邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:maricaみかん

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125話 困惑

「ステラさん、それって、えっ、は? え?」

 

 ステラさんはアクアに体を操られていたという。

 それも、ぼくが冒険者になる前、ミストの町に居た頃からだと。

 つまり、ステラさんに貰った指輪も、実はアクアが渡していたということなのか?

 感情が上手くまとまらない。ステラさんが嘘をついているという可能性は?

 いや、そんな話をして何のメリットがあるというんだ。

 ステラさんだって、ぼくとアクアの仲を引き裂きたいようには見えない。

 

 なら、本当の話だというのか? それなら、何のためにアクアは?

 いや、それはステラさんが説明していた。ぼくにオメガスライムだと気づかれたくなくてと。

 つまり、ぼくに嫌われないために、ステラさんが犠牲になっていたのか?

 ぼくのせいで、ステラさんが? でも、今は解放されているんだよね。

 それなら、良いのか? いや、待て。ならば、おかしい点があるぞ。

 

「ステラさんは、自分が指輪を渡したとさっきまで言っていましたよね。前からアクアが体を操っていたんじゃないんですか?」

 

 ぼくは今の質問になんと答えてほしいのだろう。

 ステラさんに実は嘘だったと言ってもらいたい? でも、それなら、ステラさんはぼくを騙そうとしていたことになる。

 アクアが本当にそんなひどいことをしていたと思いたくないのか?

 それはそうだろう。だって、アクアがそんな存在だとしたら。どうすればいいんだ?

 

「ユーリ君に真実を伝えるタイミングを見計らっていたので。だって、急に知ったら今よりもっと良くない状態になりますから」

 

 ステラさんの言うことはおかしくはない。

 それなら、たしかに隠そうとする理由としては納得できる。

 だとすると、ステラさんはぼくとアクアの関係を崩壊させたくないのか?

 でも、ぼくが体を乗っ取られていたとして、そんな風に思えるだろうか。

 だって、自分の体を勝手に操作されていた。そんなおぞましい事態だぞ。

 

「ぼくに気を使ってくれていたんですか? でも、アクアはステラさんにそんな事をしていたのに、どうして?」

 

「私だって、乗っ取られる直前は、ユーリ君とアクアちゃんは引き離したほうが良いと考えていましたよ。だって、アクアちゃんはただの怪物としか思えませんでしたから」

 

 当然の考えだ。自分の体を乗っ取ろうとする相手に、どうして好感を抱ける?

 ぼくは、アクアに乗っ取られるのならそれでも納得するかもしれない。

 でも、それはぼく自身がアクアに感じている情があるからだ。

 ステラさんに、そこまでのアクアとの絆があったとは思えない。

 だって、ただの教師と生徒、あるいは生徒の相方。そんな関係でしかない。

 

 でも、ステラさんは考えが変わったことをほのめかしている。

 あまりにもひどいことをされておいて、それでも、アクアを認めるだけの理由があるのか?

 ステラさんとアクアには良好な関係で居てほしいと思っていた。

 だけど、今の状況でそんな事を考えて良いのか? アクアの行動が真実なら、そんなの……。

 

「ステラさんは、アクアを許そうと考えているんですか? ステラさんの言うことが本当なら、ぼくが同じ立ち位置なら、きっと許せない」

 

「ユーリ君はアクアちゃんを信じたいんですね。それでも、私のことを疑えないでいる」

 

 そんなの、当たり前だ。

 アクアを信じなくて、ぼくは何を信じればいいと言うんだ。

 でも、ステラさんが嘘をついているようには見えない。嘘をつく人だとも思えない。

 それなら、ぼくはどうすれば良いんだ。

 いや、待て。そもそも、ステラさんだけなのか? 他にも被害者がいるんじゃないのか?

 ダメだ。そんな事を考えたら、もう終わりだ。でも、もう思いついてしまったんだ。

 

「ステラさんは尊敬する先生なんです。本当に。だから、だから……」

 

「ええ。それは伝わっていますよ。でも、ユーリ君。私は嘘をついていません。そして、ユーリくんとアクアちゃんの関係を壊そうという意図もありません」

 

 それって一体どういう心境なんだ。

 アクアのしたことを恨んでいないのか? それとも、恨みより優先すべきことがある?

 ステラさんの状況を考えるだけでもつらいのに、もしかしたら他の人も操られていたのかもしれない。

 それどころか、今でも操っている可能性すら思い浮かんでしまう。

 

 ぼくの思い出は、全部アクアに作られたものだった?

 それどころか、ぼくが紡いできたつもりの絆は、全部アクアの手のひらの上だった?

 アクアだけは信じていないといけないのに、疑いの心を抱いてしまう。

 ぼくは結局、アクアとの関係すらも、ちゃんとは築けていなかったのかな。

 だって、アクアはオメガスライムだと知られたくらいで、ぼくに嫌われると思っていたんだよね。

 ぼくの信頼は一方的なものだったのかな。だから、ステラさんは操られてしまったのかな。

 

「でも……アクアが犯していた罪は、許されるものじゃないでしょう。それでも、ぼくは……」

 

「ええ、アクアちゃんと離れたくないんですよね。私はそれを許します。むしろ、ユーリ君とアクアちゃんにはずっと一緒に居てほしい」

 

「ステラさんの大切な指輪を勝手に扱われてもですか……?」

 

「ユーリ君はその指輪を使いこなしてくれた。私はその光景が見たかった。だから、それで良いんです」

 

 ステラさんは笑顔を浮かべているけれど。

 それは本心を覆い隠した顔ではないのか? 本当はぼくのことも憎いのでは?

