今回は本編ではなく番外編とさせていただきます。ノリと勢い任せのギャグ回です。本編の方も出来るだけ早いうちに更新したいと思っておりますのでもうしばらくお待ち頂けると幸いです
クリスマス前の決戦?
「マスター、クリスマスとはなんですか」
「記念日」
読書をしていた要にアスタルテがクリスマスとは、と尋ねると要は即答でそう返した。
当たり前だがアスタルテはそんなことを聞いているのではない。その記念日がどういう記念日なのかと聞いているのだ。
ちゃんと答えないとこの場から動かないと言わんばかりに要をじーっと見つめるアスタルテ。視線に変な意味を含んでいるわけではなかったが何となく居心地が悪くなってきて要は真面目に答えた。
「――――――というわけだ。お前用のクリスマスプレゼントも考えてあるから楽しみにしていろ」
「はい、マスター」
そう言いアスタルテは部屋から出ていった。
「今年は渡す人数も増えたから少し大変かもしれんな」
金銭的な意味ではなく相手に渡すものを選ぶのが大変だと要は思った。
プレゼントと言ってもやたら高いものを送ればいいというわけではない。特に要の知り合いなどは値段によって遠慮してしまったり、逆に相手に気を使わせてしまう可能性もある。リーズナブルな価格である事を前提条件として相手が喜ぶ物、若しくは相手が欲しがっているものを探さなくていけないのだ。
そして数日後。
「えっと、後は……」
クリスマスイヴ前日。メモを片手に要は繁華街を歩いていた。
何をしているかといえばただ単純にクリスマスプレゼントを買っているのだ。去年までと違い渡すべき相手が数人増えているのでリサーチが大変だったというのが要の感想である。そのため買い出しに出るのが予想より遅くなってしまった。
ちなみに渡す相手は那月、夏音、築島、古城、浅葱、凪沙、矢瀬の七人に今年はそれにプラスして雪菜、紗矢崋、アスタルテ、ラ・フォリア等がいる。
リサーチの結果大抵のものが揃う店があると知り合いに教えられ要はその店を目指していた。要もこの島に来て随分経つが知らないことも多かったのだ。
さらに暫らく歩きメモに書いてあった住所に着くと、そこはやや古びた建物があった。そこは上の階は閉鎖されていたが地下へと続く階段があったので要はそこを降りていった。
「むっ、君も会の者かね?」
降りていった先の扉の前に立っていた青年がそう声をかけてきた。
無論会と言っても要は何のことかわからない。
「え? 会というと?」
もしかして会員制の店なのか? と要は疑問に思っていると青年は納得したように頷いた。
「なるほど新入りか……そうか、そうか。君みたいなイケメンでもか、さあ入りなさい」
「って、話聞けって!?」
要の話をスルーして何故か慈愛の篭った目で見られ要は中に無理やり入らされた。
◆
要が入った先はつぶれたクラブのような場所だった。そこには百人ちかい人数の男性が血走った目でいた。
異様な雰囲気のその場に珍しく飲まれてしまった要はしばらく呆然としていた。
しかし、スピーカーから聞こえてきたハウリングを聞き我に戻った。ハウリングが収まるとスピーカーから若い男性の声が響いた。
「諸君! 我々『リア充憎悪の会』会長マーケ・グミ会長は予てより計画していた作戦、『リア充殲滅戦』の書類にサインをした!! 決行は明日だ!!」
「は?」
要は頭を抱えた。プレゼントの売っている店と間違えてとんでもないところに来てしまった。
やや広い部屋の奥にあるステージにスポットライトが照らされそこに和服を着た一人の老人が現れた。
彼はじっくり周囲を見渡した後、無駄に渋い重低音で話し始めた。
「私は『リア充憎悪の会』会長マーケ・グミだ。けっしてグミが好きなわけではない。……諸君、クリスマスとはなんだ!?」
「「「「「男は一人、硬派に過ごす日だ!!!」」」」」
「さらに聞こう! 男とはなんだ!?」
「「「「「愛を捨て哀に生きるもの!!!」」」」」
百人ちかい男が地下に集まりそのような(恐ろしくアホな)雄叫びを上げている。長い年月を生きてきた要でも経験したことのない状態に呆然としていた。というか、人口の少ない絃神島によくぞこれだけ暇な――厳密には奇行に走る男達がいたものだ、と呆れていた。
「よろしい。では、さらにさらに聞こう、君たちは彼女が欲しいかぁ!?」
「「「「「欲しい!!!! はっ!?」」」」」
「今欲しいと言ったものは吊るし上げだあ!! リア充共のスパイの可能性アリ!!!」
「お前言っただろ!」とか「嘘つけ! お前こそ言っただろ!」「俺は言ってないからあ! 俺は哀に生きると決意してるんですぅ!」等といって勝手に仲間割れを始めていた。
放っておいても勝手に自滅しそうな組織だと要は心の底からそう思った。
「会長!」
「む、なんだ?」
会長に声をかけたのは入口で要を中に入れた青年だった。
「今日は新入りもいます、彼に挨拶を」
「うむ、そうか。呼びたまえ」
「…………」
要は非常に嫌な予感がした。
「ほら、君だよ」
「……待ってくれ」
「緊張しなくていい。みんな君の同類だから!」
(一緒にしないでくれ!!)
