邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:maricaみかん

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40話 アディ

 今日もぼくは宿でゆっくりしていた。早く帰って、カタリナやユーリヤにアリシアさんとレティさん、サーシャさんに会いたいという思いもあった。

 それでも、なんとなく残っていた方が良いような気がして、まだ王都に滞在していた。

 すると、部屋に誰かがやってきた。扉を開けてみると、髪の色を変えているが、見間違えようのない顔があった。

 

「オリヴィ―」

 

 ぼくは唇を指でふさがれ、耳元に顔を寄せたオリヴィエ様にささやかれる。

 

「この姿の私はアディと呼べ。それで、ユーリ。今日は王都を逢引といこうぞ」

 

 本当にいきなり来て何を言い出すんだこの人は。だが、断ったら絶対に大変な目に合う。オリヴィエ様の目を見てそれは理解できたので、仕方なくオリヴィエ様についていくことに。

 

「アディ様、アクアとステラさんに話を通してきてもいいですか?」

 

「何を様づけで呼んでいる。アディと呼び捨てで呼ぶのだ。そうでなくては不自然だろう? 口調も相応のものにすることだ、今日の私たちは恋人というつもりでいろ。それと、アクアとステラに話は通してあるし、すぐ傍におる。何なら本人に確かめてみるか?」

 

 そう言われたので奥の方を見てみると、アクアとステラさんが手を振っていた。

 いや、ステラさんはともかく、アクアと初対面で良くここまで打ち解けたものだ。普通にオリヴィエ様の事を受け入れている様子なんだけど。どんな手品を使ったんだ、この人は。

 そのままオリヴィエ様に手を引かれて、外へと連れ出される。オリヴィエ様はとても上機嫌な様子で、僕は変に声をかけることをためらっていた。

 この人の機嫌を損ねたら、絶対にただでは済まない。少し接しただけだが、それだけは妙に確信できた。

 

「ユーリ、お前は私のハイディケートをどれくらい知っている? 観光などはもうしたのか?」

 

「いや、宿と、大会の会場と、アディに連れられた王宮しか知らないかな。興味ないわけじゃなかったけど、大会に出場するために来ただけだから」

 

「そうかもしれないとは思っていたが……ユーリ、お前はいずれ私のものになるのだ。同じく私の物であるハイディケートについては良く知っておくとよい。アードラも、と言いたいところではあるのだがな。さすがにそれは直ぐにとはいかんだろうさ」

 

 この人は王女なんだよね。まるでこの国が自分の物のような物言いだな。

 まあ、本当に本人が言う通りの能力を持っているなら、逆らうことはとても難しいことはよくわかるけど。

 

「今日教えてくれるんでしょ。まずはそれを楽しんでおくよ。ところで、アディの家族はアディほど強くはないの?」

 

「まあ、私どころかユーリやミーナに勝てる者すらいないようなものだ。なんとも情けないことだがな。だが、近衛の質は相応の物ではあるから、私がいなくとも、ユーリやミーナが10人くらいなら、王族は守り切れるのではないか? 私がいたならば、100人だろうと問題はないがな」

 

 ぼくやミーナが10人くらいというのは多いのか少ないのか、よくわからないな。この人がとんでもない化け物ということにはなるけど。そんなに強いなら、それは自信満々にもなるというものだよね。

 まあ、オリヴィエ様の能力は単純であるからこそ対策がとても難しい。相手に敵と認識されただけで、ぼくはやられてしまうだろうと思える。

 どうにかして気づかれる前に攻撃できればいいけど、隠し玉がない保証は無いんだよね。

 

「くくっ、私の強さに慄いているのか? お前が私のものになれば、この力がお前を守ることになるのだぞ? どうだ、私のものになりたくなったか?」

 

「いや、敵にはしたくないと思ったけど、ぼくは守られたいわけでは無いし。お互いに支えあえるのが理想かな」

 

 守られているだけなら、キラータイガーの件や、カタリナの件でもきっと何もできなかった。

 アクア水はアクアの力だから、アクアに守られていると言えなくもないけど、ユーリヤの時のような無力感を感じるのはもう嫌だ。

 それに、この人に守られているだけなら、この人が危なくなった時にどうするんだ。

 オリヴィエ様が好きなわけでは無いけど、単に負担になるだけということは、嫌で嫌で仕方がなかった。

 

「くくっ、青臭い理想よな。だが、私を支えられるようなものなど居はしないさ。だからこそ、私は最強なのだから。ユーリが私に勝てるようになったなら、お前が私を守ることになるのか? 全く想像できんな、私には」

