邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:maricaみかん

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32話 暖かさ

 ぼくたちは今日、いつものようにマナナの森ではなく、カーレルの街の北にある、レニア山へと来ていた。こちらにモンスターが多く発生しているということで、間引きに来たのだ。

 岩肌が大きく露出していたり、傾斜が大きくて崖があったりと、学園のそばにあった山とはだいぶ感覚が違って新鮮味があった。

 今のところ、特に危険なモンスターとは出くわさなかったので、依頼は順調だった。

 山の中で注意するべきこととして、落石が挙げられていた。もし落石があったなら、避けられそうになければアクア水で止めるつもりだった。

 危険なところによらなければいいと思っていたのだが、そこあたりを縄張りにするモンスターが人里に下りてくることもあるということで、侵入せざるを得なかった。

 落石の他に、狭い道にも気を付けないといけないから大変だ。

 

 モンスターたちを倒し終えて次の場所へ移動しようとした際、落石らしきものが見えた。アクア水を出そうとする前に、ユーリヤに突き飛ばされる。

 

「ユーリさん! これで、安心ですね……」

 

 体勢を崩したぼくはアクア水を出すこともできず、ユーリヤは落石に巻き込まれた。

 

「ユーリヤ! これくらいなら、ぼくがどうにかできたのに……」

 

 ユーリヤはそのまま崖から落下していった。

 ぼくにはユーリヤが無事とはとても思えなかったが、せめて遺品だけでも回収したくて、ユーリヤの事を探していた。

 しばらく探すと、ユーリヤの姿が目に入った。原形をとどめないような事態だけは避けられたか。やるせなさと同時に少しの安心も浮かぶ。

 ユーリヤを回収しようと近づこうとしたとき、アクアに声をかけられる。

 

「ユーリ、ユーリヤは無事」

 

 本当か! 思わずユーリヤの方へ駆け寄ると、本当に息があった。

 目を閉じていたユーリヤだが、ぼくが息を確かめていると目を開き、微笑む。

 良かった。もう助からないかと思っていた。安心したぼくは、ついユーリヤを抱きしめてしまう。

 

「ユーリさん。わたしじゃなかったらこういう事は危ないんですからね? まずはちゃんと治療をしないと。

 でも、わたしは大丈夫です。ユーリさん、あなたのユーリヤは、何があっても死にません。だから、安心して私に守られちゃってください。

 わたしはユーリさんが思っているより頑丈ですし、ユーリさんを悲しませるようなことはしないって約束しますから。ね?」

 

 そう言ってユーリヤはぼくの頬へとキスをする。いつもなら照れてしまったかもしれないが、今日は安心感の方が強かった。

 本当に良かった、ユーリヤが無事で。ぼくはユーリヤの顔を見て、ほっと息をついた。

 

 それからすぐに組合へと戻り、ユーリヤを医者に診てもらった。

 結果としては、健康体そのもののようだ。

 ユーリヤがなぜ無事だったのか疑問に思うこともあったが、そんなことよりもまたユーリヤといられることの喜びの方が強かった。今回ばかりはダメかと思った。

 だからこそ、ユーリヤに守られなくても済むように、もっと強くなりたかった。

 

 その日は、いつもより指輪のことを意識しながらアクア水を使った。

 すると、契約の紋章と指輪の間に何かがつながったような感覚があった。

 それからは、アクア水を使える量も、アクア水の操作の精度も大幅に上がった。

 今回のことは大いに反省するべきだし、自分の無力を呪ったけど、得られるものも少しはあった。自分へのいら立ちが無くなったわけでは無いが、少しだけ慰められたような気分だった。

 

 次の日、大事を取ってぼくたちは活動を休んでいた。指輪の運用について手ごたえを得られたので、アクアと思考を送りあえないか試していたが、まだうまくいかなかった。これでも足りないのか。

 アクアとの信頼関係が足りないとは思えないので、もっと習熟が必要なのだろう。

 それにしても、この指輪、本当にすごいな。ステラさんはこんなにすごい物をぼくたちに贈ってくれたのか。ステラさんに対してあらためて感謝を深めていた。

 