このメンバーと同類扱いされるのは心の底から嫌だった。
「会長この男です」
「ほーう……」
会長は要の顔をじっくりとみる。
そして、カッと目を見らき要の上着を掴み、内ポケットに手を差し込んだ。そして中から丁寧に包装された細長い箱を取り出した。
会場の全員の目が見開かれ、驚愕の声が上がる。
「な、お、お、お前俺を騙したのか? リア充だったのか!?」
青年が一気に詰め寄り要は一瞬気圧されてしまった。
曲がりなりにも真祖に匹敵すると言われる要を一瞬とは言え上回った彼は一体何者なのだろう。
「いやー、それは自分用でしてね……」
「…………」
謎の迫力に負けて要は適当な嘘をついた。しかし、疑惑の目は消えない。
「まあ、まちなさい諸君」
会長が要から取り上げたプレゼントを片手に発した一言で会長は静まり返った。
「ワシが判定しよう。我が心眼はプレゼントに込められた想いを見抜く!! かあっ!!!」
目がキラリと輝く。そして数瞬後、会長は悪魔のように表情を歪ませ叫んだ。
「見える! 見えるぞ!! このプレゼントは合法ロリの女教師宛のプレゼントだ!! つまり貴様への判決はぁぁぁぁl!!! 死刑! 死刑!! 死刑!!! し! け! い!!!」
「殺せーーーーー」
「生かして返すな!!」
会場に殺気が溢れかえる。
よし、逃げよう! と要は即座にプレゼントを奪い取り逃げようとした。しかし、その時、上着のポケットから何の因果かメモを落としてしまった。
「む、なんだねコレは?」
それを目敏く見つけた会長は拾い上げる。その流れるような動きに魅せられ会場は再び静まった。
「プレゼントのメモか……ふむ、我が心眼はメモに秘められた想いすら見通すっ!!」
再び目がキラリと光り会長はメモを見る、するとワナワナと震えだした。
「何たる愚かしさかッ! 貴様黒髪幼女教師だけでなく! 聖女系銀髪美少女に、委員長系、マシンガントーク好きの妹系少女、そしてギャル系だが恋愛奥手な美少女! 否っ! さらに国家公認ストーカー系美少女に、銀髪王女にちょろいんだと……しかも、そのうち何人かにはフラグまで立てておルゥ!? 巫山戯るなあ!」
「古城と矢瀬はスルーかよ!?」
思わず叫びたくなった。メモの対人比率は確かに女子の方が圧倒的に多いが、古城と矢瀬の分もちゃんと明記してあったのだが、会長はスルーした。
「貴様の生きる権利はこの私が剥奪する。皆の者武器を取れい!」
「もう急展開すぎてついていけない!」
メモを取り要は一目散に逃げ出した。
入口に向かって駆け出した要を見た瞬間彼らは動いた。
「ここは断じて通さん!」
「貴様は男の敵だ!!」
「見つけたぞ世界の歪みを!!!」
「アンタみたいのがいるからクリスマスは終わらないんだ!!!!」
「闇の炎に抱かれて」
くたびれたスーツを着て血の涙を流す五人の中年男性が入口に向かう要の前に立ちはだかった。
「スマン!」
要は躊躇なく拳を振るい逃げ出す。
「ザクっ!」
「グフっ!」
「ドムっ!」
「ギャンっ!」
「馬鹿な……!」
謎のうめき声を上げながら男たちは倒れた。
その屍を乗り越え要は外の世界へと逃げ出した。
「追えーーーーーー!!!」
そして『リア充憎悪の会』会員達も仲間の屍を乗り越え要を追いかけた。
◆
「何なんだよ!? 本当に」
要は周囲の視線など気にせず走りながら叫んだ。最も叫んだところでそれが原因で要が注目を集めるはずもないのだが。
なぜなら、彼の背後から百人近い人数が覆面をかぶり、血の涙を流しながら追いかけてくるのだ。そっちのほうが目立つし何より注目を集めるのは言うまでもない。
「貴様ァ!!」
「っお前は、あの時の!?」
後ろの集団から一人飛び抜けて逃げる要に並んだものがいた。
要を入口で案内した青年だった。
