邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム   作:marica

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56話 憧れ

 ある日の昼頃、アクアと2人でカーレルの街をぶらついていると、突然人に声をかけられた。

 

「あの、水刃のユーリさんっすよね! あたいをチームに入れてくれませんか!」

 

「メルちゃん、いきなりすぎよ~。まずは自己紹介とかから始めないと、ね?」

 

 声をかけてきたのは、水色の髪をした活発そうなメルちゃんと呼ばれる少女と、アクアより薄い色をしたメルちゃんの髪と近い色のハイスライムらしきモンスター。

 メルちゃんはぼくの事を知っていて、それでオーバースカイに入りたいみたいだ。

 でも、初対面の人をいきなりチームに入れることは難しい。

 すでにオーバースカイは結構人数が多いし、実力も人格も分からない相手をチームに入れるという問題もある。

 まずは、相手の言う通り自己紹介あたりから様子を見るか。

 

「ぼくの事を知っているんだね。でも、一応名乗っておこうか。ぼくはユーリ。こっちはぼくの契約モンスターのアクア。よろしくね」

 

「アクア。よろしく」

 

「あたいはメルセデスっす。ユーリさんの事は王都の大会で見ました。スライム使いなのにあんなに強いなんて、憧れちゃうっす! せめてあたいの実力を見てくれませんか?」

 

「すみません、メルちゃんが失礼をしちゃって~。私は、メルちゃんと契約をしている、ハイスライムのメーテルといいます~。メルちゃんは王都での大会を見てからずっとユーリちゃんに会いたいって言って、カーレルの街まで来ちゃうくらいなんですよ~」

 

 つまり、この人たちはスライム使いとしてぼくたちに憧れているって認識でいいのかな。

 スライム使いは弱いという評判があることはよく分かっている。

 王都での大会も結構大きい物みたいだから、それで注目されたのか。

 わざわざ王都から遠いカーレルの街まで来てくれたんだから、少しくらいは前向きに考えたいけど、オーバースカイのみんなの足を引っ張るようなら駄目だ。

 メルセデスの言うように、実力を見ておくのが無難かな。

 

「わかった。とりあえず実力を見せてもらおうか。空いている広場へ行くから、ついてきて」

 

「わかったっす! あたいの実力、しっかり見せるっすよ!」

 

「無理にオーバースカイに加入させて貰わなくても大丈夫だけど、記念にサインとかを貰ってもいいかしら〜?」

 

 サインか。聞いたこと自体はあるけど、そういう物をぼくが書くなんて想像もしていなかったから、どうして良いものか分からない。

 今日明日メルセデスが帰るわけじゃないのなら、ゆっくり考えるとするか。

 すぐに帰らないといけないようなら、とりあえず何か書いてみよう。

 

「メルセデスとメーテルはいつまでこの街にいるつもりなのかな? それなりに長くいるつもりなら、ぼくの知り合いに紹介する事もあるかもしれないね。オーバースカイに加入できればすぐに紹介するけど」

 

「この町に住むつもりっすよ。ところで、ユーリさんはどんなチームを組んでいるんですか? ユーリさんの仲間も強い気がするっす!」

 

「メルちゃんったらまた勝手に決めちゃって~。ここはいい町だとは思うけど~」

 

 なるほど。だったら長い付き合いになるかもしれないから、雑に扱わない方が良いかな。

 もちろん、むやみに態度を悪くするつもりはないけど、2度と出会わないだろう人と対応を変える必要がある。

 

「それなら、これからも出会う機会はあるかな。ぼくたちのチームに入りたいってことは、冒険者なんだよね? どれくらいのモンスターなら倒せるとか、あるかな?」

 

「うっ……あんまり強いモンスターは倒せないっす。キラータイガーなんて現れたりしたらイチコロかもしれないっす」

 

 そんなものだとすると、オーバースカイに加入させることは厳しいかもしれない。

 ぼくたちも最初は苦戦していたキラータイガーだけど、今ならほとんどのメンバーは1人でも倒せるだろうし。

 

 しばらく話しながら歩いていると、空いている場所まで来たので、メルセデスたちの実力を試すことにする。模擬剣を渡して使ってもらうといいかな。

 

「メルセデス、メーテル。ここで2人がどれくらい出来るのかを見せてほしい。他のメンバーとの相性なんかも見る必要はあるけど、実力がないとそれ以前の問題だからね」

 

「わかったっす! ユーリさんの胸をお借りします! いくよ、メーテル」

 

「わかったわ~。いきますよ、ユーリちゃん」

 

「アクアは今のところは下がっていて。危なそうだったら介入してくれる?」

 

「わかった。ユーリ、頑張って」

 

「じゃあ、かかっておいで、メルセデス、メーテル」

 

 その言葉と同時にメルセデスとメーテルは突っ込んでくる。

 メーテルは殴り掛かってきて、メルセデスは剣で攻撃してきた。

 どちらの攻撃もアクア水もミア強化も使わなくても対応できる程度だったので、軽く受け流す。

 うーん。アクア水を手に入れる前のぼくとそんなに変わらないか、少し弱いくらいかな。

 カタリナに相当する存在もいないみたいだから、弱い方なんだと思う。

 

「契約技なんかは使わないのかな? 今のままなら、契約技が強くないと厳しいと思うよ」

 

「ぐっ……仕方ないっす。これがあたいの契約技っすよ!」

 