 指輪の検証が一段落ついたとき、カタリナとユーリヤがやってくる。

 

「あんた、今日はユーリヤさんと一緒にいてあげなさい。ユーリヤさんは無事だったけど、苦しくないわけでは無かったんでしょうし。ユーリヤさんが一番好きなのは間違いなくあんたなんだから、あんたといるのが今日のところは一番でしょ」

 

「カ、カタリナさん、本当に優しいですよねっ。うらやましいです、ユーリさん。こんなに素晴らしい幼馴染がいるなんて。わたしはずっと1人でしたから」

 

 そういえば、ユーリヤの過去は全く知らなかったな。サーシャさんは突然現れたようだって言ってたけど、まさかそんなことがあるわけないし。

 でも、あまり明るい話ではなさそうだし、積極的に聞きに行くことはないか。ユーリヤが話したいなら話してくれればいいし、そうでないなら、気にしなければいい。

 

「ユーリヤ、いまはぼくもいるし、カタリナも、アクアも、ステラさんもいる。過去の事が無くなるわけじゃないだろうけど、これからはきっと寂しくなんてさせないから」

 

「ユ、ユーリさん、ありがとうございますっ。でも、寂しかったわけじゃないですよ。1人でいることが当たり前だったので。

 でも、これから1人にされたら寂しいですから、あなたのユーリヤをずっと離さないでいてくださいねっ」

 

 ユーリヤが悲しい思いをするということは避けたい。

 それに、ぼくにとってユーリヤはすでにとても大切な人になっていた。

 だから、ユーリヤが望まない限りぼくたちから離れさせはしない。

 

「当たり前だよ。ぼくにとってユーリヤはただのパーティメンバーじゃない。家族同然だって思っているから。逆に、ぼくがずっと一緒にいてほしいってお願いする側かな」

 

「家族ってのは言い過ぎじゃないかしら? ま、でも、ユーリヤさんはあたしたちにとってもう欠かせない存在よ。これからもあたしと一緒にユーリの奴を支えてやりましょ」

 

「ユ、ユーリさん、カタリナさん……はいっ! ユーリヤはあなたたちとずっと一緒にいますからっ! もう離れたいなんて言っても遅いんですからねっ」

 

 ユーリヤはとてもきれいな笑顔をしていた。ぼくがユーリヤから離れたいと言うことなんてきっとないから、ユーリヤにはぼくたちの事を信じても大丈夫だと思ってほしい。

 

「はいはい。そんなことは言わないから安心しなさい。じゃ、ユーリヤさん。ユーリの事は貸してあげるから、今日はゆっくり楽しみなさいよ。じゃあね」

 

 そう言ってカタリナは去っていく。今日はユーリヤと2人っきりか。カタリナの事だから、もうステラさんにもアクアにも話しているだろうし、ユーリヤと何をするかな。

 

「ユ、ユーリさん。前にアクアちゃんと手をつないだんですよねっ。アクアちゃんが言ってましたよ。わたしとも、手をつないでくれませんかっ」

 

 アクア、ユーリヤとそんなことまで話すようになってたのか。

 ぼくがいなくても仲良くしているというのはいい情報だけど、ぼくの話が裏でされているというのは、恥ずかしいような、怖いような。変なこととか話されたりしてないよね。

 ま、いいか。手をつなぐくらいで満足してくれるなら、いくらでもかまわない。

 早速手をつなぐ。すると、ユーリヤの体温を感じる。昨日ユーリヤが死んだかもと思ってから、ずっとふわふわしたような心地だったけど、ユーリヤはちゃんとここにいるんだと感じられた。

 ユーリヤがこれ以上傷つかなくてよくなるように、ぼくも頑張ろう。改めて決意した。

 

「ふふっ、ユーリさん、暖かいです。大丈夫、ユーリヤはここにいますからね。ユーリさん、ずっと気に病んでたのは分かっていましたから。ほら、心臓だって、ちゃんと動いてますよ」

