「趣味が悪いな……」
パーティーの開始時刻は午後十時。
港に停泊している豪華な船のタラップを上がって乗り込んでいく人が何人が見える場所で要はいきなりそう言った。
文句をつけているのは船の外見に対してではなく、船の船名についてだ。
「
船を見上げながら要はそう思う。
「……なあ、那月ちゃんそろそろ機嫌を直してくれても」
「……」
要が後ろに振り返ってそう言う。
後ろにいるのは黒と青のパーティードレスを着た南宮那月とアスタルテだった。
結局一時間近くにも及ぶ交渉の末最終的には、アスタルテを社会見学の一環として連れて行きたい。けどヴァトラーと話している間、社会経験の少ないアスタルテを一人にしておくのは心配だから一緒に来て欲しい。という割と真っ当な理由でなんとか那月の説得に成功した。傲岸不遜な彼女だが面倒見自体はいい教師なのだ。
とはいえ、足元を見るような交渉の末だったせいか那月はやや機嫌が悪かった。
どうしたものか、と思い要が周囲を見渡すと見知った顔を見つけた。
「あ、古城と姫柊がいるな」
「何……?」
那月が要の視線の先に目をやるとそこにはタキシードと白いパーティードレスを着た雪菜がいた。
那月は苦虫を噛み潰したような表情をしている。要の言葉の通りなら厄介事が起きる可能性がある。そんな場所に第四真祖の古城を連れて行くのは面倒なことになりかねないと思っているからだ。
「あの蛇使いが暁にも招待状を渡したということか……」
既に厄介事が始まっているようなものだぞ、と呟く那月に大いに同意する要だった。
「ま、取り敢えず行こうか。ここで突っ立てても仕方がないし」
「そうだな。行くぞアスタルテ」
「
そう言い三人はタラップを上がり招待状のチェックを済ませる。連れが二人いるというのに受付が特に気してなかったところを見るとヴァトラーは要が数人連れてくることを読んでいたのかもしれない。
船内は煌びやかな装飾や明かりに豪華な食事とある意味分かり易いパーティー会場だった。中にいるメンバーも高級オーダースーツや一つ何百万という腕時計や、成金趣味満載な指輪をつけた無駄に偉そうな大人たちが何人もいる。そんな中に入っていった三人だが、三人は浮いているわけではないが目立っていた。
要は端正な顔立ちとスタイルの良さ、那月は小柄な容姿ながらも人形のような整った顔立ちと持ち前のカリスマ性、同じく小柄なアスタルテは人間離れした美貌。そして三人とも一着何百万というスーツやドレスを身につけている。
「あ、要、那月ちゃんとアスタルテも……」
「えっ? 南宮先生――う、うちはさんまで」
要たちの後ろから船に上がってきた古城と雪菜が声をかけた。
那月は堂々とちゃん付で呼ぶ古城に普段であれば扇なりデコピンなりを噛ますのだが、場所が場所なので睨みつけるに留まっていた。
「教師をちゃん付で呼ぶな何度も言っているだろう暁古城。で、なんでお前達がここにいる」
「あー、俺がヴァトラーのやつに招待されて」
「もしかして南宮先生達もですか?」
「ああ、俺が呼ばれた。つってもここに居ないみたいだから自分たちで会いにいく必要があるみたいだな――呼びつけておいて」
最後に付け足した自分の言葉で少しばかり頭にきたのか要は酷薄な笑みを浮かべる。その様を見た四人は若干要から引いてしまった。普段巫山戯ている事の多い彼だが、要は世界に名を轟かせた吸血鬼なのだと再認識したからだ。那月としてはこんなことでその片鱗を見せないで欲しいと思うばかりだった。
「――アルデアル公は上の方にいるみたいですね」
「お、おう。要はどうする?」
雪菜がパーティー会場の隅を指差す。広間は人が多く見ずらいが上に繋がる階段があった。そこから野外デッキにでも上がれるのだろう。
古城からどうするか聞かれ一瞬迷った要だが。