「俺を騙したんだな! 俺を、俺たちを嘲笑っていたんだな!? この、裏切り者が!!!」
「そもそも、最初に話を聞かなかったのは誰だよ!?」
あと、裏切るもなにも仲間になった覚えはない! 断じて無い!! と要は思った。
「やっかましい!! 見せてやる我が家に代々伝わってきた暗殺拳法の真髄を!!」
謎のポーズ(隙だらけ)を取る青年を見て、要は段々面倒になってきた。
(こんなわけのわからん理由で襲われてるんだし、多少過剰な防衛したって許されるよな?)
擬音で表すのであれば、ピキピキッといった具合だろう。
「スサノオッ!」
面倒になった要はスサノオを呼び出し、青年をデコピン(かなり手加減している)で数メートルほど吹き飛ばした。
「眷獣だと!?」
「くそっ、魔族か!?」
「汚いぞ! 魔族!」
「百人近い人数で袋叩きにしようとした奴らのセリフじゃねえから!」
覆面をかぶった百人の人垣から理不尽な非難を浴びて要は思わず言い返した。
ちなみに、無関係の善良な人々はすでに避難済みである。
「なるほど……」
その重低音が鳴り響き避難の声が消えた。
覆面たちがザッと音を立て二つに割れた。十戒で割れた海を歩く賢者のように彼は悠然と歩みをすすめる。
「会長!」
デコピンで吹っ飛ばされた青年が歓喜の声を上げる。
「うむ。よくやった」
「勿体無きお言葉……」
「後は任せるがいい」
和服をはだけさせ上半身があらわになる。歳を感じさせない筋骨隆々とした鋼の肉体が現れた。
「戦う前に一つ、君は○○○○の経験は有るのかね?」
「……は?」
唐突に卑猥な単語、カタカナ四文字、アルファベット三文字のアレを言われ要はマヌケな声を出した。
別にそんなことを言われて恥ずかしがるような年でも性格でもないが、唐突にそんなこと言われれば呆れるのが普通であろう。
「あるけど……それが?」
「くっくっく、ハーハッハッハ! 愚か者めっ」
「その言葉をそのまま返してやるよ……」
いよいよ持って要は疲れてきた。なぜこんな間抜けなことをしなければならないのか。
「ならば教えてやろう。人間の男は三十年純潔を守り通すことでより上位の魔法使いへと転生することができる!」
「いや、ないから」
「だが。ワシは、三百年! 三百年間童貞を守り通してきた!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」
会長の威風堂々といった佇まいでそう宣言すると、何が嬉しいのか背後の百人は急激にテンションを上げて雄叫びを上げた。もう、はっきりいってバカ丸出しだ。
「…………」
要はいろんな意味で絶句していた。
「ふっふっふ、どうやらワシの恐ろしさがわかったようだな。三十年の十倍の年月を童貞として過ごした。しかし、恐るのはここからなのだよ。ワシは吸血鬼だ。無論眷獣も使役している。三百年分の童貞力と吸血鬼の力のコラボレーション! この意味が分かるかね?」
そう言うと会長はゴリラ型の巨大な眷獣を呼び出した。心なしか眷獣が自身の宿主を汚いものを見るような目で見ている。
「……取り敢えずあんたが恐ろしくアホってことはわかった。大いにわかった」
そんな要を無視して会長はゴリラ型の眷獣の肩に飛び乗り高らかに宣言した。
「諸君! 我々の合言葉はなんだ!?」
「「「「「リア充死すべし、慈悲はない!!」」」」」
百人がぴったりとハモリ会長は満足げに頷く。
会長は指をピンと伸ばし要へ向けた。
「さあ、行くぞリア充。幸福の貯蔵は十分か?」
そう言うと同時に、眷獣と背後の覆面戦士百人が要に向かって突進を始めた。その足音は巨大な怪物のごとく地響きを鳴らし、彼らの掛け声は島中の空気を震わした。
「幸福の貯蔵? お前らおかげで一気にマイナスだよ……」
