類で2つを組み合わせるだけで45種類。3つならば120種類。1、2、3の組み合わせを足せば175種類。

 それだけではなく、4、5、6と続いていく。

 それに加工の仕方まで掛け合わせるとなると、どれだけ少なく見積もっても1000種類は超えるだろう。

 それだけじゃない。茶葉どうしの量の調整だってある。その組み合わせだって途方も無い数だろう。

 それに、茶葉の種類が10ということはないに決まっているのだから、一体どれほどの組み合わせがあることやら。

 それこそ、一生をかけたとしてもすべての組み合わせを味わうことはできないのだろうな。

 そうなってくると、いくらでも追求できるという言葉は本当に違いない。

 

「今考えただけでも、極めるには無限の時間が必要だと感じます。それはそれは奥深いのでしょうね」

 

「ええ。小生など、まだ山の麓に居るかすらも怪しい。頂点に立つ人間など、はたして存在するのかもわかりません」

 

 それはそうだろうな。でも、リディさんはそんな事を言いながらも楽しそうだ。

 やっぱり、リディさんはお茶が大好きなんだろう。初めて出会った時には想像もできなかった一面だな。

 まあ、そんなところもリディさんの魅力なのだけれど。

 

「ユーリ、俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ。どうだ? また戦ってみないか?」

 

「今日は無理だよ。でも、機会があればそれもいいかもしれないね」

 

「言ったな? 約束だからな、ユーリ」

 

「かまわないよ。イーリスとの勝負も結構楽しいからね」

 

 イーリスは満面の笑みといった様子だ。本当に戦うことが好きなんだな。

 でも、ぼくもちょっと楽しみにしている。ミーナのことといい、ぼくも戦いが好きなのかもしれないな。

 とはいえ、ぼくは相手を傷つけたいわけじゃない。そこを忘れることの無いようにしないとね。

 

「くくっ、ユーリよ、余よりもリディやイーリスを優先するとはな? 貴様も随分偉くなったものだな?」

 

 明らかにハイディはからかっているという顔なのだけれど、ちょっと恐ろしいから止めてほしい。

 ハイディがそういう事を言うと冗談にならないんだよね。

 まあ、ここに居るのはリディさんとイーリスだけだから、周りが暴走することは無いのが救いか。

 それでも、今のハイディの言葉は心臓に悪い。正直冷や汗をかいてしまった。

 

「やめてよ、ハイディ。そういうつもりはないって分かってるくせに。はぁ。今でこの調子なら、ハイディの騎士になったら大変どころじゃないんだろうな」

 

 それは分かりきっているのに、ハイディの騎士になることは嫌じゃない。

 ほんと、ハイディには随分心の奥深くまで入り込まれてしまったかもしれない。

 それでも、悪く思うどころかいい気分なのだから、ぼくもどうかしているな。

 それだけ、ハイディが魅力的だってことなんだろうけれど。

 

 ハイディの正体がこの国を作ったアーデルハイドだと知った時には驚いた。

 だけど、ぼくとはまるで遠い存在なのだと知ってからも、親しみのようなものを感じてしまう。

 ぼくをからかってくることを含めて、ハイディの茶目っ気みたいなものが大きく影響しているはず。

 ハイディはどこまで分かってああいった態度を取っているのだろう。

 ぼくも、ハイディに狙って心を絡め取られてしまったのかもしれない。

 そうだとしても、ハイディに疑いも嫌悪感も抱けないのだから、大概だよね、ぼくも。

 

 ハイディの心の裏側には間違いなく冷徹な計算がうごめいている。

 それが分かりきっているのに、それすらもハイディの魅力に思えて仕方がない。

 落ちるところまで落ちてしまったものだ。でも、それも悪くない気分だ。

 

「くくっ、ならば、一時的に試してみるか? そうなれば、間違いなく貴様は余のものになるだろうよ」

 

 ハイディの言葉を否定できない。今以上にハイディに近く接していれば、絶対に魅了されてしまう。

 それでも手を伸ばしたくなってしまうぼくがいて、ちょっと呆れる。

 ぼくは夜に火へと向かっていく虫かなにかなのだろうか。ハイディにそれくらいの輝きがあるのは確かだけれど。

 

「そういう未来もきっと楽しいと感じてしまうから、試すわけにはいきません。ぼくはまだ冒険者で居るつもりなんです」

 