「――俺は後にしよう。先に話して来い。ああ、あと不意打ちに警戒しておけよ。あの男は力試しとか言って出会い頭に一発撃ってくる可能性がある」
要は一応経験者として古城に忠告しておいた。
「大丈夫です。監視役の私がいますから」
「そうだな姫柊は優秀だし、頼もしい限りだな」
クスクスと小さく笑いながら要はそう言う。
唐突に褒められ雪菜は息を飲み恥ずかしそうに顔を紅潮させた。
「そ、それでは先輩行きましょう」
照れているのを隠すようにそう言い雪菜が混み合う広間の通路を歩き、その後ろを古城が追っていく。
◆
しばらくして古城たちが戻ってくると要は入れ替わるようにデッキへと向かった。
デッキに上がろうとする前に古城たちと同年代頃のチャイナドレスを着たスタイルのいい少女が階段から降りてきた。
少女は要の前に立つと丁寧に頭を下げた。
「はじめましてうちは要。獅子王機関の舞威媛、煌坂紗矢華です」
「舞威媛……ヴァトラーの監視役か?」
「はい」
「それはさぞかし苦労しているだろうな」
要はしみじみと呟き、紗矢華もまた特に否定しなかった。
「ヴァトラーは上にいるのか?」
「はい。こちらです」
「まってくれ、俺が先にいく。あの馬鹿は不意打ちしてくるかもしれないから」
実際さっき古城たちが上がったあとに一瞬だが魔力を感じ取った。ほぼ間違いなくヴァトラーが攻撃してそれを古城のレグルス・アウルムが防いだのだろうと考えている。
階段を上がり要がデッキに出た瞬間、灼熱の炎をまとった蛇が要に襲いかかった。
「やっぱりか……」
しかし、あらかじめ来ると警戒していたため要は焦ることなくスサノオを召喚し、飛来した蛇を締め上げる。
「――随分な挨拶だなヴァトラー」
スサノオの締め上げた蛇が消えると同時に、パチパチと乾いた音がデッキに響いた。
「フフフ、腕はなまっていないようだね。安心したヨ」
要とは対照的な白いスリーピースを着こなした吸血鬼の青年、アルデアル公国の君主、ディミトリエ・ヴァトラーが姿を現した。
「随分と偉そうな言いようだな?」
「いやいや、君が同じ場所に何年もいたようだからネ。戦いから離れて鈍っているようでは喰べごたえがないだろう? ああ、でも五年前にアルディギアのテロリストを殲滅したんだっけ? 王家が直々に情報規制してしまったせいで最近まで知らなかったけど」
そういえば僕も最近は手強いやつには会えないんだよ。とヴァトラーは心底楽しそうに、要は冷ややかな眼差しで互いに睨み合う。流石は真祖に近いと言われる吸血鬼の二人というべきか、ただ睨み合っているだけにも関わらず周囲の空間に物理的な圧力を感じると錯覚させるほど気迫があった。それこそ何かきっかけがあれば戦いを始めかねないばかりに。
それを感じている当事者の紗矢華にとってはたまったものではないだろうが、そこは獅子王機関の魔威媛。警戒しつつもポーカーフェイスを維持していた。
「で、何の用で呼び出したんだ?」
「やれやれ、相変わらず僕とはゆっくりと時間を過ごしてくれないんだね」
お前の普段の行いの所為だよ! と要は言いたかったがそれこそ話が進まなくなると、言葉を飲み込んだ。
要が沈黙しているとヴァトラーは観念したように話し出した。
「ま、第四真祖にも言ったんだけど先に謝っておこうと思ったのさ……君はクリストフ・ガルドシュという名に聞き覚えは?」
「確か黒死皇派の雇いれた新しい指導者だろ……確か前の奴はお前が殺したはずだよな」
何年か前に黒死皇派の指導者が暗殺されたというニュースになっていたのを要は思い出した。そのあとちょっとした情報網からヴァトラーが実行犯と知ったのだ。
「そう、僕が殺した。ちょっと厄介な特技を持ってる獣人の爺さんだった」
「へえ、面白そうなのとやり合ってんだな。それで? 新指導者がこの極東の魔族特区に来ているとでも?」
ならおかしな話だと要は思う。