 

「ぼくにもアディに勝つ手段は思いつかないし、きっと難しいどころの話ではないよね。でも、ぼくは諦めないよ。だって、これまでそうしてきたから、ぼくは今、大切な人たちと一緒に居られるんだから」

 

「私ですら私以外の誰かの力で私に勝つ手段は思い浮かばん。だが、もし誰かに守られるようなことがあるなら、それはどういう気分なのか想像しなかったわけでは無い。期待はせんが、ユーリ、励めよ」

 

 この人はきっと本心ではだれの事も頼りにできないのだろうな。なんとなく、そう感じた。

 まだ出会ったばかりの人だから、ぼくがそうなろうとは思わないけれど、ぼくにとってのカタリナとアクアのように、何があっても信じられる人が現れればいい。そう思った。

 

「まあ、頑張るよ。それで、アディの正体にぼくは簡単に気付いたけど、王都に出かけても大丈夫なの?」

 

「私の顔を近くで見たものなど、そうおらん。それに、民というのは案外愚昧だぞ? 私がユーリと一緒に居るだけで、勝手に気のせいだと思い込むものばかりだろうよ」

 

 そういうものなのかな。でも、この人は結構いたずら好きな感じに思えるし、案外お忍びで出かけるのにも慣れているのかもしれないな。

 

「そろそろよいであろう。ユーリ、私のハイディケートを見せてやる。しっかり楽しめよ」

 

 そう言ってオリヴィエ様はぼくと腕を組み、ぼくを引っ張っていく。この人は自分が引っ張っていくことが絶対に好みだから、エスコートとか考えなくてよさそうなところだけは気が楽だ。

 

 それからぼくが連れていかれたのは、大きな公園だった。

 恋人らしき人がいっぱいいて、どの人も結構距離が近い。たぶん、デートスポットとして有名なのだろう。

 真ん中には噴水があり、他に開けた場所と、植物がいっぱい生えている場所がある。植物のところには、人工的に作られたらしい道もある。噴水を眺めたり、植物を眺めたりする場所なのかな。

 オリヴィエ様はまず、噴水の近くにあるベンチに座った。ぼくも隣へ引っ張られて座った。

 

「どうだ? 中々落ち着く場所であろう。人が多いというのが欠点でもあるがな。せっかく隣同士に座ったのだから、恋人らしい遊びでもしてみるとしようか」

 

 オリヴィエ様は腕を組んだまま、ぼくの肩に頭をのせてくる。頬に頭が触れて、少しくすぐったかった。

 それにしても、オリヴィエ様は本当に距離が近い。オリヴィエ様の息の音が聞こえたり、オリヴィエ様の体温を強く感じたりして、かなり照れてしまった。

 

「くくっ、ユーリ、真っ赤ではないか。私は魅力も最高の存在であるから当然ではあるが、お前、見た通り女慣れしておらんな? その調子で、今日私を楽しませることが出来るのか? お前にそういうことは期待していないが、だからといって私に甘えるだけなど許さんぞ」

 

 ちょっと血の気が引いたかもしれない。この人に許されなかったら、大変なことになるということだけは確信できる。

 でも、オリヴィエ様と親しいわけでもないし、どうすれば喜ばせられるのかなんてわからない。ほんと、どうしよう。

 

「くくっ、冗談だよ、冗談。お前は本当に面白い反応をしてくれるな。大会ではあんなに勇ましかったというのにな。私には全く強く出られないではないか。私の力におびえているという感じではないし、全く、私を何だと思っているのやら。

 お前もお前の周辺も、怪我を負うことも、ましてや死ぬこともないぞ? 私を殺そうというなら別だがな。お前がそういう事をするとは思えんが」

 

 怪我しないからと言って全く安心できないんだよな。ほんと、何をされるのか分かったものじゃない。でも、なんとなく茶目っ気のようなものを感じて、怖いだけだったオリヴィエ様に少しだけ親しみを持った。

 それから、オリヴィエ様にまた引っ張られて今度は植物を歩きながら眺めることに。

 マナナの森と違って、木々が邪魔になることもなく、モンスターの気配も感じなかったので、植物の綺麗さと匂いを楽しむことが出来た。

 オリヴィエ様はぼくと腕を組んでいても上手く歩いていて、ぼくだけ少しつまずいたりしていた。

 