 そうは言ってみたものの、冒険者としてやりたいことはもうあまり無い。

 それでも、仲間に相談もなく決める訳にはいかない。仲間あってのぼくだから、仲間の意思を軽んじるのはダメだろう。

 カタリナにキスをされたこともあるし、適当な気持ちで未来を決めるのはどうかと思うのだ。

 

 ぼくの未来はそろそろ形が定まってきたような気がしている。

 だから、その未来でもハイディたちと笑い合うために、安易な選択はできない。

 ハイディたちの幸せも、オーバースカイのみんなの幸せも、ぼく自身の幸せも守りたい。

 そのためにぼくにできることは何だろう。わからないけれど、嘘をつくようなことはしたくない。

 大好きな人達を裏切ることは、ぼくの幸せを大きく損なうだろうから。

 それよりも大切な、みんなの幸せだって傷ついてしまうと感じる。

 何が正解なのかなんて全く想像もつかないけれど、せめてみんなには真摯でいたい。

 

「くくっ、すでに余の騎士になることを好ましく感じているようではないか。貴様が余のものになる未来は相当近いだろうな」

 

 本当にそうだから困ってしまう。

 ハイディやリディさんやイーリスとすぐに会えるというだけでも、素晴らしい未来だと思えてしまう。

 もうぼくは引き返せないところまで進んでしまっているのだろうな。

 それでも、今は我慢するんだ。先延ばしにしかならないとしても、意味はあるはずだから。

 

「ハイディと出会えたことは本当に良かったことですから。もちろん、リディさんやイーリスも」

 

「そうだろうな。余が全力を尽くして支配できぬ存在など無いのだから」

 

「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいですよ。小生も、ユーリ殿と出会えてよかったと感じていますよ」

 

「ユーリはやっぱり面白ぇな。だが、それでこそオリヴィエ様に与えられた勲章にふさわしいんだろうよ」

 

 それぞれにそれぞれの反応を返してくるけれど、どれも好きだと感じてしまった。

 ハイディの一見傲慢な、それでいて優しさを感じる表情とか。

 リディさんの静謐で柔らかい雰囲気だとか、イーリスの調子に乗ってる感じとか。

 本来欠点であるはずのところですら魅力的に感じていて、どうしようもない。

 でも、この人達と出会ったことは後悔していない。深い谷に落ちているような感覚すらあるけれど、それでも。

 

「サーシャさんの頼みで出た大会ですけど、出場できたことは幸運でした」

 

「貴様はあの大会がどういうものか全く理解していなかったからな。それでも、あの大会の趣旨は満たしていたのだから、面白いものだ」

 

 それは一体どういう意味なんだろう。

 ぼくはほんとにあの大会については全然知らない。

 サーシャさんに頼まれたから出て、ミーナがいたからやる気になって、それで優勝しただけだ。

 

「それってどういうことなんですか?」

 

「あの大会は余のものとなるにふさわしい存在を見極めるためのものだ。それで貴様を拾えたのだから、十分な成果だと言えるだろうな」

 

 それでか。でも、サーシャさんは何のためにそんな大会にぼくを?

 オーバースカイとして活躍してほしいなら、ハイディのものという立場は邪魔なだけだと思うけれど。

 

「そうだとすると、サーシャさんがぼくを推薦した意味が分からなくなってしまうんですけど」

 

「まあ、貴族が己の抱えている手駒を紹介するという意味もあったからな。貴様はそのために送り出されたのだろうよ」

 

 それなら納得できる。オーバースカイが有名になってくれれば嬉しいとはサーシャさんは何度も言っていたから。

 でも、その思惑だとぼくが優勝したらまずかったのでは?

 まあ、いま気にしても仕方のないことではある。それは考えなくてもいいか。

 

「そのおかげでハイディたちと出会えたんですから、サーシャさんには感謝したいですね」

 

「そうだな。余も感謝している。貴様は、余が最も信頼する人間なのだ。それを誇りに思うとよい」

 

 ハイディからの言葉はとても嬉しくて、ハイディと出会えたことに改めて感謝した。

 リディさんとイーリスも笑顔でその言葉にうなずいていて、ぼくは最高に幸せだった。

 

 この人達とまた何度でも話がしたい。だから、騎士になることに前向きな気持ちになった。

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