この島は日本の魔族特区だが、魔族特区は世界中にある。それこそ彼らの前指導者を殺したヴァトラーの母国である戦王領域にも。
そして何よりも黒死皇派の掲げる目的は戦王領域の支配権を第一真祖から奪い取り、戦王領域を支配することである。わざわざ、極東の魔族特区に危険を冒してまで不法入国するなど不自然にも程がある。
「いや……」
だが、一つある可能性を思いついた。ほんの数時間前に捕縛した槇村という男の使用していたコンピューターに出ていたもの。
「真祖に有効な可能性のある兵器を――第四真祖。古城に対して兵器運用の実験でするつもりか?」
「フフ、その可能性はあるね。そんなものに襲われたら応戦しないわけにはいかないよねェ。自衛権の行使ってやつだよ。ま、そうなったらこの島を沈めちゃうかもしれないけどサ」
「白々しいことだな。最初からそれが狙いだろう?」
平然と宣うヴァトラーの対し要は心底忌々しいと言わんばかりの表情をしている。
「まあ、そうなんだけどね。けどまあ、第四真祖の監視役の娘はそうなる前に拿捕するつもりらしいけど。君も手伝ってあげたらどうだい? そうすれば君の心配も減るだろう」
「……前から思ってたけど、お前の思考はさっぱり解らん……話は終わりか?」
「そうだね、黒死皇派の話は終わりだヨ。後は君と再会を祝して乾杯でもできれば言うことはなしなんだけどね」
そう言いヴァトラーが優雅に示した場所にはボトルワインと二つのワイングラスが置かれていた。
「そうか、それじゃ帰るな。煌坂さんお疲れ様」
要は躊躇なく踵を返し階段を下りていった。
「おや、残念」
全く残念そうな素振りも見せず、むしろ予想通りと言わんばかりにヴァトラーは笑った。
◆
「お前から聞いていた以上に厄介な男だな、あの蛇使いは」
「だからあまり関わりたくないんだよ。どんな厄介事を持ってくるかわかったものじゃない」
那月の持ちビルに戻り要はヴァトラーから得た情報を那月と共有していた。
「とはいえ、奴らは私たちが追っていた連中だ。連中の目的におよその予想をつけれたのは大きいな」
「ナラクヴェーラか…俺も噂だけなら聞いたことがあったけど、眉唾ものだと思ってたな」
那月から聞いた槇村の使用していたコンピューターに残されていたナラクヴェーラという単語に要は少しではあるが心当たりがあった。そして、それが黒死皇派とヴァトラーの求める兵器であるとも予測できた。
「那月。あくまで俺の根拠のない推測だけど、ヴァトラーはアイツ等と通じている可能性も考慮に入れておいて欲しい」
「……なぜだ?」
「真祖を打倒しうる可能性のある兵器――そんなものが存在するなんてそう簡単には信じられないだろ? アイツにはその兵器が存在すると信じる根拠がある。だからアイツは態々自分の船でこの島まで来た」
退屈しのぎや気まぐれな可能性もあるけどな、と締めくくった。
とはいえ、根拠はないが要はそれが八割がた確実だと思っている。ヴァトラーは船上で、ここしばらく強敵と闘っていないと言っていた。
あの男なら強敵を求めてそのような行動をとってもおかしくはないと考えていた。
「あいつの船を無理やり調べれば何かわかるかもしれないけど……」
「そうすれば外交問題に発展するか、それをいい事にお前に攻撃してくる可能性があるぞ」
「となれば、未然に何とかするしかないか」
厄介だなと思いながら二人の夜は更けていった。
最近SAOの設定だけを考えたりします。
主人公は茅場の甥。
本編開始前に事故で植物状態になったが茅場が主人公の脳をマイクロ波でスキャニングして電脳化。
SAOにプレイヤーと偽り茅場を止めようとするみたいな。
SAO後は電脳化しているため現実世界には出れないがMMOの世界に入り込んでキリトのサポートするみたいな立ち位置。
ヒロインはシノンかアリス。
とか、ぼんやり考えましたw
同じような設定が既にありそうな気もしますけど