 メルセデスは自分の前に水の膜のようなものを張る。

 その後ろでメルセデスは構えているので、恐らく防御の技だろうと思い攻撃する。

 すると、ほとんど抵抗なく水の膜は破れてしまい、そのままメルセデスに攻撃が当たりそうになる。

 慌てて剣を止めてメルセデスに当たらないようにする。メルセデスはほっと息をついた。

 

「えっと……今のは防御に使ったってことで良いんだよね? あれで全力?」

 

「……そうっす。こんなにダメダメなら、オーバースカイには入れないっすよね。おとなしく田舎に帰ろうかな……」

 

 水の膜を作ることしかできないのなら、ダメダメとメルセデスが言うことも分かってしまう。

 汎用性はあまり感じられないし、あの程度の威力にも耐えられないなら使い道はほとんどないだろう。

 それはさておき、メルセデスが田舎に帰るということは、王都での大会は遠出をして見に来たということだろうか。

 メルセデスの沈んだ顔を見て、ぼくは思わず慰めようとしてしまう。

 

「剣技も契約技もまだまだだけど、身体能力は高いみたいだから、剣技は伸びしろがあると思う。それと、契約技の使い方も色々試してみた? 膜を厚く出来ないかとか、広く出来ないかとか」

 

「なるほど……契約技は何も考えずにただ出していただけだったっす! 確かに、膜を厚くすれば防御力が上がるかもしれないっすね! ユーリさん、あたいを弟子にしてほしいっす!」

 

 メルセデスはそう言うけど、ぼくが弟子を取ってしまってもいいだろうか。ぼくはアリシアさんたちに教えを乞う立場なのに。

 でも、せっかくここまで来るほどの熱意がある人なんだから、ただ見捨てるというのも気分が悪い。

 軽く教えるくらいならいいかもしれないな。ぼくはちょっとだけ面倒を見ようと決めた。

 

「ぼくは弟子をとれるほど上等な存在じゃないけど、冒険の合間にちょっとアドバイスをするくらいならできると思う。ぼくの冒険に連れていくのはお互いのためにならないと思うけど、空き時間くらいなら面倒を見るよ」

 

 その言葉を受けてメルセデスはとても嬉しそうな顔をする。

 

「ありがとうございます、ユーリさん! 少しずつでも強くなって、いずれオーバースカイに入れるようになるっすからね! 待っていてくださいっす!」

 

「ありがとう、ユーリちゃん。アクアさんも、よろしくお願いしますね~」

 

「メルセデス、メーテル、よろしく。ユーリにあまり迷惑をかけちゃだめだから」

 

「大丈夫っす! せっかくユーリさんに面倒を見てもらえるんっすから、絶対無駄にはしないっす!」

 

 メルセデスの目に炎が見えるような気がする。これは期待できるかもしれない。

 せっかくだから、組合に連れて行って依頼の受け方を教えようと決めた。

 

「メルセデス、メーテル。ちょっとついてきて。カーレルの街の組合でどうすればいいか、説明するから」

 

 メルセデスとメーテルを連れて組合に向かうと、サーシャさんが出迎えてくれた。

 

「ユーリ様、今日はどんなご用件ですか? そこのお2人をオーバースカイに加入させますの?」

 

「いえ、少しだけ面倒を見ることに決めたので、今日は依頼の受け方を説明しようかと」

 

「ユーリさん、そちらの方は? ユーリさんの恋人っすか?」

 

「2人とも、こちらの方はサーシャさん。ぼくたちの依頼をあっせんしてくれている人だね。

 サーシャさん、こちらはメルセデスとメーテル。弟子って程ではないですけど、少しだけ冒険者として面倒を見ようと思っています」

 

 サーシャさんは笑顔でいたが、少しだけ眉をひそめたように見える。何か気に入らなかったかな。

 

「その2人は有望なんですの? わたくしはオーバースカイに些事に関わってほしくはありませんわ」

 

「有望かはちょっと怪しいですけど、熱意は本物だと感じたので。冒険の片手間くらいでなら大丈夫かと」

 

「本格的に面倒を見るわけではありませんのね? でしたら、構いませんわ。お2人とも、オーバースカイは本物の冒険者ですわ。迂闊に足を引っ張っては、恨まれるだけでは済みませんわよ」

 

 サーシャさんは笑顔だが、とても冷たい雰囲気を出している。

 メルセデスは少しおびえたような顔になるが、すぐに気を取り直す。

 

「ユーリさんに迷惑をかけたりはしないっすよ! オーバースカイにはあたいも活躍してほしいっすからね! でも、いずれオーバースカイの仲間になってみせるっす!」

 

「ユーリちゃんもアクアさんもこんな私たちを少しでも認めてくれたんだもの~。失望させてしまうなんてごめんだわ~」

 

 サーシャさんは今度は楽しそうな笑顔になる。メルセデスたちは邪険にはされないと思っていいかな。

 

「なら、よろしいですわね。あなた方は、簡単な依頼から少しずつ受けていくのがよろしいかと。急いで強くなろうとする冒険者は早死にするものですわ」

 

「わかったっす! なら、弱いモンスターの討伐から始めるっす!」

 

「でしたら、ホーンラビットあたりから入ることをお勧めしますわ。訓練では簡単に倒せるものでも、実戦だと案外苦戦するものですわ。

 まずは、確実にこなせる依頼から。それが結果的に実力を上げる近道になりますわ」

 

「ホーンラビットっすね。じゃあ、早速明日から討伐するっす! ユーリさん、待っていてくださいね。絶対、オーバースカイに入ってみせるっすから!」


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