ゴリラの眷獣が要に迫ってくる、その背後からは百人の覆面戦士たちがそこらへんから調達した鉄パイプやらを手に持ち続く。変わらず凄まじい地響きと大気を震わせる掛け声も――というより唸り声も健在だ。
「「「「「「AAAALaLaLaLaLaie!!」」」」」」
ぶっちゃけてしまうと要が彼らを全滅させることは難しくない。要とて伊達や酔狂で真祖に匹敵する吸血鬼と言われているわけではない。たとえ彼ら全員魔族でその十倍の人数がいたとしても勝つ自信が要にはある。
だが、問題なのは勝ち負けではなく。
(殺すのは流石にまずいよなあ)
この一点である。たとえ相手が大人数で攻めてきても要自身はスサノオの中に入っていればたいていの攻撃は防げる上に、大人数相手でも天照があれば全員数秒で焼き尽くすことも可能である。ただ、殺さずに無力化するというのに随分と骨が折れるな、というのが問題だった。
明日はクリスマスイヴだというのに、どうしてこんなアホなことに巻き込まれてしまったのだろうと要は自分の運の悪さを呪った。
「――念のため聞くが、この変質者集団はお前の知り合いか?」
大きなため息をついた要の耳に舌足らずだが威厳のある声が聞こえてきた。
この集団と同じ扱いされるのだけは何としても回避しなければならない、と要ははっきりと言い放った。
「断じて違う!」
要が言い終わると同時に上空から数多の鎖が出現し、眷獣を覆面の男たちを拘束していく。
「で、何なんだこの変質者どもは」
要の背後に空隙の魔女、南宮那月が姿を現した。
「リア充憎悪の会の皆さん」
「……は?」
奇しくも那月の反応は要が初めて彼らの名を聞いた時と全く同じ反応だった。
「……なんだそれは?」
「俺も聞きたい」
二人は同時にため息をついた。
「アイランドガードに謎の覆面集団が暴れている、と通報があってな。そういえばお前がこっちのほうに買い物に来ているのを思い出して、まさかと思ってきてみれば、本当にお前が関わっているとは驚きだよ」
「関わっていたというか巻き込まれたというか……つーか、正直俺も状況をほとんど把握してないからな。今回はマジで」
那月は単独で空間転移を使ってきたのだろう。遅れてアイランドガードのメンバーが装甲車とともに現れた。
その様子を見て要はようやく終わったか、と肩の力を抜いた。
「あー、そういえばプレゼント買ってる途中だったな……」
「まだ揃ってなかったのか?」
「主にアレが原因だけどな」
指差した方向には遅れてやってきたアイランドガードのメンバーが『リア充憎悪の会』会員たちを捕縛していた。
逮捕されながらも「我々はリア充を殲滅することで世の独身男性に勇気と希望を与える健全な団体だ!!」と叫んでいた。他にも要と那月を見ながら「あの野郎! あそこにいるロリっ娘か!? あの娘がそうなのか!?」や「この体朽ち果てようとも! あの男に思い知らせてくれる!!」に「呪いだ! 呪いの儀式を用意しろ!!」と連行されながら叫んでいる。そして会長も「覚えていろよ! 私は必ず帰ってくるゥ!!!」と言っていた。
その集団から二人は視線を外した。はっきりいって見てるだけでいろいろ疲れてくる。
「……那月ちゃんは揃えたのか?」
「当たり前だ。今年は同居人も増えたからな…………。おい、私はこのあと暇だからお前の買い物付き合ってやってもいいぞ?」
要に視線を合わせないように日傘でガードしながら那月はぶっきらぼうにそう言った。
要的には那月の手を煩わせる気はないのだが、なんとなく那月の背後から出ているオーラが「断ったら監獄結界」と言っているような気がした。
「……そうだな、ぜひお願いするよ」
「なら、行くぞ」
今更ですが、よくこんなアホなもん書いたな俺……orz