「どんくさいな、ユーリ。だが、よいぞ。お前を私好みに調教してやるというのも楽しそうだ。まずは、そうだな。私が腕を組んでいてもしっかり歩けるようになってもらおうか」

 

 そう言われてしまったので、ぼくは必死で上手く歩くことに集中していた。そのおかげで、それから公園を出るまでの間、全くつまずくことはなかった。

 

「そうだ、ユーリ。私の言葉はしっかり守れよ。お前は私のものになるのだ。私を楽しませることに全力を尽くすのは、当然の事と思えよ」

 

 なんて人だ。だけど、オリヴィエ様の顔が本当に楽しそうで、ぼくは少しだけ見とれてしまった。この人に尽くすのも、全く嫌なことだとはすでに思えなくなっていた。

 オリヴィエ様はそれからぼくに何度か簡単な命令をして、それをぼくがこなしていた。

 偉そうな態度、いや実際に偉い人だけど、それは崩さないままだったが、命令をこなすたびに褒めてもらえるので、少しずつ命令をこなすのが楽しくなってしまった。

 駄目だ。このままじゃ本当にこの人のものになってしまう。ぼくはアクアやカタリナの顔を思い返していた。そうだ。ぼくはみんなとオーバースカイを最高の冒険者パーティにするんだ。そう思い直した。

 

「くくっ、いいところだったのにな。仕方ない。では、次は食事だ。立ち食いというのも悪くはなかろう」

 

「そうですね。ぼくはそっちの方が慣れているし。でも、アディはそれでいいの?」

 

「万が一毒が入っていたところで私は死なんからな。お前も、私と一緒に居る間は助けてやろう。そんなこと、滅多にあることではないがな」

 

 この人に出来ないことはあるのかと思わされてしまう。でも、毒が入っていても大丈夫と言えるってことは、そういうことだよな。

 ぼくなんかには想像もつかない世界で、怖いと思うと同時に、この人がそういう目にあったことがあるのだと知って、悲しくなった。

 オリヴィエ様はぼくが食べるものも、自分が食べるものも、全部1人で選んでいた。

 幸い、嫌いなものではなかったが、嫌いなものだとしてもこの人の前で嫌な顔なんてできる気がしなかった。

 しばらく食べ進めていると、ぼくが食べ終わったのを見計らって、オリヴィエ様が食べていたものを口に突っ込まれた。いや、これって。ぼくが照れていると、オリヴィエ様は楽しげに話しだす。

 

「もうこれには飽きたからな。しかし、こんな事でも真っ赤になるのだな。お前なら、何をしても真っ赤にできそうだ。今度どこまで真っ赤になるのか試してみるのも面白いかもな」

 

 今度の話をされていても、ぼくはもう嫌とは思えなかった。ほんの少し一緒に居ただけなのに、もうこの人を嫌いだとは思えそうにない。困った。こんな人は絶対に振り回してくるのに。

 それからも王都の見どころという場所をいくつも案内してもらって、最後にぼくの宿で2人きりになった。

 

「ユーリ、今日は楽しかったか? 私のものになれば、またこんな機会はあるのだぞ?」

 

 今日1日で、ぼくはそれを魅力的だと思うようにされてしまった。でも、ぼくの目標は変わらない。だから、オリヴィエ様のものになるという誘惑を振り払った。

 

「本当に楽しかった。でも、アディのものにはなれない。ぼくは仲間だけは裏切りたくない。だって、ぼくにはそれしかないんだから」

 

「そう答えるのは分かっていたよ。だが、いずれお前は私のものになる。だから、これはその証だ」

 

 そう言ってオリヴィエ様はぼくの首にチョーカーのようなものを付ける。きつく締められたのに、全く苦しくなかった。

 

「これは、お前を守ってくれるだろうさ。お前が私のものになる前に死なれては困るからな。最後だ。これも受け取っておけ」

 

 オリヴィエ様は自分の口に指を咥えると、引っこ抜いた後ぼくの唇に指を押し付けてきた。ぼくは真っ赤になっているだろう。

 

「ユーリでは私の伴侶にはなれぬだろうが、夢見るくらいなら許してやる。今日は楽しかったぞ。ユーリ、達者でな。また会う時には、もっと大きくなっていることだ。いろいろな意味でな」

 

 そのままオリヴィエ様は去っていった。まだドキドキしている。あの人に、ぼくは決して勝てないかもしれない。そう思わされた。

 それにしても、初めて会った時と一人称とかが違ったけど、どちらが素なのだろう。どっちでもいいか。そんなに大きく変わっている感じではなかったし。

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