 ダメだ、疑心暗鬼になっている。でも、こんな状況を想定できるはずもないし。

 ぼくはどうすればいいんだ。そもそも、どうしたいんだ。

 何もわからない。何も。だれか、助けて。

 でも、助けてほしいのはみんなかもしれない。

 アクアに会いたい。会って、安心させてほしい。こんなの夢なんだって。

 

「ステラさん、それは本音だと思って良いんですか?」

 

「もちろん。心配しなくても、みんなユーリくんのことが大好きなんですよ。他の人だって」

 

「他の人達も、操られていたんですか……?」

 

「そうですね。一度も操られていないのは、ノーラちゃんとシィちゃんだけでしょうか」

 

 カタリナまで操られていたのか!?

 だとすると、カタリナにキスされる以前に抱いていた違和感は。

 だから、カタリナはぼくに何も分かっていないといったのか?

 いや、でも、それならカタリナは解放されていたことになる。

 喜んでばかりいられる話ではないけれど、少しばかりの救いかもね。

 

「みんな解放されたって考えて良いんですか? それなら、最近のみんなの違和感は……!」

 

「ユーリ君の考えているとおりだと思いますよ。それまでみなさんがアクアちゃんに操られていたから、行動がおかしく見えた。そういうことなんでしょう」

 

 そんなことって……。

 ぼくのこれまでの日々は何だったの? みんなと仲良くできたと思っていたのは嘘だった?

 いや、みんなが解放されてからも、ぼくと親しくしてくれた。だから、全部が嘘じゃないはず。

 でも、みんなに申し訳ない。そんな事態になっていたのに、全く気がつかなかったことが。

 

 それでも、ぼくにはどうしてもアクアを問い詰めることができそうにない。

 だって、震えてしまうんだ。もしアクアと仲違いしたらって考えただけで。

 アクアはきっと、討伐することが正しい化け物なんだと思う。

 そうだとしても、ぼくにはそんな事はできないんだ。

 アクアの居ない空虚な日々を考えるだけで、怖くて、つらくて、どうしようもない。

 

 今でも本当はアクアがみんなを操っているのかもしれない。

 みんな以外の人だって、被害にあっている可能性もある。

 それに、解放されたみんながまた囚われることだって考えられるんだ。

 それでも、アクアと敵対なんてできない。想像するだけでもダメだ。

 いつか、アクアが世界を滅ぼす化け物だとしても離れられないって言ったっけ。

 完全に本当だったな。ぼくはアクアがいないと生きていけない。

 

 みんな、ごめん。アクアのせいで傷ついているのかもしれない。

 それでも、ぼくはアクアをみんなより優先するよ。

 嫌われても、敵だと思われたとしても、仕方のないことだ。

 でも、無理なんだ。アクアを排除しようとするなんてこと。

 

「ステラさん……アクアは今でも、ステラさんを操っているのかもしれない」

 

「その可能性はありますね。私を通して、アクアちゃんがユーリ君を試しているのかもしれません」

 

「みんなだって、今でも苦しんでいるのかもしれない。他にも、世界だって危ないのかもしれない」

 

「ええ、ありえない話ではありません。オメガスライムであるアクアちゃんなら、不可能ではないでしょう」

 

「それでも、そうだとしても、ぼくはアクアから離れられない。アクアの居ない人生になんて、意味がないと考えてしまうんです」

 

 ステラさんにぼくの罪を告白した。

 アクアが大罪人だとしても、ぼくはアクアのために生きる。そう決めたことの。

 ステラさんの反応を恐る恐る見ていると、ステラさんは一度微笑んでからぼくを抱きしめてくれた。

 

「ユーリ君、それで良いんです。他の誰があなたのことを否定したとしても、私はあなたを肯定します。世界の運命よりも、どんな相手よりも、アクアちゃんを優先する。それが、あなたとアクアちゃんの絆の証なんです」

 

「本当に良いんですか……? こんなぼくでも、アクアと一緒に居て……」

 

「アクアちゃんは、誰よりもあなたが良いと言うはずです。だから、あなたの考えには問題はありません。私は嬉しいです。ユーリくんとアクアちゃんがそこまでの絆を紡いでくれて」

 

 ステラさんの言葉は、ぼくがこのままでいいという意味だろう。

 ぼくはステラさんだって見捨てているも同然なのに、どうして。

 本当はアクアがステラさんを操っている? そうだとしても、今の言葉にはすがりたいほどの魅力があった。

 

「ステラさん、ステラさんは本物なんですか?」

 

「ええ。信じてくれていいですよ。ユーリ君、私が操られている時に、アクアちゃんが私に溺れてもいいって言いましたよね。私も同じ気持ちです。ユーリ君が頼りたくなったら、いつでも頼ってくださいね」

 

 ステラさんの言葉には、つい甘えてしまいそうになる。

 でも、それでいいんだろうか。

 ぼくはもう、ただの罪人になってしまったのに。

 

「ありがとうございます、ステラさん。まだどうしていいか分からないですけれど、アクアと一度話してみようと思います」

 

「考えを整理してからの方がいいと思いますよ。みなさんと、アクアちゃんと、どうしたいのか」

 

「分かりました。ステラさん、今日はありがとうございました」

 

「いえ。アクアちゃんと、うまくいくことを祈っています。あなた達の仲良くしている姿を、誰よりも近くで見せてください」

 

 ぼくはどうしたいのか。すぐには考えがまとまらないだろう。できれば、誰かに相談したい。

 そう考えた時、ぼくの頭に思い浮かんだのはカタリナだった。

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