 

 そう言ってユーリヤは自分の胸元にぼくの手を当てる。本当に心臓の鼓動を感じた。

 うん。ユーリヤはちゃんと生きている。ぼくの見ている幻なんかじゃない。

 ユーリヤの鼓動と温かさを感じながら、ぼくは絶対に失いたくないものがまた増えたことに、喜びのような、感慨のようなものを感じていた。

 それにしても、ユーリヤを慰めるためって話だったのに、ぼくの方が慰められちゃってるな。しっかりしないと。

 

「ユ、ユーリさん。こんなつなぎ方なんてどうですかっ」

 

 そう言ってユーリヤはぼくの手を取り、指と指を絡めるように手をつないだ。

 なんというか、さっきの握り方より、もっとユーリヤと触れているような感じだ。

 さっきはそれどころじゃなかったけど、ユーリヤの手、やわらかいな。ユーリヤがぼくの手を握る強さを強めたり弱めたりしているので、余計にユーリヤの手の感触をしっかり感じていた。

 

「な、なんというか、少し恥ずかしいね。でも、ユーリヤの手の感触をよく感じるよ。ユーリヤの手、暖かいね」

 

「それ、さっきのわたしも言いましたよ。ユーリさんの手、暖かいって。でも、少し恥ずかしいってだけなら、もっと恥ずかしがらせちゃいますねっ」

 

 ユーリヤはさらに僕の腕に両腕を絡め、密着してくる。

 ユーリヤの温かさと柔らかさを別の部分からも感じて、ぼくは本当に恥ずかしくなった。顔、真っ赤になってるんじゃないかな。

 ユーリヤの積極性には驚かされてばかりだったけど、最近距離の詰め方がうまくなってきたような気がする。

 ただでさえユーリヤには押されているのに、これ以上になったら、一体ぼくはどうなってしまうんだろう。

 

「ユーリさん。この前はあまり意識してもらえなかったですからっ。だから、今回はユーリヤの事、しっかり感じてくださいねっ」

 

 ぼくはユーリヤに頬にキスをされた。確かに前はそれどころじゃなかったけど、改めてされると本当に恥ずかしい。

 あの時はあまり感じられなかったけど、ユーリヤの唇はプルプルしていて、とても気持ち良かった。

 ユーリヤにかけられた言葉もあって、頬の感覚が敏感になっていたから、ユーリヤの唇の細かい動きまで感じ取れてしまった。少し変な動きをしてしまったかもしれない。

 

「ふふっ、ユーリさん。唇には、また今度、ですねっ。楽しみにしておいてくださいねっ、ユーリさん」

 

 く、唇か。そこまで進んじゃったらもう引き返せないのでは? ユーリヤが嫌いなわけでは無いけど、そこまで一気に進んでしまうのは怖かった。

 それにしても、ユーリヤ、最初の頃よりほんとに上手く誘惑してくるような気がする。この調子だと、ぼくはかなり危ないかもしれない。

 

 それからもずっとユーリヤと過ごし、夜。ユーリヤは驚きの提案をしてくる。

 

「ユ、ユーリさん。今晩は、わたしの部屋で一緒に過ごしませんか。ユーリさんが来てくれるなら、必ず楽しい時間にしますからっ」

 

「そ、それはアクアにも聞かないと。アクアと一緒の部屋で過ごすって約束だから」

 

「なら、アクアちゃんに聞きに行きましょうっ」

 

 それからすぐにアクアのもとへ向かい、ユーリヤの件を相談した。

 

「別にいい。ユーリ、ユーリヤ、楽しんできて」

 

「ほらっ、アクアちゃんの許可は得ましたよっ。わたしの部屋へ行きましょうっ」

 

 そのままユーリヤの部屋へ連れられて、今晩はユーリヤの部屋で過ごした。ユーリヤのいろいろな姿を見られたことは楽しかったけど、アクアと一緒じゃないのは久しぶりで、少し寂しいような気がした。

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